EP 7
壁抜き救出作戦! トロッコと聖剣カッターの爆走
――ギュイィィィィィィィィィンッッ!!!
魔人ワイズが作り出した赤黒い幻覚空間。その絶対的な『精神の檻』に、突如として数千度の高熱を帯びた『聖剣』の切っ先が突き立てられた。
「な、なんだと!? 私の精神魔法の結界が、溶けている……!?」
ワイズが包帯の下の目をひん剥いて驚愕する。
ドガァァァァァァンッ!!!
次の瞬間、ドロドロに溶かされた空間の壁(概念)を物理的に粉砕し、廃棄された鉄屑を組み上げて作った手作りの『トロッコ』が、猛スピードで突っ込んできた。
「オラァッ! 邪魔だ退けェッ!!」
トロッコの先頭で赤熱する『ガオンマグナムソード』を振り回しているのは、真っ黒な遮光面を被り、土埃にまみれた現場監督・高木優也。
そして、その後ろで必死にトロッコのブレーキレバーを引いているのは、黄金の聖獣ガオンである。
「ゆ、優也! もう少し丁寧に運転できんのか! 我輩の装甲が壁に擦れているぞ!」
「文句言うな! 座標が歪められてるなら、壁ごとコア抜き(貫通工事)して道を作るしかねぇだろ!」
「ば、バカな……ッ!」
ワイズが後ずさる。
「物理的な質量で、精神世界の壁を突破するだと!? 貴様、本当に人間ですかッ!?」
「人間だよ。ちょっと納期(救出)に追われてるだけの、しがない底辺労働者だ」
優也がトロッコから飛び降りると、赤熱する聖剣を無造作に振り抜き、空間に立ち込めていた赤黒い霧を、圧倒的な熱量による『上昇気流』で一気に吹き飛ばした。
霧が晴れた先には、幻覚に囚われ、膝を抱えて震えているキャルルとリーザの姿があった。
「リーザ! キャルル!」
優也が駆け寄る。
リーザは、存在しない「汚染された海」の幻覚の中で、虚ろな目をしていた。
「ごめんなさい……。私、いくら稼いでも……みんなのお腹を、いっぱいにできなくて……。私の強欲は、無意味だったんですぅ……」
「バカ野郎」
優也は、リーザの頭にポンッと分厚い手を乗せた。
「お前の『金と飯への執念』があったから、ポポロ村のメガ野菜ビジネスは成功したんだ。お前の強欲は、村の経済を回す立派な『原動力』だ。……腹すかせてるガキがいるなら、タローソンのロールケーキごと、俺が綺麗な海をまるごとDIYしてやる。だから、泣き言言ってんじゃねぇ!」
「優也様……っ」
リーザの瞳に、再び強い光(とルチアナ円のマーク)が戻る。
優也は次に、自分の手を恐れるように見つめているキャルルに向き直った。
「私に、触らないで……。私、本当はただのバケモノなの……。優也君も、いつか私に殺されるわ……」
「……」
優也は無言のまま、自分の被っていたヘルメットを外し、キャルルの頭にスコンッと軽く被せた。
「痛っ! な、何するのよ……」
「安全確認の基本、ヘルメットの着用だ。……キャルル、お前がバケモノだっていうなら、神話の聖剣を溶接バーナーにしてる俺はどうなる? とっくに天罰モンの大悪党だぞ」
優也はしゃがみ込み、キャルルの目を見つめた。
「俺は、お前が満月の夜にどれだけ暴れようが気にしねぇ。お前は俺の現場(村)を誰よりも守ろうとしてくれた、最高の『現場責任者』だ。……こんな三流の手品師の戯言に、お前の価値を揺さぶられてんじゃねぇぞ、村長」
「優也君……っ!」
キャルルの目から大粒の涙が溢れ、彼女はヘルメットを押さえながら、力強くコクリと頷いた。
「あらあら、感動の再会ね♡ 私の出番、なかったみたい」
いつの間にか幻覚を自力で打ち破っていた(そもそもサイコパスなので精神攻撃が効かなかった)ルナが、のほほんと合流する。
「お、おのれぇぇぇッ!!」
自分の渾身の精神攻撃(トラウマ抉り)を、ただの「現場の理屈」で全否定されたワイズが、怒りで全身からどす黒い魔力を噴出させた。
「許しませン……絶対に許しませんヨォォッ!! こうなれば奥の手です! 偉大なる死蟲王サルバロス様から預かったこの力で、貴方たちの『希望』を直接叩き潰して差し上げまスッ!!」
ワイズが天高く両手を掲げると、天魔窟の深層から、大地を揺るがすような四つの凄まじいプレッシャーが急接近してきた。
「な、なんだ!? この圧倒的な魔力は……!」
キャルルが戦慄する。
「まさか……ワイズの奴、天魔窟の瘴気を使って『あいつら』を洗脳したというのか!?」
ガオンが、信じられないものを見るように目を細めた。
暗闇の奥から、重々しい足音と共に姿を現したのは――
白き鋼鉄の虎『白虎』、紅蓮の機械竜『青龍』、燃え盛る炎の鳥『朱雀』、そして重機のような巨体を持つ亀『玄武』。
「フハハハハッ! 見なさい! 貴方たちが崇める五神獣のうちの四体が、今や死蟲王の支配下に落ちたのです! さぁ、絶望のままに引き裂かれ――」
ワイズが高らかに勝利宣言をしようとした、その直後だった。
「ちょっと! 青龍! あんたさっき白虎ちゃんとコソコソ何話してたのよ! 私という本命がいながら!」
「ふっ、孫子曰く『兵は詭道なり』。君主論ばかり読んでいる君には、私の柔軟な恋愛戦術は理解できまい」
「あーもう! 私なんてどうせ誰も見てくれないんだわ! この重力シールドで自分の甲羅ごとペチャンコにしてやるぅぅぅっ!!」
「やめろ玄武! 早まるな! 罪と罰だ、これは私への罰なのか!?」
……四神獣たちは、ワイズの命令など完全に無視して、神話級のスケールで泥沼の痴話喧嘩(修羅場)を繰り広げ始めたのである。
「…………え?」
ワイズの口が、ポカンと開いた。
「あ、あちゃー……。やっぱり同人誌の設定、マジだったんだ」
優也が遮光面を上げ、乾いた笑いを漏らす。
絶体絶命のピンチから一転、敵陣営が勝手に内輪揉めを始めるという、前代未聞の超展開。
聖獣たちの『社内恋愛事情』が、今、天魔窟の最深部で大爆発しようとしていた。




