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死ねない少女は生き直したい~二百年生きた手品師、魔法少女に巻き込まれて平和を守る~  作者: 柚月由貴
二章

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2 とある日常。よくある光景

 市内のとある一軒家。その中の一部屋。

 水色を基調として整理された部屋は可愛いらしく、主の好みが色濃く反映されてる。


 明かりもついておらず、カーテンが閉め切られ、暗い室内にスマホのアラームが鳴り響いていた。


 かれこれ数分は鳴っていただろうか。鳴り続けるアラームに耐えられなくなったかのように、布団がもぞもぞと動き出す。

 そこから手だけが伸び出て、ベッド横に置かれたテーブルを探る。

 やがて机上のスマホへと辿りつくと、それを引っ掴んで再び布団の中へとしまわれた。


 数秒後アラームが止まり、そこから更に十数秒かけて布団から顔を出したのはミディアムヘアの女の子だった。

 下村朝陽。オクタと契約し、魔法少女の力を得た中学生だ。

 彼女は眼を擦りながら起き上がると、大きく伸びをした。


 ベッドから降りて部屋を出る。階段を下りて、洗面所で顔を洗ってリビングへと移動する。


「おはよ~」

「おはよう」


 未だシャキッとしないままの表情で口にした挨拶に答えたのは、新聞を読みながら朝食を食べる父、下村和也。下村家の大黒柱である。


「おはよう。随分眠そうじゃない。また夜更かししたの?」


 父に続けて呆れた声をかけたのは朝陽の母、下村美紀。下村家の最高権力者だ。


「ふわぁ~……んー、ちょっとね」


 朝陽は大きな欠伸をしながら台所へと向かうと、食パンを取り出してトースターへと放り込んだ。


「何だ? 遅くまで遊んでるのか?」

「遊んでる訳じゃないよ」


 新聞から目を離して顔を向けてきた父の追求を濁す朝陽。

 実際、彼女は遊んでいたわけではない。ちょっと変わった友人たちと、街中で暴走するロボットを探して止める活動をしており、昨晩もその活動によって夜更かししていたのだ。

 しかし彼女は両親に自身の活動については伝えていなかった。それゆえ理由は伝えず、濁すのに留めたわけだ。


「勉強を疎かにだけはしないようにね」

「あぁ、うん」


 母の言葉に目を泳がせる。

 頭に浮かんだのは前回の定期テストの結果。

 勉強時間が減ってるためか、成績は少し落ちていた。

 今は少しと許してもらえてるが、ここから更に下がると咎められかねない。

 夜更かしを許してもらえなくなると、皆との活動にも支障が出る。


(次は頑張らないと……)


 やがてやってくるテストのことを考えて、朝陽は憂鬱(ゆううつ)な気持ちで焼けた食パンを食べるのだった。


 その後、準備を終えた朝陽は玄関に置いてある姿見で全身チェックを行い、普段通りであることを確認してから家を出た。


 欠伸を噛み殺しながら学校へと向かう。


 同じ制服に身を包んだ生徒やスーツを着た大人がちらほらと見える中、ふと道の端に目を取られた。

 しゃがんでる人がいる。それも二人だ。


「あれって……うちの生徒だよね。もう一人は……誰だろ?」


 二人のうち一人は着ている制服から、朝陽と同じ学校の生徒であることが分かる。

 もう一人は制服ではなく私服を着ていた。大人ならスーツを着ているだろうから、大学生とかだろうか。

 こんな朝から、道の端で何をしているのか。


 気になった朝陽は近づいて声をかけた。


「あのー、何してるんですか?」


 朝陽の呼びかけに反応して生徒が振り返る。

 その瞳は今にも泣きそうな程、潤んでいた。





「おはよーございまーす」

「おはよー」


 市立長山第二中学校の校門では、風紀委員達が挨拶運動を行っていた。

 登校してくる生徒達に対して、元気良く挨拶をする生徒達。


「おはようございます……ぁふ」


 風紀委員の一員である藤堂渚は、皆と同じく挨拶をしながら、漏れそうになる欠伸を噛み殺した。

 そんな渚へ、一人の生徒が近付く。

 おかっぱ頭に眼鏡をかけた、女子。渚と同じく風紀委員に所属する後輩、後藤久美だ。

 久美は怪訝そうな顔で、渚へと話しかけた。


「先輩、眠そうですね」

「ん、少しね」


 答えながら、久美へと視線を落とす。

 彼女は渚より身長が頭一つ低いので、見上げる形で渚を見つめていた。


「久美ちゃん、どうしたの?」

「いや、先輩が眠そうにしてるの珍しいなって思って」

「あぁ、まあね……おはようございます」

「おはよーございまーす」


 喋りながらも登校してきた生徒への挨拶は忘れない。

 挨拶の合間を利用して、二人は会話を続けた。


「ごめんね、気をつけるわ」


 欠伸をしかけたことを謝る渚。

 彼女が眠そうにしているのは、昨夜の活動が原因である。

 普段は早寝早起きを心掛けている彼女だが、魔法少女としての活動を行う時は人目を忍ぶ都合上、どうしても夜が遅くなってしまう。ゆえに、その翌日はどうしても寝不足気味になってしまうのだ。

 しかし、魔法少女としての活動はあくまで個人的なものであり、風紀委員としての業務を蔑ろにして良いはずがない。

 その矜持が、渚を久美へと謝らせた。


 対する久美はというと、謝られたことが意外であるかのように首を激しく横に振った。


「いえ、全然大丈夫ですよ! むしろ、親近感が湧きます!」

「親近感?」

「先輩も眠そうにしてる時があるんだなって」

「何それ」


 後輩のあんまりな発言に薄く笑う渚。

 久美もまた自分の発言のおかしさに笑った。


「――そう言えば先輩、聞きました?」


 そのまま暫く挨拶運動を続けていると、久美がまた渚へと話しかけた。


「ん、何を?」

「何か最近、不審者が出てるらしいですよ」

「不審者?」


 久美の言葉に眉を(しか)める渚。


「はいっ。何でも夜になると現れて、街中で暴れた後去っていくらしいです」

「何それ、凄く危ないじゃない」


 彼女の言ってることが本当なら生徒に危害が及ぶ可能性がある。

 ホームルームで注意喚起してもらわないといけない。

 先生方は把握してるのだろうか?


 そんな風に考えていると――。


「それで不気味なのが、暴れた時に何かを破壊してるような音はするんですけど、翌日には現場に何も残ってないらしいんです」

「……ん?」


 後輩の言葉に違和感を覚える渚。


「たまたま遠目に目撃した人からの情報だと、暴れてる人はアイドルみたいな服装だったらしくて」

「……」

「あれ? 先輩、どうしました?」

「……何でもないわ」


 真相を察した渚が遠い目でそう返す。


 これまで渚達が行ってきた活動において、ロボットに襲われていた子供達に対しては、オクタが簡単な暗示をして勘違いだったと誤認させていた。

 渚や朝陽の活動が表沙汰にならないようにという配慮からそうしてきたわけなのだが、目撃者に対してのケアはできていなかった。

 それが、今回の不審者情報に繋がってしまったのだろう。


「夜に外に出ないことが一番だけど、塾とかあるとどうしても遅くなっちゃいますよね」

「そうね、夜に外を歩く時は気をつけて、って学校側からも注意してもらわないといけないわね」

「ですね!」


 そう、これからはより一層気をつけて活動しないと……。

 そう心の中で誓う渚だった。


 久美の思いがけない情報によって、もやもやしてるうちに登校者も疎らになっていく。

 予鈴が鳴り、他の風紀委員達が校舎へと引き上げていく中、渚が久美へと声を掛けた。


「私達も戻りましょうか」

「はい――」


 二人で校門に背を向けた時。


「――まだ予鈴! 間に合うよ!」


 背後から騒がしい声が聞こえてきた。

 何事かと再び校門へと目を向けると、二人の生徒が駆け込んでくるのが見えた。


「危なー、何とか間に合ったね」

「は、はい……良かった……です」


 騒がしく話す二人。

 一人はショートヘアで快活そうな少女。軽く息を乱しているが、元気そうな表情でもう一人へと話しかけている。

 一人は長い髪を後ろで括り、眼鏡をかけた大人しそうな少女。全力で走っていたのか、息も絶え絶えな状態だ。疲れていそうにしていながらも制服の乱れを整えているあたり、余裕はあるのかもしれない。


 二人は、連れ立って校舎の玄関へと向かう。

 そこを渚が呼び止めた。


「待ちなさい、あさひ」


 そこでようやく、快活そうな少女――下村朝陽が渚に気づいた。


「あ、おはよう渚」

「あんた、その格好で校舎内に入るつもり?」


 渚が指摘したのは、走って登校してきたことによって乱れた制服だった。


「あー、ごめん」


 隣で待っていた女の子に先行っといて良いよと伝え、先に行かせるとその場で整え始める。


「これでオーケーかな」

「服装はね」

「え? まだ何かあるの?」

「あんた、遅刻ギリギリなことが多いのよ。もう少し時間にゆとりを持って行動しなさい」

「ギリギリなだけでしょ? 遅刻自体はしてないんだから良いじゃん」


 朝陽の言葉に、渚は「まったく……」と呟いた。

 実際、朝陽が完全に遅刻をしたことは少ない。あくまで、遅刻ギリギリの時間に登校していることが多いだけであり違反をしているわけではないのだ。

 ゆえに渚としても、強く注意することはできなかった。

 が、そんな二人の間に割って入る者が一人。


「良くないわよ! ギリギリで行動してたら、何か不測なことが起きた時に一発アウトなのっ。先輩は心配して注意してるんだから、素直に聞いときなさいよ!」

「ちょっ、久美ちゃん」

 

 渚が慌てて彼女――久美を止める。

 一方、嚙みつかれた朝陽は、突然の言葉にキョトンとした顔をした。ややあって、久美の言葉を理解すると、笑みをこぼした。


「へー、そっか。心配してくれてありがとね、渚」

「――っ。そんなんじゃないから! 勘違いしないでよっ」

「分かったなら、次からは気を付けなさい!」


 思い思いの言葉を喋る三人。

 校舎前で姦しく、言い合いが続く。


「――お前ら、もう本鈴が鳴るぞ。さっさと入れ!」


 収拾のつかない状況を収めたのは、校舎から顔を出してきた先生だった。


「「「あ、はい。すみません!」」」


 返事を見事にハモらせながら、三人は校舎へと向かう。

 その道中も些細な言い合いを続けるのだった。

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