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死ねない少女は生き直したい~二百年生きた手品師、魔法少女に巻き込まれて平和を守る~  作者: 柚月由貴
三章

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10 動き出す二人

 とある場所にある、とある施設。

 その一室に、ヴィクター・レインと神前迅はいた。

 彼らは執務机の前に立ち、机の向かいに座る女性と対面していた。

 少しほうれい線が目立つ、不惑の女性。それは、各組織のトップが集う会合に出席していた、技研の総代を担う女性であった。


 ヴィクターと迅は彼女に対して、葉月達が暮らす街での活動結果を報告していた。


「――報告は以上だ」


 ロボットの回収がどれだけできたか。

 廃病院の地下施設の様子。


 それらを説明し終えて、ヴィクターが締めくくる。

 その報告の中には、オクタとの契約通り葉月達に関わることは一切含まれていなかった。


「ありがとう。それなりの数のロボットが回収できて良かったわ」


 報告を受けた総代が二人を労う。


「……でもロボットの暴走によって、深手を負って入院とはね」


 そう続けて、息を吐いた。

 二人は葉月達との戦いにより怪我を負い、入院していた。

 葉月達のことを伏せるにしても、入院していたことについては報告しない訳にはいかない。

 ヴィクター達はその理由を、暴走したロボットに対して不覚を取ったと報告していた。

 暴走したロボットと対峙し、不覚を取ったものの何とか制圧に成功。しかし、制御しきれなかったため、ロボットはやむなく破壊した。そういう筋書きであった。


「神前君を苦しめる程のロボット……破壊してしまったのはもったいないわね」

「手加減はできなかったからなー、仕方ねぇわ、あれは」


 迅が(うそぶ)く。

 誤魔化すことには慣れてるのか、その口調は堂々としている。


「そうね……まぁ、残った物でも十分に研究の余地はあるし、仕方ないか」


 総代は迅の嘘に気づくことなくそう言うと、目の前の机に置かれた報告書へと目を向けた。


「当初観測された謎のエネルギーは、ロボットが暴走した際に発したものと推測、ね」

「そうだ。何か気になることが?」


 ヴィクターが問う。

 暴走に関しては嘘の報告であるため、あまり触れて欲しくは無い話題ではあるが、怪しまれないためには尋ねるのが自然だったからだ。


「いやね。暴走に関しては最近、似たような事件があったのよ」


 そう言うと、総代が机上に置かれたコンソールへと手を伸ばす。


 僅かな操作の後、机上に電子の画面が展開された。AR技術により投影されたモニター。

 その画面に手を伸ばし、腕を動かすと追従するように表示が切り替わる。

 スワイプしていって辿り着いたのは、ニュースの一面。


 ヴィクター達が派遣された街の隣。そこのごく一定の範囲に大雪が降ったというもの。

 それは、廃病院の地下施設から脱走した双子型の雪だるまが起こした異常気象であり、下村朝陽がヴィクターの手を借りて解決した事件であった。


「この件について調査した結果、ロボットの残骸が発見されたわ」


 続いてスワイプして、写真が映しだされる。

 それはニュースではなく、個人的に撮られたもの。


 写真には雪だるまの面影を残したロボットの残骸が写っていた。


「どう思う?」

「明らかにうちのロボットだな」


 ヴィクターはこの時の事件の詳細を把握していたが、初見であるかのように感想を述べた。


「問題は二点あるわ」

「何故暴走したのか……そして誰が破壊したのか、か?」


 ヴィクターの問いに総代が頷く。


「うちが作ったロボットや兵器には、基本制限(リミット)がかけられる。でも今回のは、規模から考えても明らかに制限を無視してるの。あなたが言う通り、暴走していたと考えて間違いないわ」

「暴走は間違いないとして……誰が破壊したかについては、暴走したせいで壊れたって可能性はねーの?」


 迅が尋ねるも、ヴィクターが首を横に振った。


「暴走の過負荷で故障するなら、原型を留めるはずだ。残骸になってるということは、誰かが破壊したと考える方が自然だ」

「その通りよ」


 総代もまた、ヴィクターの言葉に同意する。


「ちなみに何故暴走したか、については推測が立ってるわ」

「推測だと?」

「統制局が新たに作ろうとしてるAI。それがロボットの制限を外せるっぽいのよ」


 その言葉に、二人が動きを止めた。

 少しの間の後、ヴィクターが口を開いた。


「つまり……その誰かは統制局の人間で、新しいAIの性能を確認するために、このロボットの制限を外したと?」

「えぇ、その可能性が高いわ。そしてもしそうであれば、ロボットを破壊したのはそいつの可能性が高い」

「証拠隠滅を(はか)ったという訳か」


 総代が頷いたのを見て、ヴィクターが顎に手を当てて何事かを考える仕草を見せた。


 実際には雪だるま型のロボットを破壊したのは朝陽であり、総代の予想は外れている。

 しかし朝陽の存在を知る由もない総代にとっては、ロボットを破壊した人物が、暴走を故意に引き起こした統制局の人間だと推測したのも頷けることであった。


「うちは貸し出したロボットや兵器の制限を無理に外すことは許可していない。これは、明らかな越権行為にあたるわ」

「……それを個人がやったのか、それとも統制局そのものが噛んでいるのか……確認する必要がある、か」

「その通りよ」


 女性とヴィクターだけが分かったような雰囲気で話を進める。

 そこに疑問を呈したのは迅だった。


「うちの誰かが隠れてやったってことはあり得ないのか? うちのメンバーなら制限を解除する方法も知ってるだろ」

「事件が起こった日の前後、うちの職員がどこに居たかは確認済よ。最も近くにいたのはあなた達なんだけど……」

「僕らは入院してたから、容疑者からは外れるわけか」

「えぇ、そうよ」


 入院してたことが幸いして、容疑者から外れるという皮肉な状況。

 二人としては、無駄に疑われる手間が省けて助かったというのが本音であった。


「なるほどな……それで、僕たちに何をさせたいんだ?」

「話が早くて助かるわ」


 ヴィクターの言葉に総代は微笑むと、姿勢を正して二人を見た。


「あなた達にお願いするのは二つ。一つは暴走させた統制局の人間の調査。証拠を掴み、場合によっては対処すること。併せて、彼らの企みについても調べて欲しいわ。もう一つはその人が新たにうちの兵器を暴走させた場合に、それを破壊される前に回収すること」

「内容的には迅の分野に見えるが?」


 言外に、自分は担当外では無いかとヴィクターが問う。

 しかし、総代は首を横に振った。


「もしもその人が兵器を暴走させたなら、君の知識が必要になる」

「……理解した」


 総代の言葉の意味を少し考えた後、ヴィクターはため息を吐いた。

 渋々ながらも彼が受け入れたと判断した総代が再び微笑んだ。


「ありがとうね。情報はいつものように共有しておくから、後で確認しておいて」


 その言葉に返事をすることなく、ヴィクターは迅へと話しかけた。


「行くぞ、迅」

「へいへい」


 そうして、背中を向けた二人に総代が言葉をかける。


「二人とも聞き分けが良くて助かるよ。期待してるよ」


 部屋を出ていこうとしていたヴィクターが、足を止めて顔だけ振り向いた。


「選択の余地などないくせに、よく言う」

「聞き分けの良い上司でありたいとは思ってるんだけどね」

「ふん。あんたには一生、無理だな」


 鼻を鳴らすヴィクター。それを見てもなお微笑みを絶やさない総代。


「ヴィクター、迅。最近の彼らは色々ときな臭い。……気をつけてね」


 その言葉を背に、今度こそヴィクターは部屋を出ていった。

 その後に、手をひらひらとさせて総代に応えた迅が続いた。



「――しっかし、またすぐ仕事かー。休みてーな」


 総代の居る部屋から出て、廊下を歩きながら迅が愚痴をこぼす。

 その横でスマートデバイスを操っていたヴィクターが言葉を返した。


「仕事が終わったら休めそうだぞ」

「お、何かあるのか?」

「あぁ、今総代から送られてきた情報を見てるんだが……」


 総代から共有された情報。

 そこには統制局所属の職員が、温泉で有名な観光地の近くで実験を行っているとの情報が含まれていた。


「これって……統制局の誰かと言いつつ、既に犯人の目星がついてるってことかよ」

「そうなるな」


 自分が所属する組織ながら、その情報収集能力の高さに迅は舌を巻いた。


「ったく。良かったよ、変に疑われなくて――」

「――何が疑われなかったの?」


 唐突に背後から声をかけられ、二人同時に後方へと振り返った。

 そこに居たのは、ショートヘアでパンツスーツを着た、迅と同年代ぐらいの女性であった。


 無邪気な表情で二人を見る女性。

 が、声をかけられるまで迅が気づけなかった時点で、只者ではないことが窺える。事実、彼女は迅と同じく実働部隊に所属している実力者であった。


「アキか……お前も仕事終わりか?」


 気配も悟らせずに距離を詰めてきた声の主が誰か分かり、ため息を吐くと、迅はその女性――アキへと尋ねた。

 アキは自身の問いが無視されたことにも気にせず、笑って返した。


「そだよ」


 そうして、そのまま二人の横へと並ぶ。

 迅達と一緒に歩き出しながら、アキが尋ねた。


「二人とも、入院してたんだよね? 何で?」

「あー、ロボットが暴走してな。不覚を取っただけだ」

「えー、噓だー」


 大袈裟に迅の言葉を否定するアキ。

 迅達とは明らかにテンションに差がある。が、アキにも迅達にも、それを気にする素振りは見られない。

 

「ねっ、二人も仕事終わったばっかなんだよね? パフェ食べにいこーよ」


 更には、迅達の言葉を待たずに話題を変える。

 迅達もそれが当然であるかのように、気にする様子は示さなかった。


 ヴィクターが首を横に降った。


「無理だ」

「何で? あんみつもあるよ?」


 拒否するヴィクターに、アキが重ねて尋ねた。


「いや、仕事だ」

「また? 多くない?」

「文句は総代に言え」

「ちぇっ」


 仕事であれば流石に誘えないと判断したアキが、残念そうな表情を見せる。

 しかし、直ぐに表情を切り替えた。


「でも連続で仕事、大変だね」

「そうだなぁ、終わったら温泉にでも浸かるとするかな」

「え? どういうこと?」


 迅は次の仕事場所が観光地の近くであることをアキへと伝えた。


「えー、いいなぁ、私も行きたい」

「総代に許可をもらえばな」

「なるほど……ヴィクター頭いいね! ちょっと行ってくるよ!」


 言うや、アキは二人に背を向けると、嵐のように走り去っていった。


「……温泉浸かりたいからで、わざわざ直談判するやつも珍しいな」


 どちらともなく、呟く。

 その数分後、迅のもとにアキからメールが届いた。


『ダメだったー(T-T)』


 その返事を見たヴィクターはため息を吐いた後、静かに告げた。


「……行くぞ」

「……あぁ、そうだな」

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