EP 3
最悪の天敵。重機チート、強奪される
ジジジジジジジジ……!
隣村の広場は、完全に鋼鉄の機械蟲『死蟲機』によって包囲されていた。
地上を埋め尽くす強酸の蟻『死蟻型』。上空で麻痺毒の針を構える蜂『死蜂型』。
優也の手元には、先ほど強酸を浴びてドロドロに溶け落ちた、かつての愛機(タクティカル鉄パイプ)の残骸が転がっている。
「……チッ。手前の酸で俺のDIYを溶かしてくれたな」
優也は、溶けた鉄の匂いと酸の異臭が充満する空気の中で、残った単管パイプの切れ端を投げ捨てた。
「キャルル! 下がってろ! 物理(肉体)で勝てねぇなら、もっとデカい物理(重機)をぶつけるだけだ!」
優也は空中にスキルボードを呼び出した。
保有ポイントは1万2000p超え。ポポロ村での大規模な復興と防衛で稼いだ、これまでの全財産だ。
(死蟻型の装甲は、キャルルのマッハ1の蹴りですら弾く硬度。なら、必要なのは『切断』じゃねぇ。圧倒的な重量による『圧砕』だ!)
優也は検索窓に、地球の建築現場で土砂を押し潰し、岩を砕く、最強の足回りを持った重機を思い描いた。
『産廃業者から回収・不動の大型ホイールローダー(15トンクラス):消費ポイント 8000p』
「全財産の3分の2……! 持ってけ泥棒ォッ!!」
優也が決定ボタンを強く押し込んだ瞬間。
村の上空の空間が、前回のユンボ召喚時よりも遥かに大きく、禍々しく歪んだ。
ゴアァァァァァァァァァッ!!!
雷鳴のような轟音と共に、天から『黄色い巨大な獣』が落下してきた。
ズドォォォォォォォォォォォォォンッ!!!
地響きと共に広場の中央に落着したのは、ユンボ(3トン)の数倍の巨体を誇る、大型のホイールローダー(除雪車)だった。
直径2メートル近い巨大なタイヤ。前面には幅3メートルを超える、鋼鉄製の巨大なバケット(刃)。黄色い塗装は剥げ、錆びだらけの『粗大ゴミ』だが、その質量は15トン。存在するだけで周囲の死蟲機を圧倒する圧迫感があった。
「な……ッ! なんてデカい鉄のゴーレムなの……ッ!」
キャルルが、毒針を躱しながら驚愕の声を上げる。
「ゴーレムじゃねぇ! 現場の王様、ホイールローダーだッ! ……不動車だがな!」
優也は一瞬でスキルボードから「工具セット」と、ポポロ村で余った「火属性の魔石」を召喚。ホイールローダーの巨大なボンネットに飛び乗り、手際よくエンジンルームをこじ開けた。
『機械保全技能士』の資格が唸る。
ユンボと同じ、魔石の熱エネルギーをバッテリーと予熱プラグに直結する『魔石ハイブリッド・ディーゼル』への緊急魔改造だ。
「頼むぞ、親父(現場)の形見……! 動けェェッ!!」
優也が極太の配線を魔石に無理やり繋いだ、その時。
キュルルルッ……! バロンッ! ボロロロロロロロォォォォォォッ!!!
15トンの鉄の獣が、黒煙を天高く噴き上げ、大地を震わせる重低音と共に蘇った。
死蟲機たちの駆動音すら掻き消す、圧倒的な内燃機関の暴力。
「ウオォォォォッ!! 轢き潰してやるッ!!」
優也は運転席に飛び乗り、アクセルペダルを床まで踏み込んだ。
15トンの質量が、巨大なタイヤで地面を抉りながら、死蟻型の群れに向かって突進する。
ガシャァァァァァンッ!! ギチギチッ! メチャァァァッ!!
「グモォッ!?」
キャルルの蹴りを弾いた死蟻型の鋼鉄の甲殻が、ホイールローダーのバケットと、15トンの自重によって、まるで空き缶のように容易く押し潰された。
強酸を吐く間もない、圧倒的な質量の蹂躙。
「すごい……! 本当に、鉄の化け物を押し潰してる……!」
キャルルが、防壁の上から見ていた村人たちのように、畏敬の念を込めて呟いた。
「ハハハッ! どうだ、これが地球の重機の力だッ!」
優也が操作レバーを握り、さらに死蟲機の群れの奥深くへと突っ込もうとした、その時。
……ギチィ。ギチギチギチギチッ!!
ホイールローダーの下、泥だらけの地面が、不気味に蠢いた。
それは死蟻型ではない。泥の中から現れたのは、電子基板と配線、そしてドロドロとしたスライムが冒涜的に融合した、気色の悪い『粘液状の機械蟲』だった。
これこそが、サルバロスが遺した最悪の兵器。機械に寄生し、その支配権を奪う**『死寄生蟲型』**。
「……ん? なんだアレは」
優也が気づいた時には、すでに遅かった。
死寄生蟲型は、ホイールローダーの巨大なタイヤを伝わり、ものすごい速度で這い上がると、そのままエンジンルームの隙間から、内部へと侵入していった。
ジジジ……。ジジジジジジジジッ!!
次の瞬間。ホイールローダーのディーゼルエンジンが、悲鳴のような異常な高音を上げた。
運転席のインストルメントパネル(計器類)が、一斉に血のような赤色に点滅し、全ての針が振り切れる。
「な……ッ!? コントロールが……利かねぇ!?」
優也が慌ててブレーキを踏み、操作レバーを引くが、15トンの鉄の獣は、優也の操作を完全に無視した。
それどころか、直結していた魔石が禍々しい紫色に発光し、エンジンの出力が限界を超えて跳ね上がる。
「あら? 優也さん、ゴーレムの様子がおかしいわね♡」
ルナが、隣村から様子を見に来て、のほほんと微笑む。
「優也君、何してるの! 早くそっちの蟲を――」
キャルルが、ホイールローダーに近づこうとした、その時。
ウィィィィン……ガシャァァァンッ!!
ホイールローダーの巨大な鋼鉄のバケットが、優也の意志とは無関係に、隣にいたキャルルに向かって、殺意のこもった速度で振り下ろされた。
「な……ッ!? キャルル、逃げろッ!! 俺じゃない! こいつ、乗っ取られてるッ!!」
優也が運転席で拡声器を使って叫ぶ。
「え……ッ!?」
ドゴォォォォォォォォォォンッ!!!
キャルルがマッハの速度でバックステップを踏んだ、そのコンマ数秒後。
彼女がいた場所の地面が、巨大なバケットによって、爆発したかのように粉砕された。15トンの質量による、必殺の一撃。
「ひ……ひぃぃっ!? 優也君のゴーレムが、キャルルちゃんを襲った!?」
リーザが札束の袋を抱きしめて腰を抜かす。
ボロロロロロロロォォォォォォォッ!!!
紫色に発光するホイールローダーは、不気味な電子音を鳴らしながら、ゆっくりと旋回し、運転席にいる優也を閉じ込めたまま、ポポロ村の仲間たち(キャルル、リーザ、ルナ)を、新たな『標的』としてロックオンした。
「……ウソだろ」
優也は、利かなくなった操作レバーを握りしめ、顔を引きつらせた。
自分の保有ポイントのほとんどを使い、仲間を守るために召喚した、最強の武器。
それが今、最悪の天敵によって奪われ、仲間を殺戮するための『巨大な兵器』へと姿を変えたのだ。
重機というチートを強奪されたガテン系主人公の前に、異世界の理不尽な絶望が、黄色い鋼鉄の塊となって立ちはだかった。




