15 再遭遇
葉月と下村朝陽が、浦辺慎二の家でロボットについて考察を行っていた、その数時間前。
優太とさきは、浦辺の家を目指して林の歩いていた。
二人で並んで歩いていたが、不意にさきが立ち止まる。
「……疲れた」
再びしゃがみ込んでしまったさきに、優太は内心でうんざりした。
――またか。
優太としては早くさきを家に送り届け、それから直ぐにでも葉月のもとへと飛んでいきたいところである。
しかし、さきが定期的に疲れたと主張するので休みを何度も入れることになり、優太の想いに反して道程は思うように進んでいなかった。
最初に休憩を取るまでは長い時間歩けていた。
しかし一回休憩を挟んでからは、さきは頻繫に休憩を要求するようになった。
最初は遠慮をしていて、今は遠慮しなくなった?
なぜ? 自分は淡泊に接していたから、打ち解けたなどということも無いはずである。
考えては見るものの、当然答えが出てくることはなく。
優太は仕方なく、休憩を取るのであった。
「うさぎさんって――」
さきが再び、優太へと話しかけようとした時だった。
「――しっ、静かに」
近くの茂みが音を立てたことで、優太はさきが話すのを止めさせた。
茂みの音は風によるものではない。
追手が来たのかと、優太が警戒する。
しかし、茂みを掻き分けて出てきたのは優太の予想と違った。
「――ロボット!?」
横に細長い顔。その上部に、丸い目が離れてくっついてる。
大型バイク程のサイズで、四足を地につけたそれは、カエル型のロボットであった。
ロボットの姿を目にしたさきが、優太の傍にすり寄る。
「うさぎさん……」
怯えた雰囲気を見せるさき。
優太はその態度に違和感を覚えたものの、今はそれを気にする場合ではないとロボットへ目を向けた。
警戒は怠らないものの、優太の頭の中には多くの疑問が浮かんでいた。
何故、こんな所にロボットが現れたのか。
ここはいつもの街からは離れた田舎だ。
はたして廃病院の地下施設で作られたロボットが、こんなところに現れるだろうか。獲物を探していたにしても、こんな田舎よりも都会の方がよっぽど見つけやすいはずだ。
それら一連の不可解な要素から、優太は目の前のロボットが地下施設で作られたものとは違うのではないかと予想した。
であれば、このロボットは放棄されたものではなく、現在も組織によって活用されているものである可能性が高い。
優太がここで戦えば、その情報が組織に渡るかもしれない。
そこまで考えた優太は、戦うのではなく逃げることを選択した。
「……こっちだよ」
言いながら、さきを抱えてロボットとは逆方向に逃げる。
「うわぁ、飛んでる」
逃げているとはいえ空中を飛んでいる状況に、さきが能天気な感想を吐いた。
その言葉に少しの苛立ちを覚えた優太が、本心を口に出す。
「君、意外と重いね」
「む。重く、ないもん!」
更に重ねて文句を言おうとするさきだったが、それより早く優太が横に飛ぶ。
一瞬前まで優太達が居た場所に、カエル型ロボットが飛びかかった。
再び距離を取って逃げながら、どうしたものかと優太は悩んだ。
さきへの負担を考えると、あまり無茶なスピードは出せない。
しかし、それではロボットを引き離すことができない。
影移動を使っても良いが、ロボットが見ているであろう光景が映像として残って、組織に見られても困る。
「――おいていって、いいよ」
「……何?」
ぼそっと呟かれた言葉に、思わず優太は聞き返した。
「さきのせいで、逃げれないなら……おいてって」
さきから発せられる、先ほどとは違って神妙な声音に戸惑う優太。
逃走を続けながらも、さきの言葉を反芻した。
おいてっていい……置いていっても構わない、ということだろう。
さきを置いていく。このロボットの狙いが優太にあるのか、さきにあるのか、どちらかは分からない。
だがさきを置いていけば、まず間違いなく優太は逃げ切ることができるだろう。
――本当に、さきを置いていっても良いのだろうか。
優太はさきと二人で会話した時のことを思い出した。
兄姉とまた会いたいと話していた、さき。兄姉が今もどこかで生きているかどうかは分からない。仮に生きて居た場合、もしもロボットの狙いがさきにあり、ここでさきが捕まれば、再び兄姉と会える可能性は低くなることは間違いない。
優太の脳裏に、自身の姉の姿が浮かんだ。
「……お姉ちゃんと約束したから、見捨てないよ」
絞りだすように、優太はさきへと言葉を返した。
何度目かのロボットの追撃を躱し、優太は考える。
さきのことは見捨てないと宣言した。なればこそ、二人で逃げる方法を考えなくてはいけない。
ロボットにも見られず、確実に逃げる方法――。
……どうにかしてロボットの視線を切って、影移動で逃げるか。
そう判断をしてタイミングを見計らっている時だった。
前方に三つの人影が見えた。
混乱が産めれば、逃げるチャンスが作れる? ……いや、それは姉が望まないはず。巻き込むべきじゃない。
逃げろと声をかけようとして、優太は人影の正体に気づいた。
「――てめぇはさっきの」
同時に、向こうもこちらに気づいたようだ。
一人は葉月と別れるきっかけになった憎き男。
二人は気の強そうな女に、垂れ目の男。駅で撒いたはずの男女だ。
憎き男の発言で想定はできていたが、やはり彼らは仲間であった。
更に、この状況。
まさか彼らは組織の人間であろうか。
咄嗟の状況に、優太の反応が遅れる。
男の姿が消えた。
瞬間、優太のすぐ横に姿を現す。――速い!?
慌てて防御の姿勢を取ろうとした所に、男の声が響いた。
「そのまま走れ」
何事かと思った次の瞬間に、再び姿を消す男。続けて後ろで何かがぶつかったような激しい音がした。
振り返ると、男がロボットへと突っ込んでいくところが見えた。
「大丈夫っすか?」
背後からの問いかけに再び前を向くと、残った二人組の男女が優太の傍まで駆け寄ってきていた。
垂れ目の男は優太の前で立ち止まり、気の強そうな女が優太の脇を抜けて、ロボットの方へと駆けていく。
「その子に怪我は?」
「……君達は何者だ?」
男の質問には答えず、警戒しながら尋ね返す。
「あぁ、まあそりゃ警戒するっすよね」
問われた男は気にするでもなく、頭を掻いた。
「俺達は――」
背後で再び衝突音。
振り向くと、カエル型ロボットが破壊されていた。その傍には、先ほどの男と女。
女が拳を握りしめてる。状況的に女がロボットを壊したように見えるが、女は素手である。
まさか、殴って壊したとでもいうのであろうか。
「――俺達は『リベレイターズ』っす」
ロボットに対する結果が当然とばかりに、そちらを意にも介さず垂れ目の男が告げた。
「……リベレイターズ?」
「あのロボットを作ってる組織……そこと戦ってるんすよ」
◇
妙なことになった。
それが優太の正直な感想であった。
カエル型ロボットを破壊した後、優太とさきは三人組と行動を共にしていた。
さきの家までもう後数キロというところであったが、三人組と話している間に日が沈んだこと。他にもロボットがいるかもしれないこと。
そしてさきへの負担を考慮して、無理に家を目指すのではなく今日は隠れて夜をやり過ごし、翌朝日が出てから家に向かうことにしたのだ。
今は皆で、林の中でも木が密集していて、周りから見つかりにくいところに身を潜めていた。
優太はちらりと三人組を見た。最初は怪しかったものの、どうやら優太達の敵では無さそうである。
彼らはリベレイターズと名乗った。組織と敵対関係にあり、他にも仲間がいるらしい。
組織と敵対していると明言した通り、ロボットを破壊していた。ついでに食料も分けてくれた。
三人のうち二人は明らかな特殊な力を持っている。
三人組のリーダー格――渡亮太と名乗った男は足が異様に速く、高瀬薫子と名乗った気の強そうな女は異様な怪力を誇っているようだ。
その事実と、解放者という名前、組織と敵対しているという話から察するに、彼らはおそらく組織の適応研によって人体実験を受けていた被害者なのではないかと、優太は予測していた。
そのリベレイターズが何故、さきを追っていたのかについては彼らが説明してくれた。
彼らは組織の痕跡を追っており、その過程でロボットに狙われている子供を発見した。それがさきだったそうだ。
一度はロボットから助けたのだが、その時の暴れ方からさきが勘違いしたのか、三人組から逃げたのだそうだ。
逃げた先でまたロボットに襲われても大変なので、三人組はさきを保護しようとしたのだと語った。
優太達のことは最初敵かと思ったのだが、ロボットからさきを守って逃げていたことから、勘違いだと気づいたらしい。
三人組の話が合っているのかはさきにも確認したが、さきからは良く分からないという答えが返ってきた。
優太たちと最初に遭遇した時に三人から逃げていたのも、知らない人に襲われそうで怖かったからだと語った。
結局さきの証言からは三人組の言葉の真偽は分からなかったが、三人組が嘘をついているようには見えなかった。
実は優太達の敵である。ということであれば、ロボットと挟み撃ちになった時点で優太に味方する意味はない。
そのことから三人組のことは、とりあえずは信用しても良さそうだと優太は判断した。
彼らはさきを家に連れていくことに対して、一緒についていくと言った。またロボットに襲われたら大変だからと説明していたが、優太としても断る理由はなかった。
なので仕方なく、彼らと共に行動することとなったのである。
組織と敵対するリベレイターズ。
組織からは距離を置きたい優太達としては、あまり深くは関わりたくない連中である。
当然、優太は自分の正体は隠したままである。
……葉月は彼らのことを何て言うだろうか。
姉のことを思い出し、まだ彼女に会えない寂しさに、優太はため息を吐くのだった。




