EP 9
天魔窟「解体工事」。ワイズの結界要塞を物理で落とす
「ひぃぃぃっ! や、やってられませんヨォォッ!!」
四神獣のドロドロのメンヘラ感情を脳内に叩き込まれ、鼻血と涙で顔をグチャグチャにした魔人ワイズは、這々の体で天魔窟の最深部を塞ぐ『防衛陣地(要塞)』の中へと逃げ込んだ。
「ハァ、ハァ……! バカな、下請け(神獣)の管理がここまで面倒だとは……! だが、この要塞に逃げ込めば私の勝ちですヨッ!」
ワイズが魔力を込めると、死蟲機の残骸と岩盤を練り上げて作られた要塞の表面に、赤黒く光る『絶対防壁』が展開された。
「あははははッ! 見なさい! この結界は、物理攻撃も魔法攻撃も100%反射する無敵の盾! お前たちの薄汚い工具など、傷一つ付けられませ――」
「おい、ルナ。あの結界、上(天井)はどうなってる?」
要塞の外。優也は結界には目もくれず、安全靴のつま先で地面を叩きながら頭上を指差した。
「えーっとね、横と前はバリアが張られてるけど、天井は天魔窟の岩盤と一体化してるから、バリアの隙間があるわね♡」
ルナが目を細めて的確に分析する。
「よし。なら『解体』の条件は揃ってるな。……おいワイズ、お前、建築基準法(現場のルール)を完全に無視して要塞を建てただろ」
優也は肩に担いだ『ガオンマグナムソード(赤熱状態)』をブンッと振り回した。
「魔法使いがやりがちなミスだ。前と横の守り(バリア)ばっかり気にして、建物そのものの『構造(柱)』と『自重』をおろそかにしてる」
優也の目は、すでに結界ではなく、要塞を支えている四本の巨大な「主柱(耐力柱)」の根元を正確にロックオンしていた。
「キャルル、リーザ! 俺の指示通りに動け。大至急、この違法建築を【取り壊す】ぞ!」
優也は圏外ギリギリのスマホから、データ容量の軽いアナログ機材を数点召喚した(消費ポイント:計150p)。
ポンッ、と現れたのは、真っ赤な塗装の『手動式ダルマジャッキ(油圧式・30トン対応)』が4台と、ぶ厚い『H鋼の切れ端』だ。
「優也君、この赤い小さな筒はなに?」
キャルルが不思議そうにダルマジャッキを突く。
「テコの原理と油圧で、数十トンの重さを持ち上げる魔法の道具(工具)だ。いいか、結界の外側ギリギリにある、あの要塞の柱の『根元』にこれをセットしろ。俺が少しだけバリアの隙間(岩盤との境目)を掘る」
優也はマグナムソードを岩盤に突き立て、熱で周囲の岩を溶かしながら、バリアの内側にある『柱の基礎部分』にジャッキをねじ込む隙間を作った。
結界は「外からの攻撃」は弾くが、地面(岩盤)を這うように差し込まれたジャッキまでは防げない。
「よし、セット完了だ! キャルル、レバーを全力でキコキコ上下させろ!」
「分かったわ! 月影流・超連打ぁぁッ!!」
キャルルが目にも留まらぬ速さでジャッキのレバーを上下させる。
すると、小さなダルマジャッキが、ミシミシと凄まじい音を立てて要塞の巨大な柱を『下から』持ち上げ始めた。
「な、なんだ!? 要塞が、揺れている……!?」
中でふんぞり返っていたワイズが、足元の異常な震動に気づき青ざめる。
「ジャッキアップヨシ! 柱にテンション(負荷)がかかったな! ……そらよッ!!」
優也が、持ち上がって隙間ができた柱の根元に、数千度に赤熱したマグナムソードを横凪ぎにフルスイングした。
ジュバァァァァァァァァッ!!!
「あ、我輩の聖剣が今度は巨大なチェンソーのように……いや、もう何も言うまい」
ガオンが遠い目をしている。
超高熱のプラズマカッターと化した聖剣が、要塞の四本の主柱を、文字通り「だるま落とし」のように一瞬で水平に溶断した。
「えっ……? は? はしら、が?」
ワイズの顔から、一瞬で血の気が引いた。
「魔法の結界がどんだけ硬かろうがな……。建物を支える『柱』が折れたら、ただのクソ重てぇ『鉄と石の塊』なんだよ!!」
優也が拡声器で叫んだ次の瞬間。
主柱を失い、自重(数千トン)を支えきれなくなった要塞が、ワイズの頭上の岩盤(天井)ごと、凄まじい轟音を立てて崩壊を始めた。
メメリメリメリ……ドゴォォォォォォォォォォォォォンッ!!!
「あばばばばばばばばばッッッ!?!? 結界が! 絶対防御の結界が、中からの崩壊で潰れるぅぅぅっ!!!」
要塞の結界は、外からのミサイルや魔法は防げても、自分自身の『崩落する質量』を防ぐようには設計されていなかった。
ワイズの断末魔は、崩れ落ちる数千トンの瓦礫と土砂の轟音に完全に掻き消された。
もうもうと立ち込める粉塵。
四神獣たちすら痴話喧嘩をピタリと止め、その圧倒的な「物理的破壊」の光景を呆然と見つめていた。
「……ふぅ。解体完了(ヨシ!)。やっぱり安全な現場は、整理整頓(更地)からだな」
優也は遮光面を外し、土埃を払いながら、ガレキの山となった要塞跡に近づいた。
そこには、全身を打撲し、服はボロボロ、白目を剥いて完全に意識を飛ばしているワイズが、瓦礫の隙間からピクピクと手足を出していた。
「ヒィィ……。神話の魔人が、ただの落盤事故で負けたわ……。優也君の現場、恐ろしすぎる……」
キャルルがウサギ耳をペタンと寝かせて震え上がる。
「よし、リーザ。あいつの身ぐるみ剥いで、金になりそうな魔道具は全部回収しろ。ルナはワイズをツタで縛り上げとけ」
「了解ですぅ! 身ぐるみ剥がしますぅ!」
「ふふっ、亀甲縛りにしてあげるわね♡」
ヒロインたちが嬉々として戦後処理(ハイエナ行為)に向かう中。
――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……ッ!!
突如、更地となった要塞の奥、天魔窟の『真の最深部』に通じる巨大な青銅の扉が、地響きと共にゆっくりと開き始めた。
そこから漏れ出したのは、ワイズの魔力や、四神獣のプレッシャーなど比較にならない、次元の違う『圧倒的な死の瘴気』だった。
「……おいおい。解体工事の音がうるさくて、現場の【オーナー(黒幕)】が起きちまったみたいだな」
優也が新品の安全靴で地面を踏みしめ、ガオンマグナムソードを構え直す。
その奥の暗闇から、無数の赤い複眼が、優也たちをじっと見下ろしていた。
天魔窟の支配者、死蟲王サルバロスとの最終決戦の幕が上がる!




