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死ねない少女は生き直したい~二百年生きた手品師、魔法少女に巻き込まれて平和を守る~  作者: 柚月由貴


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15 今どき、裸の付き合いなんて流行らないと思います

「ふいー」


 湯船に肩まで浸かると、思わず声が出た。

 やっぱり広いお風呂はいいなぁ。


 僕達は今、公園近くのスーパー銭湯にきてる。

 水の宝玉を回収するために下村さんと藤堂さんがずぶ濡れになっちゃったので、風邪を引かないように体を暖めることが目的だ。


 時刻的には子供だけでは入れないはずなんだけど、オクタが認識阻害魔法? とやらを使ってるので、特に止められることもなく入れてる。

 よく分からないけど今の僕達はオクタ含めて、周りからは大人の女性に見えてるらしい。


 おかげで、こんな時間だけど広いお風呂に浸かれてるわけだ。魔法って便利だね。

 そのオクタは僕の傍で風呂に浮かんでる。

 浸かってるんじゃなくて、ヘソ天で浮いてる。

 行儀悪いけど、まあ人形? みたいな感じだし、小さいから他の人にも迷惑かかってないし良いのかな?


「あなた、ちゃんと体洗った?」


 注意すべきか悩んでると、そんな言葉と共に隣に人が座ってきた。

 横目で見ると、藤堂さんだった。長い髪が湯船に浸からないようにまとめてて、普段とは印象が違ったけど、何とか判断できた。


「洗ったよ。僕、汚いの嫌だし」


 ふーん、と言いながら僕の体を触ってくる藤堂さん。

 汚れてるか確かめてるのかな?

 いいよ、受けてたとう。幾らでも触って確認するといいさ。


「――何してるの?」


 黙って触られてると、下村さんもやってきた。


「ほふほからはがひはなひかっへ」


 今、藤堂さんは僕のほっぺをつまんでる。

 そのせいで下村さんに説明しようとしたけど、まともな言葉にならなかった。


「この子、肌がもちもちしてるから」


 え? 汚いか確認してるんじゃないの?


「ほんと? ……うわぁ、すべすべ。もっちもち」

「ちょっ、待っ……うわっ」


 ちょっ、下村さんも加わるのはずるいよ。


「皆、ここは銭湯だから、暴れちゃ駄目だよ」

「はーい」

「はいはい」


 二人の凶行を止められず、されるがままになってると助け舟はオクタから入った。

 その言葉で二人は僕を離すと、大人しく湯に漬かる。

 オクタもいつの間にかまともな姿勢で僕らの横に浸かってる。

 君、さっきまでへそ天で浮いてたよね? ……まあ、いいか。


「それにしても今回はきつかったね」


 大きく伸びをしながら下村さんがそう言った。


「前回の金の宝玉は楽だったけどね」


 それに答える藤堂さんは湯船の縁にもたれて、リラックスした状態だ。

 前回って二宮君のことだよね? あれって、金の宝玉だったんだ。そう言われると、二宮君の額にあった宝玉って黄色っぽかった様な気がする。


「最初の土は苦労しなかったよね? で、その後の火はキツい、というかヤバくて。……宝玉によって差があり過ぎない?」

「火はヤバかったわね。葉月が居なかったら取れてなかったかもしれない」

「ねっ! 一個目で油断してたから、私ら絶望したもんね。この先もあんなの出てくるのかなって!」


 指を折りながら下村さんが反芻する。

 あー、確かに火の宝玉は厳しいよね。何せ手を突っ込んだら大火傷確定だし。僕は不老不死だから、むしろ簡単だったけど、普通の人だと簡単には取れないと思う。

 僕にとっては、今のところ他の宝玉の方がヤバい。


「僕にとっては金の宝玉? 二宮君の時も十分、絶望だったよ」


 この身体で走ってでも、全く追いつける気がしなかった。

 せめて、大人の身体なら違ったかもしれない。


「あー、まぁ一人だと厳しいのかな? 私達は挟み撃ちにできたし」

「それに私達は、魔法の力で身体能力が強化されてるのも大きいかもしれないわね。それが無かったら、案外難しかったかも」


 そんなことを考えてたら、下村さん達からまさかの言葉が出てきた。

 どうやらオクタと契約すると、身体能力も強化されるらしい。確かに思い返してみると、公園での藤堂さんのジャンプ力は凄かった。あれ、垂直跳びで何メートルって跳んでたもんね。


 ……ん? この二人と二宮君、走る速さは同じくらいだったような……。

 身体能力が凄く強化されてる二人で互角ってことは、普通の人だと二宮君に追いつくの、難しくない?

 宝玉の試練、実は結構ヤバいのかもしれない。


 そんなことを考えてると、オクタが口を開いた。


「宝玉は基本的に、普通の人には回収するのが難しいみたいだね」


 どうやら、僕と似たようなことを考えてたみたいだ。


「最初に回収したのは土って言ったよね? それも難しかったの?」

「そうだね、僕らには魔法が使えたから問題なかったけど、そうじゃなかったら難しかったと思う」


 なんでも、とても頑丈な壁に覆われてて手が出せず、魔法を使って力づくで壊したらしい。

 なるほど……やっぱり試練って言うだけあって、どれも厳しいんだ。

 これ五十年後、僕一人で集められるかな……。


 思わぬ事実にどうしようかと考えていると、不意に自分を見てくる視線に気づいた。

 顔を上げると、下村さんがこちらをじっと見ていた。

 

「どうしたの?」

「ね。何かオクタと葉月ちゃんって喋り方似てるね」

「「そうかな?」」


 見事にハモって思わずオクタを見る。目が合ったけど、何とも言えず微妙に気まずい。

 下村さんと藤堂さんは笑ってた。

 まあいいけどさ。


「――そうだ。葉月ちゃん、今日どうだった?」

「どうだったって?」

「私達と一緒に行動してみてだよ。良かった?」


 うーん。ハラハラはしたかな。

 でも、キラキラした瞳で見つめられてるのに、そんなことは言いにくい。


「今回のも僕一人だったら、たぶん取れなかったと思う。だから、一緒に行動できて良かったとは思うよ」


 なので、無難な感想で返してみた。


「良かったんだ! じゃあさ! 次も一緒に宝玉を集めに行こうよっ!」


 えぇ……それとこれとは話が別なんだけど。

 困ったな。何と言って断ろう。


「僕は別に必要ないんじゃないかな」


 そもそも一緒に行動したとして、二人は僕が危険なことをするのを嫌がるよね。

 ついて行っても何もさせてもらえないんじゃ、一緒にいる意味はないと思う。


「何言ってるの。あんたのお手柄で取れたんじゃない」

「いや、取ったのは藤堂さんだよ」

「アイデアを出したのはあんたよ」

「そうだよ。葉月ちゃんがいなかったら、私達も取れてたか分かんない……ううん、きっと取れてなかったよ」


 下村さんが身を乗り出してきたので、目を逸らした。

 この子、ちょっと無防備すぎない?


「だから、ね。次も一緒に行こうよ! それで、また何か思いついたらアドバイスほしいな」


 そんなことを言いながら、手を握られる。

 うへぇ。この子、諦める気配が無いぞ。


「二人ともこう言ってるし、嫌じゃなければ次も一緒に来てほしい」


 オクタも否定してくれないかぁ。いや、この状況では否定できないか。

 嫌は嫌なんだけどなぁ。こんな純粋そうな子に、嫌とも言いづらいし。

 ……はぁ。仕方ないか。


「分かったよ」

「やった。次もよろしくね!」

「次も何かアイデア出してくれるの、期待してるわ」

「ありがとう」


 三者三葉の言葉。特にテンションが高い下村さんの反応に苦笑しながら、僕は頷いた。


「よろしくね」



 その後もわちゃわちゃしながらお湯に浸かり、暫くしてからお風呂を出た。


 僕は今、鏡の前に座って下村さんに髪を乾かしてもらっている。

 まるで小さい子供のお世話をするお姉ちゃんだ。

 実際は僕の方がお姉ちゃんなんだけどね。まあ女の子だし、お姉ちゃんぶりたいこともあるよね。

 そんな心意気を無碍にすることもないので、僕はされるがままになった。


「ありがとう、朝陽さん」

「どういたしまして!」


 お礼を伝えると、ニコニコとした笑顔で返してくれるのが眩しい。


 その後、皆で揃ってスーパー銭湯を出て、さぁ解散というところで少し困ったことになった。


「夜道は危ないから送ってくよ」


 銭湯の前で皆と別れようとした僕に、下村さんが送ると言い出したのだ。

 根無し草の僕には当然、帰るべき家などない。今はホテルに泊まってる。


 僕みたいな見た目小学生がホテルに泊まるには、普通保護者の同伴が必要だ。

 けど、中には保護者が予約すればOKという所がある。そこなら、事前に保護者の振りをして予約しとくことで、僕だけでも泊まれるのだ。


 そんな訳で僕はホテル住まいなんだけど、それを見られたら下村さん達にどういう反応をされるか分からない。

 だから僕の住んでる所まで一緒に行くのは断りたいんだけど……。


「ここから近いし、大丈夫だよ」

「ダメ! 葉月ちゃんはまだ子供なんだよ」


 素直に断ろうとしたら、下村さんに強く否定された。

 まぁ、そうなるよね……どうしよう。


「朝陽、落ち着いて。二人で行くと葉月さんを送った後の朝陽の帰り道が危ないよ」


 悩んでると、オクタが横から口を挟んできた

 これはいい援護射撃になるかな?


「えー、でも――」

「落ち着きなさい、あさひ。皆で帰ればいいじゃない」

「あ、いいね! 順番に皆の家寄って帰ればいいんだ」

「最初は葉月として……家の近さから考えたら次があんた?」

「そうなると渚が最後一人になるじゃん。私は最後オクタと一緒に帰れるから、私が最後の方がいいよ」


 一瞬、良い展開になるかと思ったらそんなこと無かった。

 むしろ最悪な方向に向かってるね。

 これはちゃっちゃと逃げた方が良いのかもしれない。


 三人で話してる隙を窺って距離を取る。

 手品師をやってると、人の視線にも敏感になる。気づかれないように動くのは簡単だった。


 そうして、三人から十分に距離を取ったところで声をかけた。


「僕は本当に大丈夫だから! じゃあね!」

「え!? 葉月ちゃん??」

「いつの間に――」


 戸惑いの声が聞こえるのを背に急いで走る。

 何度も通りの角を曲がることで、どちらに逃げたかを分からなくする。


「……大丈夫そうかな?」


 しばらく逃げ続けた後、振り返って様子を窺うと、彼女達が追ってくる気配は感じられなかった。


 ふぅ、危なかった。まさか、家まで送る送らないの話になるなんて思わなかったよ。

 勝手に逃げちゃったけど、彼女達怒ってないかな?

 ……まあ怒るほどのことでもないし、大丈夫か。


 僕は深く考えることなく、ホテルへと帰った。

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