17 猶予はあまり無さそうなんだよね
藤堂さんの悩みを聞いた翌日の放課後。
下村さんと藤堂さんに急遽、僕らの家に来てもらった。
本当は藤堂さんが気持ちの整理をつけれるまで、もう少し時間を空けたかった。
だけど昨晩、家に帰ってから優太と情報の整理をした結果、そうはいかない事情ができてしまったんだ。
申し訳ないと思いつつも僕は口を開いた。
「ごめんね、来てもらって。大事な話があって」
ちゃぶ台を囲んで、二人と対面する。
ちなみに今日も優太は定位置だ。大事な話をしようって時にどうかと思うけど、二人は気にしてなさそうだったから、とりあえずそのままにしてる。
「まず最初に、状況を整理するよ。あの人達は僕らを狙っている。けどその目的は分からない」
最初に、前回も話した事実を告げる。
「次に、あの人達の正体。あの人達は廃病院の地下施設を運用してた組織の一員と思って間違いないと思う」
次に話したのは、新たに分かった事実だ。
その内容に、下村さんと藤堂さんが目を丸くさせた。
「待って葉月ちゃん。なんで分かったの!?」
「僕とゆ……オクタで調べたんだ」
そこから二人へ昨日の経緯を伝えた。
AIから情報を聞けないかと、優太と二人で廃病院の地下施設に乗り込んだこと。
AIからはろくな情報を得られなかったけど、そこで二人組のうちの外国人の方と出会ったこと。
地下施設で会うってことは、組織の一員で間違いないと思うこと。
説明を終える時には下村さんが複雑そうな顔をしていた。
「そんな危険なことを……」
「うん、ごめん。無茶したってことは分かってる……でも、必要なことだったから」
優太と一緒に、素直に頭を下げる。
皆でじっとしてようって話をしてたのに、僕らだけ勝手に動いてたんだもん。そりゃ、怒るよね。
でも、事前に伝えてたら余計に心配されるし、自分達も行くって言い出しかねない。
この子達はそういう子だ。
だから黙って行動したし、それで怒られるなら素直に受け入れるつもりだった。
「……あいつらに遭遇したけど、無事だったんだよね?」
「うん、逃げることに徹してたから。オクタのおかげで大丈夫だったよ」
優太の頭を撫でつつ答えると、下村さんが大きく息を吐いた。
「分かったよ……でも、次は行く前に教えてね」
「ごめん、気をつける」
気をつけるとは言うけど、約束はしない。というか、できない。
二人が危険な目に遭う可能性があるなら、次もやっぱり黙って行動すると思う。
ごめんね。
「で、ここからが問題なんだけど……僕らの顔、あいつらにバレてたみたい」
「――ごめんなさい。私が焦って行動しちゃって、顔を見られた」
僕の言葉の後、藤堂さんが頭を下げた。
続けて出てきた謝罪の言葉に、下村さんが驚いた顔をした。
……いや。下村さんだけじゃなくて、僕も少し驚いてる。
昨日までは感情が優先してたみたいだけど、もしかしら気持ちの整理が少しはできたのかもしれない。
「あれ? じゃあ、真面目に約束守ってたのって私だけ?」
下村さんが自分を指差して言った。
……うん、その通りだね。
四人のうち三人が約束破るのは、なかなかに酷いね。
「はい。ごめんなさい」
「ごめん」
「ごめんなさい」
三人でもう一度、下村さんに対して謝った。
「うん。まあ良いよ。色々と仕方ない事情もあったみたいだし」
そう言って許してくれた下村さんに、今度はお礼を伝える。
話が落ち着いたところで、話題を本筋に戻した。
「さっきの顔がバレてたって話なんだけど、藤堂さんの件は関係無いみたいなんだ」
「え、どういうこと?」
あの二人組は地下施設の組織の一員で、地下施設にいた。
「あの廃病院の地下施設って、監視カメラがあるんだ」
「「え?」」
僕はスマホを取り出すと、以前にAIから受け取ってた優太の動画を見せた。
優太がまだ自分を妖精だと偽ってた時に、優太の嘘を暴くために皆に見せた動画だ。
下村さんも藤堂さんも動画を見て思い出したみたいだ。二人とも、そういえばって顔をしてる。
まぁこんなの忘れるよね。僕も思い出したのは、昨日の晩に優太と話してた時だし。
「監視カメラで地下施設に侵入した人は撮られてるわけなんだけど……僕らって、皆あの施設に乗り込んだことがあるよね」
つまり――。
「皆の顔が映った映像を、あいつらが見てるかもしれないってこと?」
「確実に見てるはずだよ」
思い返せば、最初に彼らに会った時もそんな感じのことを言っていた気がする。
優太の――動く兎のぬいぐるみの存在を確信してたのも、事前に知ってたからだろう。
「……そう言えば、スーツの男と戦った時……あいつ、映像がどうのって言ってたわ」
少し考えるような仕草をしてた藤堂さんが、そう言った。
その言葉で、僕らの考えは裏付けられた。
僕らは隠れられてると思ってたけど、実はそんなことはなくて。
今彼らに見つかってないのは、たまたまだった。
「僕らは、一刻も早く行動を起こさないといけない」
優太が居れば認識阻害の魔法で隠れられるけど、三人全員を隠すことは無理だ。
僕はともかく、二人には普段の生活もある。
優太が四六時中ついてまわる訳にもいかない。
何かしらの対策を打たないといけない。彼らに見つかって、ジリ貧になる前に。
「だから、皆の意見を聞きたい。これからどうするかを」
今思いついてる案は二つだ。
「一つ目の案は警察に行くこと」
藤堂さんは実際に暴行を受けてるし、被害を訴えれば逮捕はしてもらえると思う。
前までの僕はこれが一番だと思ってた。二人を危険な目には合わせることにはならないから。
「もう一つの案はあいつらと戦うこと」
「戦って、捕まえて警察に突き出すの?」
藤堂さんの問いに首を横に振る。
「ゆ……オクタの契約の力を使う」
首を傾げる二人に説明する。
優太の契約は、優太との約束を守る代わりに、優太の力を貸し与えるものだ。
今回、重要なのは力を貸す方じゃなくて、優太との約束を守らなきゃいけないと言う方。昔、約束を破ろうとした人は全身から血を吹きだしたという話だ。完全に破った時にどうなるか分からないけど、命に関わるのは間違いない。
「要はそれを利用して口止めするってことね」
藤堂さんの言葉に頷く。
その隣で下村さんが不思議そうな顔をした。
「でもさ、契約できるってことは、あいつらに勝ってる状況ってことだよね? その状況なら警察に突き出すのでも良いんじゃない?」
「警察に突き出すのでも、もちろん構わないよ。でも、こっちの案は彼ら以外の組織のことも考えてるんだ」
あの二人は組織の一員だ。地下施設自体は廃墟になってるから、当然地下施設とは別の場所からやってきたってことになる。
じゃあ、その別の場所で活動してる組織が、彼らしか居ないのかといえば、そんなことはないはずだ。
おそらく別の場所には、彼らの仲間がいる。
問題は彼らが、その仲間に僕らのことを伝えてるかどうか。
伝えてないなら構わない。警察に捕まってしまえば話は終わる。
でももし伝えていた場合、例え彼らを捕まえて警察に突き出しても脅威が去ったとは言えなくなる。
新しい敵がいつ現れるか、常に怯えて暮らさないといけなくなってしまう。
ずっと警察に頼りっぱなしになるのも無理があるしね。
「だから、オクタの契約で彼らを縛るんだ」
今後、僕らに敵対しないこと。仲間へ情報を漏らさないこと。
既に情報を仲間へ伝えてたとしても、追加調査の結果勘違いだった、と報告させる。
そうすれば、警察に捕まるよりも確実に安全が確保できるはずだ。
もちろん優太と契約したら、彼らが魔法を使えるようになってしまうかもしれない。
それでも僕らと敵対しないのであれば、そのリスクは許容できると思う。
「でも……あの二人って凄く強かったよね。……戦うってなって、勝てるのかな?」
「この案の心配点はそこなんだよね。彼らの武器についてはある程度分かったけど、それだけで勝てるわけじゃないし。もしこの案を選ぶなら、しっかり作戦を練らないといけない」
下村さんが口にした疑問に、素直に賛同する。
今考えてる二つの案のうち、確実に皆の安全を確保できるのは後者の案だ。
でもそれには、かなりの危険が伴う。外国人の男の武器がドローンってのも分かったけど、だから勝てる、ということにはならない。
もし失敗したら最悪の場合、皆彼らに捕まっちゃうことになる。
だからこそ、そのリスクも説明した上で、皆でどうするかを決めたいんだよね。
僕がそう伝えると、二人は考える仕草を見せた。
少ししてから、下村さんが口を開いた。
「葉月ちゃんとオクタはどっちが良いと思ってるの?」
僕らか……正直悩ましい。
警察に頼る案は、僕らが負うリスクは少ない。皆を危険な目に遭わせることにもならない。
でも、じゃあ警察を頼れば全てが解決するのかと言えば、それは難しい。仲間が出てくるかもって問題もあるし、何より彼ら自体も暴行罪とかで捕まったとして、ずっと捕まってるわけじゃない。いつかは釈放されるし、その後はどうするんだって話になる。
じゃあ戦う案の方が良いのかというと、それはさっきも話した通り、そもそも成功するかどうかが分からない。
そのどちらの案が良いかと言うと……。
「……僕は警察に頼る方かなぁ。やっぱり皆が危険な目に合うのは極力避けたいや」
結局、僕は警察に頼る方を選んだ。
そんな僕の膝の上で、優太が口を開いた。
「僕は戦う方かな。最初は僕らみたいな力を持ってるのかと怪しんだけど、どうやらそうじゃなさそうだし。一対一は厳しくても僕ら皆で戦えば何とかなるんじゃないかと思う」
優太は戦う派か……。意見が割れちゃったね。
こうなると、僕らの考えは参考にならないね。
申し訳ないと思いつつ待ってると、次に意見を表明したのは下村さんだった。
「私は戦いたい。警察に頼っても次が来るかもって怯えなきゃいけないなら、一気に解決したい」
ある意味、下村さんらしい考え方だ。
これで戦う派が二票になった。
皆で残った藤堂さんを見る。
「……私も戦いたい。警察に頼ったとして、あいつらがすぐに捕まるとは限らないわ。だったら、私達の手で確実に捕らえたい」
ゆっくりと自分の意見を口にしていく藤堂さん。
前回みたいに感情的になって話してるわけじゃなくて、しっかり考えての発言っぽい。
やっぱり、昨日までの藤堂さんとは違う。以前の調子が戻ってきてる感じがする。
立ち直れてきてるみたいで良かった……。
それにしも、三人が戦いたい派かぁ。
これは仕方ないね。僕も覚悟決めなきゃいけないや。
「ごめんね、葉月ちゃん。葉月ちゃんが嫌なら、私達だけでも戦うから」
下村さんが申し訳なさそうに言うけど、僕は首を横に振った。
「ううん、僕もやるよ。皆みたいに魔法は使えないけど、手品で撹乱はできるからね。皆をサポートするよ」
やるからには勝たないといけない。
だから僕だけ戦わないなんて選択肢は無い。皆で全力を尽くすべきだ。
「それじゃあ、戦う時の作戦を考えよう。――大前提だけど、まずはあの二人を引き離したい」
優太が片手を上げながら、作戦について話し始めた。
あの二人組は、連携もしっかりしてたからね。
ただでさえ藤堂さんが一対一で勝てないぐらい強いのに、連携までされたら僕らに勝ち目はない。
「その上で僕らも別れて、それぞれの相手をする」
「二対一を作るってこと?」
「いや、確実にいきたい。僕が外国人の相手をする。その間に三人でスーツの男を倒して欲しい」
スーツの男に対して、三対一で挑む。それが優太と考えた作戦だった。
その間、優太が外国人の男と一対一になるわけだけど、時間を稼ぐだけなら大丈夫だろうというのが優太の見立てだ。
地下施設で外国人のドローンと対面した時、ドローンの光の壁を突破するのに苦労しそうではあったけど、あのドローンも優太の影で作った壁を突破するのに時間がかかっていた。
その経験から優太は自分が、あのドローンに対して互角と判断したのだ。
優太が外国人の足止めをしてる間に、僕らがスーツの男を倒す。そして、優太と合流し全員で外国人の男と戦う。
危険だけど、絶対に無理な作戦ではないと思う。
「二人ともそれでいい?」
優太の問いかけに、下村さんも藤堂さんも頷いた。
これで大枠が決まったので、そこから詳細な作戦決めへと入っていった。




