EP 6
罠を張れ! 地球のアナログ粗大ゴミと『からくり要塞』の突貫工事
ポポロ村から少し離れた、すり鉢状になった岩山の跡地――『廃採石場』。
深夜の暗闇の中、松明の炎に照らされたその場所は、異様な熱気に包まれていた。
「オラァ! 足場組むぞ! 単管パイプのジョイントをしっかり締めろ! 緩んでたら命に関わるぞ!」
「「「イエッサー!! 姉御のためにぃぃッ!!」」」
優也の怒号に呼応し、上半身裸の狂信者(元野盗)100人が、滝のような汗を流しながら鉄パイプを運び、ボルトを締めている。
優也は残り4000ポイントを惜しげもなく使い、電子制御の「脳」を持たない、純粋な『物理的質量』を次々と召喚していた。
『工事用・単管パイプとクランプ(足場材)大量セット:消費ポイント 500p』
『廃工場の巨大歯車と滑車:消費ポイント 300p』
『錆びた極太ワイヤーロープ(50m)×10本:消費ポイント 400p』
『廃棄された巨大スプリング(バネ)と廃タイヤの山:消費ポイント 500p』
「優也君、こっちの歯車はどうするの!?」
キャルルが、数トンはある『鉄の巨大歯車』を片手で軽々と持ち上げながら駆け寄ってくる。
「おう、それはあの絶壁の上の滑車に噛み合わせろ! そこからワイヤーを引いて、落石トラップの『引き金』にするんだ! 狂信者ども、姉御の邪魔になるな、道を開けろ!」
「「「ハハァーッ!! 姉御の力強いお姿、目に焼き付けますぅぅっ!!」」」
キャルルの人間離れした月兎族の筋力が、クレーン車の代わりとなって重い資材を次々と組み上げていく。
「優也さーん、ワイヤーが足りないみたいだけど、どうしましょうか?」
ルナが、ふんわりと微笑みながら尋ねてくる。
「ルナ! お前の世界樹の杖で、絶対に切れない『鋼のツタ』を生やせ! ワイヤーの代わりにして、足場の補強と滑車のロープに使う!」
「任せてちょうだい♡ 頑丈で、ちょっとトゲに毒があるツタをいっぱい生やしてあげるわね♡」
「毒はいらねぇよ! 俺たちが触れなくなるだろうが!」
優也のツッコミを背に受けて、ルナの魔法が採石場の岩肌から極太のツタを爆発的に成長させる。それが単管パイプの足場に絡みつき、鉄と自然が融合した異形の要塞が形作られていく。
「優也様ぁ……。私の、私の大切な特産品がぁ……」
その傍らでは、リーザが涙目で巨大な『ハニーかぼちゃ(数トンクラス)』をゴロゴロと転がしていた。
「泣くなリーザ! そのかぼちゃは、テコの原理を使った『投石機』の重り兼、弾丸だ! ワイズの野郎をぶっ潰したら、これの百倍の金にしてやるから我慢しろ!」
「ひゃ、ひゃくばい! 1億円ですかぁっ!? やります! 私、メガ野菜を全部大砲の弾にしてやりますぅぅっ!!」
現金の力で守銭奴アイドルが完全に覚醒し、ダイズラ豆のサヤを「散弾」として巨大なバネ(スプリング)の仕掛けにセットしていく。
電気も、魔力回路も、内燃機関も一切ない。
そこにあるのは、『重力』『テコの原理』『弾性』『摩擦』といった、絶対にハッキングされない純粋な物理法則だけだ。
「(……死寄生蟲型。どんなに機械に寄生するのが得意でも、ただの鉄の板やワイヤーには寄生できねぇ。脳がないからな)」
優也は、期間工時代に叩き込まれた『からくり改善』の知識を総動員し、広大な採石場全体を一つの巨大な『ピタゴラスイッチ』へと組み上げていく。
一つのワイヤーが切られれば、滑車が回り、巨大な歯車が噛み合い、廃タイヤの雪崩が起き、メガ野菜の投石が発動する。
連鎖するアナログの暴力。それは、魔法使いのワイズにとって、最も予測不可能な「現場の芸術」だった。
「……よし。最終工程だ。キャルル、あの真ん中の窪みに、一番デカい罠を仕掛けるぞ」
優也が指示したのは、採石場の中央にある巨大な窪みだった。
そこに優也が召喚したのは、『廃棄された特大の動物用トラップ(トラバサミ)』と、『数万リットルの泥水が入った巨大なタンク』だった。
「優也君、これは何? あのピエロをここに誘い込むの?」
「ああ。あいつは『見えない糸』で人間を操る。その糸が見えなけりゃ、俺の格闘技(MMA)も届かねぇ。だから、こいつで……」
優也はキャルルにだけ聞こえる声で、最後の「種明かし」を囁いた。
「……なるほど! あんた、本当に性格悪いわね(褒め言葉)」
キャルルがニヤリと極道の笑みを浮かべる。
――そして、東の空が白み始めた頃。
徹夜の突貫工事を終え、泥と油にまみれた優也たちは、採石場の絶壁の上に立っていた。
眼下に広がるのは、鉄骨、ツタ、歯車、巨大野菜が複雑に絡み合った、狂気の『アナログからくり要塞』。
「ハァ……ハァ……。現場監督ォ! 工事、完了しましたァッ!」
狂信者のリーダーが、ボロボロになりながらも誇らしげに敬礼する。
「ああ。よくやった、お前ら。……これで準備は整った」
優也は、新しく召喚した『新品のタクティカル鉄パイプ(予備)』を肩に担ぎ、冷たい朝の空気を深く吸い込んだ。
「さぁ、来いよワイズ。地球の底辺労働者の意地、見せてやる」
現場監督と仲間たちの、絶対に負けられないリベンジマッチの舞台は完成した。
あとは、あの忌まわしい道化師と鋼鉄の蟲たちを、この死地に引きずり込むだけである。




