終幕
安寧とした時が流れ、所は魔導学院の食堂。
「お兄ちゃん! 一体いつになったら召喚獣さん買ってくれるの!?」
広い食堂に響き渡る甲高い声に、ミスティは思わず身を竦めた。
恐る恐る振り返り、自分の予想が当たっている事を確認する。
憤然と愛らしい頬を膨らませているのは、紛れもなく悪戯めいた小さなレディこと、レティシャに他ならない。
「あ”ぁ~!! お許し下さい、レティ様!
仕送りがまだ届かないのですぅ~」
「駄目! 不許可! 問題外!
休養中のお姉ちゃんに言いつける!」
聞く耳も持たないといった感じでレティは踵を返した。
魔族に憑依されていたファルは命に別状はないものの、ひどく衰弱しており、今は学院内にある療養所で静養していた。
憑依されていた間の事は記憶になく、それを聞いたミスティが一喜一憂したのもむべなるかな。
「そ、それだけは何とぞ!
後生ですから!」
必死にレティに覆い縋り、拝み倒すミスティ。
どうやらプライドの欠片もない様である。
「ふ~ん、いやだよ~だ」
「レ、レティ様ぁぁぁ!」
素っ気なく答えるレティを宥めすかしながら、ミスティは思った。
この少女を相手に、自らの力が何の役に立とうか?
所詮強大な力など、振るうべき者の心掛け次第で悲劇を呼ぶ狂人の刃ともなり得るし、喜劇を招く少女の微笑ともなる。
力を持つ者は、その力を持つ意義を自覚し、自制できることこそ重要なのだろう。
それが出来ないモノは、人ならざる怪物と一緒だから。
ミスティは知っている。
己の中にある、呪われた獣性を。
人の心とは、常に揺れ動く不安定な存在だ。
悪魔の様に狡猾で破壊を弄ぶ自分。
神々の様に冷徹で創造を描く自分。
凡人の様に憶病で自制を望む自分。
そのどれもが自分である。
そしていずれかが欠けても、人は人たり得ない。
だからこそミスティは隠し続ける。
自分の本性を。
自分が自分である為。
力などに振り回されぬ、確固たる存在意義を守る為。
……例え他の者に卑怯者と呼ばれようとも。
それこそ彼にとってのSHADOW BREAK……微かな光を紡ぐ事なのだから。
タガタメ~第三部へ続く。
あるいは勇者シリーズ序章へ。
もう10年前以上前に書いた小説がこれです。
自分の書く世界のプロットはここから発生していってます。
良かったらこれからもご愛読下さい。
拙い内容ですけど、気に入ってもらえたら嬉しいです。