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死ねない少女は生き直したい~二百年生きた手品師、魔法少女に巻き込まれて平和を守る~  作者: 柚月由貴


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19/24

18 決意してもうまくいかないもんだね

 下村さん達と約束した週末がやってきた。

 彼女達とは距離を置くことに決めたけど、既に約束していることは守るべきだと思う。

 だから今回までは一緒に行動する。それでおしまい。

 次からはどれだけ誘われても、彼女達には付き合わないつもりだ。


 待合せ場所である駅前に集合して、そこからバスに乗る。向かう先は市内から少し離れた蛇ヶ峰という山だ。


 何でもハイキングの目的地としても利用される山らしく、下村さん達も以前に学校の行事で行ったことがあるらしい。

 山の麓までバスで向かい、そこからは山の途中まで歩いて登る手筈だ。


 バスに揺られて一時間くらいだろうか。

 目的のバス停にたどり着き全員で降りる。市内ではハイキング先として有名とはいえ、時間も昼を過ぎてるからか一緒に降りる人は居なかった。


 バスを降りて真っ先に目についたのは、これみよがしに立てられた看板だった。

 これは……この山のハイキングコースだね。

 山の全景がデフォルメチックに描かれていて、そこにハイキングコースと要所要所での観光ポイントが載っている。

 蛇ヶ峰の見た目自体は普通の山だ。ハイキングコースが蛇のように蛇行してるのが特徴的ってぐらいかな。これが山の名前の由来なのかもしれない。

 それにしてもコースが長いなぁ。


「うへぇ」


 これから、頑張って登らなきゃいけないのかと考えると、思わず悪態が口をついて出た。


「葉月ちゃん、頑張ろう」


 重い足取りで前に進もうとすると、そんな言葉と共に手を引かれた。顔を上げると下村さんが僕に笑いかけてる。 

 仲良くされても困るんだけどなぁ。


 視線を逸らして、そっと手を解く。

 一人で歩き出そうとすると、直ぐに強く握り直された。えぇ、拒否してるのが伝わらなかったのかな?

 もう一度手を解こうとしたけど、今度はしっかり握られて離してくれなかった。


「あなたたち、何してんのよ」

「ふふ、いいでしょ」


 下村さんの手としばらく格闘してると、藤堂さんが話しかけてきた。

 呆れた感じに言われても、僕は被害者なんですけど。

 下村さんも、何か余裕ある返事してるし。僕とのやり取りは遊びぐらいに思ってそうだ。

 ぬぅ、力の差がありすぎる。仕方ない、ここは我慢しようか。


 諦めて手を握ったまま、登山を開始する。

 山を登ってると途中、下山してくる人達と何組かすれ違った。


「今から登ってたら日が暮れるよ」


 中にはそんな風に注意してくる人達もいた。

 僕達としては人目につかないよう宝玉を回収したい。

 だから日が沈んでくれた方が都合が良いのだけど、それは言えないので気遣いに対するお礼だけ伝えて登山を続ける。

 それにしても、すれ違う人達の反応が気になる。僕達が子供だけで山を登ってることに疑問を抱く人がいないんだよね。前に銭湯でオクタが使ってた、認識阻害の魔法が関係してるのかな。


 そんな疑問を抱きながらも登り続けて、ある程度のところまで登ったところで広場に出た。どうやら展望エリアになってるみたいだ。トイレやベンチが設置してある。


「ちょっと休憩しない?」


 下村さんの提案で暫く休憩することになった。

 トイレに行ったり、ベンチに座ったりと皆が思い思いに休む中、手持ち無沙汰になった僕はトイレの横に立てられていた看板を見上げた。

 麓で見たのと同じ、ハイキングコースの絵だ。違いは現在地の表示。今見てる看板では山の半分ぐらいの位置にいることになってる。

 頂上まではまだ半分も残ってるのか……、


「――何を見てるの?」


 まだまだ先があることにうんざりしてると、横から声をかけられた。

 顔を向けると藤堂さんが僕と並んで、同じく看板に目を向けていた。その隣にはオクタもいる。


「道がうねうねしてるなって」

「何それ……まぁ、確かにうねってはいるわね」


 本音を言うのもなんとなく恥ずかしかったので、適当なことを言って誤魔化した。藤堂さんには何か呆れられたけど、同意の言葉はくれた。


「この山の名前って、ここから取ってるのかな」

「名前って蛇ヶ峰のこと? 違うわよ。確か名前の由来になった伝承があったはずよ」

「伝承?」

「なんだったかな……たしか昔、この地方の領主のお姫様がね、家臣の男と恋仲になったんだって。でもそれを知った領主が激怒して、その家臣を処刑したの」


 悲しみに暮れたお姫様は三日三晩泣き続けて、最後には大蛇になって天に昇っていったのだと藤堂さんは続けた。

 僕らが目指す頂上の祠は、お姫様が泣き続けて大蛇になった場所らしい。


「へぇ……そんな話があるんだ」


 なんだ、ハイキングコースの道がうねってるのはたまたまか。


「人が蛇になるってのも凄い話だね」

「そう? 昔話だとそういうのありがちじゃない?」


 横で黙って聞いてたオクタも感想を告げてきた。けど、それには藤堂さんが異を唱えた。

 僕も藤堂さんの意見には賛成だ。人が鬼になったりとか、そういう伝承もあったりするし。昔話の中には割とあると思う。

 オクタはあまりそういうのは詳しくなさそうだね。


 と、そういえば気になってることあるんだった。

 ちょうどいいタイミングなので、僕はオクタへ登山中に思ったことを尋ねた。


「ねぇ、今も認識阻害の魔法って使ってるの?」

「うん。すれ違った人達には、僕達が“普通の大人”に見えてるはずだよ」

「そうなんだ。便利だね」

「まあね」


 やっぱりそうか。だから子供だけで山を登ってても、誰も気にしなかったわけだ。

 でも本当、魔法って便利だね。僕にも使えたら、もう少し生きやすかったのかな。

 まあ、そんなこと考えても今更だけどね。


 それから少しして登山を再開した。

 太陽は傾き始めて、次第に辺りが暗くなっていく。


 頂上近くの開けた場所に辿り着いた時には、日はすっかり暮れていた。

 登山客も当然、見当たらない。

 見渡すと、巨大な一本の木の前に小さな祠があった。

 あれが伝承の、お姫様を祀った祠なんだろうね。


「それじゃあ、はじめよっか」


 そう言って下村さんが祠へと近づいていく。

 下村さんはいつの間にかアイドル衣装に変わっていた。

 振り返って藤堂さんを見ると、彼女もすでにアイドル衣装になっていた。

 全然気付かなかった。魔法少女の衣装には、着替えるんじゃなくて変身してなるみたいだね。着替えてたなら、流石に気づくと思うし。


「祠に眠りし宝玉よ。今目覚めて真の姿を表せ」


 祠の前で、下村さんが符丁を唱える。


 ――ゴゴゴゴッ。


 地面が揺れ、木の根がうねるように動き出す。

 根が絡まり、寄り集まり、一つの塊になっていく。

 その姿はまるで――。

 

「……蛇?」


 そう、大きな蛇だ。根の塊は、まるで巨大な蛇のような形になった。

 さっき聞いた大蛇伝説を思い出す。


 考えてるうちに蛇もどきが動きだす。

 もしかして、二宮君みたいに逃げるのかな――

 そう思った瞬間、蛇もどきは僕達に向かって突っ込んできた。


「速っ……!」


 予想外に早い。避けきれそうにない。でも体当たりくらいなら喰らっても平気かな――そう思ったのも束の間。

 蛇もどきの『顔』に当たる部分が、パカッと開いた。


「えぇ……」


 次の瞬間、僕は為す術なく蛇もどきに飲み込まれた。



「――葉月ちゃん!」


 葉月が木の根で構成された大蛇に呑まれたのを見て、朝陽が叫んだ。


 朝陽が符丁を唱えたことで出現した大蛇は、体を形作ると同時に朝陽達へと突進した。

 その突撃をギリギリで躱した朝陽と渚、そしてオクタであったが、葉月は吞み込まれてしまった。


「やるわよ、朝陽!」


 渚がハンマーを構える。


「ちょっ!? そんなもん振って、葉月ちゃんに当たったらどうするの!」

「――っ!」


 朝陽が慌てて止めに入る。

 渚もハッと気づき、攻撃を中断した。

 そこへ再び大蛇が突進してきて、二人は大きく跳躍して避けた。


「どうすりゃいいのよ!」


 渚が悪態をついた。

 今回の試練がそういう性質なのか、大蛇は彼女達へと突進を繰り返し体内に取り込もうとする。

 だが、渚達には反撃ができなかった。

 葉月の位置が分からない以上、下手に反撃すると葉月に当たる可能性がある。

 幸いにも大蛇の突進は直線的で避けられるため、一方的にやられるということはないが、こちらから手出しできない以上は完全な膠着状態に陥っていた、


「……仕方ない。攻撃しよう」


 二人が迷う中、沈黙を破ったのはオクタだった。


「本気!?」

「そうだね。できるだけ彼女に当たらないよう、狙うのは尻尾の方にしよう」

「それでも怪我するかもじゃん!」

「最悪、怪我しても彼女には治せる仲間がいる」


 淡々とした口調で語られて、朝陽と渚は言葉を詰まらせた。


「今、最悪なのはこいつを取り逃して宝玉が手に入らなくなることだよ」


 朝陽は俯いた。

 脳裏に浮かぶのは、葉月の諦めたような目。

 たとえ酷い火傷を負ったとしても自分を省みない、幼い少女の姿。


(……攻撃したら、あいつらの背後にいるやつらと同じじゃん)


 葉月の背後にいるやつは、葉月の体を傷つけることを厭わない悪いやつ。

 今攻撃したら、それと同類になってしまう。

 そんな想いが朝陽の脳内をめぐる。


「ふざけないでよ……ここで葉月を傷つけたら、意味が無いじゃないのよ」


 大蛇の突進を躱しながら渚が呻いた。

 彼女もまた、朝陽と同じ心境にあった。


「……ない」

「何? あさひ?」


 小さく呟いた朝陽に渚が尋ねる。

 答えるように顔を上げた朝陽は、強い目をしていた。


「私はあの子を見捨てないって決めたんだ!」


 言い捨てて、大蛇を睨みつける。


「当然でしょっ。でも、じゃあどうするのよ!」

「渚はあいつを仕留める準備をしてて!」

「え? ちょっと、何するつもり!?」


 返事も待たず、朝陽が大蛇に向かって全力で走り出す。

 大蛇もまた迎え撃つように口を開いて朝陽へと突撃する。

 これまでなら避けていたその突進に対し、朝陽は迷わずその口の中へ飛び込んだ。


「「あさひ!!」」


 オクタと渚の叫び声を背に朝陽は大蛇の体内へと潜っていった。



(――葉月ちゃん、今行くから!)


 大蛇の体内は、狭く、暗く、圧迫感があった。

 だが魔法少女の身体能力なら、押し広げながら動ける。

 朝陽は力強く、体内を進んでいった。


 どれだけ進んだだろう。

 前方に、小さな足が見えた。


「葉月ちゃん!」


 呼びかけると、足がピクリと動いた。

 生きてる――それだけで朝陽の胸が熱くなる。

 さらに進み、ようやく葉月の顔が見えた。

 葉月もまた朝陽の方へ顔を向け、驚いた表情をしていた。


「今助けるからね!」

「待って朝陽さん。この先に宝玉があるんだ」

「え?」


 奥を見ると、木の根が密集して塞いでいる。

 その隙間から、かすか光を放つものがあった。――葉月の言う通り、宝玉であった。


「そこにあるんだけど、手が届かなくて」


 その言葉に朝陽は息を吞んだ。

 葉月は大蛇に吞み込まれてなお、宝玉を目指していた。


(ほんと……この子は)


 唇を噛み、朝陽は言った。


「ありがとう。私がやるよ」


 膝立ちになり、背中で周囲を押し広げる。

 腕がある程度自由になったところで、ローラーを振る。

 ローラーから飛び出た魔法の絵の具が根に当たり、木の根を破壊した。


 宝玉が露出した。――瞬間、周囲からの締め付けがさらに強くなった。

 急激な負荷に体を支えきれなくなった朝陽は倒れ込み、葉月に抱きつく形になる。

 宝玉の方を見ると、新しく生えてきた木の根によって、再び覆われていた。


「葉月ちゃん、ごめん!」

「大丈夫だよ……ねぇ、朝陽さん。もう一回さっきのできる?」

「え?」


 締め付けられて苦しいはずなのに、葉月の声は驚くほど穏やかだった。


「魔法を撃った後、十秒……いや五秒でいいよ。周りを支えてくれたら、その間に僕が取るよ」


 朝陽は考える。

 締め付けはきつい。根の再生も早い。葉月が手を伸ばして、宝玉を手に入れるまでの間に根が再生したら。

 待っているのは悲惨な結末かもしれない。それなら、渚やオクタの助けを借りた方が、より安全なのではないか。

 でも――。


(私は誓ったはずだ。葉月ちゃんを信じるって……!)


「分かった。十秒と言わず二十秒でも三十秒でも支えてあげる」

「ほんとに? じゃあ一分ぐらいお願いしてもいい?」

「え? いや、それは……」


 戸惑う朝陽に、葉月が笑った。その反応で、彼女がからかっただけだと朝陽は悟った。


「もう、葉月ちゃん!」

「ごめんごめん。それじゃお願いね」

「任せて!」


 緊張が解けた。

 朝陽は腕に力を込め、再び周囲を押し広げる。

 ローラーを滑らせ、カラフルな魔法の帯で障壁を作る。それが潰されないように内側から障壁を押さえて、踏ん張りを利かせた。


「いくよ!」

「うん!」


 再びローラーを振り、魔法の絵の具を飛ばして根を破壊する。

 締め付けがさらに強まり、障壁が軋む。


「くっ……!」


 内側で支えていた腕、背中、足。朝陽の全身に凄まじい力がかかる。


「何くそっ、負けるか! 女は根性だ!」


 朝陽の胸の奥から光が溢れた。

 勇気の力が、身体に満ちていく。


「ああああああああぁぁぁ!!」


 叫びと共に、朝陽は障壁を支え続けた。

次話は明日の朝に投稿します。

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