5 そのお宝、いらないならもらっていきますね
火柱に包まれる灯篭。
その中心に浮かぶ宝玉の前で、手をこまねいている女の子達。
彼女達が何で宝玉を集めようとしているのかは分からないけど、取るのが無理そうなら譲ってもらいたい。
僕は赤い女の子の傍まで歩くと声をかけた。
「ねえ」
「うわっ……びっくりした。何だ君か……ってあー、これはね。ええと……」
飛び上がるように驚いた赤い女の子は、僕を見ると急に目を泳がせ始めた。
もしかしてだけど、目の前の状況を誤魔化そうとしてない?
さてはこの子、僕がいることを忘れてたな。
「そ、そう。動画の撮影をしてるの。私ら実は動画配信者でさ。この火柱もトリックなの」
やっぱり。僕が無関係な人だと思ってるんだね。
でも流石にここから誤魔化すのは無理があると思うよ。
確かに手品の中には火を使ったものもあるけど、これは絶対に違うでしょ。
「へぇ、そうなんだ。じゃあ、前に会った時のこけしも?」
「そう! そうなのっ! あれも全部、演出だったの。びっくりさせてごめんね」
こんな街中で、あのレベルの演出ができるなんてテレビでも無理だと思うよ?
「それでね。この動画、まだ公開してなくてね。だから内緒にしてて欲しいんだ」
「ふーん。分かった、誰にも言わないよ」
「ほんと!? ありがと!」
嬉しそうな顔してるね。僕が聞き分け良いからかな?
「そ、それでね。ここは危ないから、離れててくれると嬉しいな。ていうかもう遅いし帰った方がいいんじゃないかな? お父さんお母さんも心配してるんじゃない?」
なるほど、僕を家に帰してからゆっくりと宝玉を回収しようって魂胆か。危ないで言ったら、君達の方が心配だけどね。僕は怪我しても勝手に治るけど、君達はそうじゃないでしょ?
まあでも、そこを突く必要もないしね。
僕は女の子に向かって頷いた。
「そうだね、もう遅いし帰るよ」
僕の言葉に、明らかにほっとした表情を見せる女の子。
それを横目に火柱の横まで歩く。
近づくと、熱気は更に強くなった。まだ触れてないのに肌がチクチクする。
凄い熱いんだろうけど……僕には無意味だからね。
「でも、ただ帰るのも何だし……これ、お土産に貰ってくね」
「え?」
宣言してから、左手を火柱に突っ込む。
……うん、熱いね。
熱いし、痛い。やっぱり本物の火だね。
「ちょっ! 何やってるの!?」
焦った声が聞こえてくるのは無視する。
火が揺らいでるから、玉の位置が掴みづらい。この辺りかなってところで腕をまさぐると、手の先に固いものが当たった。
それを掴んで、引き抜く。
瞬間、火柱が消えた。
凄いな、どうなってるんだろ。
気にはなるけど、そっちはたぶん調べても分からないし、こっちが先だね。
腕に目を落とすと、左手は真っ黒に焦げてしまっていた。服も当然、左腕の部分だけが焼き切れてしまっている。
火柱に手を突っ込んでいた時間は短かったはずだけど、なかなか悲惨な状態だ。
鼻をつくような焼けた匂いを嗅ぎながら、手を開いて掴んだものを見る。
それは、ちょうど掌に収まるぐらいのサイズの玉だった。赤い色味で光沢感がある。
たぶん、これが宝玉で合ってると思う。これを抜き取ったら火柱が消えたし。
一応、AIに聞いてみるかぁ。
「あんた何やってるの!」
「大丈夫!?」
そんな言葉に振り返る。女の子が二人とも焦った顔でこっちの様子を見てる。
「あぁ、うん。大丈夫だよ。痛いけど、我慢できる程度の痛みだから」
「いや、そういう問題じゃないでしょ! 病院に行かないと」
大丈夫って言ったのに、赤い女の子に否定された。僕のことなのに、否定されるっておかしくない?
数歩詰め寄ってきたので、後退るようにして距離を保つ。
ふむ、どうしようかな。
勝手に治るから、病院に行く必要はないんだけどね。
でも治るとこはあまり見られたくない。宝玉もこのままもらいたいし、ここはお暇させてもらおうかな。
あぁ、でも後始末してないや。さっき神様に舞いを捧げた時に仕掛けたタネも残ったままだし、火柱が出てたことで周りに影響が出てないかどうかも確認しないと。全部放置したままで、神主さんとかに見つかったりしたら大変だ。
「……バレたら怒られちゃうよ」
うん、放置はやっぱり良くないね。
仕方ない。明日の朝一に、しっかり後始末をしよう。
「それじゃあ、僕は帰るね。あ、ついでにこれももらってくね」
「それ……宝玉!?」
「ねぇ。あなた、それが何か分かってるの?」
手に持ってた玉を見せると赤い女の子は驚いた顔を、青い女の子は険しい顔を見せた。
「これ? 綺麗だよね。むしろ、君達もこれが何か分かってるの?」
「もちろんよ。それは興味本位で手を出していいものじゃないの。私達に渡してほしい」
宝玉を知っているのか聞いてみると、青い女の子が頷いてこっちに手を差し出してきた。
興味本位で、ね。
「ふーん。でもこれ、僕が熱いのを我慢して手に入れたんだけどなぁ」
「うっ」
左腕を見せびらかすようにすると、女の子は怯んだ様子を見せた。
僕の言葉に言い返せないのか。それとも酷い状態の左腕を見たくないのか。雰囲気的に両方かな。
「僕が苦労して手に入れたのに、それを横から奪おうとするの?」
「……確かに私達は何も苦労してないわ。でもだから、はいそうです。って退く訳にはいかないの。それだけ……それは重要なものなの。ねぇ、話し合いましょう」
結構、強情だね。
これ、話し合うって言っても、この子達は譲る気ないでしょ。
そのまま強硬手段に出られても困るし、何よりこのまま会話を続けてると火傷が治っていくところを二人に見られちゃう。
さっさと逃げた方が良いね。
何気なく石畳の方へと歩きながら、僕は女の子へと話しかけた。
「そうなんだ。とりあえず、君達には何か深い事情がありそうだなってことは分かったよ」
「っ! だったら――」
「でも、これは僕が自分の腕を犠牲にして手に入れたものだからさ。いったんは僕のものにさせて欲しいな」
青い女の子からの反論が止まった。この程度で言葉に詰まっちゃうなんて、真面目な子ではあるんだろうなぁ。
腕を犠牲にしたとはいえ、実際は僕が横取りしたようなものだから、そこを突っ込んでもいいのにね。
……ん? あれ、でも最初に宝玉を出現させようとしてたのも僕だから、横取りしようとしたのは彼女達になるのかな?
……まあ、なんでもいいか。
僕は石畳の真ん中で立ち止まると、二人へと向き直った。
「それではお嬢様方、またの機会にお会いしましょう」
右腕を体の前において、マジックショーで手品師が舞台上で挨拶をするかのように大きくお辞儀する。
たっぷり間を取ってから腕を振り上げて体を起こすと、後ろから布を取りだして、自分の前に掲げた。
最初に神様へ手品を捧げた時のワイヤー、残ってて良かったよ。
上方の木の枝に引っ掛けたワイヤーの先を布に引っつけ、それを手繰って布を空中に固定する。
その布で二人の視線を切ったまま、後ろに下がってうまいこと木の背後に隠れる。
後は体が隠れたタイミングでワイヤーを操って布から引き剥がせば……即席の人体消失マジックだ。
視線誘導やワイヤーの操作が難しい高等技術になるけど、僕は二百年以上手品師をやってきてるわけだからね。
これぐらいお手の物だ。
そのまま木の陰を縫っていく。
後ろの方から、「消えた!?」 なんて言葉が聞こえてくるのを尻目に、僕はその場を後にしたのだった。
次話は明日の朝に投稿します。




