第七話 剛なる雪、動かざる嶺
この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称・事件等は架空であり、実在のものとは関係ありません
「立ち続けるだけでは、案山子と変わらん。タチカキは『闘争の術』だ。次は、この俺を動かしてみろ」
岩戸巌鉄が、神社の境内にゆったりと立った。ただ立っているだけなのに、蓮の目には、巨大な絶壁が道を塞いでいるかのように見えた。
蓮は、修行で得た「天地人」の歩法で踏み込む。かつての迷いはない。雪山で学んだ、無駄を削ぎ落とした最短の軌道。
「……雷鳴!」
鋭い突きが岩戸の胸元に迫る。しかし、岩戸は避けない。
触れた瞬間、蓮は戦慄した。
まるで、積もった雪の底に腕を突っ込んだような感覚。
「それはただの『打撃』だ」
岩戸の手が、蓮の腕に添えられた。
次の瞬間、蓮の視界から天地が消えた。投げられたという感覚さえない。気づけば、蓮は冷たい地面に叩きつけられ、岩戸の巨大な掌が胸元に置かれていた。
「豪雪……」
ただ押さえられているだけなのに、呼吸ができない。数トンの雪崩に飲み込まれたかのような、逃れようのない重圧。
「タチカキの『豪雪』は力で抑えるのではない。相手の重心を大地の底へ繋ぎ止め、埋没させることだ」
岩戸の指導は過酷を極めた。
何度も投げられ、何度も大地に埋められながら、蓮は理解していく。
豪雪の理を、無理矢理に相手を押さえつけるのではなく、
相手の動きを読み、時に誘導する。
そして、自分の体の使い方、力のみではない何か効率的な動かし方、
「・・・これか」 「・・・違う」自問自答を繰り返しながら、
蓮の中に、少しずつ、しかし確実に「自分なりのタチカキ」が形作られていった。




