13 映画のような展開だけど、全然楽しくはないね
「――どうだい??」
さきちゃんのお父さん――浦辺さんが叫ぶように尋ねてくる。
その緊迫した声を受けて、後ろを振りかえる。
「……駄目です! まだついてきてます」
「マジかっ。どれだけ速いんだよ……」
謎の男に追い詰められた僕は、下村さんと、さきちゃんのお父さん――浦辺さんに助けられた。
浦辺さんが運転する車に乗って男から逃げようとした……のだけど。
人と車のチェイス。普通なら車が圧勝のはずだ。
今、走っているのは田舎道で、あまり幅も広くないから、スピードを出し切れてはいないと思う。
それでも、車が走るスピードに普通は駆け足ではついていけないはずだ。でも、男はしっかりついてくる。
足が異様に速く、僕達はいまだに撒くことができずにいた。
「どうしよう……」
「都会の方まで出るのはどう? 車が沢山いれば、紛れられるかもしれないよ」
下村さんが提案してきた。紛れられたら、確かに逃げられるけど……。
「あれだけ速いと、信号待ちのタイミングで捕まっちゃうかも」
今追いつかれてないのは信号が無くて、停車してないのも大きい。都会を目指して信号に捕まったらアウトだ。
それに、このスポーツカーだと目立つから、紛れるのは難しいんじゃないかな……まぁ、それは言わなくても良いか。
「そっか……警察に駆け込むのは?」
「……いや。警察も良くない」
今度は浦辺さんが首を横に振った。
良くない……か。確かに、僕らはあの男に付きまとわれてるだけで、命の危険を感じてるわけじゃない。
追いかけられてるって訴えても、注意されるぐらいで終わっちゃうかもしれないね。
「この車は二人乗りなんだ」
……あぁ、そういうことか。警察に行ったら、むしろ浦辺さんが捕まっちゃうわけだね。
この案も駄目ということで、下村さんは黙り込んでしまった。
何か良い方法、ないかな……。
そう思って、ふと窓の外に目を向けると、道路用の看板が目に入った。
「……高速は?」
確か、高速道路って、乗り物に乗った人以外が入るのはアウトだよね?
「なるほど……ありだね」
浦辺さんが頷いて、ハンドルを操る。
そこから車は方向を変え、やがて、高速へと進入していった。
◇
「――葉月ちゃん、これどうぞ。浦辺さんからだよ」
「ありがとう。下村さん、浦辺さん」
下村さんが差し出してきたジュースの缶を受け取り、お礼を伝える。
僕達は今、高速途中のサービスエリアに寄って休憩をしていた。
足が速すぎる男から逃げるために高速に乗った僕達。男も高速まで追っかけてくることは、さすがにできなかったみたいで、何とか撒くことができた。
浦辺さんも気を張って運転していたので、休憩を取ることにしたのだ。
車を降りて休みながら、僕は浦辺さんと改めて自己紹介をした。
「浦辺慎二と言うんだ。よろしくね」
「葉月です。よろしくお願いします」
握手をしながら、浦辺さんは僕のことをじっと見てきた。
「葉月くんは小学生かな? 凄くしっかりしてるね」
「あはは……ありがとうございます」
感心したように話す浦辺さんに、笑って誤魔化す。
本当は浦辺さんより年上だしね。
「それで……さきは無事なのかい?」
「別れる前までは無事でしたよ」
僕は、さきちゃんと別れる前の状況を伝えた。
「ゆう……僕のお父さんがあの子を家に連れてってます」
「そうか、なら早く家に帰らないと」
焦ったような雰囲気で、浦辺さんが缶コーヒーを飲み干した。
そりゃ、心配だよね。優しそうかどうかは分からないけど、ちゃんとさきちゃんのことを大事に思ってそうだ。
さきちゃんとのお話で少し気になってたけど、何も問題は無さそうだね。
「とりあえず次の降り口で高速は降りよう」
空き缶を捨てながら、提案してきた浦辺さんに頷く。
高速を降りたら、このままさきちゃんの家に向かうことになる。
時間も結構経ってしまった。
……ごめん、大善寺さん。練習、間に合わさそう。
僕は大善寺さんへ、練習には間に合わないことをスマホで連絡した。
それから僕達は浦辺さんの車に再び乗って、サービスエリアを出た。
浦辺さんの車は二人乗りだ。定員オーバーになるのは今更仕方ないので、僕は下村さんの膝に乗って乗車した。
それにしても浦辺さんの乗ってる車がスポーツカーってのは驚きだ。浦辺さんの趣味なのかもしれないけど、家族乗りには適していないよね。
もしかしたら家族用に、もう一台車を持ってるのかもしれない。それか、あまり考えたくは無いけど、奥さんが居ないか……。
さきちゃんとの会話でお母さんの話題が出なかったことを思い出した僕は、首を軽く振って考えを振り払った。
このことは、あまり考えないようにしよう……。
別のことを考えるべく、僕は運転中の浦辺さんへと話しかけた。
「さっき僕らを追いかけてた……あの人に心当たりってありますか?」
足が異様に速いあの人。あの人だけでなく、観光地で追いかけてきた二人組もそうだ。
何人もの大人が何故、子供であるさきちゃんを狙うのか。
さきちゃんとこれまで接してきた限りでは、そこまで狙われるような子には見えなかったけど……。
「いや、申し訳ないが全く無いんだ」
何かヒントでもあればと思ったけど、浦辺さんは首を横に振るだけだった。
「知り合いって訳でも無いんですよね?」
「あぁ、今日初めて見たよ」
嘘をついてるようにも見えない。
だとしたら、何であの人達はさきちゃんを狙ってるんだろう……。
「とにかく家に急ごう」
浦辺さんはそう言うと、車の速度を上げた。
そうして次の出口で高速を降りて、浦辺さんの家へと向かう。
幸い、高速を降りてからの道中ではあの人に遭遇することはなかった。
そうして暫くの間走って、浦辺さんの家に到着した。
林に囲まれた一軒家。軒先にテラスがあるような、少し洋風な家だ。
周りには田んぼは無いし、民家も無い。田舎の中でもさらに孤立してる。
凄く不便そうだ。
「さき! いるのか?」
浦辺さんが、さきちゃんへと呼びかけながら家へと入っていく。
その後を追って、僕と下村さんも家へとお邪魔した。
外から見て分かってたけど、家の中はかなり広かった。
一階はリビングやキッチン、お風呂があって、二階が居室になってるようだ。
地下へ続く階段もあるから、地下室もあるみたいだね。
「さきはまだ帰ってないようです……」
一通り屋内を探し回った浦辺さんが戻ってきて、そう言った。
目で見て分かるほどに、肩を落としてる。
浦辺さんの言う通り、優太達はまだ来てないみたいだった。
僕らは車だったとはいえ、あの人を撒くために高速に乗って、休憩もしていた。
かなり時間を使ったのに、それでも僕達の方が早いなんて……何かあったのかな……。
「お父さんが今どこにいるかって分かる?」
浦辺さんが尋ねてきたので、首を横に振る。
「……ごめんなさい。お父さんのスマホ、僕が持ってきちゃったので……」
そう言って優太と連絡が取れないことを伝える。
本当は優太自身がスマホを持ってないんだけどね。
けど、優太は今大人の男性に扮している。その優太がスマホを持ってないのは不自然だから、優太のスマホを僕が持っているということで誤魔化した。
それにしても、こんなことになるなら優太にもスマホを持たせておけば良かったよ。
これまで優太と離れて連絡を取り合うなんてことが無かったら、優太がスマホを持ってないことに不便を感じてなかったんだよね。
「そうか……」
「でも、家に向かってるのは間違いないですから」
「そうですよ、たぶんもうすぐ来ますよ!」
元気なく俯く浦辺さんを、僕と下村さんで励ます。
僕達も当然あの子達のことは心配だ。でも優太ならきっと大丈夫なはずだ。
それからは優太達が家に辿り着いた時に直ぐに出迎えできるよう、家の前のテラスに置かれた椅子に座って待つことにした。
日は結構沈んできちゃってる。
合流が遅くなると、今日中に旅館に戻れなくなりそうだ……。
「浦辺さん、この辺ってホテルはありますか?」
最悪、この辺で一泊することも想定して、僕は浦辺さんへと尋ねた。
「いや、この辺にホテルは無いよ」
う、まぁ結構な田舎だもんね……。
どうしよう、僕はともかく下村さんを野宿はさせられないしなぁ。
「部屋なら余ってるから、泊まっていくといいよ」
悩んでると浦辺さんが提案してきた。
ありがたい提案ではあるけど、浦辺さんって今日知り合ったばっかだしなぁ。
「ちょっと、相談しても良いですか?」
「もちろんだよ。ただ、田舎とはいえ夜に外へ放り出すわけにもいかないから、泊まっていってもらえると嬉しいかな」
浦辺さんの言葉を背に、下村さんと二人で話す。
「どうする?」
「うーん、悩むよね」
二人で悩む。
今日知り合ったばっかの人の家に泊まるのは、相手への迷惑が気になる。それに人柄を良く分かってない状態で、子供の僕らだけで泊まるのは、浦辺さんには申し訳ないけど、正直危ないと思う。
「でも、この辺ホテルは無いって言ってたもんね。泊めてもらわなかったら野宿ってこと?」
「そうなるね……」
僕は経験あるし野宿でも別に構わないんだけど、中学生の下村さんを野宿させるのは、それはそれでまずい。
それと優太がどれぐらいで来るか分からない。
夜になってこの家に辿りつくことがあるかもしれないし、その時僕が出迎えできないってのもなぁ
「……仕方ない。お言葉に甘えちゃおうか」
「そうだね」
暫く二人で話し合い、結局泊めてもらうことにした。
その代わり、極力浦辺さんには迷惑をかけない。
そして何か変なことをされそうになったら、申し訳ないけど全力で抵抗する。二人の間で、そう決めた。
「すみません、浦辺さん。泊めていただけると助かります」
「もちろんだよ」
こうして僕達は、浦辺さんの家に泊まることになった。
◇
「――葉月ちゃん、オクタはまだ見えない?」
「うん、まだみたい」
家の中から出てきて尋ねてきた下村さんに向かって頷く。
浦辺さんの家に泊めてもらうことになった僕達は、晩御飯までいただいてしまった。
ご飯の後、浦辺さんが食器を片付けるのを下村さんが手伝いを申し出た。
僕も手伝おうとしたけど、いらないと言われたので、今はまたテラスの所で、優太を待っているところだ。
日が落ちきって空気は冷たいけど、そんなのは気にせずに林の方へと目を配る。
「オクタ、道に迷ってるってことは無いよね?」
「たぶん、大丈夫だと思うけど……」
下村さんの言葉に、曖昧に答える。
電車に乗ってる間や徒歩でこっちに向かってる間に、優太と二人で場所はしっかり確認した。
だから、道に迷ってるなんてことは無いと思う……たぶん。
「だとしたら……日も暮れちゃったし、夜になっての移動は危ないから、どっか休めるとこを探して休んでるのかもしれないね」
下村さんが何気なく呟いた。
確かに、それは有り得るかも。
考えてみれば、一緒に居るのは子供のさきちゃんだ。
歩く速度は遅いし、体力も無い。
無理せず今日は休んで、明日の朝から行動を再開するつもりなのかもしれない。
「……そうかもしれないね」
待つ方としてはやきもきするけど、安全に来てもらうのが一番だし仕方ないかな……。
「――あ、ねぇ。あれっ!」
もう、今日は来ないかもと思い始めてたところで、下村さんが突然林の奥を指差した。
そっちを見ると、林の中に小さく光が見えた。あんなの、さっきまでは無かったはずだ。しかも、その光は動いてるように見える。
「あれ、オクタじゃない?」
下村さんがテンション高めに言う。
いや、でも……。
「優太は灯りになるものなんて持ってないはずだけど……」
スマホは持ってないし、懐中電灯とかも持ってない。
さきちゃんも灯りになるものは持って無かったと思う。
だとすると、浦辺さんを訪ねてきた人とか……こんな時間に?
何となく嫌な予感がして、注意深く見る。
光はこちらに近づいてきてるようで……やがて林の中から、それは姿を現した。
「――ロボットっ……!?」
下村さんが信じられないといった感じで呻いた。
僕も気持ちは一緒だ。
林から出てきたのは、足が幾つもついた虫のようなロボットだった。
――何でこんな場所に?
いや、それよりも――。
「葉月ちゃんは下がってて」
「ううん、僕も一緒に戦うよ」
隣で変身した下村さんに告げる。
「家から引き離して戦おう」
「うん、分かった」
浦辺さんの家に迷惑をかけるわけにはいかない。
僕らが戦うところを浦辺さんに見られたくもない。
幸い、浦辺さんは屋内にいる。
即座に方針を決めた僕達は、テラスから飛び出した。




