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死ねない少女は生き直したい~二百年生きた手品師、魔法少女に巻き込まれて平和を守る~  作者: 柚月由貴
一章

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幕間4 風紀を守る活動って大変だね(前編)

 昼休みも、もう少しで終わろうかという時間に、藤堂渚は教科書を持って学校の廊下を歩いていた。

 市立長山第二中学校はコの字型の校舎となっており、通常の教室と職員室が集まった南側の校舎、そして特別教室が集まった北側の校舎が対面する構造を取っている。

 渚は五時限目の授業のために、友達と一緒に音楽室へと移動していた。予鈴が鳴ってから移動する者も居る中、少し早めの移動だ。


 談笑しながら階段を下りたところで、ふと立ち止まる。

 ――廊下の先で、何かを言い合ってるような騒がしい声がする。

 声の方向へと顔を向けた渚は、そこに居た人物を見て眉を(ひそ)めた。


「あれは……しーちゃん、ごめん。先行っといて」

「ん。分かった」


 友達と別れ、喧騒に近づく渚。

 彼女の視線の先では、一人の女子と二人の男子が言い争っていた。


「久美ちゃん、どうしたの?」

「だから――あ、先輩!」


 渚の呼びかけに反応して、振り向いた女子。

 背が低く、おかっぱ頭。あどけなさを残した顔に眼鏡をかけた彼女は、渚と同じ風紀委員の後輩である後藤久美だ。

 渚は久美の横に立つと、彼女が相対していた男子へと目を向けた。

 一人は渚も知っている。隣のクラスの野球部だったはずだ。

 もう一人は顔は見た事ないが、学ランの詰襟に付けられた学年組章から野球部の男子と同じクラスの人であると判断。野球部男子と同じく坊主頭であることから、同じ部活仲間なのだろうと推測した。

 顔を知ってる方の男子は、何故か手にゴムボールを持っていた。そのことを疑問に思いつつも、渚は久美へと向き直った。


「どうしたの? こんなところで騒いで」

「聞いてくださいよ、先輩――」


 口論の理由を尋ねると、久美が勢い良く話し始めた。

 それによると男子達が廊下を騒がしく歩いてたので、久美が注意したということなのだが――。


「いや、言うほどうるさくはしてなくね?」


 男子側にも言い分があり、口論となっていたとのことだった。


「だからっ、それはあなたが決めることじゃないの!」

「久美ちゃん、落ち着いて」


 ヒートアップする久美を、宥める渚。

 落ち着かせた後、二人組へと顔を向けた。


「あなた達が実際うるさかったのかどうか、私には分からないわ。けど、久美ちゃんがこうして訴えてるのは事実だから、今後は気をつけて欲しい」


 実際、久美の論が正しいのだろうと渚は考えていた。

 同じ風紀委員の活動をする中で、後藤久美という少女の人となりはそれなりに理解していた。

 彼女は噓や嫌がらせで人を注意するような人物では、決してない。

 しかし、勘違いだったという線も有り得ないことではないし、何より二人組がはっきりと否定してしまっている。

 であればこの場で言い争っても、水掛け論にしかならない。

 だからこそ、渚は騒ぎを止めようとした。


「何でお前にそんなこと言われないといけねーの?」

「待てよ、こいつ確かあれだよ」


 顔を知らなかった方の男子が渚を睨む。

 それを隣の野球部男子が止めた。野球部の男子がその先を言うよりも早く、渚が答えた。


「私は風紀委員だから。違反者は注意する義務があるし、必要なら学校への報告が必要になるわ」

「……ちっ、お前もかよ」

「とりあえず分かったから。気をつけますよっと」


 片方は舌打ちし、片方は手の平をヒラヒラとさせて適当な返事をする。

 態度からして気をつけるという意思が感じられず、久美が再び噛み付こうとする。

 が、それは渚が押し止め、その場は取りなした。


「何ですか! あれ!」

「あまり気にしちゃダメだよ、久美ちゃん」


 二人組が去った後も憤った様子を見せる久美。

 渚はそんな彼女を優しく宥めた。


「何を言っても響かないタイプっているでしょ、あれはそういう人たちだから。気にするだけ久美ちゃんが損よ」

「うー、じゃあどうすれば良いんですか?」

「言い過ぎて逆ギレされると久美ちゃんが危ない目に合うかもしれない。だから、注意するのは最初の一、二回だけ。それで改善の色が見られないなら、学校へ報告しちゃって良いわ」

「むぅ。学校への報告ですか」


 あまり納得してなさそうな様子に苦笑する渚。

 久美はおそらく、正義感がつよいのだろう。

 告げ口みたいなのを嫌がり、本人を直接正したいのだ。

 その気持ちは渚とて分からないでもないので、彼女の考えを無理に改めようとはしなかった。


 そして、その場はそのまま別れたのだが。


 ――事件は翌日の昼休みに起きた。


 何かが割れる音が校内に響いた。

 それは、たまたま南校舎側、自分のクラス前の廊下に出ていた渚の耳にも届いた。


「……下の階?」


 何事かと気になった渚は、音の出処を探すため階段を下りた。

 自分のクラスがある三階から一つ下りて二階へ。廊下の様子を一瞥するも特に何事もない。では一階かと、更に階段を下りる。

 一階に着いたところで、コの字型校舎の曲がり角――南校舎から北校舎へと繋がる渡り廊下へいたる角の手前に、座り込んでいる女の子を発見し駆け寄った。


 見ると、それは昨日も会った久美だった。


「久美ちゃん、大丈夫?」

「あいつ……あっ、先輩。はい、大丈夫です」


 立とうとする久美に手を貸しながら、事情を尋ねると人とぶつかったのだと答えた。 

 たまたま友達と一緒に、一階の渡り廊下にいた久美。彼女も音を聞きつけ気になったことから、何が起こったのかを確認するため、友達を残して南校舎へと向かった。そうして渡り廊下から角を曲がって南校舎に入ったところで、南校舎側からやってきた誰かとぶつかって尻餅をついたとのことだった。

 ぶつかった相手は何も言わずに逃げたらしい。


 ぶつかった相手は廊下を走っていたとのことなので、明らかな校則違反者だ。しかしその相手は当然ながら、既にここには居ないので取締ることはできない。

 久美に怪我が無いことを確認した渚は、ひとまず音の出処の確認を優先すべく振り向いた。


 現場はすぐに見つかった。振り向いた先、廊下の奥に数人の生徒と、先生が立っているのが目についたのだ。


「うわっ……」

「……酷い状態ね」


 近づいた二人は何が起きたのかを把握し、思わず呟いた。


 職員室と保健室の前の廊下。職員室側とは反対の、中庭側に面する窓の一箇所が割れていた。

 破片が廊下に散っており、その傍に先生が立っている。


「危ないから近づくなよー」


 周囲の生徒へと注意を促すその先生に、渚達は生徒の間を縫って近づいた。


「吉井先生、何があったんですか?」

「ん? 藤堂か。いや、先生も詳しくは分からん」


 事情を聞くと、その先生は職員室でくつろいで居たのだが、渚達と同じく音が気になり外に出て、窓ガラスが割れているのに気づいたと語った。


「誰かが割ったのを見たんですか?」

「いや、先生が廊下に出た時には誰も居なかったぞ」


 誰も居なかった、ということであれば、ここに居る生徒達は渚同様に、音が鳴った後に気になって見に来たのであろう。

 そんなことを考えている間に、別の先生がちりとりと箒を持ってきたので、そのまま先生達は割れたガラスの片付けへと移った。


 掃除の邪魔にならないよう、廊下の端に寄った渚は改めて現場を観察した。

 既にある程度ガラスは集められてる。けど、それを加味した上でも割れた面積に対してガラスの量が少ない。

 窓の外を見てみる。

 外の地面にも割れたガラスが散乱していた。先生達も廊下のガラス掃除を優先しており、こちらに手を付けられるまでには時間がかかりそうだ。


「――先生、ちりとりを一つお借りしても良いですか?」

「何するつもりだ?」

「外にもガラスが落ちてるので」

「いや、怪我したら危ないから関わるな」

「……はい」


 外のガラスを回収に行こうとした渚だったが、先生に止められたため足を止める。

 仕方ないので、現場から少し離れると久美が話しかけた。


「窓って廊下から割れたんですよね?」

「たぶんね」


 廊下に散っていたガラスの量は少ない。であれば、校舎内から外に向けて割れたと考えるのが自然だ。昔読んだ推理ものの漫画から、そういった知識を有していた渚は、久美の言葉に同意して頷いた。


「誰かが割ったってことですね」

「勝手に割れるわけはないしね。でもそれが事故か、わざとかは分からないわ」

「事故……でも犯人がここに居ないってことは逃げたってことですよね?」

「そうだと思うわ」


 再び同意を示す。

 吉井先生は音が鳴った後、すぐに確認するため廊下に出たと言った。

 その時点で誰も居なかったということは、窓ガラスを割った人物は先生が廊下に出てくるまでの間に逃げたということになる。


 もしかしたら何かの偶然が重なって、人が居ない状態で窓が割れてしまったということもあるかもしれない。

 しかしそれよりかは誰かが割ってしまい、その誰かはこの場から逃げたと考える方が自然だろう。


 特に渚からすると、手品で簡単に逃げてしまいそうな知り合いを知っているだけに、余計そう思えた。


「事故なのに、逃げることなんてありえますかね?」

「そうね……例えば、ふざけてて割ってしまった。とかなら怒られると思って、逃げるのはありえるんじゃない?」

「ふざけてて割った……まさか、あいつら……」


 久美が何かを呟いたが、渚は聞きとることができなかった。


「どうしたの? 久美ちゃん」

「あ、いえ。何でもありません!」


 慌てて首を横に振る久美。


 直後、校内に予冷が鳴り響いた。

 もう、まもなく五限目の授業が始まる。話はそこで切り上げ、渚と久美は急いでお互いの教室へと戻ったのだった。

 


 そうして迎えた放課後。

 友達と一緒に教室を出たところで、渚は声をかけられ立ち止まった。


「渚じゃん。やっほ」


 隣のクラスの友人。いや、彼女達の関係でいうと戦友と呼んだ方が正しいか。

 ともかく、奇妙な間柄である下村朝陽がそこにいた。


「あんたも帰るとこなの?」

「そだよ」


 朝陽は友達と思われる三人の女子と一緒に歩いていた。


「そう、それじゃあ」

「うん、またね」


 お互いに手をひらひらと振って別れを告げる。

 夜になれば共に活動する関係ではあるが、元々は知り合い程度の関係であった二人。

 学校で会ったところで、交わされる会話はこの程度――なのだが、本日は違った。


「――あ、そうだ」


 朝陽が思い出したとばかりに振り返る。


「何か、さっき一年の子が来たんだけど。あの、渚とちょくちょく一緒にいる風紀委員の子」

「一年……久美ちゃん?」

「その子かな?」


 朝陽からの情報に眉を顰める渚。

 何故二年の、朝陽の教室に久美が訪れたのか。

 疑問符を浮かべる渚に、朝陽が答える。


「何か、田口君はいるかって」

「あさひ、違うよ。野球部の人はいるか? って言ったんだよ」

「あ、そうだそうだ」


 朝陽の説明を、隣の友人が訂正する。


「……それで、どうなったの?」

「田口君達はもう部活行ってたから、そう伝えたよ」

「そう、ありがとう」


 経緯が分かり渚がお礼を伝えると、朝陽は手をひらひらとさせて、今度こそ帰っていった。

 その背中を見送りながら、渚は思考する。


 野球部の男子を探してた……。

 たぶん、探していたのは昨日揉めてた男子だろう。

 じゃあ何で、その男子を今日になって探すのか。

 昨日のことを今更追求しにきた?

 彼女の今日の昼休みの様子からは、そんな感じは見受けられなかった。

 今日彼女が憤っていたのはガラスが割られたこと。

 なら予想できる推測としては……何らかの理由で犯人を野球部の男子と推測した?


「――なぎちゃん、どうしたの?」


 黙り込んでた渚に、友達が声をかける。


「……しーちゃん、ごめん。調べたいことがあって……先に帰ってもらっていい?」

「えー、一緒に帰りたかったな」


 先に帰ってと謝る渚だったが、友達が不満を漏らす。

 その姿に、渚が再度申し訳なさそうに謝った。


「ごめんね」

「いいよ。調べもの頑張って」


 友達としても、そこまで文句を言うつもりは無かったのだろう。

 今度はあっさりと受け入れ、そこで渚は友達と別れた。


 そうして一人となった渚は中庭へと移動した。

 中庭の方から、割れた窓の傍へと近づく。

 窓は生徒が触らないように、段ボールで塞がれていた。

 その下を見る。割れた窓ガラスの欠片はあらかた片付けられていたが、土の上に散った細かいガラスを回収するのは難しいからか、小粒のものが一部残ったままになっている。

 そこから歩きながら、周囲を確認していく。

 すると、窓から少し離れたところでゴムボールを発見した。

 拾ってみると、ガラスの破片が刺さっている。


 そのゴムボールを持ったまま、何事かを思案する渚。


 やがて、スマホを取りだすと何処かへ電話をかけた。

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