2 ゲームにあるお使い任務ってあまり好きじゃない
変な女の子と、謎のこけしとの戦いを見た翌日。
僕は再び戦いの現場となった河川敷にきていた。
昨晩の時点では情報が多すぎて、混乱していた。
でもあの場から逃げて、落ち着いてから考えてみると一つの考えに思い至ったんだ。
昨日のこけし、研究施設で作られた物じゃない?
研究施設で行われていたのは、僕が知る限りでは人体実験だけだ。だから施設が昨日のこけしみたいな、ロボットだか何だかよく分からないものを作ってたのかどうかは知らない。
けど普通、世の中にあんな巨大なこけしは存在しない。ネットでニュース記事とかを漁って見ても、あんなのが作られたなんて情報は出てこなかった。てことは、あのこけしは表向きには出てこない、裏の世界で作られた可能性が高い。
そして、それが事実なら研究施設があれを作った可能性は高いんじゃないかな。
だからこけしの残骸を調べれば、研究施設について何か分かるかもしれないと考えたんだ。
ふっふ、何という名推理だろうか。
いかに研究施設が街の中に巧妙に隠れていたとしても、この名探偵の目からは逃れられないのだ!
頭の中で名探偵っぽい決めポーズを決めながら、僕は爆散したこけしの残骸漁りにいそしんだ。
それにしても、汚ないな。
辺りを見回すと、こけしの残骸があちこちに散らばってるのが見える。
壊すだけ壊して片付けないなんて、昨日の女の子は悪い子だね。
まあ、そのおかげで今僕が手掛かりを探せてるんだけどね。
でも、それとこれとは別だ。環境破壊に繋がる行為は良くない。
二百年生きてきた中で、自然が減ってくところは沢山見てきた。
蛍が飛び交ってて綺麗な光景を、数十年振りに見に行ったらコンクリートに変わってたり。雪が積もった景色が綺麗で、また見に行こうと思ったらダムが作られてて水に沈んでたり。
そういうのを見る度に、凄い悲しくなったのを覚えてる。生活の利便性を良くするためってのは理解できるけど、やっぱりできるだけ環境破壊は避けたいよね。
せめて僕が後始末をつけよう。
そう思って、後でまとめて捨てれるように一か所に集めながら、残骸を確認していった。
ていうか、あの女の子って結局なんだったんだろう。
こけしと戦ってたってことは、こけしを作った人達とは敵対関係にあるのかな?
何か魔法みたいなの使ってたし、ひょっとしたら僕みたいに何かの実験を受けさせられてて、特殊な力を得た子なのかもしれない。
仮にこけしが研究施設の産物だった場合、一番しっくりくる推測は、あの子も研究施設の犠牲者で、あの魔法みたいな力を手に入れたことで研究施設を脱走。
で、研究施設からの追手と戦ってる。こけしも追手の一つだった。みたいな感じだけど……。
まあ、敵対しなさそうなら何でもいいか。
「……お?」
そうこうしているうちに見つけたのは小さな破片だった。見た目はただの金属板だ。専門家じゃないので、材質は分からない。
僕が気になったのは、破片に印字されていたマーク。丸と三日月を組み合わせたような模様が描かれていたのだ。
これ、どこかで見たような……。
そう、確か――。
「――やっぱり、これだよねぇ」
集めた残骸を片付けて、河川敷を綺麗にした後。見つけた破片を片手に記憶を辿り、街中を歩き回ること数十分。
僕はとある建物に辿りついた。
「村中総合……病院?」
それは大きな病院だった。
壁面には村中総合病院と書かれており、その横に破片に印字されているのと同じマークが描かれている。
人を助ける病院の裏の顔が、人間を使って人体実験する。
いかにもありそうだ。
ありそうなんだけど。
「どう見ても潰れてるよねぇ」
ボソッと呟いて、足元に転がった瓦礫を蹴る。
村中総合病院は廃墟となっていた。
この廃れ具合からして、相当な年月が経ってそうだ。
まさか潰れてるとは思わなかった。だってこけしは昨日の晩に壊されるまで動いてたんだから。
こけしが本当にこの病院で作られたのなら、それはたぶん病院が廃墟になる前のことだろう。てことはこけしが作られて、その後病院が廃墟になって、その後長い間こけしは野放しになっていたことになる。
あんなに大きかったのに誰にも目撃されず、ニュースにもならず。そんなことってあるの?
もしかしたら、この病院の他にも拠点があるのかもしれない。
その手掛かりを見つけるためにも、この病院はしっかり調査しないといけない。
そう思って、壊れて鍵がかかっていない扉を開けて、中に入っていく。
中は荒れ放題になっていた。
灯りもなく薄暗い廊下。通りすがりに部屋を覗くとベッドやら棚やらが無造作に放置されている。
ところどころ床材がめくれてたり窓が割れてたりして、まさしく廃墟って感じがする。
今はまだ明るいからマシだけど、廃病院って何か出そうだよね。凄く不気味な感じがする。
何か雰囲気があるなぁ。幽霊でも出てきそう。
ふとしたタイミングで背後を確認したり。物音が聞こえた気がして、立ち止まって耳を澄ませたり。
ホラーゲームの主人公になったような気分で廊下を進んでいくと一階の奥、突き当りで院長室のプレートがかかった部屋を見つけた。
この病院でこけしロボットを作っていたのなら、院長も間違いなく関わっているはずだ。院長室なら何か手掛かりがあるかもしれない。
ドアを開けて、部屋の中を覗く。
部屋の奥の中心に執務机と、左右の壁に戸棚がそのまま打ち捨てられている。
机の引出しは……何も残ってないや。
戸棚の方はどうだろう。
「……おぉ、これは怪しいなぁ」
並んでいる棚の戸を片っ端から開けていくと、奥の背板部分が扉になっている棚を発見した。
隠し扉ってやつだね。……鍵はかかってないみたいだ。
隠し扉は鍵もかかってなくて、すんなり開いた。奥を覗くと、下り階段になっていた。
間違いなく奥に何かある。この名探偵の目は誤魔化せないね。
昔の探偵小説にありがちなパイプをくゆらせる主人公をイメージしながら、ドヤ顔を決め込む。
そのまま階段を降りていこうとしたけど、途中から真っ暗になって足元が全く見えなくなった。
電気は……つかないだろうなぁ。
仕方ないので、いったん引き換えしてコンビニへ向か。
懐中電灯と、ついでにお菓子も買って。コンビ二袋をぶら下げながら再度廃病院の探索へと戻った。
片手にコンビニ袋を、もう片方の手に懐中電灯を持って、先を照らしながら地下へと降りる。
地下は案外綺麗だった。
地上階は壊れた何かが散乱してたり、窓が割れてたりの荒れ放題。
でも地下はそこまで崩れた様子は無い。
ただ単に、地上に比べて物が少ないからってだけかもだけど。
窓の無い廊下を進んで、途中入れる部屋を覗いていく。拘束具とベッドが置かれた個室。実験場っぽい広間。それらはどう見ても普通の病院ではありえなかった。間違いなく、この地下施設では世間に言えないような、いけないことをしていたはずだ。
あまりにも露骨な部屋に身震いしつつも、僕はどことなく懐かしさを感じていた。
あ、こんな固定具見たことある。僕もこれでベッドに括り付けられてたなぁ。
そうそう、こんな鎖で足首固定されてたんだよねぇ。
ロボットを作るのに、こんな設備は使わないはずだ。どちらかというと……そう、人体実験とかの方が可能性が高いと思う。これはもしかして当たりかな?
奥に進むにつれて、こけしを作ってた集団と、僕が人体実験を受けてた研究施設が同一の組織によるものなんじゃないかという疑いは濃くなっていく。
これはもしかしたら不老不死を解く手掛かり、見つけられるかもしれない。
徐々に大きくなる機体の気持ちを胸に進んでいくと、廊下の端まで辿りついた。施設はここまでのようだ。
突き当った位置には扉が一つ。僕は目の前の最奥の部屋へと入った。
「……すご」
そこは、これまで通りすがりに見てきた部屋とは様相が違っていた。
テレビや写真で見たことがある、スパコンに似た機器が沢山並んでいる。
今は動いている気配はない、機械の塊の間を縫って奥まで行くと、少し開けたスペースに大型のスクリーンと、キーボードが置かれていた。
ここにあるのが本当にコンピューターの類なら、この中に何か情報が残ってるかもしれない。
でも、電気通ってないよね。
どうやって電源を入れようかな……。
『――』
発電機でも持ってくる?
……って、これだけの機器を動かせるだけの発電量だと、相当なサイズになっちゃうか。それをここまで運ぶのは現実的じゃないな。
『――ですか?』
……いや、待てよ? ここの上って元病院だよね……なら自家発電設備があるんじゃないかな。病院って、そういうのの設置が義務付けられてるはずだし。
もしそうなら軽油とか持ってくれば発電できるんじゃ?
軽油もまあ重いけど、発電機持ってくるよりはマシなはずだ。
『――なさってるんですか?』
いやでも、病院がこれだけ荒れてるなら、自家発電用の発電機も壊れちゃってそうだなぁ。
うーん、いい案だと思ったんだけど。
ていうか、そもそも何でここに居た人たちは、こんなの残して去ったんだろう。こんな重要そうなもの、回収していきそうなのに。置いてくってことは、重要な情報は残ってないのかな……。
『何をなさってるんですか?』
「んー、このスパコン? コンピューターを動かしたくてさ」
『でしたら自家発電用の発電機を使用頂くのが確実です』
「でももう壊れちゃってたりしない?」
『自己診断機能によると、メンテナンスモードを起動頂くことで復旧できる見込みです』
「そうなんだ。じゃあ、それで試そうかな……ん?」
さっきから、僕は何と話してるんだ?
何か目の前のスクリーンから声が聞こえてきてるけど。
『どうされました?』
「ええと、君は誰?」
『私は当施設のナビゲーターAIです』
声が主がそう言った瞬間、スクリーンが点灯した。
うわっ、びっくりしたぁ。点灯するなら、するって言ってよ。
あ、スクリーンの上部にスピーカーっぽいのがついてる。ここから聞こえてたのか。
スクリーンを見やると、画面上に文字が浮かび上がってきた。
えーと、何々? ……現在はかろうじて残ってる予備電源で応答してます。ですが自家発電すれば機能をフルに使ってサポート可能。お求めいただいてるコンピューターの動作も可能です、か。
うーん、信じていいのかな?
まぁ、他に方法も見つからないし。良いや、やってみよう。
「ちなみに発電機ってどこにあるの?」
『発電機の場所をお示しします』
問いかけてみると、電子音での回答と共に再びスクリーンが明滅した。
これは……地図かな?
この病院の地図みたいだ。たぶん、ここが僕が今居るとこだね。で、発電機は……ここか。
何かAIとやらに、いいように使われてる感じがするけど仕方ない。
このままここに居てもどうしようも無いので、とりあえずAIの提案にのっかってみることにした。
地図をメモに取ってから来た道を戻り地上に出る。病院内を再び散策し、地図に示された場所を目指す。
辿りつくとAIが言うとおり、確かに発電機はそこにあった。
埃まみれの筐体に触れてみる。
うん、汚いね。何かねちょねちょしてる。
えーと、エンジンの種類は……ディーゼルエンジン? てことは必要なのは軽油かな。
僕は来た道を引き返して病院を出ると、そのまま近くのホームセンターへ向かった。
携行缶とついでに軍手を買って、その足でガソリンスタンドへと向かう。
「いらっしゃいませー」
「すみません、軽油を購入したいんですけど」
「軽油ですね、購入目的は何ですか?」
「あ、ええとですね……」
軽油を買いたいと言ったら、めちゃくちゃ質問された。
くそぅ、だから小さい体は不便なんだ!
店員さんから怪しまれたじゃないか!
店員と一悶着あったものの、なんとか誤魔化して軽油を購入。
そのまま病院へと戻る。
若干飽きてきつつある体を無理やり動かして発電機の元へ行き、軽油を投入して起動させると、AIの言う通り発電機が動き出した。
ようやくお使いが終わった。
僕、ホラーゲームは好きだけど、その中で唐突に挟まれるお使いとかは嫌いなんだよね。ただ面倒なだけだし。
自分がした作業が必要なこととは分かっているけど文句は言いたくなる。
僕はAIに八つ当たりしながら、またスパコンのあった部屋へと戻った。
次話は明日の朝に投稿します。




