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死ねない少女は生き直したい~二百年生きた手品師、魔法少女に巻き込まれて平和を守る~  作者: 柚月由貴
三章

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12 うさぎと少女

 優太は憂鬱な気持ちで林の中を進んでいた。


「――うさぎさんは、何で話せるの?」

「何でだろーね。人とお話したかったからかな」


 彼の関心事は、自身の姉――葉月の安否にあった。


 謎の男に追われた際、囮役を買って出た葉月。

 優太は葉月が囮になることを拒否したのだが、葉月は受け入れてはくれなかった。

 普段は優太が我儘を言うと、仕方ないなという顔をしながらも、何だかんだでその我儘を聞いてくれていた葉月だ。

 それを受け入れないということは、葉月に譲るつもりが無いということである。 


 結局、優太は葉月の提案通りに動くことしかできなかった。

 彼女が男を引き付けて逃げたことで、今の優太達は誰にも追われることなく目的地を目指せている。

 しかし、そのせいで彼女とはぐれてしまった。

 

 彼女は無事であろうか。

 それが気掛かりでならなかった。


「――うさぎさんは何でお空を飛べるの?」

「何でだろーね。鳥さんが羨ましかったからかな」


 優太が本来の力である、影を操る魔法で対抗できてたら、こんな事態にはならなかった。


 でもできなかった。

 力を使って目立つ訳にはいかない。

 目立てば組織に見つかる可能性があり、そうなるとヴィクター達でもフォローすることはできなくなる。


 闇に紛れられる夜ならまだしも、日も明るい中で戦うと誰かに見られる可能性が高くなる。

 そのリスクを考えると、派手に戦う訳にはいかない。何より、葉月から禁止されている。


「――うさぎさんは何でお父さんと同じかっこうをしてたの?」

「何でだろーね。人さんが羨ましかったからかな」


 葉月のことを考えてる状況で、良い加減さきとの問答が煩わしくなり、優太はため息を吐いた。

 立ち止まり、興味津々に自分を見てくるさきへと目を向ける。


 優太はさきに対して、あまり興味がなかった。

 葉月達は彼女のことを気にかけて、助けようとしている。

 けど、優太にとっては違った。

 彼女は家族(葉月)では無いし、友好的な関係を築いてる下村朝陽や藤堂渚とも違う。

 優太にとってさきは、そこまで手をかけるほどの存在では無かったのだ。


 ではなぜ今、彼女(さき)のために動いているのか。


 それはひとえに葉月が望んだからだ、

 自分の姉からの頼みを叶えるため、優太はさきを伴って林を進んでいた。


 見た目が子供なだけの葉月と違い、本当に幼い少女のお()りをしながら、彼女の家を目指す。

 せめてもの救いは彼女が愚図らないこと。

 十歳ぐらいの小さな子供だ。謎の男と遭遇してから歩きっぱなしになっていることを考えると、疲れて動けなくなってもおかしくない。


「うさぎさんはうらやましいものばっかりなの?」

「……っ」


 更に重ねられたさきの質問に、優太は一瞬詰まった。


「……そーだね。自分には無いものって、羨ましく見えちゃうんもんなんだよ」


 先程までと同じように何とか言葉を返したものの、少女からの問いかけが煩わしい。

 無理やりにでも話題を変えるべく、優太は少女へと話しかけた。


「君は元気だね」

「……んー、わかんない」


 少し考える仕草を見せた少女が首を横に振る。

 てっきり、『元気だよ』とでも返ってくると思った優太であったが、その予想外な返事に言葉を詰まらせた。

 それ以上話は続かず、変えようとした話題は一瞬で終了してしまう。

 結果、何も変わらないままに移動を再開することになった。


 しかし、そこからさきが優太へと話しかけることはなかった。

 暫く経って、何故か話しかけてこないなと不思議に感じた時、さきが口を開いた。


「……歩くの疲れた」


 一言そう告げると、さきがしゃがみ込んでしまった。

 先程は分からないと言いつつ、実際は疲れていたのだろうか。自身が問いかけることで、疲れを自覚したのかもしれない。

 そう考えた優太はため息を吐くと、影を操って少し大きめの石ぐらいのサイズの塊を作った。

 

「ここに座るといいよ」


 そう言って、さきに休むよう促す。

 そうしてさきをそこに座らせ、暫しの休憩となった。


 さきを休ませる間、手持ち無沙汰になった優太は彼女のことへと思考を巡らせた。


 彼女は何故狙われているのか。

 見た目は十歳ぐらいの、普通の子供だ。

 小学校に通って、毎日友達と遊んでるような、そんな年頃の子。

 それが三人の大人から追われている。尋常なことではない。


 もしかして、彼女の生活で何かあったのだろうか。

 例えば、親が借金まみれで借金取りに追われているとか。

 であれば家に連れて行ったところで、また襲われるかもしれない。


 ……それはまずい。襲われて、さきが傷つけば葉月(お姉ちゃん)が悲しむ。


 葉月のためにも、さきのことは守らねばならならない。とはいえ、先ほどの考えはあくまで推測の一つであり、真実かどうかは分からない。

 情報が圧倒的に不足しているのだ。


 そこまで考えた優太は、新たな情報を得るためにさきへと質問することにした。


「……君にお母さんはいるのかい?」

「いないよ」


 さきが首を横に振る。


「兄弟姉妹は?」

「お兄ちゃん、お姉ちゃんがいたよ」


 お兄ちゃん、お姉ちゃんが()()

 その言い方が気になり、優太は重ねてさきへと尋ねた。


「お兄ちゃん、お姉ちゃんはおうちに居るのかい?」


 すると、さきは首を横に振った。


「いなくなっちゃった」


 その言葉に、ますます訳が分からなくなる優太。

 母は居ないと言った。

 兄、姉は居たけど居なくなったと言った。


「……お母さんも居なくなったの?」

「ううん、いないの」


 『居ない』と『居なくなった』。

 さきはその言葉を明確に使いわけている。

 であればさきの母は、彼女が物心ついた時には既に居なかったということになる。

 兄や姉が居なくなったという原因とは別と考えるべきであろうか。

 ……いや、それも断定はできない。


「お兄ちゃん、お姉ちゃんはどうして居なくなったの?」

「……わかんない。気づいたらいなくなってたの」


 気づいたら居なくなっていた。

 事件に巻き込まれたか。幼いさきには理解できないと説明されてないだけか。

 いずれにせよ情報が不足し過ぎている。


 朝陽や渚ならおそらくは、もう少しまともにコミニュケーションが取れていただろう。

 幼女を相手にすると、これほど意思疎通が困難になるのか。


 優太は内心で嘆息しつつも、粘り強く質問を重ねた。


 そうやって少しづつ情報を得るものの――。


「……分かんないな」


 疑問を解決するには至らず、優太は頭を抱えた。


 父親は元気だという。

 自分が何故追われてるのかは分からない。

 兄や姉は、同じく追われていたのかも分からない。


 結局、兄や姉が居たが、今は居なくなったということぐらいしか分からなかった。


「また会いたいな――」


 兄姉のことを思い出したのか、さきがぽつりと呟いた。


 その言葉に、優太はふと思い出した。

 遥か昔、二百年以上も前。実験施設でのこと。


 兄弟達と一緒に閉じ込められた狭い部屋。

 自分を拘束するためのベッドが置かれた部屋。


 それが優太にとって、世界の全てだった時。


 痛いこともあったし、苦しいこともあった。それでも生きていけたのは兄弟達が居たからだった。

 むしろその後の、孤独に過ごした二百年の方が、よっぽど辛かったかもしれない。


 だからこそ、お姉ちゃんだけは――。


「うさぎさん?」

「……何でもないよ」


 黙り込んでいたところを気にしたのか、さきが優太へと尋ねてきた。

 優太は首を横に振ると、思考を引き戻した。


「元気になった?」

「うん」

「よし、それじゃあ行こうか」


 優太はさきを伴って再び歩き出した。

 さきを家に送り届けて、姉と合流する。

 姉の無事を確認するためにも、急がなければならない。


 徐々に沈み出した太陽に焦りを持ちつつも、優太はさきとともに家路を目指した。

8/11~8/16までのお盆期間ですが、毎日投稿する予定です。

お手すきであれば、読んでいただけると嬉しいです。

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