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死ねない少女は生き直したい~二百年生きた手品師、魔法少女に巻き込まれて平和を守る~  作者: 柚月由貴


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14 前世では泳げてたんだよ。本当だよ?

 前世では、水泳は苦手な分野だったけど、まだマシだった記憶がある。

 学校の二十五メートルプールなら何とか泳ぎ切れてたはずだ。


 でも生まれ変わった今、水泳は『苦手』から『できない』に変わってしまった。

 元々泳ぐのが下手なのに、体つきも子供になってしまって泳ぎに対して不利になったのが原因だと思う。


 だから今、目の前に浮かんでる巨大な水の塊。これに飛び込んで、中心まで泳いで宝玉を回収するのは間違いなく無理だ。


「やっぱ飛び込むしかないかなぁ」

「それしかないでしょ。飛び込んで、泳いで宝玉の元までいくのよ」

「魔法で水を吹っ飛ばせれば良かったんだけどね」


 下村さん達もあまり飛び込みたくないのかな。躊躇ってる感じが伝わってくる。

 そりゃそうか。こんな夜にずぶ濡れになりたい人なんて、普通は居ないよね。

 それかもしかしたら、彼女達も泳ぎは得意じゃないのかもしれない。


 うーん、こういう時は年上の僕が率先して動いた方が良いんだろうけど、泳げないしなぁ。


「葉月ちゃん、どうしたの?」


 どうしようかと考えてると、不意に下村さんから尋ねられた。

 僕が悩んでたことに気付いたのかな?

 それなら正直に伝えた方が良いかな。


「ごめん、僕泳げない」


 申し訳ない気持ちで答えると、僕を見る下村さんの目がきょとんとした。


「……誰があなたに泳げと言ったのよ」


 藤堂さんが大きくため息を吐いた。

 あれ? 僕、そんなに変なこと言った?


「そうだよ葉月ちゃん。そういう危ないことをするのは私達お姉ちゃんの役目だから」


 下村さんが膝を曲げて視線を合わせてきた。


「だから、ね。自分の体は大事にして欲しいな」

「えーと……」


 自分は死なないし、体を張るなら自分だろうって認識があった。

 けど、彼女達からしたら、違うみたいだ。

 彼女達にとって、僕は仲間じゃない。他人なんだから、僕の体とか気にしないでいいんだけどな。


「約束、できる?」

「……ごめん、約束はできない」


 素直に答えて首を横に振る。

 悲しい顔をされて、何か申し訳なくなった。

 何か言った方が良いかと口を開きかけたところで、頭に小さな衝撃。

 感覚で、手を頭に乗せられたのだと分かる。

 目線だけ上げると、藤堂さんに睨みつけられてた。


「約束する、しないは関係ないの。とにかく、飛び込むのはあなたじゃないから」

「わっぷ」


 そのまま頭をわしゃわしゃと撫でられた。


「分かった?」

「えーと」

「わ、か、っ、た?」

「……はい」

「よろしい」


 こわっ。圧に負けて思わず頷いちゃったよ。


 ようやく手を離してくれた藤堂さんが下村さんとオクタへと話しかけた。


「誰が行く?」

「ごめん、僕も彼女と同じく泳ぐのは得意じゃない」

「私が行くよ。泳ぐのは得意だし」

「そう、お願いね」


 短いやり取りで、下村さんが泳ぐことに決まった。


「――気にしなくていいよ」


飛び込むために、屈伸したりして準備運動をする下村さんを黙って見てると、オクタが話しかけてきた。


「その時々で、できる人が頑張ればいいから」


 何か良いこと言ってる。

 でも、君も泳げない人(僕と一緒)だよね。さっきの言葉、聞こえてたよ?

 いくら内容が良くても、言う人によっては言い訳をしてるだけに見えるから不思議だよね。

 まあでも、泳げないのに堂々としてるオクタを見てると、気を楽にしてていいのかなって感じはするかな。


「そういえば、魔法で泳げたりしないの?」

「魔法は万能じゃないからね」


 ふーん。そういうものなんだ。

 そうこうしているうちに、準備運動を終えた下村さんがどこからかスマホを取り出して、僕に渡してきた。


「葉月ちゃん、ごめんね。ちょっと持ってて。渚、何かあったらフォローよろしく」


 片手を上げてそう言うと、下村さんが水の塊に向き直った。

 

 いつの間にか手に持っていたローラーを振り、空中にカラフルな線を描く。

 それを足場にして跳躍すると、水の塊へと飛び込んだ。


 大丈夫かなと見守る中、下村さんは器用に泳いで中心に向かっていった。

 泳ぐのが得意、と自分で言うだけあって、水中をぐいぐいと進んでいく。

 凄いや、これならいけるかも。


 そう思ったのも束の間。異変は半ばまで潜ったところで生じた。


「水が動いてる?」


 最初は違和感を覚える程度の小さな動きだった。けど、その違和感は徐々に大きくなり、気づけばハッキリと分かるほどに水に流れが生じていた。


「渦巻いてるね」


 オクタが評した通り、今や水は水球の形を保ったまま、洗濯機みたいに回転していた。

 水流の真っただ中で泳いでた下村さんが、その勢いに逆らえずに流されてしまう。


 これはまずいんじゃ?


 ハラハラしてると、流れに乗せられた下村さんが水の塊から弾き出されて池に落下した。

 少しの間の後、水面から顔を出すのが見えた。

 ――良かった、無事だ。


 あの流れが中心に向かって流れるようなら、溺れてたはず。外に向かって流れてるおかげで助かった感じだよね。

 やっぱり、僕がいった方が良かったような……。


「ねぇ、やっぱり僕が――」

「何か言った?」

「……僕がしっかり応援するよ」

「そ。頼むわ」


 いや、めちゃくちゃ怖いんだけど。思わず、言葉を濁しちゃったよ。

 無理やり飛び込むにも、僕にはそもそも空中に浮かぶ、水の塊へと辿り着く手段すらもたない。

 一人では何もできず、かといって藤堂さんが手伝ってくれる感じはしない。オクタは僕と同じく観戦者の立場だ。

 やれることがない以上は見守るしかない。


 水の塊へと目を向ける。

 下村さんは何度も飛び込んでは、渦巻く流れに飲まれて外に吐き出されてる。

 これが今回の試練なんだろう。宝玉に近づけまいと渦巻く水かぁ。流れが早いから、どれだけ泳ぐのが上手でも、あれに逆らって中心まで行くのは難しいと思う。

 何か良い方法でもあればいいけど……あ。


「ねぇ、お願いがあるんだけど」

「何?」


 藤堂さんに話しかける。

 圧がやっぱり強くないかな?


「あの水の塊の上空まで、僕を連れていくってできる?」

「上に? オクタなら飛べるからできると思うけど……いや、待って。理由を言いなさい」


 うっ、なかなかに鋭いな。

 ……仕方ないかぁ。


「下村さんが色んな所から飛び込んでるけど、水が渦巻いて弾き出されてるよね?」

「そうね」

「でも、その流れてる方向が見てる限り同じに見えるんだ」


 下村さんが何度も挑戦する中で色んな方向から飛び込んでるけど、その後発生している水の流れは、台風や洗濯機と同じように地面に平行な向きに回転しているように見えた。


「……それで?」

「てことは、水の塊の真上から飛び込めば流れの影響を受けないのかな? って」


 ここからでは僕には見えないけど、宝玉は水の塊の中心にあるらしい。てことは水の流れは宝玉を中心に回転していることになる。そして、その回転方向は地面と平行になってる。なら、地球の自転とかと一緒で、軸にあたる宝玉の上下は流れが弱いんじゃないかと思ったんだ。

 もしそうなら、宝玉の真上から回転の中心に飛び込むようにすれば、水流の影響を受けずに潜れるかもしれない。

 ちなみに真下から飛び込んでも同じだと思うけど、下から飛び込んで上に向かって泳ぐのと、上から飛び込んで下に向かって泳ぐのでは上から飛び込む方が簡単だと思う。


 そんな考えから、試してみたいと僕は藤堂さんに訴えた。

 下村さんが今も挑戦してる様子を見つつ、顎に手を当てて考える仕草を見せる藤堂さん。

 しばらくしてから頷いた。


「うん、それ採用よ。これで上手くいったら、あなたのお手柄ね」


 そんな言葉と共に頭をぽんぽんと叩いてきた。

 褒められてるのかな?

 相変わらず目つきはキツいから、怒ってるのと判別がつかないけど言葉の圧は小さかった。


「それじゃあ――」

「ただし、試すのはあなたじゃないわ。あなた、泳げないんでしょ」


 頭から手を離した藤堂さんが一歩前に出た。――僕を置いて。

 

「でも、僕の案だから僕が試したいんだけど」

「大丈夫よ。別に手柄を取ったりしないわ」


 そういう意味じゃない。

 確かに今は地面と平行な向きにしか流れてないけど、真上に飛び込んだ時もそうなるとは限らない。

 違った場合に彼女達が危険な目に合うと、ハラハラして仕方がないから、僕がやりたいってだけなのに。

 確かに僕は泳げないけど、真下に沈むだけならできるし。

 でも、彼女達は僕が挑戦するのを何でか嫌がるんだよね。


「あぁもう。……ねぇ、オクタ。僕をあの上まで連れてってくれない?」


 こうなりゃ、オクタの方に訴えようと声をかけるも、当のオクタには首を横に振られた。


「泳げない者どうし、ここは二人に任せよう」


 悟った感じに言ってるけど、君も僕も役立たずなだけだからね?

 まあでも、なんとなく予想はできてた。何せ、下村さんのチャレンジが始まってから、この子は本当に何もしてないからね。

 うーん。どうしようもないかぁ。


「あさひ! 私が行くわ!」

「……っ。分かった、気をつけて!」


 そうこうしてる間に藤堂さんが下村さんへと声をかける。

 弾き飛ばされて、池から顔を出したばかりの下村さんが、手を上げてそれに答えた。

 それを見た藤堂さんが、二、三回その場で軽くステップを踏む。

 そこからしゃがみ込んだかと思うと、大きく跳躍した。


 藤堂さんが夜空に高く舞い――水の塊の頂点から、水中へと飛び込んだ。


 飛び込んだ勢いのまま下へと潜っていく藤堂さん。

 やがて下村さんの時と同じように、水に流れが発生する。その流れは、さっきまでと同じく地面に対して平行な向きだった。

 藤堂さんが流れに巻き込まれることなく、真下に潜っていく。


「これは……いけそうかな?」


 隣でオクタが呟く。

 彼が言う通り、下村さんの時よりも中心に近づいてる感じがあった。

 これは本当にいけるかも。そんな風に考えた瞬間、藤堂さんの様子が変わった。


 もう少しで中心というところまで来たところで、彼女の動きが止まった。いや、潜ろうとはしてるみたいだけど進めていない感じだ。

 もしかしたら中心にある宝玉の傍は流れが違うのかもしれない。

 大丈夫かな?

 僕には宝玉が見えてないから具体的な距離は分からない。でも、位置的にはもう少しなはずなんだけど……。

 いくら魔法が使えたとしても、呼吸せずに潜り続けることはできないよね。

 このまま宝玉に届かなかったから、息止めの限界がきちゃうかもしれない。


 藤堂さんが頑張って潜ろうとしてる。


「藤堂さん、頑張れー」


 気づいたら、思わず声に出して応援していた。



 藤堂渚は水の塊の中で必死にもがいていた。


 水球の頂点から飛び込んでみれば、葉月の読み通り渦の流れが渚を邪魔することは無かった。

 あと、ほんの僅かで宝玉に届く。そんなところまで潜ったところで異変は起きた。

 水が重たくなったのだ。いくら搔き分けようとしても腕が動かせず、前に進まない。


 それは密度の違い。宝玉の周りだけ水の密度が高く、より重くなっていることで、その中へと潜っていくことが困難になっていた。

 目の前には宝玉がある。しかし、その距離が渚には果てしなく遠く感じられた。

 

 このままでは息がもたない。

 一度戻ってやり直すべきか?

 そんな弱気な気持ちが心を支配しかけた時だった。


 ――声が聞こえた気がした。

 視線を少し横に向けると、葉月の姿が見える。

 彼女の声が聞こえた? いや、ここは水の中、有り得ない。

 彼女は何かを叫んでるようだ。


 宝玉を手に入れるために火柱の中に手を突っ込み。 

 泳げないと言いながら、朝陽が失敗してるのを見るや自分が行くと言い出す。

 葉月は自分の身体が傷つくのを厭わない。

 体を治せるのだとしても、その精神性は異常と言える。


 あの幼さで、心が歪んでしまうような何かがあったのだろうか。

 それが、仮に葉月の背後にいる敵のせいだとしたら、到底看過できない。


 彼女のような小さい子が安全に暮らせる街を作る。

 そのためには宝玉が必要だ。


 そう、自分はこんなとこで手こずってる訳にはいかないのだ。

 自分が成すべきことは――。


 正義のため……それだけだ!



 水の中心手前で動きが止まっていた、藤堂さんが唐突に輝き出した。

 何だろう?

 よく見ると、輝きを放つ藤堂さんの身体が少しずつ沈んでいってるのが分かった。

 さっきまで全く前に進めてなかったのに。魔法か何かだろうか?


 考えてる間にも、藤堂さんは徐々に中心へと近づいていく。


 藤堂さんが思いっきり手を伸ばしたのが見えた。

 何かを掴んだ仕草を見せて――瞬間、水の塊が弾けた。


 大量の水が重力に従って池へと落下する。

 中心にいた藤堂さんも巻き込まれて一緒に落ちた。


 うわ、大丈夫かな?


 落ちた辺りをじっと見てると、藤堂さんが池から顔を出した。

 良かった……無事だ!


 池の水面にローラーでカラフルな道を描いた下村さんが、その道を伝って藤堂さんへ近づく。

 藤堂さんへと手を差し出すけど、藤堂さんはその手を握り返さずにカラフルな道の端に捕まって、自分の力で池から上がった。


 ――あれ? やっぱり、仲悪くない?

 何かを話し合いながらこっちに戻ってくる二人を見ながら、僕は首をひねった。

 ……まあいいか。それより今は藤堂さんだ。


「藤堂さん、大丈夫?」

「あの程度、問題無いわ」


 髪の毛を払いながら、澄まし顔で答える藤堂さん。

 無事そうなら良かったよ。


「――お疲れ、二人とも」


 オクタも僕と一緒に声をかける。

 君は今回、本当に何もしなかったね。

 まぁ、僕も一緒だから、何も言えないんだけどさ。


「ね、ね。今回の宝玉はどんなの?」

「これよ」

「おお、青いね!」


 藤堂さんが握ってた手を開いて、宝玉を見せてくれた。

 下村さんの言う通り、今度のは青い。

 AIに以前見せてもらった写真からすると……たぶん、水の宝玉だね。


「渚のおかげだね」

「この子のお手柄でもあるけどね」

「そうなの!? 葉月ちゃん凄い!」

「いや、僕は何もしてないから。凄いのは藤堂さんだよ」

 

 テンションが高い下村さんの話が止まらず、場がわちゃわちゃしてたのだけど。


「――っくし!」


 唐突に藤堂さんがくしゃみした。

 よく見なくても、藤堂さんと下村さんはびしょ濡れだもんね。

 昼間は暖かいけど夜になったら少し冷えるし、このままだと二人が風邪ひいちゃうよ。


「急いで帰ろう」


 オクタが帰宅を促してきたので、僕も頷いて同意した。


「ちょっと待ってよ。流石にこんなずぶ濡れで帰ったら、親にもバレちゃうよ」


 あぁ、親には内緒にしてるのか。まあ、そうだよね。

 こんな時間に出かけるなんて普通なら問題になるし。たぶん魔法少女やってますってのも内緒なんだろうな。


「濡れた体を何とかしないとだね」


 うんうん、オクタの言う通りだ。

 魔法とかで乾かせるのかな?


「じゃあ、今から皆でお風呂にいこうか」


……え?

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