13 初めての共同作業って緊張するよね
良い天気だなぁ。
ベンチに座りながら、伸びをする。
風が心地良い。
僕は今、市内のとある自然公園にやってきていた。
どうやら、ここにも宝玉があるらしい。
下村さん達とお試しで活動することが決まった後、今後の方針について話し合った。
下村さん達は二宮金次郎から回収したのを合わせて既に三つの宝玉を持ってるらしく、僕が神社で横取りしたのまで含めると四個の宝玉を回収したことになるらしい。
僕が神社から持ち帰った宝玉についてはAI――胡散臭いやつのところにあるって話をしたら、とりあえず他のを先に集めようという話になった。
どうやら他のを全部集めてから、胡散臭いやつと話をつけようって考えてるみたいだ。
何を警戒しているのかは良く分からないけど、まあ僕としては何でもいいので素直に受け入れた。
そんな訳で、残り三つとなった宝玉。その内の一個がこの公園にあるのだと下村さんから連絡がきたのだ。
で、彼女達と待ち合わせをして、宝玉を回収することになった。
下村さん達は夜にやってくる。これまでの経験から、昼間だと目立つ可能性があるので、人目につかないように夜に行動しようということだ。昼間だと彼女達は学校もあるしね。
ちなみに僕は義務教育の時代なんてとうの昔に終わってる。だから僕だけが公園に前乗りしてる状態だ。
ちなみに宝玉の場所についてはAIに聞けばすぐに分かることなんだけど、下村さん達が嫌がったんだよね。
どうもAI――胡散臭いやつの手は借りたくないみたいだ。
そんな訳で、オクタからの情報を待って宝玉を探しに来た訳なんだけど――。
ベンチの背もたれにもたれかかって空を見上げながら、オクタのことを考える。
妖精って話だけど、見た目はそんな感じじゃない。不気味な雰囲気があって、どっちかというとお化けって感じがする。でも下村さんや藤堂さんは普通に受け入れているので、不気味に感じてるのは僕だけなんだろう。あと、オクタには何か既視感を感じる。昔観た魔法少女もののアニメに出てくるような、マスコットキャラを思い出すからかな?
そのオクタは実際に話をしてみると、見た目に反してそこまで悪いやつではなさそうな感じだった。でもとにかく、謎が多い。
まず、何で魔法が使えるのか。いやまあ、妖精だからと言われたらそれまでなんだけど。最初に会ったとき、オクタは空中に浮かんでいた。あれが魔法だっていうなら、魔法は物理法則を無視する力ってことになる。それって良く分からないけど、たぶん相当な力だと思う。
そんな力を、契約するだけで人間が使えるようになるっていうのも謎だ。下村さんや藤堂さんは、どこからそんな力を捻り出してるんだろう。
下村さんはペイントローラーみたいな道具を使った魔法が使えるみたいだ。ローラーで空中に色を塗ったら、その色が質量をもってその場に固定されるような感じだった。それを足場にしたり、防御に使ったりってしてたね。あとはローラーを振って、雫を飛ばしてたりしたかな。
藤堂さんは大きなハンマーを持ってたけど、それでどんな魔法が使えるのかはまだ見たことないから分からない。
下村さんの魔法だけでも結構ぶっ飛んでるし、普通の人間がそんな魔法を使えるようになるってだけで、オクタの契約の凄さが分かる。あんな凄くて副作用とかないのかな?
他に気になるところは妖精という存在自体だ。彼が本当に妖精だとして、何故彼だけしかいなのか。
妖精って、神話やお伽話には出てくるけど、実際に居たという話は聞いたことがない。
まあ、だからといって居ないとも言えないんだけどね。むしろ、居ないことを証明することの方が難しい。悪魔の証明ってやつだ。
でもじゃあ、妖精が実在して他にも仲間がいるとしたなら、世界のどこかでもう少し目撃証言とかがあってもおかしくないんじゃないかなって思う。
漫画やアニメにありがちな、実は地球とは別の世界からやってきた。ということであれば目撃証言が無い理由にはなる。でも、そうすると今度は別の世界の住人がどうして、地球の平和を望んでロボットと戦うのか、それが分からなくなる。
宝玉を集める理由も平和な世界を実現するって話で、具体的にはロボットを作ってる組織を壊滅させるのに使うつもりらしいし。
宝玉といえば、オクタが宝玉について知ってた理由も分からない。
宝玉はロボットの組織が作ったものだ。敵対してる組織が作った宝玉を、何でオクタが知ってるのか。
その宝玉の隠し場所を、どうやって調べているのか。
本当に謎だらけだ。
まあ、分からないものを気にしても仕方ない。彼がどんな存在だろうと、僕がお試しで行動するのは今回だけだ。
それが終わったらサヨナラなんだから、別に彼の謎を深追いする必要もないし。
当たり障りなく関わって、そして離れよう。
そう結論づけた僕は、一度軽く伸びをしたあた、全身の力を抜いた。
それにしても良い天気だよなぁ……風が凄く気持ちいい……や……。
「――づきちゃんっ」
「……ふぇ?」
突然体揺すられて、びっくりする。
「こんにちは、葉月ちゃん」
気づいたら目の前に下村さんが居た。
「……こんにちは」
目を擦りながら下村さんの挨拶に答える。
どうやら寝てしまってたみたいだ。
空は既に真っ暗になってた。
何か変な声を出してしまった気がするけど、気にしないようにする。
一度、伸びをしてから改めて見回すと、下村さんと藤堂さん、それにオクタが傍にいた。
二人はアイドル衣装を着ている。
……この前は制服だったけど、どっかで着替えてるのかな?
それとも変身! みたいな感じで切り替わるのかな?
ロボットが出たときに、いちいちアイドル衣装へと着替えてから立ち向かってるとしたら……うん、ちょっと面白いかも。
「もう。どこにいるか分からなかったから探したよ。電話にも出てくれないし」
「あー、ごめんね」
変なことを考えてたら、怒られちゃった。
膨れる下村さんに謝りつつ、スマホを取り出す。戸籍の無い僕には普通のスマホは契約できないので、条件の緩いプリペイド式の奴だ。
見ると、確かに通知がいっぱいきてた。
寝ちゃってて全然気づかなかったや。
「さ、早く行こ」
急かされて立ち上がると、下村さんに手を引かれて歩き出す。
凄い自然に手を握ってきたんだけど、なんで?
何かあるのかと思って、下村さんを見上げてみても、特に何か言ってくることはない。
――あ、これ引率する人とされる人の関係だ。もちろん僕が引率される側だね。
僕二百歳を超えてるんだけどなぁ。
仕方ないなぁと思って視線を横に向けると、藤堂さんと目が合った。
「何?」
「んー、こんにちは?」
別に用があった訳でもないので、誤魔化すように挨拶した。うん、まだ挨拶してなかったしね。
藤堂さんは僕の言葉を聞いた途端、ぷいって前を向いちゃった。
ありゃ、僕嫌われてるのかな?
「……こんにちは」
と思ったら、前を向いたまま挨拶を返してくれた。照れてだけかな?
良く分かんないけど、まあいいや。
藤堂さんに挨拶したなら、オクタにも挨拶しとかないといけないよね。
僕は続けて、後ろからついてくるオクタへ向いて挨拶した。
「こんにちは」
「こんにちは、今日はよろしくね」
相変わらずの不気味な顔だけど、返事はいたって友好的だ。
「ね、ね。葉月ちゃんはどこの小学校に通ってるの? 北小? 山小?」
「ん。えーとね……」
オクタのことを考えてると、下村さんから話しかけられて冷や汗が流れる。小学校ネタはやばい。
確か元研究施設の近くにあった小学校が、北川小学校だったよね。あれが北小かな?
山小は何の略なんだろう……下手なこと言うと一発で嘘がバレてしまう。どうやって誤魔化そう。
「下村さんはどこ小だったの?」
「朝陽でいいよ」
「え?」
「仲の良い人は皆、朝陽って呼んでるから。葉月ちゃんもそう呼んで欲しいな」
あぁ、呼び方か。
この子、距離の詰め方が凄いな。
うーん、僕あんまり他人のこと名前で呼び慣れてないんだけどなぁ。
「朝陽……さん?」
「んー、まあいっか。で、私は北小だよ!」
恐る恐る名前をさん付けで呼ぶと、下村さんは少し考えてから頷いた。
これで良かったみたいだ。
それにしても下村さんは北小出身か……。
「北小って北川小学校?」
「そうそう! 関スーの傍にある学校ね!」
また知らない単語が出てきた。何でもかんでも略しすぎじゃないかな。
かんすー、って何? やばい、この子の会話に全然ついていけない。
どうしよう、下手なこと言って何か怪しまれても嫌だしな……。
「そろそろ、世間話はおしまいにしてね」
何て返事をするのが正解かと考えていると、藤堂さんがお喋りを止めるように促してきた。
内心でほっとしながら、真面目な顔で頷いてみせる。
「はいはい、こっからは仕事だね」
下村さんも気持ちを切り替えたのか、藤堂さんにそう返すと僕の手を離して軽く伸びをした。
僕達の目の前には大きな池があった。ここに次の宝玉があるのかな?
実は次の宝玉の場所、僕は知らない。連絡をもらった時には待ち合わせ場所と時間だけが書かれてたんだよね。
別に事前に知っときたかったわけでも無かったから、自分から聞くこともしなかったし、AIに尋ねることもしなかった。
だから、宝玉がどこにあるかは本当に知らない。
池を観察する。結構大きめの池だ。一周するのに、ゆっくり歩いて三十分ぐらいはかかるんじゃないかな。
遊歩道と池は木製の背が低い柵で仕切られていて、人が近づかないようにという配慮がされている。
その柵を空中に浮いているオクタが何の躊躇いもなく越えた。それに続いて、下村さんと藤堂さんが柵をまたぐ。僕もそれに倣って、柵を何とか乗り越える。
そのまま池へと歩き、池の縁ギリギリ手前で立ち止る。
「水底に眠りし宝玉よ。今目覚めて真の姿を表せ」
オクタが符丁を唱えた。
一瞬の間の後、池の水に変化が起こった。
さざ波が立ったかと思うと、池の中央が盛り上がる。盛り上がった水が池から分離して空中に浮かび上がった。
池の少し上空に、大きな水の塊が浮いている状態だ。
かなりでかい。ちっちゃめの家なら、丸々収まっちゃうんじゃないかな。
「見て、あそこに宝玉があるよ!」
下村さんが叫んで、水の塊の一点を指差した。
えーと、どこだろう……いや、暗いし見えないんだけど。
「中心か……魔法で水を吹っ飛ばせたら早いんだけど」
「ひとまずはやってみるべきだろうね」
藤堂さんとオクタが難しい顔をしながら、相談しあってる。
え? 見えるの? 君達、凄くない?
藤堂さんが腕を振ったかと思うと、大きなハンマーが現れた。前見た時も不思議だったけど、どこにしまってるんだろう。
藤堂さんはハンマーを肩に担ぐと大きくジャンプした。高跳びの世界記録を余裕で超える跳躍力を見せて夜空を舞った藤堂さんが、ハンマーを思い切り水の塊へと叩き付けた。
鈍い音がして水が爆ぜる。
「どう? ……ダメみたいね」
ハンマーで殴った反動を利用して、僕らの傍まで戻ってきた藤堂さんが顔を上げて、直ぐに首を横に振った。
彼女の言う通り、水の塊はハンマーで殴られた瞬間は少し爆ぜたものの、直ぐに元の形へと戻ってしまっていた。
続けて下村さんがローラーを振る。空中に三角錐を横に倒したような形状の絵を描くと、底にあたる面を蹴り出した。その隣でオクタが手を伸ばすと、その先から何か黒い塊を飛ばす。
それらは水の塊に突き刺さると、そのまま中へと潜っていく。そして、下村さんの魔法はそのまま水に溶けてしまい、オクタの魔法は水の塊の反対側へと突き抜けていった。もちろん、水の塊自体に大きな変化はない。
「連続で撃ったらいけないかな?」
誰ともなしにそう言うと、三人が再び構える。
藤堂さんがハンマーで殴り、少し抉れたところにオクタや下村さんが飛ばした魔法をぶつける。
そうやって、絶え間なく魔法を水の塊へと浴びせ続けたのだけど――。
「……ダメかー」
「復元力が強い。魔法をぶつけるだけじゃダメだね」
「水を吹っ飛ばすのは諦めた方がいいみたいね」
しばらくやった後、三人は断念した。
三人が言う通り、連続で魔法をぶつけたところで効果は薄いみたいだった。藤堂さんやオクタの魔法がぶつかったところは水が少し爆ぜるものの、そこから更に削れる様子が無い。削れるスピードと復元するスピードとが拮抗してる感じだ。下村さんの魔法に至っては、水に溶けてしまってる。魔法のインクってのが相性悪いのかもしれない。
皆が魔法を使う光景は、アニメを間近に見てるみたいで迫力はあったんだけどね。
けど、困ったな。
三人協力しての魔法で無理だと、手段が限られてきてしまう。
「葉月ちゃんは何か良い方法とか思いつかない?」
「……ごめん、特には」
下村さんが尋ねてきたけど、首を横に振って否定した。
僕はただ死なないだけの手品師だ。こういう超自然的現象に対して、やれることはない。
「んー、じゃあどうする?」
「どうって……飛び込むしか無いんじゃない?」
やっぱそうなるよね。
外からどうしようもないなら、火の宝玉の時みたいに自分の身体を使って飛び込むしかない。
まあ、僕なら溺れ死ぬこともないから、火柱に腕を突っ込んだ時みたいに飛び込んでもいいだけど……問題はなぁ。
僕は憂鬱な気持ちで、水の塊を見上げた。
……僕、泳げないんだよね。




