第253話 ゴブリンガールは故郷を燃やす!
今日もクエストボードを前に楽そうな仕事を物色していると、面白い掲示を見つけた。
それは低レベルの勇者向けに設定されたレイドクエスト。
4~5人でパーティを組み、一定数のモンスターを狩るというものだ。
クエストの舞台となる低級フィールドの名前がいくつか羅列されており、そこから好きな場所を選んでマッチングを待つという仕組みらしい。
ここからが傑作なのだが、アタイはそのフィールドの中に故郷であるゴブリン集落の名を見つけたのだった!
「老害村長を始め、クソの寄せ集めみたいなゴブリン村の連中を痛い目に遭わせてやって、人に感謝される上に報酬金までもらえるそうだよ! こりゃあ笑いが止まらないね!」
高笑いのアタイをジョニーとスラモンが咎めた。
「おいおい忘れちまったのかよゴブ子」
「あの村の連中はガチャの借金のカタに入れてるンだわ」
そういやそんな設定あったね。
はるか昔、エルフ銀行で口座を開設したときに、勝手に村を担保に入れて融資を受けたのだった。
もしアタイたちが借金を返しきれなければ、村は解体されてゴブリンどもは方々へ人身売買される。
だがそれはたかだか数百万の融資を受けた時の契約内容。
今のアタイの借金はそれを優に超える億単位なんだから、あんなクソ村のひとつやふたつ消えたところでもはやどうでもいい話だね!
「アタイはね、そんな小金を気にするよりもパアっと憂さ晴らしをしたい気分なんだよ! わかったらゴブリンどもをぶちのめしに行くよ!」
アタイたちはレイド参加者の集う待合所に向かった。
そこには先客の勇者と思しき2つの人影があった。
「俺は剣術闘勇士! 最近勇者になったばかりだけど、もうレベルは5なんだぜ!」
「あら、なら私はもうレベル6よ。ジョブは魔勇士をやってるわ。よろしくね」
駆け出しの新人勇者らしい2人組はフレッシュな自己紹介をしてくれた。
そしてアタイたちの姿を一目見て怪訝な顔をした。
「え? ゴブリンがゴブリンの討伐クエストを受注……?」
「なんだい! なんか文句あんのかい!」
アタイはツバを吐き捨てた。
「ふん! あんたたちのようなザコでもレベル2のゴブリン相手ならそこそこ良い仕事をするだろうね! さあ、さっさと準備を済ませてアタイについてきな!」
「いやなんでお前が仕切ってんだよ」
「そうよ。あんたたちなんてただの足手まといじゃない」
「馬鹿どもが! あの村出身のアタイがいることで敵の頭数やらなんやらを正確に把握できるんだろうが! 情報は力だよ! わかったらこの先はアタイの言葉に従いな!」
不服そうな若手勇者を引き連れてアタイは意気軒高とゴブリン集落に乗り込んだ。
突如現れた勇者を前にゴブリンたちは大パニック。
その混乱をかき分けるようにして群衆の中から村長が姿を見せた。
「どういうつもりじゃゴブ子! 貴様、悪魔に魂を売ったか!」
「黙りな老害村長! いつもいつもアタイひとりをのけ者にしやがって! あんたたち邪悪な魔物は正義の裁きを受けるがいい!」
これには勇者たちだけでなくジョニーとスラモンもドン引きした。
「そのくらいにしとけよゴブ子」
「完全にお前の私怨だけが先走りしてるンだわ」
「うるさいね! なにボサっとしてんだいザコ勇者! 早くこいつらを薙ぎ払いな!」
勇者たちは剣と杖を構えた。
だがそれに村長が待ったをかける。
「聞くのじゃ勇者たちよ。ワシからひとつ提案がある」
「提案?」
「我々ゴブリンは近頃ここいらをうろつく厄介なウサギの魔獣、ボーパルバニーの脅威にさらされておるのじゃ。奴を退治してくれたら特別な報酬を払おう」
まさかこれは……、クエスト分岐!?
クエスト分岐とは――――。
依頼を進めていくうちに分かれ道が現れ、その選択いかんによって本来とはまた別の達成目標が課されるイベントのことだ。
どの分岐を選ぶかは報酬内容で決めてもよし、興味のあるストーリー展開で決めてもよし、その場のノリに身を委ねるもよし。
「当初の予定のままゴブリンたちを倒せば、この集落からいくらかの金品を持ち帰れるじゃろう。じゃが我らの望みを聞いてくれれば、特別報酬【ゴブリンからの感謝状】をゲットできるぞ」
「感謝状? なんだいその胡散臭いアイテムは!」
「特に市場価値はないが、コレクター向けに実装された収集アイテムじゃ。ちなみにこれを10枚集めてワシに納品すれば【ゴブリンの英雄】の称号をゲットできる」
出たよ嵩増しコンテンツ!
いわゆる実績解除と呼ばれる、通常プレイでは物足りなくなった廃プレーヤー向けに用意されたいらん追加要素のことである。
「んなもんを利用して敵意を逸らそうとは、小賢しいことを思い付くね!」
「黙れ! これも我ら弱者が存続するための苦肉の策じゃ!」
だがしかし、残念だったね。
アタイが連れてきた勇者どもはまだ冒険を始めて間もないヒヨッコたち。
こういったエンドコンテンツには興味を示すこともないだろう。
と思いきや、
「確かに実績には興味ないけど、どっちかというと分岐したクエストの方が面白そうだな」
「はあ!?」
「より手強いモンスターと戦えそうだからな。ワクワクするぜ」
「私はゴブリン村に同情しちゃった。みんなのためにウサギの魔獣を倒しに行くわ」
なにボケたことほざきだしてんだよボケ勇者!
まんまと話に乗せられやがって!
あんたたちは黙ってゴブリンどもを惨殺してればいいんだよ!
上手く事が運ばずに悔しさで地団太を踏むアタイ。
するとこの喧騒の中から1人の青年が姿を現した。
「なんの騒ぎかと思ったら……。ゴブ子さんが里帰りしていたんですね」
「エッ……!? そ、その声は!」
その場に佇んでいたのはなんと、我が愛しのイケメン勇者・シブ夫!
どうしてここに!?
「クエストボードにこの村の討伐依頼が掲示されてるのを見つけて、心配になって訪ねて来たんです」
「ふう~ん、そうなんだあ♡」
「ゴブリンの皆さんは無害だから討伐対象に含めないようにと、前々からギルドに通知をしていたんです。今回の件は手違いだったということで、先ほど依頼は取り下げられました」
そう言って新米勇者たちに優しく笑いかけるシブ夫。
「間に合って良かった。争いをする理由はありませんので武器をしまってください」
「さっさとしまいなザコ勇者ども! 大先輩のシブ夫に手間掛けさすんじゃないよ!」
新米たちはアタイに蔑みの視線を向けたあと、一転して顔を上気させながらシブ夫を取り囲んだ。
「あなたがウワサの転生勇者か! 想像通りかっこいいぜ~!」
「私ファンなんです! サインください!」
「……今やシブ夫は中堅勇者なンだわ。これまでの冒険の話も脚色されながらいろんな街に広まってるらしいンだわ」
「巷のファンクラブには女子だけじゃなく野郎までもが集ってるとか。中にはシブ夫に憧れて勇者を目指す奴もいるんだってよ」
さすがはカリスマの貴公子シブ夫。
影響力は絶大だね!
そのあとアタイたちは村長の家に招かれて茶を振舞われた。
新米どもはシブ夫の武勇伝を聞き入ったり、戦闘指南を受けたりして大盛り上がり。
アタイも鼻を高くしてシブ夫と過ごした冒険のエピソードを語り散らかしてやったのだった。
そしてみんなでウサギの魔獣、ボーパルバニーの狩りに出掛けてフレンドになった。
戦いの後の帰り道、アタイはなんとも複雑な想いに駆られていた。
メキメキとレベルを上げて名声を広げていく中堅勇者のシブ夫。
誇らしいことだけど、同時に、どこか遠い存在になっていくようで物悲しくもある。
浮かない顔をしてチンタラ歩くアタイに、シブ夫がそっと近寄って声を掛けた。
「勇者として場数を踏むにつれ、ときどきふと、初心を忘れて奢ってしまいそうになる自分に気付くんです。そんなときはゴブ子さんのことを思い出すんです」
「えっ……?」
「初めて出会ったあの日、あなたはためらいなく僕を袋叩きにしてくださった。あの戒めが今でも僕の揺るぎない原点なんです」
そう言って優しく微笑むシブ夫。
「僕たちのレベル差がいくつ開いたとしても、あなたを敬う気持ちは変わりません。これからも頼りにしています」
――――キュキュンのキュン!
アタイは幸せの絶頂を迎えた。
勇者に頼られちゃうゴブリンなんてアタイが史上初じゃない!?
まいったねこりゃ!
こうなったら立ち止まってるヒマは無いね!
さっそく次のクエストに向けて出発だよ!
まだ見ぬ強敵やら勇者やらモンスターやら、首を洗って待っていな!
誰がなんと言おうとゴブリンガールの快進撃はまだまだ終わらないんだからね!
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
白ウサギを追ってたどり着いたのは見渡す限り広がるメルヘンな花畑。
でもここにあるのは美しい景色だけじゃない。
化け猫の潜む暗い森や奇妙なお茶会、それにトランプでできた王宮だって!?
ゴブリンふう童話新訳シリーズ第2弾!
シーズンクエスト【不思議の国に行く!】編、始まるよッ!
【第254話 ゴブリンガールは泣き虫少女と出会う!】
ぜってぇ見てくれよな!




