EP 5
敗北のメゾン・ルナミス。「現場監督」の再起とアナログの逆襲
ポポロ村、村長宅――。
かつて「メゾン・ルナミス」と化したそのリビングには、どんよりと重い空気が立ち込めていた。
「……私の足が、もっと速ければ。あの時、村の人たちだけでも救い出せたのに」
キャルルがソファに深く沈み込み、特注の手甲を見つめながら悔しそうにウサギ耳を垂らしていた。
「ひ、ひぃぃ……。私の100万円が……。あのピエロを倒さないと、メガ野菜の輸出も止まっちゃいますぅ……。破産ですぅ、自己破産ですぅぅっ!!」
リーザは床に散らばった札束を抱きしめ、恐怖と強欲が混ざった涙を流している。
「あらあら、みんな元気がないわね♡ 温かい薬草茶でも淹れましょうか?」
ルナだけは相変わらずマイペースだが、その瞳には珍しく、仲間を傷つけられたことへの静かな怒りが宿っていた。
そんな中、優也は一人、縁側で月を見上げながら、ポロポロに溶け落ちた鉄パイプの残骸をじっと見つめていた。
(重機を……俺の『現場(誇り)』を、あんな風に汚されたのは初めてだ)
魔人ワイズ。そして死寄生蟲型。
電子制御や魔力回路を持つ機械に寄生し、その支配権を奪う能力。
それは、地球の近代的なテクノロジーを召喚する優也のスキルにとって、まさに『最悪の天敵』だった。
「優也君……。ごめんね、私のせいで、せっかく出した黄色いゴーレムが……」
キャルルが申し訳なさそうに優也の背中に声をかける。
「謝るな、キャルル。……判断を誤ったのは俺だ」
優也は振り返らず、静かに答えた。
「俺はあいつらを『ただの魔物』だと思ってた。だから、より強くて速い『重機』を出せば勝てると思い込んでたんだ。……だが、あいつらは違った。あいつらは『機械』をハッキングし、こっちの武器を『毒』に変える」
優也は手に持っていた鉄パイプを、床にドンッ! と叩きつけた。
「電子制御……つまり『脳』がある機械は、あいつらの餌食だ。なら、答えは一つしかねぇ」
優也がゆっくりと立ち上がる。その瞳からは迷いが消え、期間工時代に数々のトラブルを「知恵」と「根性」でねじ伏せてきた、現場監督の鋭い光が戻っていた。
「脳がないなら、乗っ取られることもねぇ。……ハッキング不可能な、**『100%アナログな暴力』**をぶつけてやる」
「アナログな……暴力?」
キャルルが不思議そうに首を傾げる。
「ああ。俺がいた工場にはな、『からくり改善』っていう文化があったんだ。電気も、モーターも、センサーも使わねぇ。重力と、テコと、歯車と、バネの力だけで重い荷物を運び、正確に動く仕掛け。……ハッカーだろうが死寄生蟲だろうが、ただの『鉄の板』や『滑車』をハッキングすることはできねぇんだよ」
優也はスキルボードを呼び出した。
残りのポイントは4000p。大型重機を出すには心もとないが、『素材』を買うには十分すぎる金額だ。
「ワイズの野郎は、俺たちが絶望する顔を見て楽しむ手品師だ。……なら、次は俺が、あいつの想像を絶する『現場のピタゴラスイッチ』を見せてやる」
優也はリビングのテーブルに、ポポロ村の地図を広げた。
「キャルル、村の狂信者(作業員)100人を叩き起こせ。リーザ、お前はメガ野菜の在庫を全部持ってこい。ルナ、お前は俺の指示通りに植物を育てろ」
「え、えぇっ!? またタダ働きですかぁっ!?」
「今度はタダじゃねぇ。成功報酬は、ワイズの首と、奪い返したホイールローダーだ」
優也は不敵な笑みを浮かべ、地図の上に一本の線を引いた。
「戦場は、村から少し離れた『廃採石場』にする。あそこを、地球の粗大ゴミとファンタジーのバカ力が融合した、最強の『アナログ罠要塞』に作り変えるぞ」
現場監督・高木優也の、意地と誇りをかけた「リサイクルDIY」が始まった。
魔法でも科学でもない、物理学という名の絶対的な理が、魔人ワイズの嘲笑を叩き潰すための準備を整え始めたのである。
「よし、野郎ども! 徹夜の突貫工事だ! 作業開始ッッッ!!!」
「「「イエッサー!! 姉御ォォッ!!(※ついでに監督もォォッ!!)」」」
深夜のポポロ村に、再び狂信者たちの怒号と、金属のぶつかり合う音が響き渡った。




