EP 4
孤高の超人(中間管理職)。聖獣ガオンとの遭遇
有毒ガスを排出し、落盤の危険を排除しながら、優也たちは天魔窟の中層へと足を踏み入れた。
その時、前方から激しい金属音と、魔力による爆発音が通路を震わせた。
「……前方の広場で、デカい戦闘が起きてるな」
優也がヘッドライトの光を落とし、単管パイプを構えて慎重に角を覗き込む。
そこには、息を呑むような光景が広がっていた。
数十体の『死蟻型』と『死蜂型』が群がる中央で、気絶した数人の冒険者を庇うように立つ、黄金の巨獣。
鋼鉄の装甲で覆われた獅子の肉体。背中からは神々しい光の粒子が立ち上り、その瞳は暗闇の中で猛禽類のように鋭く輝いている。
神蟲魔大戦の生き残りであり、聖獣機神ガオガオンのメインコア。
『聖獣ガオン』である。
「『人間とは、乗り越えられるべきあるものである』……ツァラトゥストラはそう語った!」
ガオンの重低音のイケメンボイスが、地下空間に響き渡る。
同時に、彼の黄金のたてがみが発光し、無数の『聖なる毛の針』がミサイルのように射出された。
ドガガガガガガガガッ!!!
「ギィェェェッ!?」
装甲を貫かれた死蟲機たちが、次々と爆発して四散していく。
たった一頭で群れを蹂躙するその姿は、まさに神話に語られる孤高のヒーローそのものだった。
「す、すごい……! あれが本物の聖獣……!」
キャルルがウサギ耳を震わせ、感動で目を潤ませる。
「ヒューッ。デカいライオンのロボットか。装甲の厚みといい、ジョイントの滑らかさといい、重機顔負けのいい造りしてやがる」
優也も、現場の職人目線でそのフォルムを絶賛した。
数分後、最後の死蟲機を『獅子の大咆哮(ただの咆哮)』で吹き飛ばし、ガオンは広場の安全を確保した。
「ふむ。我輩の力をもってすれば、この程度の機械蟲など造作もな――」
ガオンが決めポーズを取った、その瞬間。
「あー……イデデデッ。腰が……サーボモーターの駆動系が軋む……ッ」
突然、ガオンは先ほどの威厳を完全に投げ捨て、その場に「よっこいしょ」とオッサンのように座り込んだ。
そして、誰も聞いていない空間に向かって、盛大な愚痴をこぼし始めたのだ。
「……ハァ。なんで我輩一人で、こんな地下の現場仕事(戦闘)をやらなきゃならんのだ。ルチアナ様も人使いが荒すぎる。だいたい、他の四神はどうした? 朱雀の奴め、通信を入れても『今、白虎ちゃんとランチ中だから後にして♡』だと? 嘘をつけ! 貴様、裏の回線で青龍と合流の打ち合わせをしているのを我輩は知っているぞ!!」
ガオンは前足で地面をバンバンと叩きながら、さらにヒートアップする。
「玄武にいたっては『私なんてどうせ、ガオガオンの下半身(土台)にしかなれないんだわ……もう装甲をリスカして自爆する!』とか夜中にメンヘラ通信を送ってくるし! 知らんがな! 貴様らの泥沼の社内恋愛など、我輩には関係ないだろうが!! ……あー、胃が痛い。機械なのに胃のあたりが熱を持ってきた……冷却水が足りん……」
ガオンの背中から、哀愁という名の白煙がシューシューと立ち上る。
「…………」
「…………」
岩陰で見ていた優也たちは、完全に言葉を失っていた。
ただ一人、キャルルだけが血走った目で、リュックからあの分厚い同人誌を取り出し、震える手でページをめくっていた。
「か、完全一致……。同人誌(この本)、妄想じゃなくて……ノンフィクションの暴露本だったのよ!!」
「んなわけあるか! ……いや、マジなのか?」
優也が呆然としていると、ガオンがこちらに気づいてビクッと身体を震わせた。
「ハッ!? 貴様ら、いつからそこにいた!? ……コホン。『深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ』。我輩は孤高の超人、聖獣ガオ――」
「無理すんな、おっさん」
優也は岩陰から歩み出ると、スキルボードで『工業用潤滑油(クレ〇56)』と『冷却スプレー』を召喚した(消費ポイント:10p)。
「あんた……上(女神)と下(四神)に挟まれて、相当苦労してる『中間管理職』だな」
優也は同情に満ちた目でガオンに近づき、軋む腰の関節部にシュッ、シュッと潤滑油を吹き付け、熱を持った腹部に冷却スプレーを当ててやった。
「あ……ああぁぁぁ……! そ、そこだ……! なんだその魔法の液体は……ッ! 摩耗したジョイントに染み渡る……ッ!」
ガオンが、ライオンらしからぬだらしない顔でゴロゴロと喉を鳴らす。
「俺は高木優也。異世界で現場監督をやってる。……あんたのその胃の痛み、俺には痛いほど分かるぜ。ワケ分かんねぇ連中をまとめて一つの現場(合体)を動かす苦労がな」
「現場監督、殿……ッ!!」
神話の英雄と、地球のブルーカラー。
決して交わるはずのなかった二つの魂が、「中間管理職の悲哀」という最強の共通項によって、今ここに硬い絆(?)で結ばれようとしていた。




