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死ねない少女は生き直したい~二百年生きた手品師、魔法少女に巻き込まれて平和を守る~  作者: 柚月由貴
一章

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26 気持ちなんて簡単に変わるもんだね!

 深夜の街中。

 草木も眠るような時刻に、四つの影が行き交っていた。


 影の一つはカニの姿をしたロボット。街の平和を脅かす、悪の兵器だ。

 残る三つは赤と青のアイドル衣装、そして黒いぬいぐるみとバラエティーに富んだ姿をしていた。街の平和を守るために活動する、魔法少女二人とオクタだ。


 彼女達とロボットが邂逅したのは数分前。そこから、戦闘を開始し今に至る。

 ロボット自体の性能は決して低くない。しかし、それは人数の差を覆せる程のものではなかった。

 しばらくの攻防の後、自身が不利と悟るやロボットは逃げだした。

 その不意の行動に、魔法少女達の反応が遅れる。


 その間に距離を開け逃走を成功させたロボットは、その逃走経路上に別の人間がいることを感知した。

 刻まれたプログラムによって、咄嗟にその通行人へと狙いを定める。

 襲って、回収して、撤退する。一連の行動を取った場合の、最良な退避ルートを再選定。

 検討した行動を実行に移すべく、通行人へと襲いかかる。

 通行人に、その鋏脚(きょうきゃく)が届くかと思ったその時――突如として、通行人が搔き消えた。

 

 困惑し、その場で足踏みするロボット。それは決定的な隙となる。

 気づいた時には既に遅く。背後から追ってきていた、赤の魔法少女が描く魔法により動きを止められたロボットは、青の魔法少女が振るう魔法によって破壊されたのであった。



 藤堂さんがロボットを破壊したのを確認した僕は、皆の前に姿を現した。


「皆、お疲れー」

「お疲れさま」

「まあ、大したことは無かったわね」

「葉月ちゃん、囮ありがとうね!」


 労いあいながら、皆でロボットの残骸を片付け始める。


 僕らがやっていたのはロボット退治だ。

 オクタ――優太の過ちで、街中にはまだロボットが何体か解き放たれている。

 それらを破壊するため、こうして深夜に活動してるわけだ。


 ちなみに下村さん、藤堂さん、優太の三人は攻撃役で、僕は囮役だ。

 さっきみたいな感じで、ロボットの気を引いて隙を作るのが僕の役割になっている。


「葉月、あんたその手、どうしたの?」


 藤堂さんからの指摘に、手をみると血が出ていた。

 残骸を触ってる時に、切っちゃったのかな?

 片付けてるのは金属片だし、そりゃ危ないよね。下村さんや藤堂さんのために、軍手を用意しとくべきだったかも。

 次は気を付けよう。


「大丈夫?」

「すぐ治るから平気だよ」


 下村さんが心配してくれたけど、僕のことは特に気にする必要はないんだよね。

 実際、僕の言葉通り、怪我はすぐに治っていった。

 その様子を見ていた下村さんが感心したように息を吐いた。


「はー、凄いね」

「こんな力、要らないけどね」

「宝玉集めてたのも、不老不死をやめるためなのよね?」


 藤堂さんからの問いに頷く。

 彼女達には、僕が宝玉を集めてた理由は既に話してある。

 不老不死であることがバレた以上、秘密にする必要が無くなったからだ。


 その宝玉はといえば、力を失ってしまった。

 優太が世界の崩壊を願い、その後取り止めたことで、貯めてた力を使い果たしたんだと思う。

 だから再び力を注ぐために、宝玉はあの後皆で全て元あった場所に戻した。

 また五十年、力を貯め直しだ。

 

 元々、下村さんや藤堂さんは平和な世界を作るため、という目的で宝玉を集めていた。

 優太のせいで彼女達も願いを叶えることはできなくなってしまったけど、ロボット退治をすることで平和の維持ができるのならば、それでも構わないと言っていた。

 何なら下村さんについては、この活動自体を楽しんでる雰囲気がある。


 だから、五十年後は僕達が宝玉を使って良いことになっている。


 そんなわけで五十年は待たないといけないけど、これからの五十年間はそんなに退屈しないと思う。


 僕のような人から外れてしまった存在を、受け入れてくれる優しい子達が居るし。

 何より優太が居る。


「お姉ちゃん、疲れたー」


 そう言いながら、僕の胸に飛び込んできた優太を受け止める。

 優太は甘えた癖が出てしまったのか、すぐに引っ付いてくるようになった。

 この子も二百歳を超えてるはずなんだけどね。とてもそんな風には見えないや。

 ちなみに、僕の性別が女の子に変わったからか、すっかりお姉ちゃん呼びが定着している。この子も順応が早いね。


 そんな優太が居るから、五十年なんか本当にあっという間に過ぎるんじゃないかな。

 ……そういえば、優太が元人間だと分かった時、一悶着あったんだよね。



 ――あれは僕らが、正式にロボットを破壊する活動を、開始してすぐのことだった。

 藤堂さんが唐突に、優太へと疑問を投げかけてきたんだ。


「――貴方、元男なのよね?」

「そうだね」

「ふーん。……ねぇ、この前銭湯で私達と一緒にお風呂に入ってたわよね?」


 その話題は不味い。優太、何とか誤魔化してくれ。


「……」


 無言になる優太。それは同意してるのと同じだよ?

 藤堂さんの目が据わってる。


「今の僕に性欲は無い。誓って、そういう意図は無かったんだ」


 あ、言い訳に入った。これは駄目だね。


 案の定、正座させられる優太。ぬいぐるみの正座って、絵面がシュールだね。

 優太がこっちを見てくる。

 うん、分かってるよ。


「何で葉月ちゃんも正座してるの?」

「いや、僕も元は男だから」


 二人とも驚いた顔してる。あれ、言ってなかった?

 優太が願いを叶える時に、僕の本名を思いっきり叫んでたのに。

 その後のなんやかんやで頭から飛んじゃったのかな?


 とりあえず、性別が変わった時の事情を伝えると複雑な表情をされた。


「男の子として数年。女の子として二百年か……これ、どっちなんだろ……」


 正確には前世含めると、男としては四十年弱だけどね。

 それは言う必要無いかな。


「……ちなみに、あなたの性自認はどっちなの?」


 性自認なんて難しい言葉、知ってるんだね。

 しかし性自認か……どっちって言われると難しいな。

 考えごとをする時の癖は、間違いなく前世の僕が基準になってる。

 とはいえ、じゃあ今の僕が女性の裸を見たら興奮するのかと言われたら、そんなことも無い。

 思いがけない接触でドキドキすることはあるけど、あれは興奮しているというより、元男として気まずい、みたいな感じだと思う。

 いやでも、そういう意識がある時点でやっぱり男としての意識が強いのかな?


「凄い悩んでるみたいだけど、どうなの?」

「……よく分かんないかな」


 考えたけど結論は出なかった。


 下村さんと藤堂さんが顔を見合わせて、何事かやり取りを始めた。

 あ、困ってるねこれ。


「――ねぇ、男に戻りたいって願望はあるの?」


 しばらく待ってると、また尋ねられた。


「男に戻る?」

「そう。宝玉の力で不老不死じゃなくなった後は、身体が成長してくわけでしょ? そうなった時に男に戻りたいかどうかってこと」

「それは、戻るつもりはないかな」


 尋ねられた意味を理解して、僕は即答した。


「断言するわね」

「間違いない?」

「うん、間違いないよ」


 普通の身体になって、普通に成長していくことになったら、たぶんまたプロのマジシャンを目指すと思う。

 なら、前世には無かった華を手放す理由は無い。

 仮に男に戻っても、イケメンに成長できるなら華は出るとは思う。

 けど僕が、元々どういう顔だったかは覚えてない。イケメンに成長することに賭けるよりは、天才少女として名を馳せて、そのままプロに入る方が話題性も産みやすいと思う。何せ、女性のマジシャンってのは世界的に見ても、まだまだ人口が少ないからね。


「分かった、信じるね」


 下村さんが頷いた。

 藤堂さんはまだ微妙そうな顔だ。


「とりあえずオクタ。次入る時は、あんたは男風呂ね」

「はい」

「僕は?」

「葉月ちゃんは一緒に入ることを認めます」

「「え??」」


 いいの?


「前一緒に入ったときも、私達の身体をじろじろ見てくることは無かったしね」

「なにより、葉月の身体で男風呂に入らせるわけにはいかないでしょ」


 あぁ、まあ確かに。今の僕が男風呂に入ったら問題になるね。


「オクタの認識阻害の魔法を使えば、男の見た目になって男風呂に入ることはできるけどね」

「何言ってるのよ」

「でも、藤堂さんは嫌じゃないの?」

「……微妙だけど、仕方ないでしょ」


 なるほど、複雑な感情が入り混じってるのかな?

 うーん、申し訳ないね。とりあえず、これからは一緒に入ることは避けようかな。

 いや、まあ前回も遠慮はしようとしてたけどね。



 ――とまあ、そんな感じのやり取りだ。

 そういう話をするってことは、彼女達には僕から離れていくつもりはないって考えて良いと思う。

 

 本当に優しい子達だよ。だから僕としても、彼女達の役には立っていきたい。


 僕は元々死ぬつもりで不老不死をやめようとしてた。でも今は、不老不死自体は解くつもりだけど、死ぬつもりまではない。

 こんな僕を受け入れてくれた優しい子達に報いたいし、それに何より、こんな甘えたで可愛い弟を一人にはできないからね。


 まずは優太の身体を元の人間に戻して、で僕の不老不死を無くして。そこからは一緒に大人の身体へと成長できれば良いかなって考えてる。


「オクタ、今日も葉月ちゃんのとこに泊まるの?」

「うん、そのつもりだよ」


 とりあえず、しばらくはこの甘えたをあやすとしますか。


 全く、退屈しなくていいね!

ここまでで一章が完結となります。

読んでくださった皆様、ありがとうございます。

次からは幕間の話を数話挟んだ後、二章に入っていきます。

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