↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死ねない少女は生き直したい~二百年生きた手品師、魔法少女に巻き込まれて平和を守る~  作者: 柚月由貴
三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

86/88

24 胎動

 稲葉慎二がアジトとして使っていた家。

 その地下室。葉月達は踏み入れることのなかったそこで、二つの影がうごめいていた。


 一人はパンツスーツ姿の女性。技研の実働部隊に所属するアキだ。

 そしてもう一人は、セーターにパンツを組み合わせた私服姿の男。彼は技研の研究者の一人だ。


 彼らは地下室に設置してあるパソコンを調べていた。目的は稲葉慎二の調査。

 稲葉が、技研が貸し出した兵器の制限を、無断で解除して使用していたことは間違いない。

 それが誰の指示によるものか。なぜ、そんなことをしたのか。

 それを探るため、彼らはパソコンに向かっていた。


 静寂の中、キーボードを叩く音と、マウスを操る音だけが響く。

 その沈黙に耐えかねたように男が呟いた。


「……つか、何で俺達が調べなきゃいけねーんだ?」


 その言葉に、アキが手を叩く。


「はいはーい、文句言わず手を動かしましょー」

「動かしてるっつーの。……でもさ、ヴィクターが一回調べてるんだろ? じゃあ、俺必要ないじゃん」


 諭すように告げるアキだったが、男は尚も文句を垂れる。


「仕方ないじゃん。ヴィクター、軽くしか調べてないって言ってたし。だから、本部から応援のために派遣されたんじゃん」

「いや、何でだよ。仕事しろよあいつ」


 毒づく男。その矛先は、自身が派遣させられる原因となったヴィクターへと向かう。

 そうして終始機嫌が悪い男であったが、一緒に居るアキは全く意に介していなかった。


「気にしない気にしない。それよりさ、さっさと終わらせて温泉行こーよ」

「……はぁ? 意味分かんねーんだけど」

「知らないの? こっから近いんだよ」

「いや、そういう意味じゃ……はぁ、もういいわ」


 これ以上話しても無駄だと判断した男は、文句を言うのを止めて黙ることにした。

 そうして無言のまま作業を続けること暫し。


「……妙だな」


 首を傾げながら不意に男が呟いた。


「何が?」

「いや、一部の情報が消されてるんだけどさ」

「よっぽど見せたくないものがあったんじゃないの?」

「それはそうなんだろうけど……消されてる範囲が限定的すぎるんだよ」


 例えばメール。様々なやり取りがされる中で、一部の実験についてのやり取りが途中で止まっている。

 例えば報告書や写真に動画。色々と保存されてる中で通し番号が一部だけ抜けている。

 一見、それらの範囲に他人に見られたくない情報があり、それを隠蔽しようとしたかに見える。


 しかし、だ。

 本当に他人に見せたくないなら、一部を切り取るのではなく、関連する実験の情報を全て消すのではないだろうか。

 こんな、一部を切り取とったように削除してあったら、ここに何か重要なものがありますよ。とバラしているのと変わらない。

 

 もっと言えば、ここは稲葉のアジトである。基本的に他人に見られることは想定していなかったはずだ。

 それなのに何故、削除する必要があるのか。


 そういった疑問をもとに、男は推測していく。


 実はブラフの可能性は無いだろうか。

 ここに何かあると思わせて、別の、もっと重要なところを隠そうとしたとか。

 しかし、それでは他人に見られることを考慮していたことになる。

 ……いや、実際に見られる可能性があったということだろうか。

 例えば……このアジトには稲葉以外にも人がいた。それも、おそらく統制局以外の人間が……。


 ――男が見つけた痕跡は、実際にはヴィクターが葉月達に関わる情報を急ぎで消したために残ったものである。

 しかし、それを知る由もない男は、あくまで統制局の視点に立って考えを整理していった。


 男が自分の考えに没頭しているために、放置されていたアキ。

 暫くの間は黙って見守っていたが、やがて耐えきれなくなり男へと声をかけた。


「――ねぇ、暇なんだけど」

「……」

「ねぇねぇ」

「……だぁ、知るかよ。考えてんだから、邪魔すんな!」

「一人で勝手に話進めないでよ」

「さっき黙って手を動かせって言ったのは誰だよ!」

「手は動かしてないじゃん」


 当たり前のように、屁理屈をこねるアキ。

 言い返すことを諦めた男は、さっさとパソコンに顔を戻す。

 その動きを見たアキが、男の手に飛びついた。


「もう良いじゃん。早く温泉行こーよ」

「あ、こら勝手に弄るな」


 マウスを奪い取り、適当に触るアキ。男が取り返そうとするも、アキはそれを起用に躱す。

 パソコンの画面上ではマウスポインタが滅茶苦茶な軌道を描き、予期していないフォルダが開かれていく。

 自分がどこまで調べたのか分からなくなってしまうと慌てた男が何とかマウスを奪い返し、画面を戻そうとしたところで手を止めた。


「――っ、これは」

「何? ……おー、大胆だね」



 とある場所にある、統制局の本部。

 その一角、十畳程の部屋の中。


 中央に置かれた執務机の奥に、統制局の総代である小太りの男が座っていた。

 その執務机の前にはスーツを着た女が立ち、総代の男に相対している。


「――稲葉が殺られたか」

「はい」


 女は稲葉慎二が行った一連の実験と、彼の辿った末路を報告していた。


「実験体と戦い負傷して逃げたところを、技研の実働部隊に殺されたものと思われます」


 手元の資料を見ながら、女が淡々と告げる。

 それを聞いた総代は、小さく舌打ちをした。


「実験体を殺し損ねて、更にはAIのデータも持ち帰れず、か」

「申し訳ありません。前日に報告のあった分は回収できてますが……」

「いや、仕方ない。あいつらが稲葉のアジトを占拠してる以上、どうしようもない」


 あいつら、とはもちろん技研のことである。

 稲葉が何をしていたのかを探るため、技研がアジトのパソコンを調べており。そして、破壊されたロボットも技研が回収している。

 それによって統制局は、戦闘が合った日――つまりは稲葉が亡くなった日のデータを手に入れることができていなかった。


 技研側に稲葉が越権行為を行ったという大義名分がある以上、面と向かって技研と対立する訳にもいかず。

 結果、統制局としては、技研が調査するのを止めることはできない状態であった。


「しかし技研も稲葉を捕らえずに殺すとはな……」

「彼らの兵器を悪用したのが、よほど気に障ったのかもしれません」


 女の言葉に総代が鼻を鳴らした。


「ふん、自分達も好きに使っとるくせに」


 女は総代が吐いた悪態に言葉を返すことなく、別の懸念点を口にした。


「技研が稲葉さんのパソコンを調べていることはどうしましょうか。抜き出される情報によっては、もしかしたら技研からの突き上げが来るかもしれませんが」

「あぁ、それもあったな。全く、面倒な……いや、待てよ」


 何かに思い至ったのか、総代が考える姿勢を見せた。


「……稲葉は実験体と戦っていたんだよな?」

「はい、直前の稲葉さんからの最後の連絡から察するに……間違いないかと」

「それで、実験体もまた重傷を負い、病院に搬送されたと」

「救急車が誰かを搬送したことは確認が取れています。状況から考えれば間違いありません」


 総代が一つ一つ、整理するように確認していく。


「実験体が搬送された病院は分かっているのか?」

「分かっています。必要であれば実験体を回収に向かわせることも可能です」

「いや……それよりも有用に働いてもらおう」


 総代の言葉に、女が訝しげな顔をした。


「有用……ですか?」

「実験体が集まった集団と技研。まとめて葬るには……上手くやれば実験体自体、何体か……」


 女の問いには直接答えず、総代は考え込むようにぶつぶつと呟いた。


「……そして稲葉が見つけた子供。その力を解析して、うちが独占すれば……」


 総代がおもむろに顔を上げた。

 その目には野心の光が、はっきりと宿っていた。


「本家に変わって、組織を束ねることも夢ではない」

「では……」

「あぁ、桜井を呼べ。それと、マザーAIの準備だ。直ぐに詳細を詰める」


 ニヤリと笑いながら、総代の男が叫ぶ。

 彼はその先に待っているであろう栄光に思いを馳せる。


 葉月達の知る由もないところで、組織が大きく動こうとしていた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

これで三章が完結となります。

この後、幕間の話を数話挟んでから四章へと入ります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。