幕間3 奮闘! マジック特訓
休日の昼下がり。今日はマジックカフェで、いつものパフォーマンスをさせてもらっていた。
しばらく来れてない時期があったけど、前と変わらずお客さんが来てくれててありがたい。
来てくれた人のために、僕は全力でパフォーマンスを行った。
そうして、パフォーマンスが終わった後、挨拶回りでテーブルを回っていく。
……何で優太がここに居るのかな?
暇だし、見学に来た?
あぁそう。まあ楽しめたなら良かったよ。
いや、優太からおひねりもらっても……まぁいいか。
脱力しそうなところを何とか誤魔化して回りきる。
カウンターに向かうと、そこでも珍しいお客さんがいた。
「――お久しぶりです。大善寺さん」
そこに居たのは以前マジック対決と称して、共演させてもらった大善寺さんだった。
「うん? あぁ、久しぶりだな」
とりあえず挨拶をしたら、大善寺さんからは今気づいたかのような言葉が返ってきた。
僕、さっきまでパフォーマンスやってたんだけど。
さすがに、それは不自然じゃない?
「お疲れ様、葉月ちゃん」
「あ、ありがとうございます。マスター」
「また何か食べてく?」
「はい!」
疑問に思ってるとマスターが声をかけてくれたので、ナポリタンを注文した。
背後のテーブル席には優太が座ってるけど、そちらには行かずに、いつものようにカウンターに座る。
大善寺さんが僕に用があるって、少し前にマスターが言ってたしね。
僕が優太と話してたら、大善寺さんが話しかけにくいと思っての配慮だ。
マスターが料理を作ってくれるのを待ってる間に大善寺さんを見る。
なかなか話を振ってこないので、僕の方から声をかけることにした。
「大善寺さんが来るなんて珍しいですね。今日は何かあるんですか?」
「う、うむ。まあ少しな。……君が精進してるか気になってな」
「はぁ、それはありがとうございます」
さっきの態度と矛盾する発言だね。でも、本人は気づいてなさそう。
というか、なかなか本題に入ってくれないんだけど、言いにくいことなのかな。
どうしようかと迷ってると、作ってくれたナポリタンを僕の前に置きながら、マスターが教えてくれた。
「大善寺さん、葉月ちゃんに相談があるらしいの」
「相談……ですか?」
何だろう?
再び横を見ると、大善寺さんが一回咳払いをした。
「うん。実はな……年明けにとあるマジックショーに出ることになってな」
「はぁ……」
そこから、ようやくポツポツと語りだした。
何でも大善寺さんは、そこそこ大きな規模のマジックショーに出ることが決まったらしい。
何組もの有名なアーティストが共演するという触れ込みらしく、それなりに話題になってるのだとか。
そんなショーに出れるなんて、大善寺さんって凄いんだね!
「おめでとうございます。凄い、良いなぁ」
僕は本心からの気持ちを伝えた。
でも、大善寺さんの顔は浮かない様子だ。
どうしたんだろう。
更に続きを聞くと、問題は半月程前に起こったらしい。
共演者の一人、ミスターホリックというマジシャン。
大善寺さんとは旧知の仲だというその人と、別のショーで会ったらしく、そこで揶揄されたらしい。
また古いマジックをやるのかと。
大善寺さんのマジックはもう飽きられてると。
俺が新しいイリュージョンを見せてやるぞと。
凄く馬鹿にされたのだそうだけど、大善寺さんは何も言い返せなかったのだとか。
横で話を一緒に聞いていたマスターが口を開く。
「ただ、意気消沈してばかりもいられないでしょ? だから、ミスターホリックにぎゃふんと言わせないとって」
なるほど、話が見えてきた。
その年明けのマジックショーで共演した時に、ミスターホリックさんにぎゃふんと言わせるってことだね。
「なるほど、頑張って下さい!」
「うむ、それでだな……その……」
僕はミスターホリックなんか知らないし、聞いてる限り失礼な人っぽいから、心の底からの応援を送ったんだけど、大善寺さんの反応は妙に歯切れが悪かった。
僕が持った疑問に答えてくれたのは、またしてもマスターだった。
「そこで大善寺さんからの相談になるけど、葉月ちゃんに手伝って欲しいんだって」
「僕がですか? 手伝うって……何を?」
どういうことかと大善寺さんの顔を見る。
「……うむ。まぁ、その、何だ? 君は見所があるからな。その発想力をもって、私がショーで披露するマジックを一緒に考えて欲しいんだ」
……あぁ、そういうこと。
大善寺さんの求めていることが分かり、ようやく合点がいく。
大善寺さんは古典マジックの専門家っていうぐらいだし、そういう系統は知識も豊富なんだろう。
でも、ミスターホリックにぎゃふんと言わせるなら、たぶんそれじゃ駄目だ。古典マジックを見せたところで、また馬鹿にされるのが落ちだろう。
だから、大善寺さんとしては古典マジックとは違う、少し変わったマジックをやる必要がある。
でも古典マジック以外の系統はあまり詳しくない。
それで僕に協力を求めてきたってわけだ。
うーん、困ったな。
マジック自体は二百年以上やってきてるけど、人にマジックを教えたことは無いんだよね。そもそも人と関わってこなかったし。
それに、ぎゃふんと言わせるってことは、それなりに凄いマジックが必要だよね?
基本的に僕が普段使ってるのは、既存のマジックを組みあわせて、目新しい雰囲気にしたり、アドリブを効かせてるだけだ。
前回のマジック対決でも、大善寺さんのマジックにアドリブで返してただけだし。
何せ凄いマジックをやろうとしたら、たいてい大掛かりな仕掛けが必要になる。今の僕にはそんなもの用意する手立てがないから、そういうのはやってこなかったのだ。
もちろん、自分がやらないだけで幾つか知ってるのはあるけど、別に目新しいわけじゃない。
そんな半端なもので、ミスターホリックにぎゃふんと言わせられるか分からない。
そんな感じのことを伝えると、大善寺さんは問題無いとばかりに頷いた。
「既存のマジックを組合せて、新しく見せる。君の、その発想力が欲しい」
「そんなのでいいんですか?」
「うむ、大掛かりな仕掛けを用意する金もないしな」
何か世知辛いことを言われてしまった。
むぅ。どうしようかな……。
「もちろん、礼ならする。そのショーのゲストチケットをプレゼントしよう」
「やります!」
なんだよもう。そんな特典があるなら早くいってよね。
色んな人のイリュージョン見れるとか最高じゃん。
いやぁ、楽しみだなぁ。
――よっし、それじゃあホリックとかいう人を頑張ってぎゃふんと言わせないとね。
「……あ、そうだ。ちなみにチケットって二枚以上もらえたりってできますか?」
「あ、ああ。三枚ぐらいなら融通はきくと思うぞ」
そうか、三枚までか。四枚ならベストだったけど、仕方ないね。
どうするかはまた考えよう。
それからやる気を出した僕と、何故か引き気味な大善寺さんとの準備が始まった。
「――大事なのは構成だと思います。魅せ方を重視しませんか?」
「――序盤は大善寺さんが得意なマジックの組合せで……」
「――ド派手なのが一個は欲しいですね」
日を改めて大善寺さんと会い、色々と擦り合わせしながら、構成を練っていく。
もちろん、一個一個のマジックの質を上げることも忘れない。
準備は着々と進んでいくものの――。
「決まりませんね……」
「うむ……」
マジックカフェのテーブルで突っ伏す僕ら。今日は客側の立場で席についてる。
別のアマのマジシャンが舞台でパフォーマンスしているのを横目に、僕らは悩んでいた。
パフォーマンスの最後に持ってくる締めのイリュージョン。これがなかなか決まらないのだ。
締めに持ってくる以上、それなりに派手なものにしたい。だけど良い案が浮かばない。
僕が知ってて教えられるものも幾つか挙げたけど、予算の問題だったり、構成に合わなかったりで没になってしまった。
「低予算で、それなりに派手なもの……何がいいかなぁ」
「うむ……良い案が思い浮かばんな」
大善寺さんと一緒に唸る。
うーん、難しい。
優太だったら楽なんだけどなー。簡単に空も飛べちゃうし、見た目も七変化! って感じに変えれちゃうし。
そう考えると、あの子の魔法って便利だよね。僕らマジシャンが苦労して生み出すマジックをトリックなしでやってしまうんだから。
現実逃避して優太のことを考えながら、目の前に置かれたジュースのストローを口に含む。
行儀悪いけど、ストローに息を吹き込んでジュースに泡を立てようかと思い、コップを覗いたところで踏みとどまった。
ん? トリックなし……七変化……。
「――あった」
「何がだ?」
思わず呟いた言葉に、大善寺さんが反応する。
「いや、こういうのはどうかなって……」
大善寺さんへと説明をする。
あまり上手く伝わっていないのか、大善寺さんは不思議そうな顔をした。
「そんなことできるのか?」
「事前準備さえしっかりできれば、おそらくは」
どうしますか? と問うと、少しばかり悩んだ後、大善寺さんが頷いた。
「よし、やってみよう」
この人、思いきりは良いね。
そうして、最後のネタまで決まった僕達は、その後も念入りに特訓を行った。
やがて、これならお客さんの前で演技できるという状態にまで仕上がった。
「――ありがとう、自信がついたよ」
「お役に立てて良かったです」
再び、マジックカフェのテーブルで対面した僕と大善寺さん。
大善寺さんからのお礼に、僕は笑顔で返事をした。
大善寺さんの表情も準備を始める前から随分和らいだと思う。
自信がついたってのも、たぶん嘘じゃないね。
これなら僕も安心して送り出せるよ。
「じゃあ、頑張ってきてくださいね」
「……何を言ってるんだ。君にも手伝ってもらわないと」
……え?
「手伝い……ですか? でも大善寺さんのショーですよね?」
「助手としてなら参加できるだろう」
……この人は何を言ってるのかな?
戸惑ってると、大善寺さんが前のめりに話しかけてきた。
その勢いに少したじろぐ。
「私の自信も君が居てくれてこそだ」
そして、勢いのままにぎゅっと手を握られた。
「私は君が居ないとダメなんだ!」
いや、一人で頑張れないことを自信満々に言われても困るんだけど……。
今までにない熱量でそんなことを言われたのだけど――。
「……葉月ちゃん?」
「ん? ……あ、皆」
突然呼びかけられて横を向くと、優太に加えて下村さん、藤堂さんが居た。
優太に誘われて一緒に来たのかな?
ん? なんだか皆の表情が強ばってるね。
その視線の先を追うと、大善寺さんと、強く握られた手に向いていた。
……あっ。
「もしもし……はい……知り合いの女の子がロリコンのおっさんに襲われてまして」
黙って警察に電話するのはやめようよ、藤堂さん。
「お姉ちゃんから離れろ」
いや、優太。そんな勢いよく手をはたかれると僕も痛いんだけど。
「葉月ちゃん、大丈夫!?」
下村さん、抱きしめてこなくても僕は大丈夫だよ。
見られたタイミングが悪かったのか、三人には完全に誤解されてしまったようだ。
――うわっ、本当に警察来ちゃった。
捕まりそうになる大善寺さん。
僕とマスターがちゃんと説明して、何とか理解してもらえた。
いやぁ、危なかった。
……それにしても僕、助手で出なきゃいけないの?
え? 他のマジシャンのイリュージョンはちゃんと見れるよね?




