EP 8
四神獣推参! ……そして勃発する「泥沼の社内恋愛」
「ちょ、ちょっと待てお前ら! 喧嘩などしている場合ですか! 偉大なる死蟲王の命令に従い、そこの人間どもを殺しなさ――」
「うるさいわね! 三流の手品師はすっこんでなさい!」
魔人ワイズの命令を、燃え盛る炎の鳥『朱雀』が、翼から放った灼熱の羽で物理的に黙らせた。
「あっちぃぃぃッ!?」とワイズが地面を転げ回る中、天魔窟の最深部を揺るがす『神獣たちの修羅場』は、さらにヒートアップしていく。
「青龍! あんた『君主論』の第15章を知らないの!? 理想ばかり語って現実の女を見ない男は破滅するのよ! なのに、どうして白虎ちゃんと深夜に『兵法』の語り合いなんかしてるのよ!」
朱雀が、紅蓮の機械竜『青龍』に詰め寄る。
「フッ。孫子曰く、『兵は詭道なり』。……朱雀、君が私を本命だと言いながら、ガオン派閥を切り崩すためのキープとして私を利用していることなど、百も承知だ。私は自らの陣地(好意)を分散させ、リスクヘッジを図ったまでだよ」
青龍がインテリ眼鏡をクイッと上げるような仕草で、理路整然とクズな浮気の言い訳をする。
「ひどい……! どっちもひどい! 罪と罰だわ……! 私が朱雀ちゃんの誘いを断りきれず、青龍さんにも優しくしちゃったから、こんな争いが……ッ! いざとなったら私のドリルで全てを粉砕して、私もスクラップになるしかない……ッ!」
白き鋼鉄の虎『白虎』が、頭を抱えて勝手に悲劇のヒロインモードに入り、ドリルをキュルキュルと空回りさせる。
「あーもう! みんな私のことなんて見てない! 私はどうせ、ガオガオンの下半身(土台)! 踏みつけられるだけの人生(人間失格)なんだわ! もう嫌! 自分の重力シールドを内側に反転させて、甲羅ごとペチャンコにリスカしてやるぅぅぅっ!!」
巨大な亀『玄武』が、自身の重力を制御不能に暴走させ、周囲の岩盤をメリメリと陥没させ始めた。
「…………」
その地獄のような光景を前に、聖獣ガオンは完全に無言になり、黄金の四肢をガクガクと震わせていた。
「おい、ガオン。大丈夫か。顔面(装甲)が真っ青だぞ」
優也が、気の毒すぎる中間管理職の背中をポンポンと叩く。
「ゆ、優也……。我輩は、神話の時代からずっと……アイツらのこの痴話喧嘩に挟まれながら、必死に世界のバランスを保ってきたのだ……。ルチアナ様の洗脳より、アイツらのドロドロした感情の方がよっぽどノイズなんだ……ッ!」
「泣くな。胃(冷却水)に穴が空くぞ。ほら、56(クレ)スプレーだ」
優也が再び『KURE〇-56』をジョイント部分に吹き付けてやると、ガオンは「ありがとう……沁みる……」と男泣きした。
一方、キャルルは全く別の意味で震えていた。
「尊い……ッ! 同人誌のページから飛び出してきたような、完璧な解釈一致……! 生きててよかった……ッ!」
キャルルはリュックから分厚い同人誌を取り出し、目の前で繰り広げられる神々の修羅場と挿絵を交互に見比べながら、限界オタクのようにハァハァと荒い息を吐いていた。
「オタクってのは、どんな状況でもブレねぇな……」
優也が呆れたようにため息をつく。
「お、おのれぇぇぇッ! 貴様ら、死蟲王の魔力で洗脳されているはずだろうがぁッ!!」
完全に置いてけぼりにされたワイズが、ついにブチギレた。
彼は残存する全魔力を振り絞り、四神獣の頭に直接繋がっている『死の洗脳糸』に、強烈な強制命令(電気ショック)を流し込んだ。
「動けェェッ! 貴様らは私の操り人形だ! その恋愛脳をスクラップにして、殺戮兵器として――」
ワイズが魔力を流し込んだ、次の瞬間。
――バチバチバチッ! ボガァァァァァァンッ!!!
「あべばぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」
ワイズの脳内に、四神獣の『限界を超えたドロドロの感情(毒)』が、洗脳糸を逆流して一気に流れ込んだ。
『私を見て!』『リスクヘッジだ!』『私が悪いんだわ!』『リスカする!』という神話級のメンヘラ感情の濁流は、三流の魔人であるワイズの精神キャパシティを、たった一瞬で完全に崩壊させた。
「あばばばば……! 頭が、頭が割れるぅぅぅっ! なんだこの重すぎる感情は! 絶望よりもタチが悪いぃぃぃっ!」
ワイズが頭を抱え、白目を剥いて地面をのたうち回る。
「……アホだな。現場で下請け(四神獣)が揉めてる時に、無理やり力で押さえつけようとしたら、反発して大炎上するに決まってんだろ」
優也は、自滅していくワイズと四神獣たちを冷ややかな目で見下ろし、赤熱する『ガオンマグナムソード(プラズマカッター)』を肩に担ぎ直した。
「優也君、どうするの? あいつら、放っておいても勝手に自滅しそうだけど」
キャルルが同人誌を大事そうに抱えながら尋ねる。
「下請けの喧嘩は放っておく。……俺たちの狙いは、あのピエロが逃げ込もうとしていた、奥の『要塞』だ」
優也がヘッドライトで照らした先。
天魔窟の最深部の入り口を塞ぐように、ワイズが死蟲機の残骸と魔力で組み上げた、巨大な『防衛陣地(要塞)』がそびえ立っていた。
「あいつの魔力防壁と、分厚い壁……。普通なら魔法で破るんだろうが、あいにく俺は土方だからな」
優也の口元に、極悪な現場監督の笑みが浮かぶ。
「壁が硬てぇなら、壁を殴る必要はねぇ。要塞を支えてる『柱』を全部抜いて、天井ごと物理的に【解体】してやる」
神々の泥沼恋愛がダンジョンを揺るがす中、現場監督の冷徹な「要塞解体工事」が、ついにワイズに完全なる引導を渡す!




