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死ねない少女は生き直したい~二百年生きた手品師、魔法少女に巻き込まれて平和を守る~  作者: 柚月由貴
三章

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18 揺れる想い

 背中に生えた翼を羽ばたかせて、優太の拘束を振り切ると、さきは空中へと飛翔した。

 優太は葉月達を巻き込まないよう、家の軒先から離れつつ、地表からさきの様子を窺った。


 突如湧いてきた驚愕の真実に頭がついていかない状態である。


 さきがロボットだったこと。

 さきの親だと思った男が、組織の人間だったこと。

 そして、さきを使って自分達を襲ってきたこと。


 組織の男の目的も気になる。

 一緒についてきた渡亮太達三人組を襲ったのは理解できる。

 三人はリベレイターズと名乗り、組織と戦っている。

 いわば男の明確な敵だ。


 では自分達に対してはどうなのか。

 男は話し合いをしたいと言った。自分達の持つ力が気になるからと。

 そのため自分達が逃げないように、さきに足を折れと命令したのだ。


 男が話し合いという、内容は分からない。が、ろくのものではないことは明白だ。


 さきが羽を操り、優太へと向かって滑空する。

 降下してくる勢いのままに、右腕を突き出した。

 優太は自身の前に影で壁を作り、さきの右腕を受け止めた。

 影はさきの拳を一瞬受け止めたかに見えるも、次の瞬間に弾け飛んだ。


 普通に打撃を受けただけでは有り得ない挙動。

 そのことに驚きつつも、優太は冷静にさきの動きを見る。

 さらに踏み込んでくるさきの拳を、横に跳んで躱しながら影を幾本も出して拘束しようとする。


 しかし拘束するよりも早く、さきは再び上空へと飛翔し逃げた。


「オクタ!」


 仕切り直しとなった局面で、下村朝陽がオクタの横に並んだ。朝陽は赤いアイドル衣装へと変身していた。

 優太の頭を一瞬よぎる、ヴィクターからの警告。

 しかし組織の男は、朝陽の魔法について既に知っていることを思い出し、すぐさま考えを切り替える。

 ヴィクター達と同様に契約を結ぶ。それが、この場を解決するための手段だと判断した。


「オクタ、さきちゃんを止めよう」

「そうだね、こうなったら破壊するしかない」


 朝陽の言葉に頷く。

 しかし、朝陽は驚いた顔をした。


「え!? 破壊はダメだよ!」


 想定外の朝陽の言葉に動揺する優太。

 再び突っ込んできた、さきを影魔法でいなすと、朝陽へと言葉を返した。


「でも、彼女は組織のロボットで、僕らの敵だよ」


 加えてさきは葉月を傷つけた。

 優太にとって、それは許せる行為ではない。


 なればこそ、破壊すべき……なのだが。

 優太の頭に、昨晩のさきの笑っていた顔が浮かぶ。


 優太は頭を振って、その記憶を直ぐにかき消した。さきがロボットである以上、あれは作り物の笑いということになる。

 こちらを油断させる目的なのか、はたまた別の目的か。

 分からないが、素直に信じてはいけない。


 再び迫ってきたさへと影を伸ばす。しかしさきが腕を掲げると、影は先程と同じように腕に触れることなく弾け飛んだ。

 まるで、腕の先から見えない力場が発生してるかのような、不自然な弾け方だ。


「――それは浦辺さんに命令されたからだよっ。命令される前、あの子は戦うのを嫌がってたじゃない!」


 朝陽が訴える。

 その言葉に優太は先程の光景を思い浮かべた。

 確かに、さきは嫌がってた。

 パルチザンに対しては躊躇せず攻撃を加えたのに、優太達に対しては組織の男の命令に抗おうとしたのだ。

 彼女はロボット。命令された通りに動く機械のはず。それなのに、自分の意志を持っている?


 朝陽の言葉。そして、さきの行動。二つの優太の動きに迷いが生じた。

 そこへさきが接近し腕を伸ばす。優太は目の前に影を展開しつつも、また弾かれることを想定し身構えた。


 ――瞬間、影ごと身体がさきの方へと引っ張られた。

 油断してた優太はそのまま引き寄せられ、さきに拳を叩き込まれる。同時に弾かれるような衝撃。拳と体の間に挟まれた影がクッションになったものの、殺しきれない衝撃に身体が吹き飛ぶ。


「オクタ!?」


 飛ばされた勢いのままに家へと激突するかに見えたその時、寸前で何者かが割って入り、優太の身体を受け止めた。


「――駆けつけたら、いきなり戦闘中なんてどういうことよ」

「渚!?」


 背後からの声と、朝陽の叫びで、優太は自分を救った人物が誰なのかを理解した。

 振り返ると、そこには青いアイドル衣装の藤堂渚がいた。


「状況を手短に教えてくれる?」

「……あそこに居る男は組織の人間だ。あの子供型のロボットを操って、僕らを捕らえようとしてる。お姉ちゃんが足を折られた」

「ありがと。あの子……話に聞いてた迷子の子よね? ロボットだったの?」

「あぁ……あの男に騙されてたみたいだ」


 優太の説明に頷くと、渚はさきへと目を向けた。


「とりあえずは、あれを何とかしないといけないわけね」

「渚、さきちゃんは男に命令されてるだけで、本当は戦いたくないはずなの!」


 優太を下ろし、ハンマーを展開した渚に、朝陽がすぐさま注意を入れる。

 意外な言葉に、渚は眉を潜めた。


「どういうこと? ロボットなのよね」

「ロボットだけど、さきちゃんとしての意識がありそうなの!」


 朝陽の発言が理解できず、困った渚が優太を見る。

 優太としても、どう説明すれば良いかと迷い、少しの間をおいてから首を横に振った。


「……とにかく動きを止めよう。細かいことはそれからだ」


 優太の頭に再び、さきの笑った顔が浮かぶ。


「――極力、破壊はしない。でも、僕らの安全が優先だ。僕らが危険な状態になるなら破壊もやむを得ない」

「分かった。後で説明お願いね」

「オッケー。絶対、破壊はしないで止めよう」


 続く優太の言葉に、渚と朝陽が頷く。

 そうして、三人でさきへと向かい合った。


 その様子を、静かに見下ろしていたさきが、再度攻撃をしかける。

 降下しながら突き出す拳。優太がそれを影で受ける。

 先程起きた引き寄せを警戒したものの、今度は普通に弾かれる。


 横から渚がハンマーを振る。さきはもう一方の拳を掲げて、それも弾いた。

 

 優太と渚に注意が向かっていることを利用し、朝陽が背後からローラーを振って空中に帯を出現させ、さきを縛ろうとする。

 しかしそれより早く、さきが腕を振ると、今度は渚がさきに引き寄せられた。そのままだと渚を巻き込むことになってしまうため、慌てて踏みとどまる朝陽。

 そこへさきが、引き寄せた渚を吹き飛ばし、朝陽へとぶつけた。

 崩れ落ちた二人に迫ろうとするさきだったが、動く直前で方向を変え空中へと離脱した。

 結果、さきを捕えようと伸ばしていた優太の影が空を薙いだ。


 再び、空中で構えるさきを見据えつつ、優太は朝陽と渚に声をかけた。


「二人とも、大丈夫?」

「いてて……うん、大丈夫」

「問題ないわ……何よ、あれ」


 二人が起き上がるのを待って、優太が口を開く。


「腕の先から何かを出している。それで、僕の影が弾かれる」

「弾くだけじゃなくて、引き寄せる力もあるわね。凄い力で引っ張られたわ」


 手短に情報を交換していく。

 三人の見立ては正しい。

 さきは腕の先に引力、斥力を伴う力場を発生させることができた。

 それによって、攻防を行ってるのだ。


「捕まえようと思ったら、腕を避けないといけない」

「破壊せずに捕まえるなら……役目は朝陽かオクタね」

「でも、さきちゃん。反応が凄く速いよ。隙を突いても、簡単に気づかれちゃう」

「そうすると、近づくためには囮が要るね」

「……なら、私が引き受けるわ」


 渚がハンマーを軽く振った。

 その横に朝陽が並ぶ。


「一人じゃ厳しいよ。私もやるから……オクタ、お願いね」

「分かった」

「仕方ないわね……朝陽、まずはあの子を地面に落とすわよ」

「オッケー」


 返事をした朝陽が一呼吸し、動いた。

 ローラーで空中に道を描き、それを伝って空中に駆けあがる。

 さきへと下から迫り、ローラーを振った。が、これはさきが発生させた斥力の力場によって、簡単に弾かれる。


 さきの視線が下を向いた隙をつき、今度は渚が迫る。朝陽から一瞬遅れて動き出していた渚は、朝陽の残した魔法で作られた道を使い、さきよりも上空へと跳躍する。

 そして、さきの頭上からハンマーを叩きつけた。

 朝陽への対応で下を向いていたさきは超反応で腕を頭上に向けると、斥力の力場を生成。それによってハンマーを受ける。

 威力は削いだものの、落下の勢いも加わったハンマーの勢いを殺しきることはできず、さきはハンマーに押されるままに地表へと落下した。

 羽を操り、空中で姿勢制御し地表への激突を防いださきだったが、そこへ優太の影が絡みついた。


「捕らえたよ」


 影から逃れようと藻掻くさきの気を引くため、優太が言葉をかける。


「君の兄や姉もロボットだったのかい?」


 さきが一瞬、動きを止めた。


『私には兄姉はいませ――』

「居たんだよね? 突然居なくなったって言ってた。あれは……ロボットとして連れていかれたか、破壊されたかしたんじゃない?」


 さきの反応が明らかに鈍る。

 朝陽の言う通り、さきとしての意識なのだろうか。

 理由は分からないが、言葉が伝わるならと優太は畳みかけようとした。


「こんな――」

「――さき、騙されちゃいけない。君に兄姉は居ないよ」


 その時、優太の言葉を遮るように浦辺が声を投げかけた。


『……承知しました。マスター』


 そう言葉を発するや、さきは力任せに影を振りほどくと腕を優太へと伸ばす。

 身を引いてそれを躱した優太は、朝陽と渚の傍へと跳び退った。


「……今、いけそうだったよね?」

「手応えはあったね」


 朝陽の表情にやる気が満ちた。

 力強く、優太と渚へと告げる。


「もう一度、やろう」

「あの男に邪魔されると、また失敗するよ」

「あっちは……私が止めるわ。その間、あの子の相手、よろしくね」

「オーケー」

「任せた渚」


 渚がさきへ背を向け、家の方へと振り向く。自身へと目を向けたのを見て、何かを察した浦辺がさきへと声を投げた。


「さき、私を守れ!」

『承知しました。マスター』


 三人の作戦を阻むように、さきが浦辺の前まで下降し、立ちはだかる。


 しかしこれはチャンスだと、優太は考えた。

 自分は知っている。何かを守りながら戦うのは非常に難しい。

 なら、あの男を守りながら戦うさきは不利になる。


 そう判断した優太だったが。


 そんな想いを嘲笑うように、優太達の目の前でさきが二体に増えた。

来週から週3投稿になります。

火、木、日に更新します。21時過ぎ頃になると思います。

引き続き読んでいただけると嬉しいです。

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