21 待ってたのは怒涛の展開だったよ
「――何あれ?」
優太の影移動で工場構内へと戻ってきた僕の目に飛び込んできたのは眩い光だった。
光の周囲には大量のドローンが浮いてる。
ドローンの光? ……いや、これまでドローンが作り出してたのは放電みたいな感じだった。
それにドローンそのものが光ってるんじゃなくて、ドローンの集まりの中心が輝いてる。
今はドローン自身は発光してなくて光の壁は形成してないみたいだから、ドローンの仕業じゃなさそうだけど……。
……駄目だ。どういう状況か分からない。二人は……居た、下村さんだ!
周囲へと目を向けようとして、光ってる場所のすぐ傍に下村さんが倒れてるのに気づいた。
でも藤堂さんの姿が見当たらない。もしかして、あの光の中に?
ひとまずは優太と一緒に下村さんの元へと走る。
駆けつけてる間にも光が収まってきた。
……藤堂さん?
光の中から現れたのは予想した通り、藤堂さんだった。
でも様子がおかしい。
服装がいつものアイドル衣装じゃない。
モノトーンのブラウスにガウン。落ち着いて、凛とした雰囲気の格好良い服装だ。
少し俯いた状態で目を閉じている。
そんな感想を抱いてる間にも、二人の傍まで辿り着く。ドローンの隙間を縫って、下村さんの隣に膝をついた。
僕は倒れてる下村さんに声をかけた。
「朝陽さん、大丈夫?」
「葉月ちゃん! 無事だったんだね、良かったぁ」
先に僕の心配するなんて、下村さんは人が良すぎるよ。
僕らが会話してる間にも、優太が下村さんの身体をチェックした。
「怪我してるね。骨折はしてなさそうだけど……痛みはある?」
「我慢できる」
「オーケー、神経は大丈夫みたいだね。応急処置だけするよ」
言うや、優太が腕を下村さんの身体に当てる。と、腕の先から淡い光が発生した。
え? 応急処置ってことは優太、治癒なんてできるの!?
……そういえば以前、そんな感じのこと言ってたっけ?
あれ? じゃあ、迅さんに対してはわざとそのまま放置したってこと?
まあ元は敵だし、命に別条は無さそうだったけどさ……。
「ねぇ、オクタ。渚がね、突然光ったと思ったら服装が変わったんだけど」
もやもやしてると、下村さんが優太に尋ねた。
服装が変わったのは、この光が収まってからなんだね。いったい、どういうことなんだろう。
僕も気になって答えを待ったけど、問われた優太は首を横に振った。
「ごめん、僕もはっきりとは分からない……でも僕との契約で渡す力は想いや願いを力に変えるものだから……これは想像になるけど、渚の想い、もしくは願いに変化があったのかもしれない」
「つまり、何かの心境の変化があって、あの姿になったってこと?」
「……かもしれない」
自信の無さそうな優太の言葉を受けて、僕らのすぐ目の前に立つ藤堂さんを見る。
こちらからは背中しか見えないので、今も目を閉じてるのかは分からない。
白い服に変わって……ハンマーは持ってなさそう。
しっかり立ってるから、怪我は大丈夫なのかな?
「……興味深いな」
小さく響いた声に視線を向けると、藤堂さんの奥にロングコートの男が見えた。
「服装が変わる……そんな装備は組織にもない。お前らの秘密、教えてもらうぞ」
男が両腕を動かす。
それに呼応してドローンが動き出した。
五、六体のドローンが陣形を組んで発光し、光の槍……弾丸のような形を作る。
それが僕らを取り囲むように幾つも作られる。
これはマズいね……こんなのに前後左右から一斉に襲われたら、とてもじゃないけど防ぎきれないよ。
……全方位は守れなくても、背中だけなら――。
「優太、朝陽さんを守ってね!」
優太に声をかけつつ、自分は藤堂さんの盾になるべく立ち上ろうとして――身体が動かなくなった。
瞬きはできるし、呼吸もできてる。口も動く。でも手足が全く動かない。
まるで、何かに力づくで押さえつけられてるような感覚だ。
訳も分からず、視線だけを動かして周りを見ると、動いてないのは僕だけじゃなかった。
僕たちに攻撃しようとしてた全てのドローン達も、その場に静止している。
この状況でドローンの動きをわざわざ止める意味が無いし、何よりロングコートの男の驚いた表情がわざとじゃないことを物語ってる。
なら、ドローンも動こうとして動けないでいるのかもしれない。
「体が動かない……っ」
隣にいるはずの優太が、呻くように喋った。どうやら、優太も動けないでいるみたいだ。
「――貴方に問うわ」
どういうことかと考えてると、場に凛とした声が響いた。
その言葉は藤堂さんが発したものだった。
藤堂さんがゆっくり顔を上げたことが分かる。
同時に藤堂にとっての背後。僕らから見たら、僕らと藤堂さんの間に何かが現れた。
「――天使?」
下村さんがぼそっと呟いたのが分かる。
確かに、天使っぽい。人の形をしていて、僕らから見えるその人の背中に白い羽が生えている。
白いワンピースのような服を着た、その天使のような人は右手に天秤を掲げていた。
「他人への暴行教唆。オクタ、葉月への誘拐未遂。貴方が犯した罪に対して、貴方の言い分を述べなさい」
藤堂さんの声がさらに響いた。天使のような人の背が藤堂より一回り高くて、藤堂さんは影に隠れてしまってるけど、ロングコートの男へ話しかけたのだと何となく理解した。
「その背後の女……天秤、目隠し。そしてお前の法服を彷彿とさせる服装。なるほど、僕の罪を問うか」
ロングコートの男は男で、今の藤堂さんの様子を冷静に分析しているようだ。
それにしても、さっきの男のセリフ……もしかして藤堂さんの後ろに立ってるのって……。
「違うわ。罪は既に確定してる。私が問うてるのは貴方の言い分よ」
「言い分だと?」
「貴方が犯した罪、それは裁かれるべき。でも、その重さは罪を犯した理由によって加減される」
あ……藤堂さんの言葉。これって……。
「その言い方、裁定者にでもなったつもりか?」
「裁くのは私じゃない。公平に物事を見定める中立者よ」
「それが、その女というわけか」
話しながらも男は、何度か周りのドローンへと視線を向けていた。
だけど、ドローンは一向に動く気配がない。
少しの間の後、男がため息を吐いた。
「無駄な会話は嫌いなんだがな。まあ、いいだろう。付き合ってやる」
言いながら、考えるような雰囲気を見せる。
「……回収は僕の目的に必要だった。暴行教唆はその手段に過ぎない」
回収……誘拐のことだよね?
人に対して使う言葉じゃない。この人は僕らのこと、ただの観察対象ぐらいにしか思ってないのかもしれない。
「目的って何?」
「僕個人としての目的というなら、純粋な好奇心だな」
含みがある言い方だ。
「そう……それが言い分というわけね」
藤堂さんの言葉と共に、女の人の天秤に変化が生じた。
少し揺れたかと思うと、片方に傾いた。
「個人の身勝手な感情によって犯された罪は、決して許されるものではない。裁かれなさい」
そう宣言した藤堂さんの左手に剣が現れる。
そして、その場でそれを一閃した。
――瞬間、ロングコートの男の体が斬られた。
藤堂さんが振った軌跡と同じ袈裟方向に、まるで藤堂さんに斬られたかのように。
距離的には絶対届いてない。
でも、藤堂さんの振った剣で切れたんだって、何となく理解した。
同時に、僕らを押さえつけてた何かが消えたのを感じる。
足腰に力を入れると、今度は立ち上がることができた。
「ぐっ……」
その場に踏ん張る男。足元に血溜まりができてる。
相当な怪我だ。流石にこれはもう戦えないと思うけど……。
「これは……既存の兵器を超越しているな……非常に興味深い……」
男が口にしながら、僕らへと目を向けてきた。
「……迅も負けたか……どうやら僕らの負けらしい」
何事かを考える仕草を見せた後、男が目を閉じた。
「……仕方ない……殺せ」
いや、浸ってるところ申し訳ないけど、死なせないよ?
藤堂さんを人殺しにさせるわけにはいかないし。
優太を見て、お互いに頷き合う。
優太が男へと近づいて、声をかけた。
「君には選択肢がある――」
油断はできないけど、とりあえず任しても大丈夫かな?
僕は藤堂さんの様子を確認するために、藤堂さんの正面に回り込んだ。
前から見たら、天使の様子が分かった。女性の姿をしていて……何でか目隠しをしている。
観察をしていると、天使の女性が淡く光ったかと思うと、光の粒子になって消えた。
続けて藤堂さんの服装も淡く輝き、次の瞬間にはいつもの青いアイドル衣装に変わった。
凄いや。一流のマジシャンのパフォーマンスを見ているみたいだ。
……と、ボーっとしてる場合じゃなかったね。
「藤堂さん、大丈夫?」
「葉月……私は大丈夫よ。あなたは?」
「僕も優太が来てくれたおかげで大丈夫だったよ」
お互いに状態を確認しあう。
大丈夫そうなら良かったよ。
「渚、さっきの凄かったね。……ね。あれ、どうやったの?」
いつの間にか、立ち上がってた僕の横に立ってた下村さんが、藤堂さんへと尋ねた。
「……さぁね、分かんないわ」
「えー、教えてよ」
「本当に知らないのよ。……まあ、知っててもあんたには言わないけど」
「何それ!?」
なかなか辛辣な言葉を返す藤堂さんだけど、表情はだいぶ柔らかくなった気がする。
ロングコートの男と話してた時の藤堂さんの言葉を思い出す。
『貴方が犯した罪、それは裁かれるべき。でも、その重さは罪を犯した理由によって加減される』
あれ。たぶん僕が言った、相手のことを理解しようとするってやつだよね?
藤堂さん、気持ちの整理が少しでもできたのかもしれない。
そうだったらいいな。
藤堂さんがこっちを見た。
「ありがとね」
何でお礼を言われたのかは分からない。
でも……そう言って笑う藤堂さんは、年相応の無邪気さが垣間見えて可愛らしかった。




