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死ねない少女は生き直したい~二百年生きた手品師、魔法少女に巻き込まれて平和を守る~  作者: 柚月由貴
三章

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8 展開が早すぎると、ついていけないんだけど

 観光地の民宿に泊まった、その翌朝。

 僕は七時ぐらいに目を覚ました。


 布団から抜け出てカーテンを開ける。窓の外に拡がっているのは民宿の庭だ。

 いつもと違う非日常の空間。天気も良いし、目覚めも悪くないし……うん、良い朝だね。


 ――おかしな状況になって無ければ。


 振り返って、室内を見る。

 並んでる二つの布団。片方は自分用のだ。

 自分はもう起きたけど、依然としてそこには二つの膨らみがある。


 そのうちの一つがもぞもぞと動き出した。

 布団をめくって起き上がってきたのは幼い少女だった。

 さきちゃん――この真冬に薄着かつ裸足で現れた女の子だ。

 謎の女性に追われていて、名前と家の住所以外、何も分かってない。


 僕らは今日、彼女を家に送り届ける予定だ。

 夕方には大善寺さんのマジックショーの練習があるから、それまでには戻らないといけない。


「……おはよ」


 寝ぼけ眼を擦りながら、さきちゃんが話しかけてきた。


「うん、おはよー。ちゃんと寝れた?」

「……うん」

「そう、良かった」


 頷くさきちゃんに微笑む。

 謎が多い状況だけど、この子自身が悪い子な訳では無さそうだ。だから、できる限り優しくは接してあげたい。


「朝陽さんを起こして、朝ご飯にしようか」


 そう伝えて、残った膨らみへと目を向ける。

 僕は布団に近づくと、膨らみを揺すりながら声をかけた。


「朝陽さーん。朝だよー」

「うーん、もう少しー」

「ダメだよ。ご飯の時間決まってるんだから、もう起きなきゃ」


 しばらく揺すってると、ようやく下村さんが体を起こした。


 朝ごはんは大善寺さん、優太達と一緒に食べることになってる。朝ごはん付きの宿泊プランなので、ここで食べてから外に出ることになる。

 その前に、顔を洗ったりといった準備をしなきゃね。


「――え、葉月ちゃん。もう終わりなの?」


 自分の準備を手早く済ませて、さきちゃんの準備を手伝ってると下村さんからそんなことを言われた。


「うん、終わってるよ」

「私も早い方なのに……早すぎない?」


 そんなこと言われてもなぁ。

 顔洗って歯磨きして、寝癖を直したら後は服を着るだけでしょ?


 そう伝えたら微妙な顔をされた。


「ちょっと待ってね。私もすぐ終わらせるからさ」


 そう言われて数分。急ぎで用意を済ませた下村さんが、僕の髪を弄り始めた。


「こういう時は、ちょっと雰囲気変えよーよ」


 うーん、別に良いんだけどなぁ。

 というか、そもそも手入れとか面倒で髪は短めにしてるし。

 アレンジするのも難しいんじゃない?


 と思ったら、下村さんが持ってたヘアピンで横髪を器用にねじって止めてくれた。

 鏡で確認したところ確かに、いつもからは少し雰囲気が変わっていた。


「どう?」

「……凄いね」


 下村さんが満足気に頷く。


「でしょ。普段も可愛いけど、もっと可愛くなったよ。ね、さきちゃん」

「……可愛い」


 下村さんは続けて、さきちゃんの髪の手入れをはじめた。


 凄いね。こういうの見ると、下村さんもやっぱり女の子なんだなって思う。

 ……いや、今のは失礼か。ごめんね。


 そうして、ようやく準備が終わった後。三人で大善寺さんと優太が泊まってる部屋へと移動した。

 民宿の人には予め伝えてたので、僕らの分の朝ごはんもこっちに用意してもらっていた。


「おはよう。おね……葉月はいつもと雰囲気違うね」


 優太が僕の髪型にすぐ気づいた。

 今、お姉ちゃんって言いかけたよね?

 大善寺さんの前では大の大人に扮してるのに、お姉ちゃんなんて言われたら意味が分かんなくなる。気をつけてね。


「朝陽さんがやってくれたんだ」

「可愛いでしょ!」


 下村さんがドヤ顔で優太に感想を求めた。

 僕以上にウキウキしてるのは何でだろうね。


「……うん、似合ってるよ」

「ありがと」


 優太は改めて僕のことをじっと見ると、褒めてくれた。

 対して大善寺さんはというと――。


「何か変わったのか?」


 あ、この人鈍感なタイプだ。

 心なしか、下村さんの視線が冷たくなった気がする。


 ……うん、気にしないでおこう。


 その後、朝ごはんを皆で食べる。

 さきちゃんの分はもともと数に入ってないけど、僕のと半分こした。

 量が多くて、そもそも食べきれなさそうだったからちょうど良かった。

 ちなみに、さきちゃん――もう一人余分に泊ることは昨夜のうちに民宿の人へと伝えている。お金も追加分を払うつもりだったけど、布団も食事も追加は要らないと言ったらサービスしてくれた。ありがたいね。

 

 ご飯を食べて一息つき、頃合いを見てから僕らは動き出した。

 まずは下村さんと優太の二人で、ショッピングモールへ。

 専門店が開店するのを待って、予め確認していたサイズでさきちゃん用の上着と靴下、靴を購入する。

 いったん民宿へと戻ってきてもらい、買ってきた服と靴下をさきちゃんに着せる。

 そこから改めてさきちゃんを連れて民宿を出た。


 大善寺さんはお留守番だ。

 さきちゃんと関わることに一番否定的だった大善寺さんは、下村さん達がショッピングモールへ行っている間、さきちゃんの面倒を見るためにお留守番していた僕に対して、しきりに文句を言っていた。

 まぁ、大善寺さんの気持ちは分かる。でも下村さんがやる気になってるから、僕までさきちゃんの保護に否定的になると、下村さんが一人でさきちゃんを連れて行こうとしかねなかったんだよね。

 なので、こうなってしまったのは仕方ない。

 とはいえ大善寺さんはマジックショーの練習には万が一にも遅れられないし、嫌がってるのに巻き込む訳にもいかない。

 だから僕達三人でさきちゃんを連れていくことになったのだ。


 民宿を出た僕達は、とりあえず駅を目指した。


「さきちゃんの家がある場所って、ここからはそんなに離れてないんだよね?」

「うん、電車で乗り換えは要らなそうだよ」


 スマホでさきちゃんの家の住所を検索しながら、下村さんの質問に答える。

 そこまで遠くはないけど、ショッピングモールで買い物してたから、今はもうお昼前だ。

 夕方には戻ってマジックショーの練習だって考えると、あまり余裕は無い。

 寄り道せずに行かないといけない。


 そうやって、皆で歩いて十分程度で駅が見えてきた。

 電車の時間は既に調べている。このペースなら、ちょうど良いタイミングで電車が来そうだ。


「――待った」


 だけど、そこで優太に呼び止められた。


「どうしたの?」


 駅の方を見て、立ち止まってしまった優太に尋ねる。


「……あいつがいる」

「あいつ?」

「昨日の女だよ」


 言われてハッとする。

 優太が見てる方へと視線を向ける。


「どこ?」


 下村さんが尋ねた。


「改札の傍だよ。仲間っぽい男と一緒だ」


 優太が状況を教えてくれた。

 今日は男と一緒にいるらしい。改札の傍で、駅構内へと入っていく人を観察してるとのこと。

 観光地なだけあって、駅前は結構人が多い。僕にはとても見えないけど、優太が言うならそうなんだろう。

 もしかしなくても、さきちゃんを探してるのかな?


 ……あれ?


「朝陽さんは見えてないの?」


 僕はともかく、視力の良い下村さんには見えてそうなのに。

 下村さんが優太に尋ねたことを意外に思って聞いたら、下村さんが笑った。


「今の状態だと、そんな遠くまで見えないよ」


 ……あぁ、そういえば魔法少女の姿になってる時だけ、身体能力が上がるんだっけ。

 下村さんの言葉に納得した。


「……帰れないの?」


 さきちゃんが不安げな声をあげる。

 この子からしたら、不安になるのも仕方ないね。


 さきちゃんの頭を撫でながら、話しかける。


「大丈夫、僕らは手品師だからね。さきちゃんをあいつらにバレないようにできるんだ」


 ウィンクしながら、さきちゃんに伝える。

 まぁ実際に使うのは手品じゃなくて、優太の認識阻害の魔法なんだけどね。


 優太を見ると、頷いた。

 もう準備はバッチリらしい。それじゃあ、行こうか。


 ドキドキしてるさきちゃんに、自信満々にしてていいよと伝える。

 そのまま堂々と歩いて切符売り場へと向かった。切符を買う列に並びながら、改札の傍に立ってるらしき二人組を横目で探す……あれかな?


 女の方はウェーブのかかった茶髪にサングラスをかけている。カーゴパンツにムートンコートの組合せを着ている。何となく気が強そうだ。

 対して男の方はパーマのかかった黒髪に、垂れ目で落ち着いた顔をしている。ワイドパンツにジャケットを羽織っていて、今どきの若者って感じだ。

 見た目はどっちも普通だね。――改札を抜けていく人達を、食い入るように見てさえいなければだけど。

 明らかに人を探してる雰囲気だ。やっぱり、さきちゃんを探してるのかな?


 二人組を観察しながらも、順番が来たので切符を買い、改札へと向かう。

 彼らの前を通る時に、男の方が何故か僕達をガン見してきた。……大丈夫、バレてないはず。


 優太が先に改札を抜ける。

 男の視線に気づかない振りをして、僕も続けて改札を通った。


「……あ」


 小さい声に振り向くと、さきちゃんが改札でもたついてるのが見えた。

 もしかして、切符を通すの初めてだった?

 大丈夫かな……。

 さきちゃんの後ろにいた下村さんが助けようとしてくれてる。


 改札前でごたついて混雑を作ってしまったからか、駅員さんが二人に近づいた。


 あ、やば――。


「手伝いましょうか――え?」


 駅員さんが驚いた声をあげる。さきちゃんに触れたことで、認識阻害の魔法が消えたみたいだ。

 二人組を見ると、男が驚いた顔で隣の女の肩を叩いてるのが見えた。


「優太、バレたよ」

「うん、急がなきゃ」


 認識阻害の魔法は、姿を誤魔化してる相手に触れられるとバレる。

 何とか改札を抜けたさきちゃんの手を掴む。


「駅員さん、ありがとう!」


 お礼を言ってから、さきちゃんを連れて急ぐ。

 ちらりと振り返ると、僕らのすぐ後ろに下村さんがついてきて、更にその背後から二人組が走ってくるのが見える。


「電車は!?」

「もう来てる!」


 優太の声に前を見ると、電車がホームに入ってくるところだった。

 これなら乗れるけど……でも、あの二人も間に合ってしまいそうだ。


「――二人とも、後お願いね」


 どうすべきか考えていると、そんな下村さんの声が聞こえた。

 思わず振り向くと、下村さんが反転して二人組の方へ向かっていくのが見える。


「お姉ちゃん、扉開いてる!」


 くっ、気になるけど今はこの子を――。


 電車に飛びのる直前、背後から『やめてください!?』という声が聞こえた。

 ……下村さん、騒いで注意を引きつけてくれてる?


 電車に乗ってから後ろを見ると、人だかりができてるのが見えた。

 二人組もその中に埋もれてるみたいだ。


 そうこうしているうちに、電車のドアが閉まる。


 何とか電車に乗ることはできたけど、下村さんは大丈夫かな……。


 車内はさっきの駅で多くの人が降りてたので、少し空きができていた。

 さきちゃんを空いてる椅子に座らせて、僕らはその前に立った。


 しばらくして、スマホに下村さんから連絡が入った。


『さきちゃんのお父さんと合流した。私達は車で、さきちゃんの家に向かうね』


 ――どういうこと?

 二人組を引き付けるために騒いでたはずなのに、何でさきちゃんのお父さんと会ってるの?

 え? ていうか、さっきの駅に居たの?


「朝陽は何て?」


 優太が聞いてくる。

 でも訳が分からないので、僕は首を横に振った。


「いや、良くわからない」


 とりあえず、騒いだこと自体は怒られただけで済んだみたいだ。

 そこは良かったけど……展開が早すぎて、全くついていけないんだけど。


 その後も下村さんとメッセージをやり取りして、僕らは電車で、下村さんはさきちゃんのお父さんの車で、さきちゃんの家を目指すことになった。


 それにしても不可解なことが多すぎる。

 出会った時のさきちゃんの恰好。家から離れた場所で、何でそんなに薄着だったのか。

 しつこくさきちゃんを狙う二人組も変だ。ただの誘拐だとしたら、そこまでさきちゃんに拘る必要はないはずだ。

 そしてさきちゃんのお父さん。さっきの駅に居たのはたまたま? さきちゃんを探してた?


 椅子に座って揺られてる、さきちゃんへと視線を向ける。

 後は家に向かうだけとはいえ、まだまだ油断はできなさそうだ。


 この後も何か怒りそうな予感がして、僕はため息を吐いた。

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