表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死ねない少女は生き直したい~二百年生きた手品師、魔法少女に巻き込まれて平和を守る~  作者: 柚月由貴
三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

67/73

5 とある会議の一幕

 どこかにある建物の、とある一室。

 中央に置かれた大きめの円卓。それを囲むように五つの椅子が置いてある。

 そこはヴィクター達が所属する組織の、各集団の総代が一堂に会し情報を共有し合う時に使われる部屋であった。


 今、室内には二人の客人が居た。

 一人は初老の、痩身の男。シャツの上から白衣を羽織り、研究者然としている。彼は現在、椅子に座り黙祷していた。

 もう一人は中年の、細身な女。スーツを着ていて、髪は肩口で切り揃えられている。彼女は初老の男の傍に控えて立っていた。

 二人は組織の中の本家に所属する人間である。


 沈黙が支配する室内。やがて、女が自身の腕時計を確認すると、小さく呟いた。


「まもなく来ます」


 その言葉からほどなくして初老の男が座る椅子から、一つ空けて隣の椅子に変化が生じた。 椅子の上に光が発生したかと思うと、突如人の姿が現れた。

 小太りしていて眼鏡をかけた、白衣の中年男性。ただ、それは生身の肉体では無い。ホログラムにより映し出された映像である。

 彼は統制局の総代を務める男であった。


「――おや、私が二番目ですか」


 ホログラム上の男が言葉を発する。 そのタイミングで初老の男が目を開いた。


「ええ、そうです。……お久しぶりですね」

「ですな」


 お互いに声をかける。それ以上の言葉を発する前に、他の椅子にも変化が起こった。

 まずは二人の男の間の椅子。光を発したかと思うと、ホログラムにてセーターを着た私服の中年女性が映し出される。

 続けて初老の男の反対側の隣の椅子。同じくホログラムでスーツを着た中肉中背の青年が映し出された。

 中年女性が技研の総代であり、中肉中背の青年が共栄会の総代である。


 彼らが登場したことで、会議室には本家を除く全ての集団の総代が(つど)ったことになる。


「……あぁ、私が最後でしたか。すみませんね」


 室内の様子を確認した青年が頭を下げる。

 謝罪の言葉を受けて、初老の男が首を横に振った。


「時間ぴったりです。問題ありません」


 そう言って、初老の男は改めて全員を見渡した。

 場には五つの席。そのうち、埋まっているのは四つ。

 しかし、初老の男はそれが当然であるように、頷いた。


「では、会議を始めましょう。それぞれの――」

「――その前に一つ良いですかね?」


 そのまま会議を始めようとした初老の男であったが、その言葉を遮り統制局の総代である小太りの男が手を挙げた。

 その態度に、初老の男の横に控えていたスーツの女が眉根を寄せる。


「無礼ですよ。今は――」


 小太りの男へと注意しようとしたスーツの女であったが、しかし初老の男が手を挙げたことで途中で口を噤んだ。


「構いません。何ですか?」


 初老の男が小太りの男へと問いかける。

 小太りの男はニヤついた表情を浮かべながら、口を開いた。


「いやなに。《本家》の出席は貴方で、今日も当主様は参加されないのかと思いましてね」


 その瞬間、会議室の空気が僅かに重くなる。

 参加者のほとんどはホログラムによる参加であったが、その態度、雰囲気が場の空気に影響を及ぼしていた。


「……ご当主様は多忙につき来られません」

「多忙? 多忙ですか……」

「何か気になることが?」


 初老の男の問いかけに、肩を竦める小太りの男。


「いやなに。この会議は我々組織の幹部が一同に会する場。これより優先されるものがあるのかと疑問でしてね」


 そうして小太りの男が更に言い募る。


「まぁ、しかし当主様のことです。我々には及びもつかない考えがあるのでしょうな」

「何が言いたいのですか?」


 スーツの女が睨みつける。

 その表情は、自身が不快に感じていることを隠そうともしていなかったが、小太りの男は意にも介さない。


「近頃、組織内にある噂が流れてましてね。――当主様は本当にご存命なのかと」


 会議室の空気が更に重くなった。


「もちろん、私としても否定はしてますがね。ただ、当主様はここ数年公の場に顔を出されてない。せめて顔だけでも見せて、元気なお姿を披露して頂かないと、私共としても下の者にハッキリと示せないのですよ」


 言い終えると、小太りの男は反応を窺うように初老の男を見た。

 黙って聞いていた初老の男がため息を一つ吐いた。


「あなたの懸念は理解しました。ご当主様には伝えておきましょう」

「えぇ、えぇ。是非ともお願いします」


 ニヤつきながら小太りの男が告げる。

 初老の男が他のメンバーへと視線を送る。


「他に話をしたいという方は居ますか? ……居ないのでしたら、会議に入ります。各自、進捗状況を報告してください」


 その言葉を受けて、初老の男と小太りの男の間に座っていた、技研の総代である私服の女が口を開いた。


「では、《技研》から報告しますね。うちが先日リリースした兵器が数台、紛争地域へと供給されました。そのデータ取りは順調。このデータを元に新しい技術への転用を検討中です」


 ホログラムからは窺えないが、手元にある何かを見ながら女が話を続けていく。


「……これら特殊な技術を採用した試作ロボットを統制局へ貸し出しています。これらのデータも収集後、次期ロットへの転用を検討予定です。……《技研》からは以上ですね」


 そう言って締めくくる私服の女。

 それを受けて、残りの面々が幾つか質問し、女がそれに答えていく。


 一通り区切りがついたところで、今度は小太りの男が報告を始めた。


「――我々、《統制局》はいつもの如くですな。AIによるロボットの補助。そしてAIが及ぼす人への行動強制について引き続き研究中です。ロボットの補助については、ロボットが有する技能をブーストさせる効果を確認したところです。人への行動の強制は現場でのトライアルに入るところですな。これは先程《技研》から報告のあった、試作ロボを使用する予定です」


 会議冒頭で初老の男に噛み付いたとはいえ、その報告の内容は至って真面目だ。

 しかし、その表情は軽薄な笑みを浮かべたまま変わらない。


「――これが上手くいけば、我々の悲願が達成される日も近いでしょう」


 結局、終始その表情を変えないままに、男は報告を締めくくった。

 これについても質問が幾つか飛び、それに飄々と答える男。


 そうして三番目に報告を行ったのは、共栄会の総代である中肉中背のスーツの男だった。


「《共栄会》です。技研の紛争地域への兵器供給により、資金は潤沢。組織運営に問題はありません。またAIに関する規制の法案を次の国会で提出してもらえるよう、議員に働きかけてます」


 他二人と違い、シンプルに報告を進める男。

 その後に残りの面々から受ける質問の量は少なかった。


 最後に報告を行ったのは初老の男だ。


「我々は引き続き《適応研》の残したデータを解析中です」


 そう告げると、空席へと一瞬視線を向ける。

 統制局の総代である小太りの男が絡むように口を開いた。


「時間がかかってますな」

「えぇ、貴方もご存じの通り、彼らが残したデータは膨大です。その中の何が、我々の目的へと繋がるヒントになるか分かりませんからね。解析も慎重に行ってます」


 何でもないように答える初老の男に、小太りの男が鼻を鳴らした。

 その後、他のメンバーからの質問に答え本家もまた報告を終えた。


「他に共有事項はありますか?」


 初老の男からが皆へと問いかけると、共栄会の総代である青年が手を挙げた。


「既に知っている方もいるかもしれませんが、《適応研》の遺産が動いてるとの情報があります。気をつけてください」

「……ほぉ。それは良い実験体になってもらえると助かりますな」

「承知しました。気を付けるよう、うちのスタッフには通達します」

「情報ありがとうございます。警戒体制は引き上げておきます」


 青年の言葉に三者三葉の反応が返る。

 青年からはそれ以上の言葉は無く、初老の男が再び全員を見渡した。


「他にはありますか? ……無いようですね。それでは一月後、またこの場で」


 その言葉を最後に、全員が手にペンダントを掲げた。


「「「デウスの名のもとに」」」


 異口同音に言葉を紡ぐと、それを皮切りにホログラムが消えていく。

 残ったのは生身でこの場に居た、初老の男とスーツの女のみだ。


 全員が去ったことを確認した初老の男は、大きくため息を吐いた。

 それを見たスーツの女が、労うように男へと声をかけた。


「お疲れ様でした」

「いやはや……本当に疲れましたね」


 肩を揉みながら初老の男が言う。


「ご当主様は顔を出せないのですか?」


 会議冒頭での統制局の男の言葉が気になったのか、スーツの女が問うた。


「……どうでしょうね。最近のご当主様は心ここにあらずといった感じですから」


 そう答えると、男が考える仕草を見せた。


「……もしかしたら、本当に限界が近いのかもしれません」


 男の言葉に、スーツの女が顔を強張らせた。


「それでは……」

「えぇ、我々も今後を想定しておかないといけないかもしれません」


 そう続けながら男が遠くを見るような目をする。


「完璧な不老不死になる方法……早く見つけなければ」


 小さく呟かれた言葉には焦りが伴っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ