20.5 とある一夜の一幕
今回は魔法少女側のお話になります。
「まだ落ち込んでるの?」
掛けられた言葉に、下村朝陽は顔をあげた。
そこには魔法少女の姿に変身した藤堂渚の姿があった。
「オクタが大丈夫だったって言ってたじゃない」
「そうだけどさ」
二人の話題は一人の少女についてだ。
葉月――苗字も知らない、小学校高学年程の子供。
その実、中身は二百歳を超える高齢者なのだが、それを知る由は彼女達にはない。
朝陽は彼女のことを、ことさらに気にかけていた。
そのために蛇ヶ峰での一件は彼女を落ち込ませていた。
「何でそんなに気になってるの?」
「何でって……」
「だって、言っても他人じゃない。しかも知り合って間もない。あんたがそこまで気にかける必要はあるの?」
渚からの問いかけに、朝陽は考える。
まだ子供だから?
違う、子供という意味では朝陽も渚も変わらない。
最初に自分を助けてくれたから?
それもしっくりこない。
もっと、別の――。
「――あの子の目、ちゃんと見たことある?」
問い返され、渚は思い出すように視線を空中へと走らせた。
「いつも死んだ魚の目をしてるわね」
ややあって答えた渚に頷きを返す朝陽。
「吉井先生と同じだわ」
「よっしーも目が濁ってるよね」
続く渚の言葉に、思わず朝陽は笑った。
「前まーかがそのことを聞いたらさ、『お前らも大人になったら分かるさ』って言われたらしいよ」
「何それ。……それじゃあ、同じ目をしてるあの子も大人になるわね」
「本当だね」
今度は二人で笑う。脱線していた話は、そこで止まった。
ややあって、朝陽が口を開く。
「……確かに死んだ目をしてるけど。でもさ、手品を見せてくれた時の葉月ちゃんは違ったんだよ」
「手品? ……あぁ、あんたの家で集まって話をした時の」
「うん、あの時の葉月ちゃんはすっごく目がキラキラしてた」
葉月が楽しそうに手品を披露する姿を思い出す朝陽。
それは小さい子が覚えたての手品を、周りに見せる時と同じような無邪気さを湛えていた。
「……あの子は普通の女の子なんだよ」
あの姿を見て朝陽は確信した。
葉月はどこにでもいるような女の子なのだと。
断じて、死んだ魚の目をしていい子ではないのだと。
「私さ、あの子は何かに苦しんでるんじゃないのかなって思うんだよね」
「何か?」
「だってあんな小さいのに、宝玉を集めようとしてるんだよ? それが悪い奴らに騙されてるんだとしたらさ。じゃあ、あの子の親は何してるの? ってならない?」
「それは……嫌な予想しか思い浮かばないわね」
親に止められることなく行動する葉月。
そこから思い至る可能性。
親がそもそも悪い奴らなのか。あるいは親が悪いやつらに捕まってて、言う事を聞かされてるのか。
他にも幾つか思いつくが、どれも決して前向きなものではない。
それを思うと朝陽は顔を顰めた。
渚もまた、葉月は親から虐待を受けているのではと考えていたが、それを口に出して大事にして良いのかという思いがあったため、自身の考えは朝陽には伝えていなかった。
「もしあの子が助けを必要としてるなら、何とかしたいじゃん」
「まあ、それは間違いないわね」
「でしょ? それで、実は助けなんかいらなかったって言うんなら、別にいいんだよ。取り越し苦労で終わるなら、それでいい」
朝陽の言葉に渚は黙った。
「渚だってそうなんでしょ?」
「……そりゃ私だって、あの子が困ってるなら助けたいわよ」
「やっぱ一緒じゃん」
「うっさいわね」
朝陽からの指摘に、顔を逸らす渚。
素直じゃない戦友の態度に、朝陽は声を出して笑った。
改めて考えて、言葉にして朝陽の中で気持ちは定まった。
迷いがなくなったことで、その表情はスッキリとしていた。
渚もまた、朝陽との会話で改めて思うところがあったのか、やる気に満ちた表情を浮かべている。
――そこへ一つの影がやってきた。
「二人とも、待たせたね」
やってきたのはオクタ。
謎が多い妖精。
「オクタ、遅いよ」
「何してたの?」
「ちょっと野暮用でね。……二人とも気合い入ってるね」
先程の二人の会話を知らないオクタが不思議そうにする。
二人は互いに顔を見合わせると、どちらからともなく小さく吹き出した。
「まあ、ちょっとね」
「色々あるのよ」
「そうかい? まあ、やる気に満ちてるなら僕から言うことは無いよ」
良く分からないなりに、オクタは頷いた。
「それじゃあ、次の宝玉を回収しに行こうか――」
二人と一匹は気合いの入った眼差しで最後の宝玉へと向かう。




