第252話 ゴブリンガールはウーバーイーツする!
次なる単発クエストは【誕生日のお祝い配達(推奨レベル2)】。
アタイたちは依頼主の家の呼び鈴を鳴らした。
出てきたのは白髪を束ねてエプロンをまとった優しそうなおばあちゃん。
「おやまあ、掲示板を見て訪ねてくれたんだねえ。どうもありがとう」
ちんちくりんの魔物たちを前にしても、ばーちゃんは蔑みの目を向けることなく微笑んだ。
そして紙切れとラッピングされた箱を差し出した。
「実はこれから孫娘のお誕生会が開かれるんだよ。メモに書いた住所へこのパイを届けておくれ」
なんともチョロそうな依頼内容だね。
これなら今回は楽勝だよ。
だがしかし、アタイは物品を受け取りながらも首をかしげた。
「パーティーやるならなんでばーちゃん自身が持っていかないんだい?」
「私は招待されてないんだよ。ダサいから来ないでくれと言われちゃってねえ……」
ダサいだあ?
そんな理由で孫想いの祖母をないがしろにするなんて、ふざけたガキもいたもんだよ!
どうせそのパーティーとやらも、呼び寄せた類友たちと見栄を張り合うだけのしょうもない女子会だろう。
昨今の承認欲求キラキラ女どもは救いようがないね。
「姿は見られなくても、せめてあの子の大好きなパイを食べさせてやりたくてね。こうして誕生日には毎年焼いているんだよ」
アタイたちは腑に落ちないながらも、ばーちゃんに見送られながら孫の家に向けて出発した。
だが歩き出して早々に問題が起こった。
ふと顔を上げると、空は暗い雲で覆われており、しばらくして大粒の雨が降り始めてしまったのだ!
「ひや~っ!」
アタイたちはがむしゃらに駆け巡り、雨宿りできそうな廃材置き場に行き着いて身を寄せた。
「まずいね。適当に走り回ったせいでここがどこかわからなくなったよ」
「ぐずぐずしてたらパーティーが始まっちまうぜ」
「パイも冷めちゃうンだわ」
見ればパイを包んでいる外箱が雨で湿っている。
アタイたちは中身が無事か確認するために蓋を開けてみた。
途端に漂う香ばしい香り!
それに反応して腹の虫が鳴き出した。
そういやここ最近まともなメシにありつけてなかったからね……。
ゴクリと生唾を飲み込むアタイたち。
だがしかし、もしここでアタイたちがパイを盗み食いしてしまったら、あのばーちゃんはどんなに悲しそうな顔をするのだろう?
そんなことを想像してみるだけで胸がチクリと痛くなる。
アタイたちは胸をチクリと痛ませながらパイを盗み食いした。
と思ったら、なにこれ旨いねえ!
サクサクと軽い食感のパイはほど良く香ばしく、その内側にはホロホロとした身のニシンとモチリと食べ応えのあるカボチャがたっぷり包み込まれている!
塩味と甘みの絶妙なハーモニーに舌鼓が鳴る!
そうして夢中になってつまみ食いをしていると、気付けばパイは忽然と姿を消していた。
あれれー?
――――結局そのあと雨に濡れながら村をさまよい、予定の2時間遅れで目的の家にたどり着いた。
空になった箱を小脇に抱え、なんとも重苦しい気持ちで呼び鈴を鳴らす。
すると小じゃれたドレスで着飾った釣り目のガキが現れた。
「は? なに? 魔物が家になんの用?」
「いやあの……」
「勧誘ならよしてよ。私いま忙しいんだよね」
「いや違くて、ある人の依頼で……」
蔑みの一瞥をくれる孫娘。
その背後からは大勢の女児たちの楽し気な談笑が聞こえてくる。
「ああ……。それおばあちゃんの? 困るのよねえ。いらないって言ってるのに毎年しつこく送ってきてさ」
はあ……?
「私、このパイ嫌いなのよね」
アタイたちはブチギレた。
抱えていた空箱を床に叩きつけて勢いのまま捲し立てる。
「魔女宅かよ! 黙って聞いてりゃこのクソガキが!」
「は? ジブリ? なんの話? ていうかこの箱の中カラじゃん」
「黙れこのババ不幸者!」
「こんな奴に食われる予定だったパイがかわいそうなンだわ!」
「てゆーかそのパイどこだよ。箱の中カラなんだよ」
騒ぎを聞きつけてクソガキの類友たちが群がってきた。
「なにこのモンスター。うっざ」
「キショすぎ。帰れよ」
ケバいメイクの女児が孫娘に耳打ちした。
「ちょーどいいじゃん。さっきプレゼントでもらったアレ、こいつらに試してみよ」
「ウケる。あり寄りのあり」
孫娘は背後に積み上がった箱のひとつを手に取り、包装紙をビリビリに破いた。
中から出てきたのは新品のステッキだった。
「パパがくれた護身用アイテム。魔避けのバフが掛かってて、これで殴るとクリティカルダメージが上乗せされるらしいよ」
アタイたちは青ざめた。
「び、びえーッ!」
「待てよザコモン!」
「マジあたしら舐めたこと後悔しろよ!」
地獄の追いかけっこが始まった。
泣きじゃくりながら村の通りを駆け抜けるアタイらと、護身ステッキを振り回しながら追い立て囃す腐れ女児ども。
必死になって走っていると、気付けば依頼主のばーちゃんの家にたどり着いていた。
アタイたちはドアに縋り付いて一心不乱に戸を叩く。
「助けて! 撲殺される!」
「おやまあ。一体どうしたんだい?」
ばーちゃんがドアから顔を出すのと同時に、追いついた孫娘たちも家の前に集まった。
「どういうつもりよおばあちゃん! 乞食を送り込んで私のパーティーぶち壊すつもりだったワケ!?」
「ええ……?」
「サイテー! もう金輪際連絡すんなし」
狼狽えるばーちゃん。
とその時、再び雨雲が空を覆って大雨が降り出した。
「キャー、サイアク!」
「お気にのワンピがずぶ濡れじゃん!」
仕方なくその場の全員がばーちゃんの家で雨宿りすることになった。
「なにこの障子とか襖とか。ガチ昭和じゃん」
「古い畳の懐かしい香りエグw」
ちゃかす類友たちを前に孫娘は顔を真っ赤にしてしまった。
「こうなるのが嫌だったから呼ばなかったんだよ」
「ごめんねえ。おばあちゃんハイカラなことわからなくて……」
「もういいよ! パーティーの途中だったからお腹空いてるの。みんなのためにピザデリバリーしてよ」
「はて、でりばりー?」
ばーちゃんは申し訳なさそうに棚からぽたぽた焼きや寒天ゼリーキャンディーを取り出した。
「こんなものしかなくって……。ごめんねえ」
「はあ? ピザって言ったでしょ! これ以上私に恥かかせないで!」
そこでとうとうアタイの堪忍袋の緒が切れた!
「無償の愛が注がれ続けることを当然だと思い込んでいるクソガキが! 文句があんなら引っ込んでな! あんたの代わりにこの家のもん全部アタイがもらってやっからよ!」
「なにこいつ。なんで関係無いあんたがもらうんだよ!」
「そーだよこいつに食われるくらいならあたしらで食べるし!」
ガキどもはアタイを威嚇しながら寒天ゼリーを頬張った。
すると、驚いたように目をぱちくりして互いの顔を見やった。
「ちょっと待って。コレ旨すぎじゃね?」
「おったまgetdown(笑)」
ケバい類友がばーちゃんに尋ねる。
「これリピーター不可避だわ。どこのLoftで買えんの?」
「それは売り物じゃなくて私の手作りだよ」
「卍? おばあちゃんの知恵袋ハイレベすぎね?」
「実はニシンのパイも予備でもうひとつ作ってあったんだよ。良かったら食べておいき」
「ほんmoney!?」
場は一気に盛り上がり、ついにはここでパーティーの仕切り直しが始まってしまった。
ばーちゃんを中心に大騒ぎが起こる中、バツの悪そうな顔をした孫娘が誰に言うでもなくボソリと呟いた。
「……なんだし。おばあちゃん、結構カッコいーじゃん」
その一言を聞き洩らさなかったアタイとジョニーとスラモンは、声に出さないようフフフと笑いを噛み殺したのだった。
~翌日~
アタイたちは改めて挨拶のためにばーちゃん家を訪ねた。
「あの子たちに随分気に入られちゃったみたいでねえ。今日も学校終わりに友達を連れて遊びに来るって言われてねえ」
幸せそうに微笑むと、懐から茶封筒を取り出した。
「これはクエストの報酬だよ。本当にありがとう」
……しかし、アタイたちは誰もその封筒に手を伸ばすことをしなかった。
「孫には何かと金が掛かるもんだよ。それはばーちゃんが持っときな」
「だけど……」
「いいっての。年金暮らしじゃあんまし余裕もないだろ」
「その金でまたパイを焼いてやったら良いンだわ」
ばーちゃんの瞳に涙が光った。
「ありがとう。ゴブリンのお嬢ちゃんにスケルトンの坊や、そしてスライムのおチビちゃん」
「へへっ! 次のクエストが待ってんだ! アタイらはもう行くよ!」
照れ隠しのためにアタイたちは勢いよく駆けだした。
ふん、たまには真っ当にクエストに取り組むってのも悪くはないね!
アタイたち、なんか良いことやっちゃいました……!?
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
小金稼ぎに精を出すアタイたちの目に留まった一件のクエスト案内。
それはゴブリン集落の討伐依頼だった!
アタイを村八分にした故郷の連中にひと泡吹かせてやれるチャンスだね!
さあ勇者ども、アタイについて来な!
【第253話 ゴブリンガールは故郷を燃やす!】
ぜってぇ見てくれよな!




