↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死ねない少女は生き直したい~二百年生きた手品師、魔法少女に巻き込まれて平和を守る~  作者: 柚月由貴
四章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

103/105

12 考えてばかりじゃなくて感じることも時には大事だね

 下村朝陽は学校の教室で担任の言葉に耳を傾けていた。

 今はホームルームの時間。担任は、もうすぐ三者面談を行うと話していた。


 目的は進路についての話し合いだ。

 朝陽は一応既に、目指す高校自体は選んでいる。面談時に話ができないわけではない。

 ただ、その先のことを考えると、やる気が削がれた。


 加えて、今はえじそん先生の件がある。

 直近に問題を抱えていることもあり、将来のことを考えなければいけないと分かってはいるが、億劫になるのであった。


 そのモチベーションの低さは、行動にも如実に表れた。

 ホームルームが終わり、放課後となった後も朝陽は帰り支度に時間がかかっていた。

 そこへ、朝陽の友人である里中まどかが声をかけた。


「あさひ、帰れる?」

「え? あ、ごめん。少し待って」


 まどかの言葉に、慌てて手を動かし始める朝陽。

 帰り支度の様子を眺めながら、まどかは迷った様子を見せつつも気遣うように尋ねた。 


「まだ調子悪い?」


 その問いかけは、純粋に朝陽の体調を気遣っての台詞であった。

 朝陽はえじそん先生の特別授業があった日に、珍しく学校を休んでいる。

 そこから――正確には修学旅行の途中からだが――常に元気がないように見える朝陽に対して、まだ調子が戻ってこないのであろうかとまどかは心配していた。


「ん……うん。だいじょーぶだよ」


 朝陽もまどかの言葉の意図は理解していた。

 だが、学校を休んだのは仮病であり、体調には問題は全くない。

 心配してくれてるのに、真実を話すことができない状況に、朝陽は作り笑いで誤魔化そうとした。


 しかし、まどかは付き合いの長い友人である。

 朝陽が誤魔化していることには直ぐに気づき、複雑な表情を見せる。

 ただ朝陽が語らないため、それ以上問うことはしなかった。

 

 その態度から気遣ってくれていることを察し、いたたまれなくなった朝陽は元気が無い理由の一(・)つ(・)を告げることにした。


「いやさ、本当に体調は大丈夫なんだけど……面談があるじゃん?」

「うん、三者面談ね」

「何か……疲れるなって」


 それは嘘偽りない、朝陽の想い。

 将来のことは真剣に考えないといけない。

 周りの大人達からも色々と学んだ。


 だけど答えは出ず、考えるのがしんどい。

 朝陽の言葉に、まどかは納得したような表情を見せた。


「あーね。珍しい悩みを抱えてたわけだね」

「どういうこと?」


 うんうんと頷くまどか。

 朝陽が自分に悩みを語ってくれたことで、その表情は幾分和らいでいた。


 が、朝陽はまどかの言葉の意味が分からずに首を傾げた。


 珍しい悩みとは何であろうか。

 進路のことで悩むのは、皆も一緒ではないのだろうか。

 そんな疑問から、自然と尋ねる形になる。


「あさひって根は真面目だから、こーいうのしっかり考えるじゃん?」

「うん……?」


 真面目かどうかは分からないが、しっかり考えてるのは間違いない。

 なので朝陽は疑問符を浮かべながらも、まどかの言葉を肯定した。


「でもさ……飽きやすいっていうか、集中が続かないっていうか……迷ってくると、もういいやって感じにならない?」

「それは……なるね」


 少し酷いことを言われてる気もしたが、事実なので素直に頷く朝陽。


 考えても分からなければ、考えるのを止めるのが朝陽だ。

 分からないなら、まずはやってみる。

 考えるより行動するタイプなのである。


「ね。……けどさ、進路のことはもういいやってできないから、うわぁーって感じにこんがらがってるのかなって」


 まどかが自身の頭をがしがしと撫でる仕草を見せる。


 言語化されてない表現ではあったが、まどかが言いたいことを朝陽は何となく理解した。


「確かに……そうかも」

「切り替えの速さがあさひのウリだからさ。それができなくて悩んでるのは珍しいねってこと」


 まどかの説明に、朝陽はなるほどと思った。

 まどかが言っていることは、おそらく合っている。


 要は慣れないことをしているから、うまくまとまらないのだ。

 普段なら深くは悩まずに、とりあえずで物事を決めてしまう。

 それができずに、もやもやとしている。


 しかし、真剣に悩むのが苦手というのは……。


「何か私、ダメな人間ってこと?」

「何で? 良いじゃん。あさひの普段の切り替えの速さ、好きだよ」


 まどかがさらりと言う。

 はっきりと言われて照れを感じつつも、朝陽は首を傾げた。


「でも……そのせいで今悩んでるしなぁ」

「そりゃ進路のことだし。中途半端はダメでしょ」

「まーかはもう決まってるの?」

「私? 決まってるはずないじゃん」


 まどかがあっけらかんと笑う。

 朝陽と違い、その表情に悩んでいる様子は微塵も見られない。


「だからさ。一緒に悩もー」

「何それ」


 友人のあんまりな言い方に、朝陽が笑った。

 その様子を見て、まどかもまた笑う。


「ね。それじゃあ帰ろーよ」

「あ、うん。待ってね」


 その言葉と共に、朝陽はいつの間にか止まっていた手を動かし、帰り支度を再開した。


 自分が悩んでいる時に、まどかはしっかり寄り添ってくれた。

 修学旅行で話していたように、いつだって味方をしてくれる。

 悩みは解決してないが、その事実を感じた朝陽の気持ちは幾分晴れた。


「……まーか、ありがとね」

「何が?」


 朝陽が礼を言った理由が分からないというようにまどかが尋ねる。


「んー、何でもない」


 その友人の態度に朝陽は甘えると同時に、やはり彼女を危険な目には遭わせたくないと改めて思うのであった。


◇


「――はい、お茶」

「葉月ちゃん、ありがとう」


 ちゃぶ台にお茶を置きながら、下村さんに声をかける。

 下村さんは今日も今日とて、ノートを広げてお勉強をしている。

 藤堂さんは塾で、優太はさきちゃんの所に行ってるから、今家にいるのは下村さんと僕だけだ。


 勉強はそんなに好きじゃないと言ってたけど、最近はよく頑張ってると思う。

 気を紛らわそうって気持ちもあるだろうけど、前にも悩んでた進路のことも意識してるのかもしれない。


「……ねぇ。葉月ちゃんは凄く悩んだことってある?」


 僕がお茶を入れたことで、休憩の体勢に入った下村さんが尋ねてきた。


 凄く悩んだこと……。

 質問の意図は良く分からなかったけど、とりあえず頷いた。


「まぁ……それなりに長生きしてるし、あるよ」

「あ、そーだよね……ね。それってさ、どうやって解決したの?」


 どういうことだろう。

 僕が要領を得ないでいると、下村さんが学校であったことを話してくれた。


「……そんなことがあったんだね」


 何て言うか……まーかさんって凄いお友達だね。

 まーかさんが下村さんに言ったことは、ともすれば馬鹿にしてると思われてもおかしくない。

 でも話を聞いてる感じ、まーかさんは下村さんの飽きっぽいって性格を切替が早いという長所だと認識してるみたいだ。

 下村さんもそれを理解してるから、気にしてないみたいだね。


 それにしても、下村さんが深く悩まない性格、か……

 確かに、思い切りの良さはあるかもしれない。

 僕らを逃がすために、痴漢と勘違いしたフリをしたり……木の宝玉を回収した際に木の根でできた蛇もどきに僕が呑まれた時も、後先考えずに助けにきてくれたし。

 ……うん、確かに下村さんの長所だろうね。


 でも進路に関しては、思い切り良く決めれてない、と。

 まぁ自分の将来に直結することだし、迷って当然だよね。


 それでも、迷いながらも勉強してるんだから偉いね。


 それで、何だっけ。

 僕が凄く悩んだ時にどう解決したか、か……。


 僕が悩んだこと……。


「……まだ完全には解決してない、かな?」

「え? そーなの?」


 僕の悩み。一番はやっぱり、僕の不老不死の体質についてだ。

 元々は死にたくなったから、この街に来て宝玉を集めようとしたわけで。

 結果として、優太や下村さん、それに藤堂さんに会って……急いで死ぬ必要が無くなった。

 待てば宝玉も復活するから、不老不死もそのうちやめれるのは確定している訳だけど……。


 でも五十年後に宝玉が復活する時は、優太の体質を先に治したい。

 となると、僕が死ねるようになるのは百年後になるわけだ。


 その時には、おそらく下村さんも藤堂さんも死んでる。

 優太は……体質が治って人として歳を取るようになってたら、おじいさんになってるだろう。


 そこから僕が歳を取るようになって、優太を看取ることになったら……その後僕はどうするだろう。

 そのまま生を全うするだろうか。

 何となく……もういいやって、なりそうな気もするんだよね。


 まぁ、先のことなので、どうなるかは分からないけど。

 ただ、一つ言えるのは……。


「自分がしっくりくる考えが出てくるまでは悩むんじゃないかなぁ」


 さすがに、僕の悩みを下村さんに語ることはできない。

 だから答えも、曖昧な感じになってしまった。


「そっか……葉月ちゃんでもそうなんだね」


 下村さんが何か考えてる。


「まぁ、進路のことは悩んじゃうよね……でも、難しく考える必要は無いんじゃないかな」

「難しく?」


 怪訝な顔をしてる下村さんに頷く。


「僕なんかはさ……マジックが好きだから、マジックでお金を稼いでる。マジックカフェのマスターもマジックが好きだから、それに携わるカフェを経営してる」


 凛さんも歌いたいって想いがあるから、歌手をやってるんじゃないかな。


「だから、自分がやりたいこと……好きなことが何かってことから考えても良いんじゃない?」

「でも好きだけでやりたいこと決めてたら、大変なこともあるんじゃない?」


 下村さんが疑問を口にした。


「もちろん、大変なこともあるよ。でも……それはどんな道を選んでもそうじゃないかな?」


 世の中に、大変じゃない仕事なんて無い。

 あまり他の職業を知ってる訳じゃないけど、それは確かだ。

 満員電車のサラリーマンとか、死んだ目をしてたりするしね。


「大変なことがあったとしても、好きなことだから我慢して乗り越えられるってこともあるかも」

「好きなことだから、我慢できる……」


 下村さんが僕の言葉を反芻するように呟いた。


 何か思う所があるみたいで、考え込んでる。

 僕は下村さんが自分の中で整理できるまで、じっと待った。


「そっか……そうだよね」


 しばらくして何度か小さく頷くと、顔を上げて僕を見てきた。


「うん……ありがとう葉月ちゃん。何か、少し掴めそうな気がする」

「それは良かったよ」


 少し元気な声が聞こえて、自然と笑みがこぼれた。


 それにしても将来やりたいことが分からないか……。

 確か、前にも同じことで悩んでたよね。


 やりたいこと……下村さんが変身できなくなった原因も、そのあたりが影響してたりするのかな……?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。