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死ねない少女は生き直したい~二百年生きた手品師、魔法少女に巻き込まれて平和を守る~  作者: 柚月由貴
一章

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幕間2 勃発! マジック対決

「ありがとうございましたー」


 頭を何度も下げながら、迎えてくれた拍手に笑顔で応える。

 こちらを見る目も皆笑ってくれてて、頑張った甲斐を感じる。

 


 ――日曜日の昼間。いつものごとくお金を稼ぐために、僕はカフェでマジックを披露していた。

 自画自賛になってしまうが、今日も大盛況だと言って良いと思う。


 客席を回って挨拶していき、全て回り終えたところでカウンターへと向かった。


「お疲れ、葉月ちゃん」

「ありがとうございました」


 労ってくれたマスターへとお礼を伝えた後、カウンター席に座ってたおじさんにも挨拶をしようと目を向ける。


「ありがとうござい……ました?」

 

 つい疑問形になってしまったのは、おじさんの見た目がいかにも怪しかったからだ。

 室内なのに秋物のコートを着たまま、サングラスをかけている。

 どの筋の人なんだろう……そう疑問に感じてると、おじさんが口を開いた。


「ふん、まぁ大したことはなかったな」


 冷たい雰囲気の言葉。

 ありゃ、僕の手品はお気に召さなかったかな?

 それは申し訳ない。


「大善寺さん。葉月ちゃんは子供なんだから、キツイこと言っちゃ駄目」


 マスターがおじさんへと注意した。

 僕は別に子供ではないんだけど、それを言うとややこしくなるので、ツッコまずにマスターへと尋ねた。


「マスターのお知り合いなんですか?」

「この人はね、うちの夜の方でパフォーマンスしてもらってる、プロのマジシャンなの」

「へぇ、そうなんですね」


 へぇ、プロの人なんだ。生で見るのは久しぶりだ。いや、今世では初めてかもしれない。

 夜の方でパフォーマンスしてるってことは、この人に出演料を払って、マジックを披露してもらってるってことだ。


 マスターはだいぜんじ、って呼んでたよね。名前は聞いたことないけど、知ってる人かな?

 しげしげと見てると、おじさんがサングラスを外した。

 切れ長の目。お世辞にも似合っていると言えない口髭。

 手品師というよりも、警察とか言われた方がしっくりくる顔で、おじさんが名乗った。


「大善寺明だ」


 ……うん。凄いドヤ顔してくれてるところ申し訳ないけど、見たことも聞いたこともないや。

 そんな僕を見て、大善寺さんが鼻を鳴らした。


「……ふん、少しチヤホヤされてるからって自惚れるなよ」


 あれ、知らないってことバレちゃったかな?

 表情には出さないようにしてたつもりなんだけど、沈黙の間で察したのかもしれない。

 だとしたら、失敗だ。反省しないと。


 ていうか、大善寺さんの僕を見る目が冷たいのといい。さっきの発言といい。何か僕、敵対視されてる?


 初対面の人物からの敵意に首を傾げてると、マスターが説明してくれた。


 なんでも大善寺さんがこの前、ここの夜の部でパフォーマンスを行った時、たまたま客に僕のことを知ってる人がいたらしい。

 それだけなら気にすることはないんだけどね。問題なことに、大善寺さんのパフォーマンス後にその人が、僕の方が上手かったって言ったのだとか。

 大善寺さんはプロだ。アマの、しかも見た目子供の僕に負けてるって言われたら、当然良い気はしない。

 それで、僕の実力がどんなものかと覗きに来たのだそうだ。


 なるほどね……事情は理解できた。

 僕の腕前を認めてくれる人がいるのは、素直に嬉しい。

 でも、それで他者を攻撃するのは止めて欲しいな。


「その人には私から注意したから」

「ありがとうございます」


 さすがマスター。

 余計な手を煩わせてしまって申し訳ないね。


「さっきも言ったように自惚れてはいけないぞ。君のマジックを見せてもらったが、まだまだ技術が甘い」


 大善寺さんが腕を組みながら、そう言った。

 なるほど……プロの目から見てまだ甘い、か。

 僕のマジックは二百年仕込みだけど、常に研鑽してた訳じゃない。惰性でやってた時もある。

 この人は、それを見抜いたのかもしれない。


「その程度で私より上手いなどとは思わないように」

 

 凄い自信だ。

 実際、僕は長年やってきたゆえの技術があるだけで、天才ってわけじゃない。僕が積み上げてきた時間を簡単に飛び越えてくるような、『本物』には叶わないだろう。

 彼もそういった本物の一人なのかもしれない。


「だから――ん、何だ?」


 更に言い募ろうとする大善寺さんだったが、肩を叩かれて顔を横に向けた。

 そこに居たのは、いつも僕のパフォーマンスを見てくれてるお客さんだった。

 ……あれ? 怒った顔してる?


「黙って聞いてれば偉そうに」

「え、いや……」

「だいたい、そんな偉そうに言っといて貴様は――」


 何かお客さんが大善寺さんを叱りだした。

 それに呼応するかのように、他のお客さんたちも大善寺さんに文句を言い始めた。


 凄い、何かめっちゃ絡まれてる。これが炎上って奴か……て、驚いてる場合じゃないね。止めないと。


「ちょっと皆さん、落ち着いて」

「そうですよ。大善寺さんも悪気があって言ってるわけじゃないんですから」


 お客さんへと声をかけると、マスターも一緒に宥めてくれた。

 けど、お客さんは簡単に引き下がらなかった。


「しかし葉月ちゃんがバカにされて黙ってられん」

「いや、でも僕が未熟なのは間違いないし」

「そうであろう」

「貴様は黙れっ。そこまで偉そうに言うなら貴様のマジックを見せてみろ!」

「いや、私はプロだから気軽には」

「逃げるのか!」

「なにおう!」


 うわぁ、更に白熱してる。

 このままだと喧嘩になりそうだ。


「皆さんちょっと落ち着いて……じゃあこうしましょう。別の日で改めて大善寺さんと葉月ちゃんがマジックする場を整えます。それで、皆さんで二人のマジックを見比べましょう」


 マスターもマズいと思ったのか、焦った声でそう言った。

 これは……ようはマジック対決ってことだよね。


「いや、しかし私はプロだから……」

「大善寺さんにはもちろんギャラを払います」

「う、うむ。それなら良いだろう」


 マスターの一言に、大善寺さんが頷いた。

 そして、他のお客さん達はと言うと。


「貴様のマジック、見せてもらうからな!」

「どうせ葉月ちゃんには及ばないでしょうけどね」

「間違いないわ。恥かく前に謝っちゃいなさいよ」


 物凄い悪態をついてる。

 言われてる大善寺さんは顔を真っ赤にして震えてるや。


「ごめんね、葉月ちゃん。変なことに巻き込んじゃって。申し訳ないけど、大善寺さんと一緒にマジックをやってくれないかな?」


 大丈夫かなぁと心配してると、マスターから声をかけられた。

 プロのマジックが無料で見れるんだから、僕としては全然問題ない。しかも、あれだけ自信満々なんだもん。この人は凄い手品師に違いないよ。

 いっぱい見て、勉強させてもらおう。

 だから、僕は笑顔で頷いた。


「ぜひ、お願いします!」



 そうして別の日。改めてマジックをする場が設けられた。

 いつも僕がパフォーマンスさせてもらってる、昼の時間帯。

 事前に告知してたこともあって、お客さんの数は多い。


 最初にマスターが仕切って、僕らの紹介をしてくれた。


「――プロのマジシャンに挑むのは葉月ちゃん。その見た目に侮るなかれ。目が肥えたお客さんをも唸らせる、子供らしからぬ技術をもった新進気鋭のパフォーマー。今日は、プロのマジシャンへの下克上を我々に見せてくれるか!?」

「頑張れー」

「応援してるわよー」

「気負い過ぎるなー」


 マイクを握ったマスターの言葉に合わせてお辞儀をすると、拍手と応援の言葉が迎えてくれた。


「葉月ちゃんの挑戦を受けて立つのは大善寺明さん。言わずと知れた、プロのマジシャンです。古典マジックのスペシャリストともいえる彼は、今日はどんなパフォーマンスを披露し、葉月ちゃんの挑戦に応えるのか!?」

「葉月ちゃんに謝れー」

「調子にのるなー」

「ギャラ泥棒ー」


 続いて行われた大善寺さんの紹介。大善寺さんがお辞儀をすると、途端に野次が降ってきた。

 ……普段僕のパフォーマンスを見てくれてるお爺さん、お婆さん達だね。

 これは大善寺さんに申し訳ないなぁ。


「……すみません」

「ふん。これぐらいはハンデでくれてやるさ」


 あまり気にしてなさそうだ。良かった。


「勝負の方法は単純。交互にマジックを披露してもらって凄さを競ってもらう。それだけです!」


 マスターが続けて簡単にルールを説明してくれる。


「それでは早速、大善寺さんから先手でいきましょう。お願いします!」


 締めの言葉と同時に引っ込んだマスターと入れ替わるように大善寺さんが前に出た。

 

 大善寺さんは皆の前に立つと、手を掲げてくるくると掌を返して見せる。そうやって手には何も持って無いことをアピールした。

 そこから左手で握り拳を作ると、右手の親指と人差し指を、左手の握り拳に差し込む。次に右手を引き抜くと、親指と人差し指にハンカチが摘ままれた状態で出てきた。何もなかったはずの拳の中から、ハンカチが現れるマジックだ。

 大善寺さんは同じ動作を繰り返し、次々とハンカチを出していく。

 まずは小手調べって感じかな?

 手際いいね、さすがプロだ!


 大善寺さんが僕に視線を送ってきたので、僕も前に出る。

 さて、どうしようかな……。僕は僕で、得意なマジックを披露していっても良いんだけど、それじゃマジック対決っぽくないよね。

 この状況でお客さんに喜んでもらおうと思ったら――。


 僕は歩きながら大善寺さんが落としたハンカチを拾うと、大善寺さんへと渡す素振りを見せる。

 掲げたハンカチを軽く払った瞬間、ハンカチが一輪の花へと変わった。

 挨拶代わりに見せてくれたマジックに返事をするように、その花を大善寺さんへと渡した。


「な、なかなかやるな」


 何でか、少し引き攣った顔をしてる大善寺さん。

 今度は大きめの布を取り出すと、自身の右側に掲げ、腰の位置から床までを隠すように広げる。口上を述べた後、布を取り払うと、何もなかったはずの大善寺さんの右側にテーブルが現れた。

 古典マジックのスペシャリストというだけあって、これも有名なやつだ。

 

 次は僕の番だね。

 せっかくなので大善寺さんが出したテーブルをそのまま使おう。

 近づいてペタペタ触ったり、動かしたりして、タネも仕掛けもないことをアピール。

 その際にワイヤーを貼り付けると、得意のワイヤーマジックでテーブルを空中浮遊させた。


 うん、お客さんの反応は良いね!

 大善寺さんはどうだろう。


「どうですか? 僕のマジック」

「い、いいんじゃないかな」


 やった、褒められた!

 ホクホクしながら、後ろに下がって大善寺さんに譲る。


 大善寺さんは続いて、先ほどのテーブルを台座にしてトランプを使ったカードマジックを披露してくれた。

 そのお返しに、大善寺さんのトランプを増殖するマジックを見せる。

 そうやって大善寺さんのマジックに応える形で、僕は彼とのコラボを進めていった。


 いやぁ、凄く楽しいね! やっぱりプロのマジックって、良い刺激になるよ。

 それにしても、この人もしかして……。


「――パフォーマンスはそこまでとします!」


 夢のような時間も終わりを迎え、マスターが締めに入る。


「では……そうですね。対決の結果を判定する前に、お客さんの感想を聞いていきましょうか」


 そう言って、マスターがお客さんにマイクを向けていく。


「葉月ちゃんのは良かったわ~」

「あれ、アドリブだよな。あの幼さで大したものだよ」

「対して大善寺のは何だ。あんなありきたりなもの、今更見せられても驚かん!」

「プロって言う割に、やってることはしょぼいよな」


 お客さんが口々に批評していく。

 その内容は概ね僕が良くて、大善寺さんが駄目、というものだった。

 

「な、な……」


 大善寺さんが小さく呻いてる。

 マスターもここまで、評価が分かれるとは思ってなかったんだろう。困った顔をしてる。

 ……仕方ない、皆が理解してないなら説明しないといけないね。


「皆さん違いますよ!」


 手を挙げて声を張り上げると、皆の注目が僕に向いた。

 マスターが傍に来てくれたので、マイクを借りて話す。


「――大善寺さんは僕との違いを強調するためにあえて、古典的でベタなやつを使ったんです」


 小さなざわめきがお客さんの間で起こった。

 大善寺さんも驚いた顔をしてる。大丈夫、ちゃんと僕には伝わってますからね。


「僕は確かにちょっと変わったマジックをしていました。でも、そうじゃない。基本こそが大事。奇をてらうんじゃなくて、まずは基本を徹底的に極めろ。……大善寺さんはそう言いたかったんですよね?」

 

 大善寺さんへと振り向いて尋ねる。

 実際、大善寺さんのマジックは丁寧だ。かなり基本を忠実に守ってる。

 皆の注目が集まる中、大善寺さんが何度も頷いた。


「そ、その通り。そこに気づくとはなかなかやるじゃないか」


 大善寺さんの言葉にお客さんがザワついた。


「そんな風には見えなかったぞ」

「いや、でも葉月ちゃんが言ってるし」

「本当なのか?」


 半信半疑な言葉が聞こえてくる中、大善寺さんが大きく咳払いした。


「うむ。君はなかなか見どころがある。変わったマジックに手を出してるとこを差し引いても、なかなかに良かった。今後、基本を極めていくことで更に成長できるだろう。その将来性も加味して、ここは引き分けということにしておこうじゃないか」

「いや、でも――」

「それでは、今回の対決は引き分けということにします!」


 大善寺さんの勝ちですよ。そう言おうとしたけど、マスターに遮られた。 


 マスターが拍手をし始めて、釣られてお客さんが一人、また一人と拍手を返す。

 最終的にはお客さん全体が拍手をしてくれて、口を挟む余地がなくなってしまった。


 え? 本当に引き分けで終わるの?

 

「それじゃあ、これからも頑張りたまえよ」

「え? あ、ちょっ。待って――」


 呼び止めようとするも聞いてくれずに、さっさと去っていく大善寺さん。

 マジックについて語りたかったのに……。


「お疲れ、葉月ちゃん」

「あ、マスター。ありがとうございました」


 マスターが凄く嬉しそうな顔で、労いの言葉をかけてくれた。


「いやぁ、凄い盛り上がったね。企画としては大成功だよっ」

「はぁ、それなら良かったです」


 僕としては、最後は釈然としなかったんだけどね。

 それでもお客さんが盛り上がったなら……うん、まぁ文句はないかな。


「大善寺さんについてもありがとう。彼は基本のマジックに固執して、なかなか新しいものに手を出さなかったんだけどね。これで殻を破ってくれたら嬉しいね」

「え? それって……」


 どういうこと?

 あの人、基本が大事だって教えてくれようとしたんじゃないの?


 え? 普段から古典マジックしか使わないの?

 あれ? もしかして僕の勘違い?


 呆然と見てると、ニコニコとしながらマスターがナポリタンを作ってくれた。

 ……まあ、良かったのかな?

 何か釈然としない気持ちで、僕はカウンター席に座った。

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― 新着の感想 ―
まぁ、葉月ちゃんの方が大人だからね… 大人気ない大人の体面を守ってあげたということでしょうw
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