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死ねない少女は生き直したい~二百年生きた手品師、魔法少女に巻き込まれて平和を守る~  作者: 柚月由貴
二章

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36/46

3 悩みの種っていつも突然やってくるよね

 夜の帳が下りた市街地。


 静かで(ひと)けの見られない路地裏。

 その暗闇の中に一台のロボットが潜んでいた。


 それは、狼のような見た目をしたロボット。

 音を立てず、じっと静止する見た目に反し、内部に搭載された幾つものセンサーをフル稼働させ辺りを窺っている。

 どれだけの時間、そうしていたか分からない。満月に近い月が中天にかかる頃、赤外線のセンサーに反応があった。

 ロボットは瞬時に、残りのセンサーをそちらへと向ける。


 対象は夜道を歩いている。人数は、一人。体格は小さい。可愛らしい服装を着ており、いかにもか弱い印象の女児。

 条件に合致。

 何故こんな時間に、幼い少女が一人で外を歩いているのかという疑問にロボットが辿り着くことはなかった。

 ただ、都合の良い獲物を捕らえるため稼動を開始する。


 路地裏から出たロボットは素早く、獲物へと近づいた。

 機械仕掛けの足が駆動する音が小さく響き、幼い少女へと届く。

 突然聞こえてきた音に何事かと周囲を見回した少女は、ほどなくして近づいてくるロボットに気づくと怯えたように立ち竦んだ。

 ロボットに感情は無い。少女が怯えてるかかどうかなど関係なく、己の使命を果たそうと少女へと前足を伸ばす。


 ――瞬間、少女の姿が搔き消えた。


「――!?」


 戸惑いと共に、動きを静止させるロボット。

 自身の状態を捕獲モードから、索敵モードへと切りかえる。

 すると、即座にセンサーに反応。

 ロボットが振り向いた先には、四つの影があった。





「うまく引っかかったわね」

「だね。葉月ちゃん、ありがとね!」


 いつもの魔法少女姿をした下村さんと藤堂さんが口々に言う。

 二人ともそれぞれの武器を構えてる。

 僕らが見据える先には一台のロボットがいた。僕が囮になって釣りあげたわけだけど、あれは……犬、いや狼がモデルかな?

 僕が姿を消した瞬間は見失ってたみたいだけど、今は向こうもこちらに気づいたみたいだ。


「ここからは僕らの番だ。お姉ちゃんは下がってててね」


 そう言って、優太が前に進み出た。

 合わせて、下村さんと藤堂さんも前に出る。


「皆、気をつけてね」


 一緒に前に出る雰囲気じゃないし、そもそも僕には手品しか使えないから前に出ても足手まといにしかならない。

 優太の言葉に従って大人しく一歩引き、皆を見守るべく声をかけた。


 三人が散開し、三方向からロボットへと迫る。

 そのロボットはというと、忙しなく頭を動かして戸惑っているように見える。


 最初に仕掛けたのは下村さんだ。

 右からロボットに迫ると、目前で跳躍。空中でローラーを振るい、空に描いた軌跡を足場にして、ロボットの頭上を取る。


 ロボットの注意が上に逸れたところに、藤堂さんが下から突っ込んだ。

 上に意識が持っていかれていて、隙だらけの顎へと大きく振りかぶったハンマーを叩き込む。


 衝撃で後ろに吹っ飛ぶロボット。

 だけど、その勢いが不自然に止まる。

 よくよく見ると優太が影を触手のように操り、ロボットに絡みついていた。

 影に引っ張られる形で、ロボットが静止しその場に倒れ込んだ。


 そこへロボットにトドメを刺そうと下村さん、藤堂さんが突っ込んだけど――。


「トドメ――え?」

「そこだ――あ!」


 うわっ、痛そう……。


 お互いが見えてなかったのか、突っ込んだ二人が空中で激しくぶつかった。

 二人が、その場に崩れ落ちる。


「つ……ちょっ、何やってんのよ!」

「いたー……いや、そっちこそちゃんと見てよ!」


 幸い、二人とも直ぐに身体を起こしたけど、お互いに言い合いを始めた。

 いや、喧嘩してる場合じゃないよ


「二人とも、もう持たないよ」


 優太の言葉にハッとする二人。

 見れば、ロボットはもがいて影を振り払うところだった。


「やば――」

「っ、待ちなさい――」


 静止むなしく、影から逃れたロボットは脱兎のごとく逃げ出した。

 体制が崩れてた二人は反応できてない。その間にロボットは暗闇へと紛れてしまった。


「まだ近くにいるはず!」

「探すわよ!」


 起き上がった二人がそう言うと、ロボットの影を追いかける。

 その後を優太が追いかけ、僕も遅れてついていく。


 四人でロボットを探した……けどロボットはどこかに隠れてしまったのか、結局その後見つけることはできなかった。


 ロボットもさっきは僕を狙ってきたけど、警戒されちゃったのか、もう襲ってくることはなかった。

 狙われやすくなるかと思って、服もわざわざ可愛らしいのにしたんだけど、あまり効果はなかった。

 まあ、最初はちゃんと釣れたから、意味はあったのかな。


「――仕方ない。また機会はくるよ」


 皆で集まったところで優太が言う。


「そうだね、次頑張ろう」


 僕も頷いて、前向きな言葉を投げたのだけど――。


「仕方ないわね……次は気をつけなさいよ」


 続く藤堂さんのセリフで場の空気が固まった。


「……ちょっと、それどういう意味?」


 少しの沈黙の後、下村さんが言葉を返す。

 あ、やっぱそう受け取っちゃうよね。

 マズイね……。


「どうもこうも、そういう意味よ。あさひがぶつかってきたから取り逃したんじゃないの」

「はぁ? ぶつかってきたのはそっちでしょ!」


 売り言葉に買い言葉。

 下村さんが身を乗り出したところで、僕は二人の間に身体を割り込ませた。


「ストーップ。ぶつかったのは二人だけど、その後拘束を振りほどかれたのは優太。そして、僕は見てるだけで何もしなかった。だから、取り逃したのは皆のせいだよ!」


 何かを言いたげな二人に、両手を上げて牽制する。


「軽い言い合いは構わないよ。でも、失敗を理由に喧嘩はダメ! 責めるのもダメ! 分かった!?」


 ムッとした顔で左右に目を走らせて、二人の様子を見る。

 どっちもばつが悪そうな顔をしてる。


「……悪かったわ」

「……ごめん」


 少しの間の後、どちらからともなく謝った。

 良かった。悪いと思ったらちゃんと謝れる、良い子達だね。


「……今日はもうお開きにしよう。最近は結構遅くまで活動してたし、疲れが出てるんだと思う」


 優太がそう提案してきたので頷いた。

 うん、そうだね。これまでの二人なら、こんなことで喧嘩はしなかったはずだ。

 寝不足になると気分がイライラして短気になりやすいし、たぶん原因はそれ(寝不足)じゃないかと思う。


「うん、しばらくお休みにしよう」

「でも――」

「それじゃあ――」


 食い下がろうとする二人に向かって首を横に振る。


「ダメだよ。二人は成長期だし、寝不足は良くないよ。……それに、さっきのロボットには警戒されちゃってるだろうから、探すのには時間かかるかもだし。ゆっくりやっていこうよ」


 僕の言葉に優太が頷く。


「そもそも、子供達(下村さん、藤堂さん)の体調は大人の僕が気を配らなきゃいけないことだからね。管理ができてない時点で僕が悪い。僕もしっかり反省するよ」


 そう自戒しながら二人を見ると、二人とも首を捻ってる。


「どうしたの?」

「いや、言われたことは分かるんだけど……」


 下村さんが歯切れ悪く口ごもる。

 何か納得いってなさそうだ。

 藤堂さんも同じ表情してる。


 こういうのはしっかり話し合っとかないと、後々尾を引いちゃう。

 しっかり意見を言い合わないとね。


「何か思うところがあるなら言って欲しいな」

「ううん、葉月ちゃんが言ってることは正しいと思う。でも――」


 言いにくそうにする下村さんの後を継いで、藤堂さんが口を開いた。


「何か葉月が、そう言ってるのは納得いかないのよね」


 え? なにそれ。


「普段、あまり大人っぽくないし。見た目もあれだし……ねぇ」


 続く藤堂さんの言葉に下村さんも横で頷いてる。


 ちょっ、酷くない?

 優太を見る。


 優太は仕方ないよとばかりに肩を竦めていた。


 えぇ……。


 何か一人負けした気分で、僕は肩を落とした。

 ……まあとりあえず、君たち既に仲直りしてるみたいで良かったよ。

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