63 不幸の手紙
ダンジョンから戻って来てから何日か経ったある日、相変わらず黒と青の勇者の人気は大きくなる一方だった。天清さんは城下町に出かけることも出来ないと怒り心頭の様子だった。櫛枝さんもだいぶ回復してきたのでもうすぐ騎士団寮へ帰って来るそうだ。
「城下町へ行ってもすぐに人が集まって来ちゃうから何もできないよ。クルミがもうすぐ帰って来るから何か退院祝いに買おうと思っていたのに…」
「アマちんの人気はこの城下町で1、2を争うぐらいになってしまったからな!!俺っちも劇を見に行こうとしたけど、いつ行っても満員で入れなかったしよ」
「キクやカスミも活躍しているんでしょ。何で私達だけ…」
「天清さんと黒川さんの活躍をあの階層に居た人たちが直接見ていたからかもね。倒した時の熱狂具合はすごかったよ」
「私はもう……そっとして欲しいな……」
前回の黒の勇者は裏切り者として語り継がれていたので、最初は貴族や王族の人達にはまだ悪印象は抜け切れていなかった。だが今回の戦いで劇や歌を聞いた貴族や王族の黒の勇者に対する印象がかなり良くなったようだった。支援してくれるものも現れたり、息子と婚姻させようとする不届き物も現れた。
ユーリさんからの手紙に書かれていたのだが、アンドラス宰相は元々黒の勇者を嫌っていたのと天清さんが支払いを押し付けた件で2人の勇者を貶めようと暗躍していたが、今回の件で2人の勇者を擁護する貴族や王族が現れてアンドラス派閥が厳しい状況になっているらしい。
「あれ?ユーリさんの手紙の他にも手紙がある……なんだ?」
「そうしたんだ相棒?その紋章どっかで見たような」
「婚姻の手紙とかなら私はパスだからね。開けてみれば?」
封蝋の紋章が気になるが開けない事には何も分からない、手紙には王命と書かれていた。だが送り主の名前はアンドラス宰相の名前が記されていた。
王様がまだ床に臥せっているので代筆をしているそうだ。王様が倒れたのは僕達がこの世界に来て戦った名前付きオークだったよな?あれから何か月も経っているのにまだ治っていないのか…思ったより重症だったようだ。
手紙にはこう書かれていた。赤、灰、緑の勇者が50層の階層主に挑むために僕と涼宮も同行するようにと書かれていた。これは王命である為に拒否権はなさそうだ、でも何で僕と涼宮だけなんだろう?天清さんと黒川さんの名前は書かれていなかった。
「何か怪しいよね……また何か企んでるんじゃないの?」
「四葉君……行かない方が良いと思うよ。また危険な目に合うかもしれないし……」
「あの3人とアンドラスだろ……碌な事しかないと思ってるけど王命なんだよな……どうするよ相棒」
「とにかく行ってみよう。3日後にダンジョンの前に集合するんだよな。色々準備をしておこう」
今回の攻略には天清さんも黒川さんも居ない、それに加えてあの3バカ勇者が同行するという事だ念には念を入れて使えそうなアイテムを買っておこう。黒川さんのインベントリが使えないのはかなりの痛手になる。攻略開始の当日、ダンジョン前には僕達の他に呼ばれていたのだろう戦闘職のクラスメイトと騎士団のミゲルさんが居た。
「久しぶりだな四葉殿!!あの時は力になれずにすまなかった。私にもっと力があればホイロス城砦などに行かなくても良かったのだが、しかもあの惨状…よくぞ生き残って帰ってこられた!!」
「痛たたたたた!!大丈夫ですから離れてください締め付けられて……」
「涼宮殿も!!ほら!!」
「俺は良いっすよミゲルさん、今回はミゲルさんも付いて来てくれる感じですか?」
「私もそうしたいのだが勇者殿達がな、それでは意味がないと言っててな」
ミゲルさんによると3バカ勇者たちは自らの力だけで50階層まで行き階層主を倒したいのだそうだ、手柄を横取りさせたくないからと言って他の勇者はこのダンジョン攻略には参加させないみたい。
階層主討伐の証人の為に、あまり力がないクラスメイト達に騎士団見習い数人を連れていくのだそうだ。勇者達曰く足手まといが居る中での階層主を討伐した事にしたいらしい。
「私もあの勇者殿には思う事がある故に四葉殿にお願いしたいことがある」
「何ですかお願いって……」
「この攻略で危機が訪れた時にこの魔道具を使ってほしい、使い方は簡単だ魔道具を壊してくれれば発動する」
渡された魔道具にはホイロスダンジョンで使った魔道具と同じく対になっているものがあるらしくて、一方が破壊されるともう片方の魔道具が強く光るという効果があるらしい。
ミゲルさんは勇者たちに禁止されているが魔物の居ない階層まで内緒で付いていく予定のようだ。他にも第3騎士団の人達や黒川さんと天清さんにも声を掛けているようなので何かあったらすぐに助けに入れるようにしているみたいだ。
「ミゲルさん分かりました。僕もこの攻略不安だったのでありがとうございます」
「アマちんやユーリさんが待機してくれるなら安心して行けるな!!」
「本当ならばすぐに脱出できる魔道具を人数分持たせたいところだが高価すぎるものゆえ……申し訳ない」
クラスメイト達や騎士団見習いの人達合わせて30人くらいか、この大所帯に高価な魔道具を渡すのは現実的ではないか、約束の時間を数時間過ぎた頃に3バカ勇者と2人の騎士団が現れた。騎士団の1人はシキさんだ身体には痛々しい傷がある。僕と同じく罪は無くなったはずなのに何で…
「集まってくれてありがとう……巷では勇者の偽物は持て囃されている。俺にはそのことが残念で仕方がない」
「僕達もその場に居ればもっと簡単に解決できたのにね!!」
「俺様も納得できねえからな雑魚共が40階層を攻略したなら俺様たちは50階層だ!!」
意気揚々と3バカ勇者たちは言っているが、クラスメイトと騎士団見習いの方の士気は一向に上がらなかった。理想の反応とは違ったのが気に食わなかったのか雪待はイラつきだした。一人の騎士団の方が雪待に声を掛けた緊張なのか恐怖なのか声が震えている。
「……勇者様方……噂で聞いたのですが勇者様達は第5階層主戦を失敗………」
「ちっエクスプロージョン!!!煩いハエが居たものだ」
「止めろよ雪待!!お前が失敗したのは事実だろ!!涼宮すぐにその人にポーションを!!」
「おっけい相棒!!大丈夫か?」
「あれは貴様らが邪魔をしたからだろうが!!今回は大丈夫だ、あれからかなりレベル上がった。四葉……お前ごときが邪魔をしても余裕で攻略できる!!お前らはどうする付いてくるか、そこで転がっている消し炭と同じようになるか……分かったらさっさと行け!!」
クラスメイトと騎士団見習いの方は重い足並みでダンジョンに入っていく。3バカ勇者と1人の騎士団の人はこの光景を見て笑っている。シキさんは僕と会ってから何も言葉に出していない。
「シキさん!!どうしたんですか?なんでこいつらと一緒に」
「四葉ど…の……ぎゃあああああ…」
「『ファントム・ラーナ』!!お前は喋っちゃいけないって旦那に言われているだろ」
「シキと違ってモロクお前は使えるな…状態異常の魔法はやはり使える」
「やめろよ雪待!!シキさんを解放しろ俺が相手してやる!!」
「涼宮ああああ!!調子に乗るなよそんなに相手が欲しいなら俺様が相手してやるよ」
「そこまでだ勇者殿!!これ以上はこの私、ミゲルも看過しない!!」
「分かったよ……僕達は先に50層まで行っているよ…逃げるなよ無職で無能の四葉君」
50階層の階層主は上級騎士団が大隊を組んでやっと攻略出来るくらいの強さらしい。勇者は3人いるがどうなるのかが分からない。無理やり連れていかれたクラスメイト達や見習い騎士団の方たちの事も気になる最悪のダンジョン攻略が始まった。
チム子です。
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