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死ねない少女は生き直したい~二百年生きた手品師、魔法少女に巻き込まれて平和を守る~  作者: 柚月由貴
三章

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3 色んなことが想像以上に大きいみたいだね

「お邪魔しまーす」

「お邪魔するわね」

「はーい、いらっしゃーい」


 僕は自分ちの玄関で、下村さんと藤堂さんの二人を出迎えた。


「うー、寒いねー」


 居間に上がった下村さんが、部屋の隅に置いてあるストーブの前にしゃがみこんだ。

 うん、この子はやっぱり自由だね。


「こら、あさひ。人の家でそんな勝手にしないの」


 藤堂さんが下村さんに注意を投げかける。


「えー、別に良いじゃん」

「良くないから言ってんのよ」

「まぁまぁ、二人とも落ち着いて。うちでは自由にしてもらって構わないよ」


 そのまま言い合いになりそうな雰囲気だったので、喧嘩にならないように二人を宥める。

 僕の言葉に下村さんが、ほらって顔をした。藤堂さんは仕方ないとばかりに小さくため息を吐くと、コートを脱いでちゃぶ台の前に腰を下ろした。


 そんな二人の様子を見ながら、彼女達の分のお茶をちゃぶ台に置く。


「藤堂さんは寒くない? ごめんね、エアコンがなくて。これ、使ってね」


 そう言いながら、電気毛布を藤堂さんへと渡した。


 安いアパートだ。借りた時点では当然エアコンなんてついてなかったし、新しく買うなんてこともしていない。エアコンって何気に高いしね……。

 僕も優太も普段はストーブと、電気毛布で暖を取っている。エアコンは無いけど、電気毛布があれば寝る時に結構快適なんだよね。


「あっ、いーなー」

「朝陽さんの分もあるよ」

「やった! ありがとう!」


 ストーブの前から移ってきた下村さんにも毛布を渡すと、下村さんが笑顔になった。 

 いそいそと毛布にくるまる下村さんにほっこりしながら、ちゃぶ台の二人の正面に腰を下ろす。

 元から入れてた自分の分のお茶を一口含んだところで、下村さんが口を開いた。


「あの二人って、もうすぐ来るんだよね?」


 それだけで誰のことを言ってるのか分かったので、僕は頷いた。


「うん、もうすぐだと思う」


 そう答えると、二人とも微妙にそわそわしだした。少し緊張してるみたいなので、手品でも見せて気を紛らわせようかなと思ったところで、玄関のドアが開く音が聞こえた。

 どうやら、来たみたいだ。


 立ち上がって玄関を見ると、まず入ってきたのは優太だった。

 そして優太に続いて、二人の男性が入ってきた。一人はスーツを着た軽薄そうな長身の男。もう一人は薄手のコートに身を包み、顔立ちが整った金髪碧眼の外国人。

 少し前に僕らが戦った組織の二人組――神前さんとヴィクターさんだ。


 二人は数日前に退院した。

 今日は彼らから組織のことを聞くために家に来てもらったのだ。


 正直、下村さんと藤堂さんは彼らに良い感情は持ってないと思う。

 だから今日の話し合いに参加したくなかったら、構わないとは伝えてたんだけど、二人とも同席するって言ったんだよね。

 それで、今日は皆でこの家に集まったわけだ。


「うーっす。邪魔するぜ」


 神前さんが、気だるげに言いながら家へとあがる。

 ヴィクターさんもコートを脱いで、その後に続いた。コートの下は、セーターとズボンっていう普通の格好だ。今日はドローンは持ってきてないみたいだね。


 二人とも居間に入って、六人になった室内。狭いから少し圧迫感がある。


 下村さんと藤堂さんはいつの間にか、二人並んで姿勢を正してた。

 やっぱり緊張してるみたいだ。


 彼らの分のお茶も入れてから、僕と優太もちゃぶ台の前に座る。

 ……うん、まあ最初に話すべきは僕からだよね。


「じゃあ、改めて自己紹介。僕は葉月、こっちは優太。……で、こちらは藤堂さんと下村さんです」

「ども」


 下村さんが短く挨拶し、藤堂さんは何も言わずに頭を下げた。

 続けて、組織の二人を下村さんと藤堂さんに紹介する。


「こっちはヴィクターさん。で、こっちが神前さんて言うんだって」

「おぅ、よろしくな」

「ヴィクター・レインだ」


 |この二人《神前さんとヴィクターさん》は平然としてる。

 下村さん、藤堂さんとは対照的だ。


「あの、ヴィクター……さん? ……雪だるまの時はありがとうございました」

「いつぞやの電話の子供か。気にするな」


 控え目な感じに、下村さんがヴィクターさんにお礼を言った。

 そう言えば、下村さんはヴィクターさんと電話で話したことがあったんだっけ。

 緊張してるとはいえ、下村さんは二人とも何とか会話できそうだね。

 藤堂さんは本当に静かだ。色々とあったし、わだかまりがあるのは当然なんだけど。

 まあ、話を聞くだけでも良いだろうし、無理しないでもらえたらだね。


「――それで、今日は何が聞きたいんだ?」


 そんなことを考えてると、ヴィクターさんが切り出してきた。

 無駄話は嫌いみたいなこと言ってた気がするし、さっさと本題に入りたいんだろうね。


「君達の組織のことについて教えて欲しい」


 僕らを代表して優太が言葉を返した。


「組織の何をだ?」

「目的、規模、拠点、君達の役割……とりあえずはそんな所かな」


 優太の言葉に少し考える仕草を見せた後、ヴィクターさんが話し始めた。


「まず組織の目的は、人の進化を目指すことだな」

「「人の進化?」」


 思わず聞き返す僕らに、頷くヴィクターさん。


「そうだ。環境の変化に適応したり、不幸な人を減らしたり、といった狙いがあるみたいだが、あまり気にしなくて良い。今の組織にとって、この目的はほぼ形骸化している」


 形骸化?

 どういう意味だろう。


「その説明の前に、先に組織の規模について話すぞ。組織には四つの集団がある。一つは《本家》と呼ばれるトップ。会社でいう本社みたいなものだ」


 本社……前世も含めて会社で働いたことはないから良く分からないや。

 全体のまとめ役みたいな感じかな?


「二つ目は《統制局》。ここは主にAIの研究をしている。AIを利用して、人の進化を促すことが目的だ」


 AIの研究をしてる統制局か。

 てことは廃病院の地下施設にあるAIって、統制局が作ったのかな?


「三つ目は《共栄会》だ。ここの目的は資金調達やロビー活動だな。表の世界……政治家や公的組織と唯一繋がりがある集団だ」


 そんなところもあるんだ……政界にも顔が利くってことだよね。

 彼らの組織って、やっぱり相当な規模なんだね。


「最後は僕達が所属している《技研》だ」

「技研……」


 ヴィクターさんが頷きながら説明を続ける。


 正式名称は兵装技術応用研究局。

 技研の目的は優れた科学技術により人の進化を目指すこと。

 そのためにロボットや兵器を製作し、紛争地域へ供給している。表向きは極限状態の人間へ力を与えることで、人の潜在能力を引き出したいと言っているけど、実態は紛争を実験道具として自分たちの兵器を改良することしか考えていない。

 そして、その中でヴィクターさんは兵器を開発する研究者であり、神前さんは実働部隊みたいなところに所属していると言った。


「実働部隊って何するの?」

「色々だよ。新しく作った兵器の試用だったり、今回みたいに放棄された施設のロボットや兵器を回収したり、過去の遺産――人体実験の被験者を捕えたり……まあ、《技研》の中の汚れ役って感じだな」


 実働部隊というのが気になって尋ねると、お茶を飲みながら神前さんが教えてくれた。

 気楽な口調だけど、仕事内容は大変そうだ。

 そして神前さんの説明の中に、更に気になる言葉が出てきた。 


「人体実験の被験者ってのはどういうこと?」


 今までに聞いた四つの集団の中に、人体実験をしているという所は無かった。

 でも神前さんははっきりと、そう言った。


 僕が問いに答えてくれたのはヴィクターさんだった。


「文字通りだ。昔に行われていた実験だよ」

「それは……技研がやっていたってこと?」

「違う」


 ヴィクターさんが首を横に振る。 


「人体実験を行ってたのは《適応研》と呼ばれていた所だ。人へ手を加えることで、直接的な進化を促すことを目的としていたが……この集団は今は無く、実験も行われていない」

「無いってどういうこと?」

「十年以上前に被験者達が反乱を起こしてな。被験者達との争いを数年間続けて……最終的に壊滅した」


 ヴィクターさんの言葉に思わず息を呑んだ。

 被験者の反乱……そんなことがあったんだ。


 廃病院の地下施設を思い出す。あそこも人体実験をしてたような形跡があった。

 もしかしたらあそこも、被験者達の反乱が起きて放棄されたのかもしれない。


「現在、人体実験を行っている所は無い。ただ、《適応研》が行った実験や被験者のデータは有用だ。僕らは遺産としてそれらの回収、解析も行っているわけだ」


 ヴィクターさんが言葉を続ける。


「僕達を狙ったのは、僕達が組織の被験者だと思ったからなの?」

「そうだな。そこの兎については被験者かと疑っていた。……後はお前たちが持つ兵器に興味があったんだ」


 兵器……藤堂さんのハンマーとか下村さんのローラーとかのことかな?

 確かに、兵器開発を生業にしてる人からしたら、あれは気になるのかもしれない。

 

 それにしても優太は被験者と疑われてたのか……。

 だから最初に遭遇した時、優太を渡せって言ってきたんだね。


 彼らが襲ってきた理由がようやく理解できた。


「……さて、最初に目的が形骸化してると言ったな。その理由だが、まず《技研》は兵器開発を主眼としてて、人の進化はもはや考えていない。《共栄会》も今は金儲けしか考えてない。《統制局》は……正直、何を考えているか分からんが、他と同じく人の進化を考えてないのは間違いないだろう。つまり今、明確に人の進化を目指してるのは《本家》だけだ」


 なるほど、組織が大きくなり過ぎて皆が好き勝手しだしてるって感じなのかな。

 本来は本家が制御する役割だったのかもしれない。でも、それが機能してないんだね。


 組織のこと、目的はだいたい分かってきたね。


「ちなみに、組織に僕達の存在はバレてるの?」


 これは絶対に確認しておかないといけないことだ。

 人体実験の被験者と疑われている優太の存在が組織にバレてるなら、また狙われるかもしれないからね。


 僕の問いかけに、ヴィクターさんが首を横に振った。


「いや、お前達のことはまだ伝えてない」


 ……そうなんだ。優太との契約の関係で嘘はついてないと思うから、信じてもいいよね。

 ひとまず安心だね。

 下村さんと藤堂さんも安堵の表情を見せてる。


「何で伝えてない? 定期報告とかはしなかったのかい?」


 優太が重ねて尋ねた。


「定期報告はしてたさ。ただし、報告してたのはロボットの回収に関わるところだけだ。お前達のことについては……どのような力か分かってなかったのもあって、報告できてなかっただけだ」


 ヴィクターさんがそう言うと、僕へと顔を向けた。


「手品なのか、何か特殊な兵器や力なのかも分からなかったしな」


 なるほど……不思議な力を持った子供がいるって報告しといて、実はただの手品でした。とは報告したくなかったってことか。

 手品で色々誤魔化してたけど、それが意図せずこの人達を惑わす効果になってたわけだ。


 僕は安心から息を吐いた。


「じゃあ、このまま僕たちのことは伝えずに、バレないようにしてもらえるかな」

「構わないが、二つ要求がある」


 二人へとお願いするとヴィクターさんから、要求が入った。


 一つは彼らが回収したロボットを技研に持って帰りたいというもの。

 ヴィクターさんは定期報告でロボットを何台か回収したことを伝えているから、彼らが技研に戻った時に物が無いとマズいということだ。

 組織に持って帰った後は使えるものは再利用して、使えないものはデータだけ取って廃棄するらしい。

 これには藤堂さんが難色を示したけど、回収したロボットを持ち帰らなければ、何かあったと疑われてこの街に調査が入ると言われてしまった。

 ヴィクターさんの言ってることはもっともだ。仕方ないので、これについては藤堂さんにも納得してもらった。


 そして、もう一つの要求は今後、僕らに目立たないようにして欲しいというものだった。

 まあ確かに彼らがいくら協力してくれても、僕ら自身が目立ってたら結局は組織にバレちゃうかもしれないもんね。

 彼らが回収しきれてない地下施設のロボットがまだこの街に潜んでるから、それらを相手にした平和維持活動は続けても大丈夫と言われた。

 これには藤堂さんが安心した表情を見せた。


「ただし誰にも見られるな。それと、手を出すのは地下施設のロボットだけにしておけ」


 ヴィクターさんに念押しされて頷く。やるならこっそりやれ。それと地下施設のロボットに限定するのは、それが組織の手を離れてるから、破壊したところで組織には伝わらないってことだね。


 僕らとしても目立ちたくはないので、素直に頷いた。


「……ねぇ。あなた達の組織って……警察に通報して摘発とかってできないの?」


 話も終わりに差し掛かったところで、藤堂さんがそんなことを尋ねた。彼らに対して一番、わだかまりがあると思ってた藤堂さんが話しかけたことに少し驚く。

 長い時間、話を聞いていて少し気持ちが落ち着いたのかもしれない。


「あー、そいつぁ難しいんじゃねぇかな」


 藤堂さんの問いには、神前さんが頭を掻きながら答えた。


「さっきヴィクターの旦那が話してた共栄会ってのが、警察上層部にも顔が利くんだ。たぶん、どっかの小さい研究室がしっぽ切りで潰されるだけなんじゃねぇかな」

「そうだな。当然、中枢の人達は捕まらないし、組織は存続し続ける。むしろ、組織のことを知っている人物がいるということで、通報した人物は組織から狙われることになる」


 神前さんの後を継いで、ヴィクターさんが説明を加えた。


「そんな……」


 藤堂さんが落ち込んだ。そりゃそうだろうね。

 公権力を有するはずの警察が手を出せないってのは、藤堂さんにとってはショックだと思う。


 結局、この場の話し合いは少し空気が沈んだ状態で終わることになった。


 なんだか話のスケールが大きくなってしまった。

 あまり関わらずに生きていけたら良いんだけど、そうもいかないかもしれない……。

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