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死ねない少女は生き直したい~二百年生きた手品師、魔法少女に巻き込まれて平和を守る~  作者: 柚月由貴
二章

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7 責任は取らないといけないからね

 優太の身柄を要求してきた謎の二人組。

 実力行使に出ようとする彼らに対抗しようと、下村さんと藤堂さんが武器を構えていた。


 ――先に動いたのは下村さんだった。右前方へと走りだす。

 続けて藤堂さんも動いた。真っ直ぐスーツの男へと距離を詰める。

 藤堂さんが正面から、下村さんが右側から男へと迫る。別々の方向から殴りかかる体勢だ。


 それを見ていた男が薄く笑うと、自身も前に出た。前に詰めて、藤堂さんに肉薄する。


 ――動きが早い!


 反応が遅れた藤堂さんが慌ててハンマーを振ろうとする。けど、振り切るより早く、男がハンマーの柄を蹴り上げた。


「くっ!」


 ハンマーは手放さなかったものの、バランスを崩す藤堂さん。

 更に距離を詰めようとする男だけど、それより早く、下村さんが横から迫る。

 ローラーを振るも、男はステップを踏んで避けた。


 空振(からぶ)ったローラーだったけど、その軌跡上にカラフルな帯が出現する。

 下村さんがローラーを持ってない方の掌底で、その帯を叩いた。帯が翻り、男へと絡みつこうとした。


「うぉ、なんだぁ!?」


 面食らった男が咄嗟に短刀を振る。

 帯が半ばで切られ、勢いを失う。

 その隙に男は、後方へと大きく跳んで距離を取った。


「渚、大丈夫?」

「問題ないわ!」


 体勢を立て直した藤堂さんと下村さんが並び、仕切り直しの体勢になった。

 息付く暇もない攻防に束の間の小休止が訪れ、僕は大きく息を吐いた。


 どうしよう。いざとなった時に飛び込む隙……ないかも。


「おいおい、変わってるのは見た目だけじゃねぇのかよ」


 スーツの男が驚いたような声をあげた。


「面白いなそれ。そういう武器なのか?」

「さぁ、なんでしょうね。大人しく引き下がるなら教えてあげても良いですよ」

「冗談じゃねぇ。ようやく面白くなってきたとこだろ」


 下村さんのローラーは、男にとっては得体の知れないものなはずなのに。

 男は警戒するどころか笑っていた。

 むしろさっきまでより、やる気が出てるように見える。


「――迅、邪魔するぞ」

「なんだよ。やる気出てきたとこなのに止めるのかよ」

「いや、止めるつもりはない。……僕も加わるだけだ」


 ロングコートの男がスーツの男の隣に歩み出てきた。

 こっちの男も戦える感じなのかな……。

 いよいよもってマズイかも。


 スーツの男が驚く気配を見せた。


「マジかよ。せっかく楽しくなってきたとこだったんだけどな……あんたがやる気になるなんて珍しいじゃん」

「勘違いするな。やる気になったわけじゃない」


 ロングコートの男はそこで言葉を切ると、僕らを観察するように見てきた。


「――こいつらが普通の子供じゃないことは分かった。お前に任せて失敗するとは思えんが、時間がかかりそうだからな。なら僕も加わって、さっさと終わらせた方が良い」


 言うや、男が両腕を上げる。

 一拍遅れて、ロングコートの幅広になっている袖口から、何かが飛び出してきた。


 ……虫?


 それは大量の小さな虫に見えた。それらが群を成してロングコートの男の周囲に浮かんでいる。

 羽音に似た音も聞こえてくる。いや、でもこれは羽音というよりは……。


 考える間もなく男が腕を振った。

 その動きに呼応するように、虫の群体が塊になって一斉に僕らの方へと飛んできた。

 いち早く反応した藤堂さんが前に出て、ハンマーを振りかぶる。


 虫の群体へとハンマーを叩きつけた瞬間――虫とハンマーの間で火花が散る。


「えっ!」


 藤堂さんが驚いた声をあげる。

 ……僕も自分の目が信じられなかった。


 ロボットさえも簡単に破壊する藤堂さんのハンマー。

 それを……小さな虫の群体が受け止めていた。


 いや、正確にはハンマーを受け止めてるのは、群体の周囲に発生してる光の壁だ。


 何あれ? 電気?

 分からないけど、虫達を繋ぐように光が走って壁のようなものができてる。漫画に出てくるような、光でできた盾みたいな感じだ。

 それがハンマーを受け止めていた。


 予想外な光景に僕らの行動は完全に止まっていた。


「――よそ見しちゃいけねぇぞ」

「うあっ」


 いつの間にか近寄ってきてたスーツの男が、容赦なく藤堂さんに蹴りを入れた。

 喰らった藤堂さんが吹っ飛ぶ。


「藤堂さん!」

「渚! くっ」


 藤堂さんを庇うように下村さんが前に出る。

 その間に僕と優太は、倒れた藤堂さんへと駆け寄った。


「大丈夫?」

「問題……ないわ」


 身を起こした藤堂さんが顔を歪めながら言う。

 どう見ても問題ありそうな表情だった。

 中学生女子の身体が吹っ飛ぶほどの威力で蹴られたんだ。

 問題ないはずがない。早く身体の状態を確認しないといけない。


「――きゃ!」


 聞こえてきた悲鳴に顔を上げる。

 下村さんが倒れる所が見えた。


 さっき光の壁を作ってた虫の群体。その壁の形が変わって、今度は槍の形になっていた。


 ……もしかして、あれで攻撃された?


「そんなものか?」

「……まだ」


 ロングコートの男の言葉に、立ち上がろうとする下村さん。

 いや、無茶だ。


 このまま戦っても駄目だ。

 二人組に聞こえないよう、僕は小声で優太に声をかけた。


「優太……前に僕をさらった時みたいに、皆を連れて逃げれる?」

「……ごめん、影を利用した移動は一人までしか連れてけない」


 そんな制限があるのか……仕方ない。


「分かった。そしたら僕が合図したらさ――で、そしたら僕が――から、二人を連れて全力で逃げて」

「お姉ちゃんはどうするの?」

「その後は僕も全力で逃げるよ。家で落ち合おう」

「でも……」


 優太が心配げな様子を見せた。兎の姿の優太には表情らしい表情なんてないけど、その気持ちは伝わってくる。

 僕のことを気遣ってくれるのは嬉しいね。でも、今は時間が惜しい。


「優太、僕は大丈夫だよ。ちゃんと戻るって約束する」

「お姉ちゃん……分かったよ」


 少しの迷いを見せた後、優太が頷いた。

 僕も優太に向かって頷き、立ち上がる。

 下村さんと相対している二人組へと近づいていく。


 何度も舞台に立って、お客さんの反応を見ながら手品をしてきたから分かる。

 二人組の視線は下村さんに向いてるものの、意識はちゃんと僕にも向いてる。

 こんな、何もできなさそうな見た目の僕にも注意を向けるなんて、本当厄介だ。

 ――でも、その厄介さが今は助かるよ。


 おもむろに手を上げて、優太へと決行を促す。

 瞬間、壁際に積まれたまま放置されてた鋼板が崩れる。

 二人の視線がそちらに向いて、僕らへの注意が逸れた。


 今――!


 優太へ合図を送る。

 それに呼応して、優太が影を操った。下村さんを引っ張り、二人組から引きはがす。


 その勢いのままに、背後の――優太達の気配が動く。振り返れないから分からないけど、急いでこの場を離れてくれてるはずだ。影移動じゃなく、普通の移動で。

 虚をついたおかげか、目の前の二人組は動いてない。

 よし、ここまでは良いね。後は僕が時間を稼げれいい。


「おおぅ、ビビったぜ。お前がやったの?」

「他の三人は逃げたのか……何故お前だけがこの場に残った?」


 この場に残ったのが、四人の中で一番幼く見える僕ということもあって、二人組からは余裕な感じが見て取れる。


「だって、僕ら全員で逃げても、追いかけてくるでしょ?」


 話しながら横に歩く。

 注意は二人組へと向けながらも、さっき優太が倒してくれた鋼板の方へと近づく。


 ロングコートの男が鼻を鳴らした。


「ふん、犠牲になろうとしてるのか……それとも、お前一人で僕たちを何とかできると?」

「まさか。僕に戦う力は無いからね。君達に襲われたら、一瞬で捕まっちゃうよ」


 僕は優太とは契約してないから、魔法も使えないしね。……契約してても僕には魔法は使えないみたいだけど。

 もし魔法が使えてたら、もう少し余裕を持てたのかな? ……まぁ仕方ないね。

 今は時間を稼ぐことに集中しないと。


 崩れた鋼板を触りながら、二人を見る。


「……迅、お前は三人を追え」

「あいつを捕まえるの、手伝わなくても大丈夫かい?」

「馬鹿にしてるのか?」


 二人が話し合ってる。まぁ、そうなるようね。でも三人を追わせる訳にはいかない。

 藤堂さんと下村さんを危険な目に合わせたのは僕のミスだ。

 相手の出方を窺って、結果後手に回ってしまった。

 こんなことなら、この人達が現れた時点でさっさと逃げるべきだった。


 責任を取って、彼女達が逃げる時間は絶対に稼ぐ。だから何としてでも、この二人には僕に集中してもらわないといけない。

 ――そのためには、僕が一筋縄ではいかないって勘違いさせないと。


「それは困るなぁ。二人とも、少し僕に付き合ってよ」


 言うや、僕の身体が宙に浮かんだ。


「――おっと、こいつはマジか」

「なるほど、お前も何かの力を持ってるのか」


 スーツの男が楽しそうに、ロングコートの男は冷静に感想を漏らす。

 そんな二人を見下ろしながら、何気なく話しかける。


「そんな大層なものじゃないよ。タネも仕掛けもないしね」


 手品師仕込みのポーカーフェイスで、得体の知れなさを演出する。


「迅……作戦変更だ。まずはこいつを確実に捕らえる」

「さっき、馬鹿にするなって言ってなかった?」

「力の詳細が分かってない状態で舐めた態度を取るべきじゃない。存外大したことがなかったなら、それからあいつらを追うのでも十分間に合うはずだ」


 ――よし! かかった。

 方針転換してくれたみたいだ。

 さっきロングコートの男はスーツの男に戦いを任せようとしたのに、すぐに自分も加わってた。

 確実性を取るタイプかと思ったんだけど、予想が当たって良かった。

 たぶん下村さんがさっきの戦いで見せてた、魔法の力の影響もあるんだろう。僕の手品を、不思議な力と勘違いしてくれてるっぽいね。


 後は僕が、この二人に捕まらないように全力で逃げるだけだ。


 深夜に差し迫った構内で、僕は困難な作戦(時間稼ぎ)を開始した。

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