17 してやられたとしか言えないね
ロボットの襲撃を退けた翌日。
僕は朝から浦辺さんの家で、テラスに置かれた木製の椅子に座って、優太が来るのを待っていた。
隣には同じく、下村さんが座っている。
浦辺さんは家の中で何かしている。体を動かしてないと落ち着かない時ってあるから、そういうのかもしれない。
かくいう僕もじっと待ってるだけだと気分が落ち込んでくるから、下村さんと適当に話をしながら時間を過ごしていた。
「――それでね、まーかが……あっ!?」
学校での友達とのやり取りを話していた下村さんが、突然声をあげて立ち上がった。
その視線を追って、僕も横へと顔を向けた。
――優太だ!
さきちゃんを連れて、優太が林から顔を出したのが見えた。
良かった、無事みたいだ……え?
僕も立ち上がって優太を出迎えようとしたところで、優太達の後ろから三人の大人の人がついてくるのが見えた。
二人は昨日、駅で撒いた人。一人は車に走ってついてきてた人。
――全員、さきちゃんを追いかけていた人達だ。
「あの人達……大丈夫なの?」
下村さんも気づいたみたいだ。警戒してる。
「……分かんない。でも争ってる感じはないよね」
三人とも優太に、敵対してる感じは見られない。
優太も、三人から逃げてきたようには見えない。
どういうことだろう。
和解した?
組織の人じゃない?
「……ひとまず、浦辺さんを呼んでくるよ」
直ぐにでも優太に尋ねたかったけど、待ってたのは僕らだけじゃない。
浦辺さんにさきちゃんが帰ってきたことを伝えるべく、僕は家の中へと入った。
浦辺さんはリビングのソファに座って、ノートパソコンを開いてた。
その姿に少し違和感を覚えたものの、考えてる場合じゃなかったので、気にせず浦辺さんへと声をかけた。
「浦辺さん、さきちゃんが帰ってきました!」
「っ! 本当かい!?」
勢いよく顔を上げる浦辺さん。
パソコンを置いて立ち上がると、玄関へと走り出した。
置いて行かれた僕も、後ろからついていく。
「さき!」
玄関から飛び出た浦辺さんが声を上げる。
優太達は既に軒先までやって来てた、さきちゃんも浦辺さんに気づいたみたいだ。
「あぁ、良かった」
浦辺さんがさきちゃんへと駆け寄り、その肩を抱いた。
その様子にまた違和感を覚えながらも、僕は優太へと近づいた。
「ゆう……お父さん、お疲れ。さきちゃんのこと、ありがとうね」
「ううん、大丈夫だよ。おね……葉月も、無事だったんだね」
「うん、心配かけてごめんね」
危ない、思わずいつも通りに声をかけるとこだった。
優太も一瞬、僕に飛びつこうとしてたね。今は我慢してね。
今は先に……そっちに立ってる、三人組のことについて聞きたい。
「あなた方は……一体……」
僕が優太に尋ねるより先に、浦辺さんが三人組へと声をかけた。
三人はお互いに顔を見合わせると、足の速かった、いかつい顔の男が一歩前に出た。
「私達も、お子さんの保護に協力をしてまして」
「そうだったんですか……ありがとうございます!」
浦辺さんがお礼を言うと、いかつい顔の男が更に話しかけた。
「……すみませんが、おたくのお子さんは悪い組織から狙われてる可能性があります」
「悪い組織……どういうことですか?」
それって……ロボットのことかな。
優太達も襲撃されたの?
優太を見ると頷いた。そうか……昨日のうちにこの家に辿り着けなかったのは、それが理由だったんだね。
それにしても、さきちゃんも狙われてるなんて……やっぱり組織の狙いは浦辺さんで、さきちゃんを人質に取ろうとしてたのかな。
それに、さきちゃんが狙われてることを浦辺さんに伝えたってことは……この人達は組織の人じゃない?
分からないことだらけで混乱している間にも話は進んでいく。
「あなた達は一体……」
「私達は、その悪い組織と戦ってる者です」
浦辺さんの問いかけに、いかつい顔の男が答えた。
戦ってる者……それって、もしかしてヴィクターさんが言ってた――。
「そうですか……」
何か考える仕草を見せる浦辺さん。
続けてさきちゃんへと顔を向ける。
……あれ? そう言えば、さきちゃんの反応が薄い。
さっきの違和感って、これ……。
「……つまり、組織の敵という訳ですね」
「その通りです」
「分かりました……さき、やりなさい」
――瞬間、いかつい顔の男が吹っ飛んだ。
さきちゃんが腕を突き出してる。
さきちゃんが殴った?
何で?
「兄貴!?」
三人の内の、垂れ目の男が驚きの声をあげる。
その男に、さきちゃんが近づいて――男が弾かれたように吹っ飛ぶ。
「あなたっ、何で!?」
驚いてる気の強そうな女も、続けて吹っ飛ばされる。
「ふむ……さすがは新型。素晴らしいね」
目の前で起きた状況についていけずに固まってると、浦辺さんが呟いた。
……新型?
分からないままに浦辺さんを見ると、目が合った。
「ん? あぁ、気になるかい? 何、邪魔者を排除しただけだよ」
「邪魔者? どういう……」
「簡単な話さ。今の話を聞いただろう? 彼らは組織の敵。……つまりは私の敵なんだよ」
眼鏡を直しながら、男が言う。
――頭が真っ白になった。
この人が……組織の人?
「あぁ、そうは言っても君達には分からないだろうね。まぁ、組織というのは……人類を導くことを目的とした崇高なる人の集まりだよ」
「崇高なる……人?」
下村さんが浦辺さんの言葉を繰り返す。
信じられないという雰囲気を感じる。僕も同じ気分だ。
三人の方じゃなくて、まさか浦辺さんが組織の人だったなんて……。
「そうさ。だから我々と敵対する、彼らは邪魔なのさ」
得意気に語る浦辺さん。
正体を現したからなのか、その表情にはどこか悪意がこもっているように見えた。
「さて。邪魔者を排除したところで……君達とは話し合いをしたいんだがね」
「……話し合い?」
組織の人が……僕達と?
「私は君たちの……特に下村君の持つ力に興味があってね」
「……私の?」
下村さんの力……間違いなく、魔法少女としての力についてだ。
昨日の晩にロボットと戦った時のことか……。
「君の力は以前に見てるんだよ。……そう、クリスマスの時にね」
背中に衝撃が走る。
クリスマスってことは……雪だるま型ロボットの時ってこと?
そんなに前から、僕らに目をつけてたの……っ!?
驚く僕達に、浦辺さんはこんこんと語っていった。
どうやら浦辺さんは統制局の人間らしい。それでAIの実験のために、雪だるま型のロボットを暴走させたそうだ。
ある程度のデータが取れた段階で、証拠隠滅のためにロボットを破壊しようとし考えていたところに、下村さんが現れた。
適応研の遺産なのか、全く別の力の持ち主か。
それを知るために、下村さんに近づこうとしたらしい。
「怪しまれずに接触するために、この子が役に立ったよ」
そう言って浦辺さんが、さきちゃんの頭を撫でた。
さきちゃんは感情が溶け落ちたかのように無表情になっていて、意思が感じられない。
浦辺さんはさきちゃんに迷子のフリをさせて、僕らをここまで――浦辺さんのアジトまで引き寄せようとしたのだと語った。
「途中、邪魔が入ったのは予想外だったが……それも上手く利用して、君らをここまで連れてくることができた。上出来だよ」
邪魔……さっきの三人組のことだ。
駅で下村さんと合流したっていうのも、たまたまじゃなかったってことか。
「全部……噓だったんですか……!」
下村さんが絞り出すように、呻いた。
「私達を……騙したんですね!?」
「人聞きが悪いな。行動したのは君達だ。……まぁ、多少は善意につけ込んだがね」
悲痛な叫び声。でも、浦辺さんは鼻を鳴らすだけだった。
この人は……たぶん、人を騙すことに抵抗感が無いのだろう。
悪びれるどころか、僕達の自己責任だと言わんばかりの態度がそれを物語っている。
「……さて、ここには誰も助けは来ない。ゆっくり、君達の力について話を聞かせてもらおう。……と、その前に。さき、この子達の足の骨を折りなさい。逃げようという気も起こさないようにね」
続く浦辺さんの言葉にぎょっとした。思わずさきちゃんを見る。
さきちゃんは浦辺さんに向かって頷くと、一番近くにいた優太へと足を向けた。
「――ダメ!」
下村さんが前に出て、叫んだ。
「さきちゃん、そんなことしちゃダメだよ!」
「……お姉ちゃん?」
下村さんの言葉に、さきちゃんが立ち止まった。
その顔には迷いが現れていた。
それを見て僕も、さきちゃんの元へと駆け寄って説得にかかった。
「さきちゃん、浦辺さんの言ってることは悪いことなんだよ。だから、聞いちゃ駄目だ」
さきちゃんが浦辺さんの言うことを聞く理由も、大人を吹き飛ばせるような強い力を持ってる理由も分からない。
でも、下村さんの言葉で戸惑ってるなら、止めることはできるはずだ。
そんな僕らの様子を見てか、浦辺さんが言葉を吐く。
「さき、ダメじゃないか。私の言うことが聞けないのかい?」
「でも……お姉ちゃんが……ダメなものだって」
狼狽えるさきちゃんに、浦辺さんがため息を吐く。
「なるほど……悪影響も受けるのか。成長には欠かせないとはいえ、難しいものだな……」
そう言うや、懐に手を入れて何かを取り出した。
……ペンダント?
「――モード、アドミニストレータ」
続けて呟かれた言葉に、さきちゃんが動きを止めた。
表情も、身体も、まるで人形になってしまったかのように全く動かない。
待って。それで止まるってことは、さきちゃんは……。
浦辺さんの持つペンダントが淡い光を放つ。
「デウスの御心のままに」
浦辺さんが言葉を発した瞬間――さきちゃんの体に変化が起こった。
さきちゃんに着せてた僕のコートを突き破って、背中に翼のようなものが生えたのだ。
もはや疑いようもない。
さきちゃんは……組織が作ったロボットだ。
『管理者モードに移行します。マスター、指示を』
感情の乗ってない平坦な口調で、さきちゃんが言葉を紡ぐ。
満足そうな表情を浮かべた浦辺さんが、頷いた。
「命令だ。……この子達の足を折りなさい」
『承知しました』
さきちゃんが下村さんへと身体を向けた。
――いけない!!
咄嗟に、さきちゃんと下村さんの間に割って入る。
「――っ!?」
「葉月ちゃん!」
「お姉ちゃん!?」
さきちゃんに、足を容赦なく蹴られて倒れ込む。
鈍い、嫌な音がした。
倒れたままに見ると、足が変な方向に曲がってた。
本当に折りにきてる。
「優太! 朝陽さんを!」
再び下村さんへと体を向けるさきちゃん。
そこへ優太が影を伸ばして、さきちゃんの手足に絡みつかせた。
「ほぉ、これは何だ? 兎だと?」
浦辺さんが目を丸くさせる。
認識阻害の魔法が解けた?
いや、組織の人に見られるのはもう仕方ない。捕まれば、どっちみち優太の正体はバレてしまうんだ。
それよりも今は、この状況を何とかしないといけない……っ
『障害……排除します』
いまだに戸惑いを隠せない僕達を前に、さきちゃんが冷たい声で宣言した。




