25 雨降って地固まる?
「えーと、葉月ちゃん。説明をお願いしたいんだけど」
下村さんが困った顔で尋ねてくる。
状況を把握しきれてない様子だ。
まあ、オクタ――優太との会話は聞こえてなかっただろうから、当然だろうね。
世界を崩壊させるべく広がっていた闇は優太が願った後に全て消えてくれた。
今は元通りになった部屋で、肝心の優太はと言うと――。
視線を下に落とす。
座り込んだ僕の膝に乗っている優太。
僕のお腹に顔を埋めたまま、さっきから全く動かない状態。
さっきまで世界の崩壊を願ってた子が、いきなりこんな甘えたになったらびっくりするよね。
でもなぁ、これ説明しようとすると結構胸糞悪い話をしないといけないんだよなぁ。
下村さんと藤堂さんを交互に見る。
二人とも納得するまで引き下がりませんって顔してる。
「うーん。嫌な思いすると思うけど、それでもいい?」
「構わないわ」
「もちろん、どういうことか聞かせて」
二人が頷いた。そっか、じゃあ自己責任ってことで。
「えっと、ゆ……オクタの目的が平和な世界じゃなかったってのは分かってるよね?」
「うん、誰かの復活を願ってたね」
「それ、僕のことなの」
「「え?」」
あれ、聞こえなかった?
「オクタは僕の復活を願ってたんだよ。でも、僕はちゃんとここに生きてる。だから宝玉は何も反応しなかったんだよ」
「どういうこと? もっと、分かるように説明して」
「そもそも葉月ちゃんってオクタとは知り合いじゃなかったんだよね?」
「そこなんだけどね――」
そこから簡単に説明する。
僕らが実験施設で育ったこと。謎の実験を受けさせられて、謎の薬を投薬されてたこと。
結果、僕も優太も見た目が大きく変わってしまったこと。副作用で僕は不老不死に、優太はどうやら不老で謎の力を持つようになったこと。
施設は爆発して脱出はできたけど、その際にはぐれたこと。
話が進む度に二人の顔が曇っていく。
「酷い……」
「最低……」
そういう反応になるよね。聞いてて気持ち良い話じゃないからね。
「そんな訳で、実は僕とオクタは知り合いだったってわけ」
「てことはオクタが妖精だってのは嘘だったってこと?」
「うん、二人を騙してたことになるね」
二人とも複雑な表情をしてる。
優太にとっては変な力を持ってる理由を説明するのに、自分は妖精だってことにしといた方が楽だったんだと思うけど、彼女達からしたらそんな事情は知ったこっちゃないもんね。
「二人とも……ごめん。騙してて……」
いつの間にか泣き止んでた優太が顔を上げて、二人に向かって謝った。
「……それで、葉月ちゃんともう一度会いたくて宝玉を集めようとしたってこと?」
下村さんの問いに頷く優太。
「一人は寂しかったから……」
そりゃそうだろうね。僕も一人で生きてくことに飽きたから、死のうとしたわけだし。
施設には他の兄弟も居たはずだけど、一人だったってことは逸れたのか、あるいは死別しちゃったのかもしれない。何せ二百年も経ってるし。
そうだね……他の皆は、流石に亡くなってるはずだもんね……。
……うん、孤独はキツイよ。
「そっか……葉月ちゃんの話だと二百年だっけ? 一人だったってことだもんね……」
下村さんが曇った顔をする。
やっぱりこの子は優しいなぁ。
自分が騙されてたってのに、それよりも優太の境遇に同情しちゃうんだから。
藤堂さんはどうだろう?
彼女を見ると、俯いてる。
拳を強く握りしめてるし、肩も震えてる。
「……ざけるんじゃないわよ」
あぁ、怒ってるね。
まあ、仕方ない。騙されてたんだし、むしろ彼女の方が普通の反応だと思う。
「あんたにどういう事情があったとしても。あんたが私達を騙したことは許されないわ」
「渚……」
「……そうだね。許してもらえるとは思わないよ」
藤堂さんが顔を上げた。
罵詈雑言でも飛んでくるかなと身構える。
「だから、責任を取って」
「責任?」
「私達を巻き込んだ責任よ」
責任かぁ。
何を要求するつもりなんだろう。
僕にも手伝えることかな?
「いいよ。君が望むことをできる限り叶えると約束する」
優太が頷く。ちゃんと自分がやったことのけじめをつけるつもりなんだね。偉い子だ。
しっかりと向き合う姿勢に少し胸を打たれる。
あの、泣き虫な優太が……成長したんだね。
いや、そりゃ二百年も経ってるから当たり前なんだけどさ。でも僕からしたら、幼い時の優太の記憶しかないから。
弟の成長を目の当たりにして、人知れず感動してる前で、藤堂さんが宣言した。
「これからは本当に平和のために働きなさい! 私達と一緒に」
……そうきたかぁ。
確かに優太が解き放ったロボットはまだ街に溢れてるだろうし、それらを放置はできないよね。
でもこれって別に罰を与えるって感じじゃないね。今までやってきたことを続けるってだけだし、優太にペナルティがある訳じゃない。
これからの行動次第ではあるけど、ちゃんと許してくれるつもりなのかな?
優太からも、驚いた気配がした。
「……分かった。誓うよ」
「ならばよろしい」
優太の返事に、満足気に頷く藤堂さん。
この子もやっぱり良い子だね。
「葉月、あんたはどうする? 宝玉とは関係ないし、抜けてもいいわよ」
藤堂さんが、今度は僕を見て尋ねてきた。
「いや、僕も付き合うよ」
「そ、じゃあまあ、これからもよろしくね」
「うん、よろしくね」
下村さんが意地悪そうな顔で尋ねてきた。
「ね、ね。私達ってことは私も入ってるんだよね? 私の意思確認はしてくれないの?」
「何? あんた嫌になったの? だったらあんただけ抜けてもいいわよ」
「いやいや、抜けるわけないじゃん」
何言ってんの、と笑う下村さん。
そのまま二人で言い合いが始まる。
うーん、彼女達はこれが普通なのかな?
とりあえず、丸く収まったってことで良さそうだね。
一件落着ってやつだ。
「――あれ、そう言えば」
「どうしたの? あさひ」
下村さんが何事かを考える仕草をしてる。
「オクタと葉月ちゃんって、姉弟みたいなものって感じなんだよね?」
「そうだね。兄弟だと思ってるよ」
「ふーん」
何だろう。凄い意味ありげな相槌なんだけど。
「いやさ。ここに来る前、オクタって葉月ちゃんのこと、めった刺しにしてたよなーって思って……」
「……」
……あぁ、そう言えばそうだった。
優太を見る。
まだ下村さんの方へと顔を向けていた優太が、ゆっくりと、ぎこちなく振り向いた。
「ごめんなさい~」
「あぁ、よしよし。気にしてないから、大丈夫だよ」
謝りながらも、また泣きだした優太。
泣き虫な弟が落ち着くまで、その背中を僕は撫で続けたのだった。




