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死ねない少女は生き直したい~二百年生きた手品師、魔法少女に巻き込まれて平和を守る~  作者: 柚月由貴
二章

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18 手に汗握る本番だ

 下村朝陽は、藤堂渚とオクタの二人と共に、静かに待機していた。

 待っているのは葉月からの、作戦開始を告げる連絡だ。

 

 二人組の男達との戦闘が迫る中、最初こそ緊張していた朝陽であった。

 しかし、ただ待っているだけというのは退屈であり、何も起こらない中で緊張感を保つことは難しく、次第に思考は目の前の作戦から逸れていく。

 そうなると、彼女の興味は自分の隣で待機する少女へと移った。


「ね、渚。何があったの?」


 朝陽は興味津々に渚へと話しかけた。

 (とう)の渚は、朝陽を一瞥すると直ぐに視線を逸らす。


「何がよ」

「んー、いやさ。ちょっと前まで調子悪そうだったじゃん」


 その言葉で、朝陽が何について問うてるかを理解した渚。

 少し決まり悪げに、朝陽の問いに答えた。


「別に……たいしたことじゃ無いわよ」


 そんなはずは無いだろうと、朝陽は内心で突っ込んだ。


 姉である凛と会ってから調子が悪くなり、その頂点に達したのが、先日のスーツの男とやり合った時。

 あの日、渚はヒステリック気味になっており、どうすれば良いのか分からなかった朝陽は途方に暮れたのだ。


 それなのにだ。翌日に葉月の家に集まった時には、渚は落ち着きを見せていた。

 一晩経って、落ち着いたというのであろうか?

 それは考えにくかった。

 睡眠を取るだけで落ち着けるなら、あそこまで渚が不調となるはずがない。


 渚が調子を取り戻すきっかけとなる、何かがあったのだ。

 おそらくその何かは、葉月が合流した時にあったのだと推測した朝陽であったが、何があったかまでは分からない。

 しかし気になっていたことから、こうして本人に直接問う形になったのであった。


「別に……色々とあったのよ」

「色々と、ねぇ」


 濁すように語る渚。

 その様子を見て、朝陽は考えた。

 葉月と話をして、気分転換になった。とかであれば、色々と、とは言わない気がする。

 渚の性格からして、他人に相談事をするようにも見えない。

 であれば、葉月と会っていたこと以外にも、何かがあったのではないか。


 実際には渚は、葉月に胸の内を吐露していたのだが、そこに考えが及ばなかった朝陽は、明後日の方向に思考を走らせていた。 

 結果、何気なく呟いた一言で地雷を踏むことになる。


「もしかして、凛さんと会ったとか?」

「……は? あんた、お姉ちゃんから何か聞いたの?」


 剣吞な目で朝陽を睨む渚。

 その目を見た瞬間、朝陽は自分が失言したことに気づいた。

 

「あ、いや。そういう訳じゃ」

「じゃあ、どういう訳なのよ」


 渚に詰め寄られて、たじたじとなる朝陽。

 その時、ずっと横に待機してたオクタが二人へと声をかけた。


「二人とも、今は喧嘩してる場合じゃないよ。お姉ちゃんからの合図で、すぐ動けるようにね」


 窘めるように告げられたその言葉に、二人は現在の状況を思い出した。


「……ごめんなさい」

「ごめん、オクタ」


 オクタへ謝ると、二人とも再び静かになった。

 静寂の中、待つこと暫し。次に言葉を発したのは渚だった。


「……朝陽」

「何?」

「何を聞いたか、後で話してもらうから」

「……はい」


 観念した朝陽は、そう答えるのでやっとだった。

 作戦の開始が刻一刻と迫る中、その先のことを思い憂鬱になる朝陽であった。



「はい、どうぞ」

「ありがとうございます」


 マジックカフェでパフォーマンスを行った後、僕はカウンターでいつものようにご飯を食べていた。


「今日はありがとうね。久しぶりに会えて良かったよ」

「すみません。ちょっと最近、色々と忙しくて」


 マスターの言葉に、しばらく来れてなかったことを謝る。

 忙しかったのは事実だし、カフェに来ている場合ではない事情があったのだけど、それはマスターにとっては関係ないことだからね。


「いいのよ。来る、来ないは葉月ちゃんの自由だから気にしないでね。……あぁ、でも来てくれたら、私もお客さんも嬉しいってことは覚えておいて欲しいかな」

「……ありがとうございます」


 マスターの言葉が心に沁みる。

 以前までなら、そういうのは重荷に感じてたはずだったんだけどね。僕も少し変わったのかな。


「――そうそう、大善寺さんって覚えてる?」


 感慨にふけっていると、マスターからそんなことを聞かれた。

 大善寺さんって……前に共演させてもらったプロのマジシャンだよね?


「はい、覚えてます。古典マジックが得意な……」

「そう、その人。その人がね、葉月ちゃんに用があるらしいの」


 用って何だろう……。

 また共演のお誘いとかかな? だったら、僕としては歓迎だ。

 まあそうじゃなくても、今抱えてる問題さえ解決したら、会うのは別に問題無いんだけどね。


「分かりました。今ちょっと忙しいんですけど、それが解決したら時間ができるはずなので……そしたら大善寺さんのお話も聞けると思います」

「葉月ちゃん、相変わらず大人っぽい言い方するね……」


 構わないと伝えると、マスターに苦笑された。

 実際僕は大人なんだけどね。……見た目は幼いから、まあ仕方ないか。


「全部解決したら、また定期的にカフェにお邪魔するので、その時にお会いできたらです」

「分かったよ、ありがとう。大善寺さんにはそう伝えておくね」


 その後、ご飯を食べ終えて店を出る時に、マスターが頑張って、と励ましてくれた。


 ……うん、頑張ろう。


 決意も新たに、お店を出てから歩き出す。

 夕日が射す中、住宅街の通りを歩いていると、前方に人影が立ち塞がった。


 人影の顔を見て、身体を強張らせたかのように立ち止まる。

 その人影は――ロングコートの外国人だった。

 後ろを振り返ると、スーツの男がいつの間にか立っていた。逃げ道を塞がれた形だ。

 正面へと向き直ると、僕は緊張した声で、ロングコートの外国人に向かって話しかけた。


「――どうやって僕を見つけたの?」

「教えると思うか?」

「うーん。教えては……くれなさそうだね」


 すげない返事にため息を吐く。

 

「僕、今から家に帰るところだったんだけど」

「家か。そこに他の仲間もいるなら、ついて行っても構わんが……」


 ロングコートの外国人が、相変わらず観察するように僕を見る。


「ひとまずお前は拘束させてもらう」


 まあ、そうなるよね。とはいえ、素直に捕まるわけにはいかない。


 僕はワイヤーを取り出すと、先端に取り付けてある(かぎ)状の錘を横の塀の上に向かって投げた。

 鉤が塀の頂点に引っ掛かけると同時に、それを手繰りながら壁をよじ登る。

 いつの間にか迫ってきてたスーツの男の手が、僕の足を掠めたのを感じた――危なっ!


 そのまま塀の上を走って、僕はその場から逃げ出した。

 途中で後ろの様子を窺い、スーツの男やドローンがついてきてるのを確認してから、スマホで連絡を送る。

 すると、ものの数秒で合図の返信が来た。


 ――よし、準備は万端だ。


 彼らに顔バレしてるのに、わざわざカフェでマジックをしてたのは、もちろんわざとだ。

 僕が囮になって、彼らを釣り出す。

 そこから逃げて、追ってくるだろう彼らを目的地まで連れていく。そこで待機してる皆が、不意打ちをしてくれる手筈だ。


 そうやって隙を突いたら、オクタがロングコートの外国人を影移動で別の場所に連れて行って、スーツの男から引き離す。

 オクタが外国人の相手をしてる間に僕ら三人でスーツの男を捕まえて、直ぐにオクタの助けに向かう。


 これが僕らの立てた作戦だ。

 これを成功させるためにも、僕が彼らを上手く引き付けないといけない。

 そのために逃げる準備はバッチリしてきた。

 タネも仕掛けも万端な状態だからね。それなりにやれるはずだ。


 ワイヤーを使って空中軌道を描いたり。瞬間移動に見えるような動作をしたり。様々な手段を全力で駆使して、僕は逃走した。

 途中、何度かロングコートの外国人に先回りされてヒヤリとしたけど、何とか付かず離れずの距離を保って、作戦のポイントまでやってきた。


 そこは放棄された工場。最初に二人組と遭遇した場所だ。

 今はまだ日が出ているので、構内は前回よりも明るかった。

 壁際で、追い詰められた感じを出しながら、二人組へと振り返る。


「……しつこいなぁ。しつこい男は嫌われるよ?」

「そいつは違ぇな。頭に『興味を持たれてない』ってのを付けとけよ」


 ……それは確かにそうかも。

 好意を持ってる相手だったら、しつこくされるのは逆に嬉しいって人もいるかもね。

 でも――。


「僕は君達に興味なんか持ってないけどね」

「あー、それもそうだな。(わり)ぃ、俺が間違ってたわ」


 楽しそうにスーツの男が返す。

 この人、案外僕との会話を楽しんでない?

 胡乱げな目で男を見てると、外国人の方が口を開いた。


「……ここの仕掛けは回収したし、今回は前みたいな目眩しは使えない。観念しろ」


 言われて周囲を見る。

 そういえば、ここにワイヤーとか置きっぱなしにしてたっけ。

 彼らに出くわす可能性もあったし、回収には来れなかったんだよね。

 彼らが後から回収してたのなら、やっぱり来なくて正解だったね。


 彼らは、僕にもう逃げ場が無いって思ってくれてるみたいだし、このまま演技続行だね。

 僕は頭を横に振った。


「……僕、痛いのは嫌なんだけど」

「それは保証できん」


 ロングコートの外国人の言葉に嫌な顔をする。


 スーツの男が腰に下げたポーチからチェーンを引き出した。

 それで僕のことを拘束するつもりみたいだ。チェーンを手に持ったまま、近づいてくる。


 外国人とスーツの男との間に距離が空いた――今!


「――上だ!」


 瞬間、スーツの男が叫び、それに反応した外国人が横に跳んだ。

 一瞬遅れて、外国人が元いた位置に、藤堂さんのハンマーが叩きつけられる。


「外れた!?」


 藤堂さんが動揺した声を出す。


 そこへ更に影が降る。

 一拍遅れて飛び込んだ下村さんが、スーツの男へとローラーを振り下ろす。

 が、これも寸前で気付かれ避けられた。


「くそっ」


 作戦が失敗したとばかりに顔を顰める下村さん。

 ……二人とも、演技がうまいね。


 二人の攻撃は避けられたものの、外国人とスーツの男の距離が更に離れる。

 その隙を突いて、優太が上空から外国人へと迫る。


 外国人は藤堂さんの攻撃を避けたばっかで体勢を崩してるし、スーツの男は下村さんが邪魔していて直ぐには駆けつけられない。

 

 成功を確信した矢先、視界の端に影が動くのが見えた。


 何――。


「うあっ!?」


 何かにぶつかられ、衝撃を受ける。

 続けて腕に痛みが走り、同時に体ごと引っ張られた。

 訳も分からないまま体が宙に浮き、その場から凄い速さで離れていく。

 引っ張ってくるものに目を向けて、正体に気づいた。


 ――狼型のロボットだ。

 狼型のロボットが僕の腕を噛んで引っ張っていた。


「葉月!」

「お姉ちゃん!?」


 背後で声が聞こえる。

 いけない。僕に気を取られてチャンスを逃したらダメだ。


「大丈夫、それより彼らを――」


 声を振り絞ったつもりだったけど、届いたか分からない。

 そのまま僕はロボットに引っ張られて、その場から連れ去られた。

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