第254話 ゴブリンガールは泣き虫少女と出会う!
爽やかな春風の流れるグリタ平原。
ぽかぽか陽気を体いっぱいに浴びれば、自然と鼻歌でも奏でたくなってしまう。
そんな絶好のピクニック日和の昼過ぎ。
その中で、アタイとジョニーとスラモンのお馴染みトリオは一心不乱に草刈りクエスト(というか雑用)をこなしていた。
「刈っても刈っても終わらないんですけど!?」
「あと何ヘクタールやればいいんだよ!」
「手が血マメだらけなンだわ~」
アタイたちは泣き言を叫ぶと鎌を放り投げてその場に座り込んだ。
クソ雇い主にクソ草どもめ!
いっそ一帯に除草剤撒いて不毛の土地にしてやろうか!
「そうだよ! 草を取り除けとは言われたけど、他の作物を傷付けるなとは一言も言われなかったね!」
「ガソリン撒いて火付けちまおうぜ」
「そのまま山火事になってバーンズビーンズまで燃え広がればいいンだわ」
魔物らしいゲス談義で鬱憤を晴らすアタイたち。
するとどこからともなく一匹の野ウサギが跳ねてきて、アタイらの数メートル先で止まってヒョイとこちらを振り向いた。
なに見てんだよ下等種族!
見せもんじゃねーぞ!
そこでアタイの目がある違和感を捉えた。
なんとそのウサギは生意気にも首元に蝶ネクタイらしきものを付けていて、さらに体に紐付きの懐中時計をぶら下げていたのだ。
その時計は一見すると古ぼけたガラクタだが、見方によればそこそこのアンティーク品にも思える。
「ちょうど良いね。あのクソウサギを絞め殺して晩飯にして、おまけに時計も質屋で売りさばくよ」
アタイたちは先ほど放った鎌を拾い直し、勢いよく振り上げる。
驚いた野ウサギはピョンピョンと後ろ足を蹴って雑草の海を走りだした。
逃がすかってんだ!
しばらく追いかけっこが続いたあと、ウサギはとある大木の根本に空いた穴の中に逃げ込んでしまった。
しめたね!
この程度の洞穴、対した奥行きもなく行き止まりになるだろう。
自分から窮地に飛び込んでくれるとは手間が省けて助かるよ。
アタイたちは邪悪な笑みを浮かべながら穴の中に突入した。
だがそこで問題が起こった。
進めど進めど行き止まりなど現れず、その内に入口から差し込む光も途絶えて完全な闇に包まれてしまったのだ。
「怖いよ~!」
「びえ~」
どれだけ闇の中をさまよっただろうか。
半ベソがガチベソに変わるころ、ついに出口を示す一条の光を見つけて地上に這い出ることができたのだった。
「あれえ。ここはどこだい?」
先ほどまでの雑草畑とは打って変わって、辺り一面は鮮やかな花畑。
色とりどりの野花が咲き乱れ、綿毛が飛び、チョウチョが舞う。
グリタ平原にこんな景勝地があったなんて知らなかったよ。
しかし、どことなく現実離れしたメルヘンチックさに満ちている。
アタイたちは言い知れぬ違和感を抱きながらも花畑の中を進んでいった。
するとふいに何者かのすすり泣く声が聞こえてきた。
「シクシク……」
声の方へ向かうと、原っぱの中央に野ざらしの長テーブルが置いてあり、そこにポツンと少女が佇む姿が見えた。
アタイたちと同時に、その女もこちらの存在に気付いたようだ。
「まあ。どこから迷い込んできたの? この国を訪ねてくる子たちがいるなんて!」
女は青いメイド服を着て、頭には金髪を結う大きな黒リボンを付けていた。
目元を赤く泣き腫らしているものの、今はその表情は嬉しさに満ちているようだった。
「私の名前はアリスネット。ちょうどお茶会を開いていたの。あなたたちもぜひ一緒にどうぞ」
お茶会と言うが、なんのことはない。
テーブルの上に欠けたマグカップやらティーポットやらが並べてあるだけの簡素なものだ。
参加者もこいつ以外は見当たらない。
「まるでおままごとなンだわ」
「ひとりきりでお茶会なんて寂しいやっちゃな」
まったく昨今のソロ活女子どものチャレンジ精神は留まるところを知らないね。
「ふん、あんまりにも不憫だからアタイらが付き合ってやんよ! わかったらさっさと茶を出しな!」
アタイたちは遠慮なく席に着き、目の前にあった紅茶をがぶ飲みしてクッキーをガツ食いした。
その様子を微笑ましく眺めるアリスネット。
嬉しそうに懐からトランプの山を取り出した。
「ね、みんなでカードゲームをしましょ」
おいおいおい(笑)
ポーカーかブラックジャックか知らないが、このアタイに勝負を仕掛けるつもりかい?
儚きギャンブル狂の異名を持つゴブ子様を相手にしようとは、この小娘も怖いもの知らずだね。
と思ったが、アリスネットは七並べをするつもりでみんなに手札を配りだした。
ふん、どうやらひよったようだね。
まあこのくらいで肩慣らしをしつつ、相手の力量を見定めるのも悪くはないだろう。
アタイたちは紅茶を啜りながらキャッキャと七並べに興じた。
そうしながらこれまでの経緯について語る。
「懐中時計を下げたウサギを追ってこの不思議の国にたどり着いたのね」
「不思議の国だあ?」
彼女曰く、この場所には異質な魔力が渦巻いており、動物たちがお喋りしたりトランプが兵隊になって国を作ったりしているとのこと。
さらには時空がゆがんでいるせいで、特別な手順を踏まなければ元の世界から出入りすることができないのだという。
しかし、そんな荒唐無稽な話をやすやすと信じられるはずもない。
「全部あんたの妄想じゃないのかい」
「なにせ独りぼっちでままごとを満喫してるくらいだしな」
「まあ。私は嘘つきじゃないわ。ここには煙のように消える猫や、卵でできた男爵だっているんだもの」
アタイたちは思わず顔を見合わせて苦笑いした。
いわゆるイマジナリーフレンドというやつだろうか?
ボッチも拗らせるとここまでいくみたいだね。
おお、怖い怖い。
そうしてアリスネットの語る絵空事を鼻で笑っていたが、そこで問題が起こった。
ジョニーが紅茶と間違えてテーブルに置いてあった小瓶のポーションをゴクリと飲んでしまったのだ。
「んん? なんだこりゃあ!」
なんと驚くべきことに、ジョニーの体がみるみる小さくなっていくではないか!
「それはピッシュサルヴァー。別名縮み薬といって、飲んだ人の体を小さくさせるのよ」
説明の最中もジョニーの背は縮み続け、最後には手のひらサイズになってしまった。
涙目のジョニー。
「食い意地が張ってるからバチが当たったンだわ」
そう言いながらスラモンは手元のケーキをガブリと齧った。
すると今度は真逆に体が大きくなり始めた!
「ンだわ~!?」
「それは巨大化させるアップルクーヘン。どう? こんなに面白おかしな魔法は元の世界じゃお目に掛かれなかったでしょう」
どうやらアリスネットの言う通り、ここは奇妙でメルヘンな魔力の渦巻く不思議の国みたいだね!?
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
ついに始まった、童話新訳クエストの第2弾!
前回の赤ずきんに続いて、今度の舞台となるのはまるで不思議の国のアリスをなぞらえた世界!
へんてこメルヘンなワンダーランドで望んでもいない大冒険が始まるよ!
【第255話 ゴブリンガールは不思議の国に行く!】
ぜってぇ見てくれよな!




