17.5 動き出す暗雲
廃病院の地下施設。
最奥に位置するAIが管理する部屋。そのモニターの前にヴィクター博士が佇んでいた。
何も話さず。動かず。ひたすらにモニター画面を観察している。
そのモニターに映るのは大量に分割された街中の映像。
それは空からの撮影だったり。
あるいは子供と同じ目線の撮影だったり。
それらは彼が操る大量のドローンが、それぞれに撮影したものであった。
一台一台が撮影した映像が所狭しと画面に並ぶ。
その一つ一つを、ヴィクターはつぶさに確認していく。
そこへ、一人の青年がやってきた。
スーツを着た長身の男――迅だ。
ヴィクターからロボットの回収を命令されていた迅は、仕事の一区切りがついたタイミングで戻ってきたところであった。
ヴィクターへ進捗を報告する意図もあり、ヴィクターの傍までやってきた迅は、ヴィクターの横からモニターを覗き込むと、顔を顰めた。
「こんなの良く見分けれるな」
そんな感想が出るのも当然だろう。モニターに映るのは数十にも分割された、別々の映像だ。常人であれば、数個の映像を把握するだけでも困難なはずだ。
思わず口をついて出た言葉に、しかし集中しているためかヴィクターは答えない。
もとより迅も反応がくるとは思ってなかったのだろう。無視されたことを、特に気にする様子は見られなかった。
画面を見ることに早々に飽きた迅は、モニター前から離れた。そのまま、物陰にひっそりと佇む狼型のロボットの傍まで移動し、並んで立つ。
自身の仕事の進捗を報告するのに、このまま待機すべきか、時間を改めるべきかで逡巡する。
その結論に到達する前に、ヴィクターが声を上げた。
「――見つけた」
「お、居たか」
迅が再びモニター前へと戻る。
先程とは一転、モニターに映し出されているのは一つの視野のみだった。
画面いっぱいに映された光景を、迅も見る。
「これは……喫茶店か?」
映っていたのは喫茶店と思しき店内。
そこで十代ぐらいの少女――それは先日、深夜の放棄された工場で、迅達から見事逃げ切った少女に間違いなかった――が何かを行っていた。
「――やってるのは手品だな。見た目の年齢の割に手馴れてる」
「てことは、前のも全部手品だったってことか?」
「確定はさせるな。普段は手品で目を眩ませて、奥の手に何かしらの兵器や力を所有してるかもしれん」
「いや、こんな子供がそんな戦略的な手段取れんの?」
「可能性としての考えを捨てるなということだ。その子供を、僕達は何度も取り逃してるんだぞ」
「なるほどね。つまりは油断すんなってことね」
「そういうことだ」
二人で会話を続ける。少女が一通りのパフォーマンスを終えたところで、ヴィクターがAIに命じてモニターを消灯させた。
「行くぞ。まずはこいつを捕らえて……残りの奴らを釣る」
「このガキも凄ぇな。俺ら二人がかりで挑むわけだもんな」
「まぁ、こいつが優秀なのは間違いないな」
「お、博士のお墨付きか。相当だな」
揶揄うように迅が言う。
ヴィクターは冷めた視線を迅へと向けた。
「あくまで見た目の年齢を加味した上での話だ。お前が全力で挑めば、本来は取り逃さずに済んでたと思うんだがな」
責めるように告げられた言葉に、迅が肩を竦めた。
「真面目な話、本気ではやってたよ。……全力じゃなかったのは確かだけどな。でも、さすがにあの見た目のガキ相手に最初から全力で挑もうとは思えねぇよ」
手を抜いてはいなかった。しかし、子供相手だからと全力は出していなかった。
そう告げる迅に、ヴィクターはため息を吐いた。
「まぁ、お前がそう考えるのも仕方はないな」
「だろ?」
「だからこそ、今回は頼むぞ」
「そうだな。今回は失敗しねぇようにするよ」
二人で確認し合うように頷くと、そのまま二人で部屋を出る。少女のいる場所を目指して。
その後を、狼型のロボットがゆっくりとついていった。




