4 夜の風景って、昼間とは違う姿が見えてエモいよね
日が沈んで、月が夜空に輝く時間。
銭湯に行ってさっぱりした後、AIからの情報をもとに僕はとある神社に来ていた。
神社の周りに植えられた木から聞こえてくる、風に揺れる枝葉の音。
月の光に照らされる拝殿。
街中は寝静まっていて、ただただ今この場の音や光だけが僕の五感に語りかける。
昼間では味わえない、非日常的な空間。
夜の神社って雰囲気あっていいね。
あれは確か百五十年ぐらい前だったと思う。一時期、神社巡りに嵌った時があった。
その時に、色んな時間に色んな神社へと足を運んだんだけど、やっぱり夜の神社の趣は格別だと思う。
拝殿の前までやってきた僕は、大きく深呼吸をして神社の発する空気に浸る。
暫く堪能してからふと後ろを振り返ると、鳥居から拝殿まで続く石畳が月明かりに照らされて、ステージのような雰囲気を湛えてた。
いいね、こういう所で神楽とかを踊れると更に雰囲気が出るんだけどな。
そんなことを考えていると、僕の手品師魂が疼きだした。
……どうせ誰も見てないし、いいよね。
さっそくとばかりに石畳の周りに立ち並ぶ木々の状態を確認して、タネを仕込んでいく。
仕込みが終わったら石畳の中央まで戻って、拝殿に向かって一礼する。
「この幻想を神様に捧げます」
身体を起こすと同時に僕なりの舞いを開始する。
僕なりの舞い――それは当然手品だ。
得意分野であるワイヤーを使ったマジックを次々に披露していく。
細く、頑丈でワイヤー。少し離れるだけで、視認性が落ちるので様々なマジックに応用することができるのだ。
小物を浮遊させるマジックから始まり、物を生きているように操って、最後は人体浮遊で締める。
「――ありがとうございました」
数分間の舞いを神様に捧げて満足。
さて、そろそろ宝玉の回収に入らないといけないね。
もう一度神様に一礼すると石畳を離れて、神社の横手に向かう。目標は神社の裏に置かれてるらしい、灯篭だ。
裏に回ると、目指す灯篭はすぐに見つかった。他の灯篭はちゃんと石畳に並列して置かれてたのに、この一個だけ不自然に離れた位置に置いてあるから分かりやすかった。
ええと、何だっけ?
研究施設でAIと話したことは――。
『――宝玉は自らの意思で眠っとるから、それを呼び起こす必要があるんや。呼び起こしたら、自分を持つに相応しい人物か試してくるから、それで認められれば、晴れてお嬢ちゃんのものになるで』
「それで、どうすれば呼び起こせるの?」
『簡単や、符丁を言えばええ』
「符丁?」
『そう、符丁。合言葉みたいなもんやな――』
――ええと、確かこうだよね。
僕は灯篭の前で祈りを捧げるように手を組んで。
「――眠りし宝玉よ。今目覚めて……」
「ねぇ君、そこで何してるの?」
符丁を唱え出したところで、背後から突然声をかけられた。
「え?」
中断して振り返ると、そこには二人の女の子がいた。
どっちも変な格好をしている。アイドルが着るような。いや、どっちかと言うと日曜の朝にやってる女の子向けアニメに出てきそうな服装だ。
可愛いらしいとは思うけど、神社で着るには合ってない。
そんな場違いな女の子達が、こんな時間に何で神社にいるんだろう。
……いや、それよりも今の状況は不味いね。人の目があるところで宝玉なんて回収できないし、この子達が去るまで無難にやり過ごせすのも面倒だ。というか、そもそもあまり人と関わりたくない。
どうしよう、ここはさっさと帰って出直すした方が良いかな……。
そんな風に考えてると、二人のうち赤を基調とした服装をしている女の子の方が、目を丸くして叫んだ。
「君、もしかしてあの時の!?」
うるさっ。
赤い女の子の声量に体がびくっとなる。
何? あの時? どこかで会ったっけ……。
もう一度、赤い女の子をよく見てみると、確かに見覚えがあるような気がした。
……あっ、こけしくんと戦ってた女の子だ。
最近の若い子は皆同じ顔に見えちゃうから、気付かなかった。
いや、今回の場合は服装で気付けたはずか。これは僕が悪いね。
青い女の子は……ロングヘアをハーフアップにしててお嬢さんって感じだね。この子は見覚えがないはずだ。たぶん。
「あさひ、知り合いなの?」
「うん、こないだちょっとね。……ねぇ、君。あの後何で居なくなったの?」
二人が短くやり取りした後、赤い女の子が僕に顔を向けてきた。これって、僕に聞いてる?
あの後と言われて思い当たるのは……僕が逃げたタイミングのことかな。
あの時はこけしくんのミサイルで怪我してたから、それが治るところを見られたくなかったんだよね。でも、そんなこと言えないしな……なんて答えよう。
「ていうか君、あの時の怪我どうなったの?」
どうやって誤魔化そうかなって考えてると、更に女の子から問いかけられた。
目ざといな。僕に怪我が無いことに気づいたみたいだ。
じろじろと無遠慮に体を見てくる視線にいたたまれなくなって、身動ぎする。
「怪我は……治ったよ」
「治った? そんなすぐに治るはずないでしょ」
「大した怪我じゃなかったから」
とっさにうまい言い訳が思いつくわけでもなく、何とか捻り出した言葉は、無理がありすぎる言い訳だった。
女の子の表情を見ても納得してなさそうなのが分かる。
うーん、何か誤魔化す方法は無いかな。
……いや、そもそも会話する必要もない訳だし、さっさと帰っちゃおうか。
退路を求めて視線を彷徨わせると、ふともう一人の女の子が目に入った。
青を基調とした服装を着た女の子がいつの間にか僕の傍……というより灯篭の傍までやってきていた。そして灯篭に向かってお祈りするように、手を組んでいた。
何だろう、何か喋ってる?
「――今目覚めて、真の姿を示せ。」
え? それって……。
僕が青い女の子が喋ってる内容に気づいた瞬間、灯篭に異変が起きた。
灯篭の、明かりを灯すところに、何もない状態から唐突に火がつく。
その火が徐々に大きくなったかと思うと、火柱が上がって、灯篭を飲み込んだ。
むわっとした熱気が肌を刺す。
「ちょっ、何してんの!?」
赤い女の子が慌てたように青い女の子へと話しかけてる。
「何って、符丁を唱えたのよ」
「いや、急にやらないでよ。びびるじゃん」
「もたもたしてるあさひが悪い」
「はぁ? ていうか一般人がいる前でやる訳にはいかないでしょ。何やってんのよ」
「見られても問題無いでしょ、どうせ何もできないわよ」
「そういう問題じゃないって」
何やら揉めてるけど、それよりも青い女の子の発言が気になった。
今、符丁って言ったよね? ってことは、この子達も宝玉を狙ってるってことなのかな。
うーん、取り合いになると面倒くさいなぁ。
それにしてもこけしロボットと戦って、宝玉のことも知ってて。この子達、やっぱり元被検体だったりするのかな。
……まあ、ややこしいことは後で考えるとして、今は宝玉の方が大事だよね。
AIは符丁を唱えたら宝玉が姿を表すって言ってたけど……あ、あれかな?
火柱を見れば、灯篭の中心に丸い何かが浮かんでるのが見えた。
宝玉っていう名前なぐらいだし、たぶんあれがそうなんだろう。
火に包まれてる宝玉。普通に手を突っ込んだら大火傷しちゃうから、何か工夫をしないといけないね。これがAIの言ってた『試してくる』ってやつなのかな。
まあ、僕にとっては工夫なんか要らなさそうだけど。
後はこの子達をどうするか……。
二人の方へと目を移すと、何やら相談しあってるみたいだ。
「――こんなん、どうやって取れって言うのよ」
「見せかけの炎……なんかじゃないよね」
「さすがにこの熱気でそれは無いでしょ」
どうやら、この子達も宝玉には気付いているみたいだ。てことは、やっぱり宝玉が目的だね。
炎が見せかけじゃないってことは僕も同意だ。
熱のせいで、周りがちょっと歪んで見えるし、僕のとこにまで熱気が伝わってきてる。たぶん、本物の炎だと思う。
「とりあえず、あの宝玉さえ取り出せればいいよね」
そう言って赤い女の子が何かを取り出した。前も見たコロコロみたいなやつだ。それを構えて、振る。
前は振ったローラーの軌跡上にパステル色のカラフルな帯が生まれてたけど、今回は違った。
ペンキのような液体が、ローラーから飛び散る。
色のついた液体が火柱へと向かっていく。
へー、前は空中に色を塗ってるみたいな感じだったけど、そういう使い方もするんだ。
コロコロって言うより、色を塗る時に使うローラーに近い感じなのかな?
凄いなーと思いつつも、彼女が飛ばした液体は火に呑まれるだけで、火柱には影響を与えることはできなかった。
まあ、火の勢いからして、雫を飛ばしたところで焼け石に水だよね。
赤い女の子の魔法が効果無いことが分かると、今度は青い女の子が動いた。
いつの間にか持ってた、でかいハンマーを取り出して……て、そんなものどこに持ってたの?
柄だけで女の子の身長くらいあるし、槌の部分は俵みたいな大きさしてるんだけど。
女の子はそれを軽々と振り上げたかと思うと、勢いよく灯篭へと振り下ろした。
――ちょっ!
突然の凶行にギョッとしたけど、ハンマーは灯篭にぶつかった後、弾かれた。
灯篭が硬いのか、ハンマーが以外と威力無いのか、どっちか分からないけど、器物破損にはならなかった。良かった。
「ダメかー。私の魔法は熱で溶けちゃうよ」
「灯篭も硬いし。手を突っ込むしかないってなるとキツイんだけど」
二人とも悩んでる。まぁ、そりゃそうだろうね。手を突っ込んだら火で焼けただれちゃうもんね。普通の人なら躊躇しちゃうよ。
……うーん、どうしよう。この子達の狙いも明らかに宝玉だけど。
取るのが無理そうなら、譲ってくれないかな。
彼女達に任せて灯籠を壊されても嫌だし、ここは無理やり声をかけるかなぁ。
次話は夜に投稿します。




