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死ねない少女は生き直したい~二百年生きた手品師、魔法少女に巻き込まれて平和を守る~  作者: 柚月由貴
三章

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7 温泉に浸かって一息……はつけなさそうだね

「ふわぁ~。気持ちい~」


 おじさんみたいな反応をする下村さん。

 まぁ仕方ないか。気持ちいいのは事実だもんね。


「あ、葉月ちゃん。ここ、露天風呂もあるみたいだよ。そっちも行ってみよーよ」

「……うん」


 下村さんの誘いを受けて、手を引かれながら一緒に移動する。


 ……何でこーなったのかなぁ。


 今、僕らがいるのはパーミヤンホテルの大浴場だ。

 温泉が有名な街だけあって、ホテルの大浴場も温泉が使われてるのが売りだそうで、ホテルに宿泊してなくても数百円払うことで、温泉に入れるようになっていた。


 僕らが泊まる民宿の方は、一般宅にもありそうな普通のお風呂だった。どうせなら大きいお風呂に入りたいという下村さんの要望があり、ホテルの大浴場に入ることにしたのだ。


 大浴場に入ることは問題無い。というより大賛成だ。僕も大きいお風呂は好きだからね。

 でも、大浴場に入るってことは下村さんと一緒に入るという訳で……下村さんに申し訳ないんだよね。

 何せ僕は元男だし。

 ……下村さんは別に気にしてないみたいだけど。


 気にしてないからといって無闇に見るものでも無いので、手を引かれて歩きながらも下村さんからは視線を外して、露天風呂の様子を見るのに集中する。

 当然、他のお客さんにも目は向けない。


「おー、雰囲気あるねぇ」


 露天風呂の様子を見た下村さんが声を上げる。

 彼女が言う通り、露天風呂は風情があった。

 露天風呂の周りには竹が植えられてあったり、鑑賞用に小さな滝が作られてたり。

 ホテルの浴場だけど、しっかり作られてる。

 売りにしてるだけあるね。


「あ~、良いねぇ」


 露天風呂に浸かって、一息吐く下村さん。

 うん、やっぱりおじさんみたいな反応だね。


「今日の観光楽しかったね。……ね、明日は湖の方に行こうよ!」

「うん、良いね。行ってみようか」


 明日はマジックショーに向けて、実際のステージで練習ができる日だ。

 とはいえ出演者が複数いるから、時間が割当られている。

 大善寺さんの練習時間の割当は夕方からだから、それまでは観光してても問題無いはずだ。


 その後も二人でゆっくり浸かってから、大浴場を出た。

 いつかの時みたいに、下村さんに髪の毛を乾かしてもらう。

 ホテルのロビーに出ると、大善寺さんと優太が既に待ってた。


 ……うん、優太。不満そうな顔は止めようね。


「お待たせしました」

「大丈夫だよ。それじゃあ、行こうか」


 全員でホテルを出て、薄暗い中を皆でわいわいしながら歩く。


「――うわっ。とと……」


 道路を渡って民宿に入ろうとした所で、何かにぶつかられた。

 バランスを崩したものの、勢いはそんなに強くなかったので転ばずには済んだ。


 何事かと振り向くと、僕より少し背の低い子が頭を押さえていた。


「あ、あの……ごめ……なさ……」


 顔を上げて謝ってきたのは、僕よりも背が低い小学校低学年ぐらいの女の子だった。

 長い髪。あどけない表情。白いワンピースを着て……裸足?

 真冬でコートを着てないのも違和感があるし、もう夜なのに、こんな小さい子が一人でいるのもおかしい。


 三人の方へ顔を向けると、皆同じく訝しんでるのが表情から分かった。


 何だか普通じゃない雰囲気の女の子に困惑しつつも、ひとまずおどおどした様子のその子に声をかける。


「大丈夫? 痛い所はない?」

「う、うん」


 問いかけると、女の子が頷いた。

 良かった、ちゃんと受け答えはできそうだ。


「お父さん、お母さんはどうしたの?」

「えっと……」


 しどろもどろしながらも答えようとしてくれたところで、女の子が急にハッとした表情をした。

 そして、自分がやってきたであろう方へと振り返る。


 釣られて僕らもそっちを見る。……声?

 誰かがこっちにやってきてるみたいだ。


「た、助けて……」


 僕の腕にしがみついて、女の子が訴えてきた。

 凄く必死な感じだ。


 今、迫ってきてる人たちから逃げてる?

 彼女の恰好も相まって誘拐かもという考えが頭に浮かび、咄嗟に民宿の敷地内に植えてある、茂みの奥へと女の子を引っ張った。


 茂みから飛び出ないように、女の子の頭を抱えて様子を窺う。

 コートも来てないからか、女の子の身体は凄く冷たかった。


 近づいてきてた人達は、下村さん達に接触したみたいだ。

 声しか聞こえないけど、一人だね。女の人だ。それも大人だね。


 小さい子供が、こっちに走って来なかったかと聞いてる。


「見てないですけど……子供がどうしたんですか?」


 答えてるのは優太だ。

 女の人は、子供が一人で夜道を歩いてるのを見かけたから保護しようとしたら逃げてしまったと言った。

 女の子を見ると、首を必死に横に振ってる。

 噓……なのかもしれない。


 玄関の方では優太が警察に連絡したらと伝えていた。

 女の人はそこまでのことじゃないと言って、警察へ連絡するのを拒否しているみたいだ。

 ますます怪しい。


 やがて、女の人が優太達にお礼を言うのが聞こえた。

 静かになった後も暫くじっとしてると、少し経ってから下村さんが僕の方に声をかけてくれた。


「もう大丈夫っぽいよ」

「……ありがとう、朝陽さん」

 

 ようやく、女の子を抱きしめていた腕の力を緩める。


 ふぅ。とりあえず大丈夫みたいだけど……。

 女の子を見ると、怯えた感じで僕に抱きついていた。


 ……さて、どうしようねぇ。



 僕達は女の子を連れて、ひとまず民宿の部屋へと移動した。

 民宿のお風呂を借りて、女の子をお風呂に入れ、その後皆でどうするかを話し合うことになった。


 畳の上に座布団を敷き、円の形になって座る。

 僕と下村さんの間に座る女の子を改めて見る。お風呂に入れた後も、血の気は見られず肌が凄く白い。でも、先程までと違って落ち着いた様子が見られるので、もとからそういう体質なのかもしれない。

 女の子が落ち着いたことで、僕達は改めて彼女に色々と尋ねることにした。


「僕は葉月」

「私は朝陽だよ」

「優太っていうんだ」

「……大善寺だ」


 皆で口々に自己紹介する。

 大善寺さんだけ仏頂面なのは、この状況を望んでないからだろうね。まぁ、仕方ない。それが普通の大人の反応だと思う。


「それで、君のお名前は何て言うの?」


 下村さんが代表して女の子へと声をかけた。

 喋り方も優しくて、お姉さんって感じだ。

 知り合って間もない頃に、僕に対して取ってた態度と同じだね。


「私……さき」

「さきちゃんていうんだね。よろしくね」


 笑顔が眩しい。

 たぶん、意識せずにやってるんだと思う。こういう所は才能だよね。

 さきちゃんがこくりと頷いた。


「それで、さきちゃんのお父さんとお母さんは何処にいるのかな?」

「……お父さんはおうち」

「そっかぁ。じゃあ、さきちゃんもお家帰らないといけないね。お父さんもお母さんも、きっとさきちゃんが居なくて心配してるもんね」


 『お父さんは』という発言が気になったけど、とりあえず家族が家に居そうだということは分かった。

 でも、家族は家に居てさきちゃんだけが一人でいるなんて……ますます誘拐の線が強くなった気がする。


「それで、あの追いかけてた人は誰か分かる?」


 次の質問には、さきちゃんが首を横に振った。


「わかんない……」


 皆で顔を見合わせる。


「何でさきちゃんが追いかけられてたか分かる?」

「……わかんない」


 うーん、あの女の人については何も分からずか。

 どうしようかと思った時、大善寺さんが口を開いた。


「警察に連絡すべきだ」


 その言葉に頷く。まぁ、それが一番無難だよね。

 この子を保護してもらえるし、確実におうちに連れてってもらえるし。

 ところが、大善寺さんの案を否定したのは意外にもさきちゃんだった。


「けーさつはダメ!」


 さっきまでと異なり、かなり強い口調だ。

 表情にも焦りが見える。


「大丈夫だよ、さきちゃん。けーさつに連れてったりはしないからね」


 強い反応を示すさきちゃんを宥めるように、下村さんが優しく語りかける。

 さきちゃんが落ち着くのを待ってから、ゆっくりと問いかけた。


「……それで、何でダメなの?」

「けーさつはわるい人の友だちだって、お父さんが言ってたの」


 どこか怯えるように告げられた言葉に、ますます訳が分からなくなった。

 あの女の人が誘拐犯として、警察の友達?


 僕だけじゃなく、皆も分からないという表情をしている。

 そんな中、さきちゃんが小さく呟いた。


「おうち……かえりたい」

「おうちは何処か分かる?」


 首を横に振る女の子。


「困ったな……おうち分かんないと連れてくのも無理だし……」


 警察に連れて行かないにしても、家が分からないと僕らではどうしようもない。

 僕らが途方に暮れてると、さきちゃんが泣きそうな表情を見せた。


 僕はさきちゃんの前で握り拳を作り、開く。

 次の瞬間、折り紙で作った花が手の中から現れた。

 目を丸くさせるさきちゃん。


 さらには両手を握り、念を込めるように手を震わせる。

 両手を開くと、大量の折り紙の花が掌に出現した。


「わぁ、綺麗!」


 さきちゃんが笑った。喜んでもらえたみたいだ。

 少し元気になったところで、引き続きさきちゃんへと尋ねた。


「何かおうちに関係してるものって持ってない?」


 少し考える素振りを見せてから、さきちゃんは首にかけて服の内にしまっていたネックレスを取り出した。ネックレスの先にはペンダントがついている。


「これは……」


 首から外して渡してくれたそれを見ると、ペンダント部分が蓋つきになっていて、開くと中に写真が入れてあった。

 さきちゃんと、お父さんらしき人物とのツーショット写真だ。


「この人がお父さんなのかな? 優しそうな人だね」


 下村さんが感想を告げた。

 確かに、少し気が弱そうではあるけど、その分優しそうだ。

 

 でも、ペンダントから分かるのはそれだけかな。

 さきちゃんの家に関する情報は無さそう……。


「あ、やばっ――」」

「ちょっ、葉月ちゃん!?」


 蓋を閉めようとしたところ、触り方が悪かったのか蓋が外れてしまった。

 慌てて元に戻そうとペンダントを弄ろうとして、裏返したところで気づいた。


 ――ペンダントの裏に、住所が刻んである。


「どうしたの?」

「いや、これ……」


 僕はその部分を皆へと見せた。


「ここがさきちゃんの家なのかな?」

「かもしれない。迷子になった時のために、親が持たせてたのかも」


 子供に住所が分かる持ち物を持たせるってのは、迷子対策として聞いたことがある。

 書かれている住所は、幸いここからそんなに遠くない。


 その後も話し合い、結局今晩は保護するという名目でさきちゃんを匿い。明日の午前中に僕らでさきちゃんのおうちへと送り届けることになった。


 はっきり言って、さきちゃんには謎が多い。

 なぜ真冬に裸足でコートも着ずに、家から離れた観光地に居たのか。

 なぜ怪しげな女の人に追われていたのか。

 なぜ警察が悪い人の仲間というのか。


 分からないことだらけだけど、それでもさきちゃん自身は悪い子には見えないし、困っているなら助けたい。

 そんな思いを強く主張した下村さんに乗った形だ。


 最後までさきちゃんと関わることを否定していた大善寺さんは、マジックショーのこともあるから一緒には行かないことになった。

 だからさきちゃんを連れていくのは僕、下村さんと優太の三人だ。


「明日、おうちに帰ろーね」

「……うん」


 頷いたさきちゃんが、ギュッと腕を掴んできた。

 その手は、まだ少し冷えていて、彼女の心境を表しているようだった。

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