表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死ねない少女は生き直したい~二百年生きた手品師、魔法少女に巻き込まれて平和を守る~  作者: 柚月由貴
二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/46

8 舞台に立つより緊張しちゃうね

 深夜の放棄された工場で、謎の男二人組と対峙する。

 僕の目的は二つ。優太が下村さんと藤堂さんを連れて逃げるまで、時間を稼ぐこと。そして、その後自分も捕まらないように逃げること。


 僕も優太と契約することで魔法が使えたら良かったんだけどね。

 ……まぁ、どうしようもないことを言っても仕方ない。持ってる手札で勝負しないといけない。

 皆と違って、魔法を使えない僕が使える手札――手品と、ハッタリだ。

 幸い、直前に下村さんが魔法を見せている。二人組は僕も同じような力を持ってると勘違いしてくれてるみたいだから、このままバレなければ注意を引き付けられると思う。


 得意のワイヤーマジックで空中に浮かびながら、二人組の男を見下ろす。

 何も見落とさないようにと、しっかり観察する。


「子供相手にそんな怖い顔しないでよ。泣いちゃうよ?」

「非合理的だな。泣いても状況は変わらんぞ」


 言うや、ロングコートの男が腕を振った。

 それに反応して虫の群体が、動き出す。

 

 無駄な会話が嫌いというだけあって、会話での時間稼ぎはさせてもらえないみたいだ。


 虫は二手に別れると、僕を左右から挟むようにして、迫ってくる。

 警戒しなきゃいけないのは、下村さんを狙った槍みたいな攻撃だ。

 僕にあれをどうこうする(すべ)はない。タイミングを見計らって避ける一択だね。

 そう思った瞬間、僕に近づく遥か手前の位置で虫に光が生じた。


 ――やば!


 慌てて、緊急回避的にワイヤーから飛び降りて、地面に降り立った。

 頭上でバチっという音とともに、火花が散る。

 一瞬だけ上を見ると、左右から光の壁が広がって僕が元いた空間を覆っているのが見えた。


 冷や汗を流しつつも視線をすぐに正面へと向けると、スーツの男が迫ってきてるのが目に入る。


 大丈夫、これは見えてる。


 ワイヤーを手繰って体を無理やり動かして、男の動線上から対比する。

 男からは僕が急に動きを変えたように見えたはずだ。実際、驚いた表情を見せた。

 でも、即座に僕の動きに合わせて追随してくる。


 うわっ。この人、咄嗟の反応が鋭いぞ。これは追いつかれちゃう。


 ワイヤーを手放して、急いで普段から携帯してる白布を取りだす。

 パッと広げて見せると、男は一瞬警戒したものの構わず突っ込んできた。


 右手に短刀、左手に短刀から伸びるチェーンを握る男。……チェーン?


 僕の目前まで迫った男。体格差があり過ぎて、目の前に壁ができたみたいな感覚に陥る。

 思わず一歩下がる。けど、その動きは読まれてた。


 背中に何かが当たる感触――。

 それが男のチェーンだと直感的に察し、咄嗟に布を身体の正面にかざす。

 直後、僕の体が布ごとチェーンで巻き付けられてしまった。


 ……なるほど。短刀にチェーンがついてる理由が分からなかったけど、こういう使い方をするのか。


 勝ちを確信してるからか、余裕の表情を浮かべている男。でも、詰めが甘いよ。

 布を掲げた状態で拘束されたので、腕と胸が密着した状態になっている。

 そこから腕を少し上げて、身体との間に空間を作る。できた余白を利用して体を一気に下へと滑らせる。手品の手法でも使われる、縄抜けだ。チェーンと体の間に布が挟まってるので、摩擦もなく拘束から脱出する。


 手放してその場に残した布が、チェーンによってきつく絞られる。

 男からしたら急に僕の身体が消えたように見えたはずだ。

 一瞬、男が硬直した隙に、大きく距離を取った。


「……マジか。そんな簡単に逃げられると傷つくわー」


 スーツの男がボヤいた。


「セクハラされたら誰でも逃げるからね。女性には、もっと紳士的に接した方が良いよ」

「はっ。ガキには分からんかもしれんが、世の中積極的な男の方がモテんだよ」


 そうなの?

 ガキじゃないけど、恋愛のことは分かんないや。

 人によるものだと思うんだけど……まぁ、どうでもいいか。


 二人組が直ぐには次の行動へと移らなさそうなのを確認して、僕は大きく息を吐いた。


 いや、しんどいね。

 スーツの男は動きがやたら速い。下村さんや藤堂さんの時と違って、殴ってこなかったから何とかしのげたけど、暴力を使われたら一瞬で捕まっちゃいそうだよ。僕が見た目、凄く幼いから加減してくれたのかな?

 あと、虫もどきの群体がヤバい。空中から落ちる時に見た、光の壁で包まれた空間。たぶんあれ僕を閉じ込めるためのやつだ。

 あの光は藤堂さんのハンマーを防ぐ程の硬さだもんね。あんなのに囲われたら、僕じゃ逃げられない。捕まったら即終了だ。


 隙を窺うべく、ロングコートの男へと目を向ける。

 彼は最初から今まで、じっと観察するように僕を見ている。


「どうするよ博士。以外と時間稼がれちゃったけど」

「……そうだな。こいつに上手くやられてしまってる。たかが子供と侮ったつもりはないが、存外動きが鋭い」

(ちげ)ーねえ」


 スーツの男が、ロングコートの男を「博士」と呼んだ。

 肩書か、名前か、あるいはあだ名か。見た目は若そうだから肩書じゃ無い? いや、ロングコートの男の方がスーツの男より立場が上っぽいから、肩書で合ってるかもしれない。僕みたいな例もあるし、見た目に惑わされない方が良い。


「あまり傷つけるつもりは無かったが……。ここからは多少、手荒にいかせてもらおうか」

「……痛いのは遠慮願いたいかなぁ」


 ……ここが潮時かな。乱暴に来られたら、まず逃げられない。時間も十分稼げたろうし。

 ていうか、やっぱり手加減してくれてたんだね。

 案外、優しいのかな? ……違うね。話しぶりから察するに、子供相手に無茶して死なれたら困る、って感じか。


 懐へと手を入れると、二人が反応した。

 警戒してるのか、二人とも僕の動きを見逃さないように、観察を続けてくれる。


 それが、逆に助かるよ――。


 懐から取りだしたのは懐中電灯。ずっと前に、廃病院の地下施設を探索する時に買ったやつだ。

 コンビニで売ってた割に光量が強めなそれを、二人組の目に向けて点灯する。


「――なっ!」

「見るな!」


 突然の光に、二人組から驚きの声が上がる。暗順応してる視界に眩しい光をぶつけたんだ。いくら二人組が手強い(てごわい)存在だろうと、人間である以上は視界を奪うことができるはずだ。

 たぶん視界を奪えたのは数秒。でも、それだけ時間がもらえれば十分だ。


 彼らの視野が回復した時には、僕は物陰に身を潜めて隠れていた。


「まさか、こんな手もあるとはなー。ガキのくせに、やりやがるぜ」

「まだ近くにはいるはずだ。探すぞ」


 二人組の声が聞こえる。

 まあ、当然探しにくるよね。でも優太の方じゃなくて、僕を優先してくれるのはありがたいね。


 ここからは、かくれんぼの時間だ。



 二人組の男とのかくれんぼは結局明け方近くまで続いた。

 日が既に昇りはじめて、家に帰れたのは結局明け方になってからだった。


「ただいま~」


 疲れた身体を引きずって、家に入る。

 ドアを閉めたところで優太が飛びついてきた。


「おかえり! 大丈夫だった?」

「何とかね」


 優太を抱えながら六畳一間の広間へ移る。

 座布団に座りながら優太に尋ねた。


「下村さんと藤堂さんは?」

「家に帰ったよ。夜も遅かったし、今日は学校だから」


 優太の言葉に、なるほどと頷く。

 こんな時に学校のことを考えてる場合か、なんて言うつもりはない。

 彼女達は子供で、本分はあくまで中学校の生徒だ。

 平和を守る活動は家族にも内緒にしてるわけだし、危険だから学校を休む、なんて言いにくいだろう。


 でも……二人とも大丈夫かな?


「学校の行き帰りで、あいつらに襲われないかな?」

「たぶん、大丈夫だと思うよ。咄嗟に認識阻害の魔法を使ったから」


 工場の構内が全体的に暗めだったこともあって、本当の顔は認識されてないと思うと優太が続けた。

 そういえば、あの二人組が現れた時に認識阻害の魔法を使ってくれたんだっけ。


 下村さんも藤堂さんも顔を認識されてないなら、彼女達を見つける手がかりは赤い服と青い服の子供ってことだけになる。普段の生活をしてるだけなら、彼らに見つかることは無さそうだね。


 うん、優太のファインプレーだね。

 そう思って優太を見ると、何だか浮かない顔をしてる。


 どうしたのか聞くと、認識阻害の魔法は優太が傍にいないと効果を発揮しないのだと言われた。

 三人が逃げて僕一人が残った時に、僕だけは顔をバッチリと見られちゃったんじゃないかとのことだ。


「ごめんね」

「いやいや、ナイスだよ」


 僕は学校に行く必要なんてない。本当の顔がバレてても、常に優太と一緒にいれば認識阻害の魔法で隠れることができる。

 優太自身も兎の姿は誤魔化してないといけないわけだし、そのついでだ。

 お金を稼ぐのが難しくなるけど、お財布にはまだ余裕がある。

 彼らのことが解決するまでは、優太と一緒に居るようにしよう。


「二人ともお姉ちゃんが無事かどうか心配してたから、後で連絡してあげてね」


 言われてスマホを確認すると、二人から連絡が入ってた。

 心配されるのは慣れてないので、むず痒い気持ちになりながらも優太に向かって頷く。


「それで、あの二人組のことだけど……」

「うん、そうだね。どうするか考えないと」


 見つかる心配が少ないからと言って、放置できる問題じゃない。

 彼らは優太に興味を持っていたし、この先もしつこく狙われる可能性がある。

 だから、対策を考えないといけない。


 ひとまず、彼らについて分かってることを整理しないと。

 そう思って優太を見ると、優太が僕を見ながら頷いた。

 優太も同じことを考えてみたいだ。

 僕も頷いて、それからお互いの認識を合わせていく。


「あれは、廃病院の地下施設に関わりのある人間だよね」

「たぶん、そうだと思う。ロボットを回収しようとしてたし」


 そんな彼らが何故、優太に興味を持ったのかな?

 優太も地下施設で作られたと考えたのか。それとも、人と違う見た目をしている優太に、単純に興味を抱いたか。


「そういえば、モード……アドミニストレーター? とかって言ってたよね」


 アドミニストレータって管理者とかって意味だよね。


「優太がその言葉に反応しなくて、予想と外れた雰囲気を出してたね」

「ロボットだったら反応する言葉なのかな? 僕のこともロボットの仲間って考えてたけど、反応しなかったから予想と違ったって感じかも」

「うーん。でも、地下施設の関係者なら、そこで作られたロボットについても把握してるんじゃないかな?」


 優太があそこで作られたロボットかどうかなんて、知ってそうだけど。


「それもそうだね……」


 一つ気になるのは、彼らが僕のことも捕まえようとしてたってことだ。

 最初は、優太が逃げたから僕を餌にして、優太をおびき出そうとしてるのかと思ったんだけど。彼らから追われてた時の様子を見るに、そんな感じではなかった。

 優太だけでなく、僕らのことも狙うような理由って何だろう……。


 その後も思いつく限りの想定を挙げていく。

 でも結局、現状は情報が圧倒的に不足している。推測はできるものの、彼らの目的を断定することはできなかった。


「……あいつら。二百年前に僕らが逃げ出した組織と関係あるのかな」


 あらかた推測を終えたところで、優太がぼそりと呟いた。

 どうだろう。

 結局、廃病院の地下施設が、二百年前に僕らで実験してた組織と関わりがあるかどうかは分かってない。あの二人組は地下施設の組織と関わりがあると思ってるけど、じゃあ僕らで実験してた組織と関わりがあるのかは、分からない。

 僕らで実験してた組織と関わりがあって、何らかの手段で僕と優太があの実験施設の生き残りだって気づいたのなら、僕らを狙う理由にはなるだろうけど……それは推測が飛躍し過ぎてる気がする。何せあの施設は爆発してしまったし、僕らの姿は当時とは別人になってる。そのうえ二百年も経ってるんだから、あの実験施設の生き残りだと思う方が難しいはずだ。


 結局分からないことだらけだけど、僕らのことを狙ってくる以上は何かしらの対策を考えないといけない。

 そのためにも、とにかく彼らに関して色々と調べないといけない。


 彼らに見つからないように。でも、彼らのことは調べる。

 大変だけどやるしかない。

 ……はぁ、色々と面倒なことになってしまったね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ