幕間6 守るべき輝き(後編)
クリスマスのライブ会場。
快晴の天気予報であったはずが、突如振り出した吹雪。
瞬く間に積もっていく周囲の様子に、スタッフ達と凛はライブを中止を検討し始めた。
中止にはしたくなかった朝陽は、電話で頼ったヴィクターの指示に従って会場の外へと出た。
周りに人影がないことを確認し、アイドル衣装へと変身する。
魔法少女の姿になったことで、強くなった身体能力を利用しその場で跳躍。会場の屋根の上へと一足飛びで飛び乗った。
高いところから改めて周囲を見渡すと、異常性が良く分かった。
依然、吹雪いてはいる。視界はまともに利かず、遠くの建物が見えない状態だ。なのに上空を見上げると青色の空が見えて、晴れているのが分かる。雪を降らせる雲がどこにもないのだ。
どこから雪が現れてるのか分からない。目がおかしくなるような光景だった。
朝陽は頭を振ると、繋がったままの電話に向かって話しかけた。
「外に出ました」
「状況は?」
「やっぱりおかしいです。空には雲一つないのに、雪が降ってる。訳分かんないです」
「確定だな……ス・ノーメンを見つけ出して破壊すれば、雪は止むはずだ」
「破壊すれば……でも、どうやって?」
ヴィクターはス・ノーメンが雪だるま型のロボットだと語った。
特徴は分かりやすいが、この視界が利かない吹雪の中探すのは相当な困難を極めるはずだ。
「ス・ノーメンは二機で一組のロボットだ。自機を中心とした円状の範囲に雪を降らせる」
ヴィクターの言葉に、朝陽は考える。
彼の言う通りであれば、雪が降ってる範囲の中心を探せば良いということになる。しかし……。
「中心……て、どう判断すればいいんですか?」
ぐるっと見渡す。雪は全方位に渡って降っている。
遠くの景色は見えず、雪が降ってる所と振ってない所の境界は分からない。雲が無いのでそこから境界を判断することもできない。
少なくとも目で見るだけでは、降雪地帯の中心を探すことは不可能であった。
「落ち着け。ニュースを見る限り、そこまで広範囲には降ってないはずだ。今の場所から移動して、まずは雪が降ってるところと降ってないところの境界を探せ」
ヴィクターからの情報に、電話をしながら朝陽は頷いた。ヴィクターは先程もニュースと言っていた。テレビか、あるいはネットか。どちらかでこの異常気象が取り上げられているのだろう。
それによって、この吹雪の規模が分かったのであれば、その情報はかなり正確なはずだ。
朝陽はライブ会場から飛び降りると、正面に向かって走りだした。道路を渡り、建物を飛び越え、ひたすらに真っ直ぐ突き進むこと数分。
「――出た!」
雪が唐突に止んだ。
立ち止まって振り返ると、目の前には降雪の壁が見える。
徐々に雪が止むのではなく、ある境界を基準に吹雪か、そうでないかがはっきりと分かれていた。
その異様な光景に圧倒されたのは朝陽だけではなかった。
左右へと顔を向けると、吹雪の外側には多くの人が集って、中の様子を見物したり撮影したりしてる様子が見れた。
ニュースになっているとも言っていた通り、この不自然な自然現象はかなり話題になってるようだ。
そういった野次馬の視線に入らないよう注意しながら、朝陽は比較的高めな民家の屋根へと登った。
下からの視線を切ったところで、再びヴィクターへと連絡する。
「――ビデオ通話に切り替えて吹雪の様子を見せろ」
電話先のヴィクターからの指示に従い、スマホをビデオ通話へと切り替えて吹雪の様子を映す。
左右にゆっくりと動かし、どこまで吹雪が続いてるかを見せる。
「……分かった。少し待て」
ヴィクターがそう言ったかと思うと、通話が切れた。
数分の後。スマホに葉月からのメッセージが入る。開封すると先程朝陽が映した、目の前の光景の写真が添付されていた。
ヴィクターがビデオ通話中にスクリーンショットを取っていたようだ。
その写真の一部には赤丸がついていた。
それを見ている間に、着信が鳴る。
「――送った写真の赤丸に向かって真っ直ぐ進め。ズレないように真っ直ぐだ。その先にス・ノーメンがいるはずだ」
「分かった、ありがとうございます!」
お礼を伝えて電話を切ると、朝陽はローラーを構えた。
ローラーを操り、空中にカラフルな足場を作ると、再び吹雪の中へと突っ込んだ。
ひたすらに真っ直ぐに駆けながら、ライブ会場の皆のことを思う。
皆、一生懸命に準備していた。ライブを成功させるために。来てもらうお客さんに楽しんでもらうために。
その努力を無駄にしたくない――。
強い想いを抱いたことで朝陽の身体が輝きを放つ。
輝きを発するとともに、朝陽の速度が上がる。併せて、その視力も向上していく。
「――見えた!」
五階建てのコンクリートビル。その屋上に目標を発見した。
白い球体を三つ重ねた姿。真ん中の球体には左右対になるように、木の枝のようなものが刺さっている。一番の上の球体には装飾がされており、顔のような模様が描かれている。まさに雪だるまそのものの姿をしたロボット。それが二体並んでいた。
敵を捉えた朝陽は、魔法のローラーで作った足場から大きく跳躍した。
そのままビルの屋上に着地すると、走ってた勢いのままに屋上を滑る。
進行方向にカラフルな壁を作ると、靴底についたローラーを利用して、作った壁を足場にして滑りながら器用に方向転換。そのままス・ノーメンの一体へと肉薄した。
「でやっ!」
掛け声と共に、朝陽はローラーを雪だるまへと振り下ろした――。
◇
「――皆、今日は来てくれてありがとー」
アーティスト――『りん』の言葉に会場が盛り上がる。
「昼間によく分からない吹雪があってさー、どうなるかと思ったけど、何とか無事に開催できて良かったよ」
観客に向かってステージ上から話しかけるりん。
その様子を、朝陽は舞台袖から見ていた。
朝陽がス・ノーメンを破壊したことで、吹雪はまもなく止んだ。
季節が冬であることもあって、短時間とはいえ積もった雪はそのまま残ってしまった。
しかし、降雪が無くなり快晴となったことで、ライブを中止にする必要は無くなった。
朝陽達は急ぎ、残りの準備を終わらせ――結果、ライブは開催することができた。
むしろホワイトクリスマスになったのだから、結果オーライだと凛は言っていた。
盛り上がる会場を見る。
凛やスタッフ達が頑張ったからこそ、この一体感が生まれている。
この光景を守れて良かった。
朝陽は心から、そう思った。
同時にヴィクター達のことを思い出す。
彼らには以前、酷い目に合わされた。
でもオクタが契約してくれたことで、今日ははっきりと味方をしてくれた。
敵ではなくなった彼らとは会話もちゃんと通じた。
悪い人達ではあるけど、毛嫌いする程の人では無いのかもしれない。
後でちゃんとお礼しよう。そう思う朝陽だった。
ここまでで幕間は終了となります。
次回より三章に入っていきます。




