第十一話 焔
この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称・事件等は架空であり、実在のものとは関係ありません
海鳴島の波止場。蓮は、父から受け取った古い地図を見つめていた。
「……九州、阿蘇」
九州の心臓部に位置する阿蘇は、水が溜まった巨大な湖だったが、ある神が外輪山を蹴り破ったことで水が流れ出し、人々が住める豊かな農地が生まれたといわれ、今も煙を上げる中岳を御神体とする焔厳神社がそこにはあった。
蓮は迷いなく、西へと向かう高速艇に乗り込んだ。高速艇の中から眺める海が瀬戸内海の穏やかな流れから、激しい流れに変化するにつれ、里の港町を思い出し、寂しさ、未知の世界への不安、そこにワクワクとしたような、胸騒ぎのような、複雑に感情が入り混じっていた。
九州に降り立った蓮を待っていたのは、都会の喧騒ではなく、生命の鼓動を揺さぶるような大地の震動だった。阿蘇の広大なカルデラ。その中心に鎮座する中岳から上がる噴煙は、まるで大地の怒りのように見えた。
蓮は、地図に記された焔厳神社を目指し、急な坂道、獣道を歩く、やがて、火口付近の荒涼とした岩場に、黒焦げになった鳥居が現れ、その横に、一振りの巨大な大太刀を背負った、火傷の痕だらけの老人が立っていた。
「……神代の小僧か。遅かったな。凪という娘は、奴らとどっかに行ったぞ。」
「あなたは誰です?なぜ私を知っているんですか?」
「かっかっかっ、そうか知らんかわしは雷火という、ここの神主じゃ、わしを覚えとらんか?」
雷火の体は、年老いてはいたが、溶岩が凝固する時のように重く、鋭いものがった。
「雷火・・・」
蓮の頭の中に小さい記憶が蘇ってきた。昔、父と演舞を舞った人がいた。それが、雷火さんだった。その時の雷火さんは強く、激しく、ただただかっこよかった。
「あの雷火さんですか、失礼しました。」
「よい、よい、しかしデカくなったな、」
なんだが恥ずかしくなったがそう和んでもいられなかった。
「凪のことをご存知なのですか?」
「おう、わけもわからん輩がきてな、いきなり火を放ちやがったから追い払ってやったわ、その中に凪ちゃんもいたような気がしてな。」
「何が目的だったんでしょうか?」
「知らんなあ、おおかたこの刀の力を知りたかったのかもしれんが、」
雷火は、背中の大太刀を抜き放った。その刀身は、陽炎のように揺らめいていた。
「それは何なんですか?」
「不知火といってな、代々この神社に伝わる神器じゃよ」
「すごいですね、」
刀の美しさ、迫力に言葉を失った。
「なにただの刀だ。だが不知火は、不純物を焼き払い、浄化する力、焔の理が詰まっておってな、これで神社に無礼を働いたやつらを追い払ってやったわ。」
あいつらを追い払ったのか、
「でしたら僕に、不知火を……焔の理を教えてください。凪を救い出すために、力が、今、必要なんです」
蓮の瞳には火が宿っていた。




