EP 6
魔人ワイズの分断罠。ヒロインたちの「過去」のチラ見せ
「オラッ! そこの出っ張った岩盤、落としとけ! 聖剣の熱で一瞬で溶けるから火傷に注意しろよ!」
『ガオンマグナムソード』という名の最強の溶接バーナーを手に入れた優也の地下鉄掘削工事は、圧倒的なスピードで天魔窟の深層へと進んでいた。
分厚い鉄の扉は焼き切り、死蟲機の装甲は豆腐のように溶断する。
「……信じられん。我輩のマグナムソードが、本当にただの土木工具として機能しているとは……」
ガオンが、あまりの現実(現場)にすっかり諦めの境地に至り、トボトボと優也の後ろを歩いている。
「文句言うな。おかげでこの階層の安全は完全に確保できた。あとは、ワイズの野郎が隠れてる生産ライン(最深部)まで一直線だ」
優也が遮光面を上げ、額の汗を拭ったその時だった。
――ヒュルルルル……ッ。
突如、通路の奥から赤黒い不気味な『霧』が猛烈な勢いで噴き出してきた。
「むッ!? この魔力の気配は……!」
ガオンが前足で地を蹴り、警戒態勢に入る。
「あははははッ! 順調な地下工事、お疲れ様ですヨォ、現場監督さん!」
霧の奥から、前回仮面を粉砕され、素顔を隠すために包帯をグルグル巻きにした魔人ワイズの嘲笑が響き渡った。
「ワイズ! テメェ、まだ懲りてねぇのか!」
「フフフ……。貴方の物理的な暴力には、もう懲り懲りですヨ。だから今回は、貴方の『仲間たち』の心を、内側からグチャグチャに壊して差し上げまスッ!!」
ワイズが指を鳴らすと、赤黒い霧が一気に濃度を増し、優也たちの視界を完全に奪った。
「おい、キャルル! リーザ! 離れるな!」
優也が叫ぶが、返事はない。
ワイズの『絶望の手品(幻覚魔法)』によって、一行はダンジョン内で完全に分断されてしまったのだ。
***
「……ここは? 私、どうして……」
リーザが目を覚ますと、そこは暗く冷たいダンジョンではなく、薄暗い『海の底』だった。
ヘドロとゴミに汚染された、かつての彼女の故郷――人魚族の集落。
『リーザ……お腹が、空いたよ……』
『ごめんなさい……もう、綺麗な水も、お魚も獲れないの……』
痩せ細り、骨と皮だけになった小さな人魚の子供たちが、リーザの足元にすがりついて泣いている。
「ああ……っ! ダメ、見ないで……!」
リーザが耳を塞ぎ、顔を歪める。
「ふふふ。思い出しましたか、人魚の小娘」
ワイズの声が海中に響く。
「貴方がなぜ、あれほどまでに『お金』と『食べ物』に執着するのか。……それは、飢餓で滅びゆく故郷の村を救うため。出稼ぎアイドルとしてルナミス帝国にやってきたものの、全く売れず、毎日タローソンの廃棄弁当を漁るしかなかった、あの惨めな日々を忘れるためですヨォ」
「ち、違う……! 私は……私が稼いで、みんなに美味しいものを……!」
リーザが札束を抱きしめるように腕を回すが、そこには何もない。
「無駄ですよ。貴方がいくら小銭を稼いだところで、あの汚染された海は元には戻らない。貴方の強欲は、ただの『自己満足』に過ぎないのですヨ」
***
同じ頃、キャルルもまた、深い幻覚の闇の中に囚われていた。
『バケモノ……! こっちに来るなッ!』
『キャルル様、落ち着いてください! お願いです、これ以上村の人たちを傷つけないで……ッ!』
血だらけの手。怯える村人たちの目。
それは、かつて彼女が『満月の呪い(極道化)』を制御できなかった幼い頃の記憶だった。
「……私、は。私はただ、みんなを守りたくて……」
キャルルが震える両手を見つめる。
月兎族の次期族長として生まれながら、満月の夜になると強大な暴力衝動に飲み込まれ、理性を失ってしまう呪い。
彼女がいつも強がり、ビビリな本性を隠して『極道の村長』を演じているのは、その圧倒的な力で外敵を恐怖させ、村人を守るための「虚勢」だった。
「悲しいですねェ。本当は誰よりも臆病で優しい兎なのに、呪いのせいで誰からも恐れられる『バケモノ』として生きるしかない。……優也だって、貴方の本当の恐ろしさを知れば、きっと貴方を切り捨てまスヨ」
ワイズの甘く冷たい囁きが、キャルルの心に深く突き刺さる。
「優也君は……そんなこと……」
反論しようとするが、キャルルの目からポロポロと涙がこぼれ落ちる。
***
赤黒い霧の中。
ヒロインたちはそれぞれの一番触れられたくない過去とトラウマを抉られ、心が完全に折れそうになっていた。
「さぁ……絶望しなさい! 貴方たちの心は、すでに私の手の中――」
ワイズが勝利を確信し、幻覚空間の中で高笑いを上げた、その時だった。
――ギュイィィィィィィィィィンッッ!!!
突如、幻覚の空間そのものを切り裂くような、凄まじい『切断音』と火花が、空間の壁を突き破って飛び込んできた。
「な……ッ!? なんだこの音は!?」
ワイズが驚愕して振り返る。
幻覚の壁が、数千度の高熱によってドロドロに溶け、丸く切り抜かれていく。
そして、その強引に開けられた大穴から、真っ黒な遮光面を被り、赤熱する聖剣を持った男が、トロッコに乗ってド派手に突っ込んできた。
「……幻覚(過去)なんか気にしてる暇あったら、足元の安全確認(ヨシ!)しろッ!!」
現場監督・高木優也。
どんな魔法の罠も、精神攻撃も、分厚い壁ごと『物理(DIY)』でぶち破る男の逆襲が、いよいよ始まる。




