21 気持ちを切り替えたい時は、やっぱこれだよね
下村さんから連絡が来た。
残りの宝玉を手に入れたらしい。
彼女達は今、六個の宝玉を持っているわけだ。
後は僕が持つ火の宝玉だけになったので、それを譲ってもらうために胡散臭いやつと会いたいと言ってきた。
僕が宝玉を持っていけばいいだけなんだけど、彼女達はそれを嫌がった。
何でだろう。
彼女達が言う胡散臭いやつってのはAIのことだ。そのAIのもとに連れていくってなると、あの廃病院に連れていくことになる。
AIと彼女達を引き合わせたところで、僕の不老不死がバレることは無い。けど、下村さん達にAIが敵だって認定されて破壊されたら、五十年後宝玉を集め直す時に僕が困る。
とりあえず会おうと連絡を返して、数日後に待ち合わせを設定。
スマホを放り投げて、ホテルの部屋のベッドに寝転んだ。
――さて、どうしようかな。
AIと話し合った結果、オクタは下村さん達を騙しているんじゃないかという可能性が高くなった。
もちろん、そうじゃない可能性もあるけど、騙してるって考えた方が辻褄が合うことが多いのだ。
僕は下村さんや藤堂さんを助けたいのかな?
正直、彼女達とはあまり関わりたくない。人と関りすぎるとろくなことにならないのは、今までの経験で嫌というほど知っている。
でも関わりたくないだけで、彼女達のことが嫌いなわけじゃない。
見て見ぬふりをしたことで彼女達が不幸になったら、それはそれで後味が悪い。
けどオクタが彼女達を騙してるって推測も、可能性が高いだけでまだ確定したわけじゃないんだよね。
オクタが実は良いやつなら、気にする必要は無い。
でもなぁ……。
ダメだ。全然考えがまとまらないや。
二百年も生きてて、こういう時にぐだぐだ悩むだけって情けないよなぁ。
凄い長く生きてるのに、年の功なんてありゃしないよ。
まぁ人と関わらずに、無駄に過ごしてた期間が長いのが原因なんだろうけど。
……ダメだ。すぐに思考が逸れちゃう。
このまま考えていても良い考えは浮かばなさそうだ。
僕は気持ちを切り替えるべく、放り投げてたスマホを取るために起き上がった。
◇
「――ありがとうございました」
お辞儀をしながら挨拶する。
顔を上げた時には沢山の拍手に迎えられた。
考え過ぎの頭を切り替えるために、気分転換のためにやってきたのは手品のバイトをさせてもらってるカフェだ。
――いいね、やっぱり手品は楽しいや。
手品をしてる時は、パフォーマンスのことだけを考えて無心になれるしね。
「お疲れ様。今日も良かったよ」
挨拶回りが終わってカウンターへと向かうと、マスターがいつものように出迎えてくれた。
「ありがとうございます」
「今日も何か食べてく?」
「はい。それじゃあ……ナポリタンでお願いします」
注文してからカウンター席に腰掛ける。
待ってる間に、また思考は下村さん達のことへと戻っていく。
……そもそも僕、何でここまで彼女達のことを気にしてるんだろう?
悶々と考えてると、マスターがナポリタンを作ってくれた。
「ありがとうございます」
「どういたしまして。……ね、葉月ちゃん。何か学校で嫌なことでもあった?」
マスターの言葉に、思わずむせた。
「な、何で?」
「何か悩んでる風だったから」
この人、鋭いな。
どうやって誤魔化そ……いや、待てよ。
マスターってカフェを経営してて、人付き合いの経験が豊富そうだよね。掻い摘んで相談してみてもいいかも。
どうせ自分だけじゃ結論出せないし。
「学校って言うか……人間関係かな?」
「また大人びたこと言うね」
濁して答えると、苦笑された。まあ、僕大人だしね。
さて、何て説明しようかな。
「……近所のお姉さんがね。凄いぐいぐい来てて」
「ふんふん」
「でも僕はお姉さんとはあまり関わりたくなくて、それで距離を取ってたんだけど……そしたら今度はお姉さんのことが何か気になっちゃって。危ないことにならないかなって」
凄く曖昧な説明になっちゃった。
でも隠したいことを隠すとこうなっちゃったよ。
伝わらないかな?
「危ないって、危険なことしてるの?」
「あ、そういうのでは無くて……事故に合わないかなぁ、みたいな感じ?」
嘘です。本当は危ないことしてます。
でも、そうとは言えないので誤魔化した。
「ふーん、なら良いけど。ええと、つまり葉月ちゃんはそのお姉さんにあまり関わりたくない。けど、お姉さんは何かをしてて事故に合わないか心配してる。近づきたくはないけど、気になっちゃう。って感じ?」
心配……心配か。確かに、僕が彼女達に抱いてる気持ちは、心配なのかもしれない。
マスターの言葉は意外にしっくりきたので、頷いた。
「まぁ、そんな感じかな?」
「なるほどねぇ。……葉月ちゃんは、そのお姉さんのことが嫌い?」
マスターの問いかけに首を横に振る。
関わりたくないだけで、別に嫌いな訳じゃない。
「じゃあ好き?」
うーん、どうだろう。好き、は違う気がするなぁ。
「ごめんね。無理に答えなくていいよ」
悩んでると何故か謝られた。
別に困ってたわけじゃないんだけどな。
意味を察しかねていると、マスターが微笑んだ。
「葉月ちゃんは優しいんだね」
「……どういうこと?」
意味が分からずに問いかけると、マスターが微笑んだ。
「葉月ちゃんはたぶん、自分の損か、他人の損かで悩んでるんじゃないかな」
「自分の損か、他人の損?」
「そう。そのお姉さんに近づきたくないのは自分が嫌だから。でもお姉さんが嫌いなわけじゃないから、心配しちゃう。自分が嫌な思いをするのか、お姉さんに嫌な思いをさせるのか。その二択になりそうで、迷ってるんじゃないかなって思ったの」
言われて、納得する。
確かに、そう考えるとシンプルだ。
彼女達に関わりたくないのは、僕が化物扱いされるのが嫌だからだ。
元々はそれだけだった。
でも今は、その彼女達が騙されてるんじゃないかって可能性が出てきて、心配してるわけだ。
彼女達と関われば、化物扱いされるかもしれないけど、彼女達が最悪の事態になるのは防げるかもしれない。
彼女達と関わらなければ、化物扱いはされない。でも、彼女達が知らぬ間に酷い目に遭うかもしれない。
自分が嫌な目に合うか、彼女達が嫌な目に合うかの選択ってことだ。
「そういう二択って難しいよね」
悩んだ顔をしながら、マスターが続ける。
「葉月ちゃん。迷ってるなら、そのお姉さんがどれだけ心配かで考えればいいんじゃないかな?」
「どれだけ心配か、ですか?」
「そう。自分が嫌になる気持ちを抑えてでも、お姉さんのことが気になるなら会いにいけばいいし。そこまでなら自分のことを優先すればいい」
続くマスターの言葉に少し驚いた。
こういう時って、気になるなら彼女達の方を優先した方が良い、みたいな綺麗ごとを言われると思ったのに。
「お姉さんのこと、気にした方がいいって言わないんですね」
「大事なのは自分の気持ちだよ」
そう言って、マスターが水のおかわりを注いでくれた。
自分の気持ち……か。
それなりに交流を持ってた人から化物扱いされるのは、やっぱり辛い。
でも――。
「葉月ちゃん。ちなみに、そのお姉さんってどんな人なの?」
「どんな……うーん、変わった人かな?」
「何それ、変わってるんだ」
マスターが呆れてる。
とは言ってもなぁ。
彼女達のことを思い出す。
やたらとテンションの高い下村さんは、何かやたらと構ってくるし。
妙に圧が強い、ツンツンとした藤堂さんは、何だかんだ優しいし。
……うん、やっぱり二人とも変わり者だよ。
だって、得体の知れない自分のことをいつも心配してくれてたもん。
――そうだね。決めた!
「ありがとうございます。おかげで、気持ちが決まりました」
「そう、お役に立てたなら良かったよ」
そう言ってウィンクするマスター。
茶目っ気もあって、しっかり相談にものってくれて、料理も上手い。
むぅ。僕の方が歳上なのに、人間としての中身で完敗してるや。
ご飯も食べ終えた僕は、スッキリした気持ちと、小さな不満感を持って店をあとにした。




